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第3章 冒険者ギルド
第26話 クロノリング。
しおりを挟む昔々、人族の王子と魔族の王女が居ました。人族と魔族は同じく高い知性を持ち、高度な文明を発達させていきました。彼らは共に協力し合い、魔法を生み文明を築き国土を発展させました。種族の違いはあれど、共にこの世に生きる二つの種族は徐々に仲を深めていきました。
しかし、当時の神は種族を超えて愛し合う事を禁じました。それは世界の理に触れ、子を産もうものなら神罰が下ったといいます。
王子と王女は酷く悲しみました。なぜなら二人はすでに愛を誓い合った仲であり、二人の関係が二種族の交流を図ったと言っても違いなかったからです。二人が出会う事を、お互いの兵士達は嫌いました。国のトップである彼らが神罰を受ける事があってはならない。止めるのは当然です。
ですが、二人の愛はそのような障害があっても止まるものではありませんでした。神罰の内容を明らかにし、仮に罰を受けても再び相見える事が出来れば、それで解決すると二人は考えました。
ある日、遂に神罰を解き明かしました。行方不明になった男性が多数発見された事例。年齢が急に増えたり、幼くなって別の時代に同姓同名の存在が現れたという事例。
この二つを結び付けると、どうやら神は恋人を別々の時代に飛ばし物理的に愛し合う事を出来なくするのです。二人は絶望しました。これでは神罰を受けた瞬間、自分がこの時代に存在しなくなってしまう。やむなく二人は離れるべきだという結論に至りました。
魔族と人族。この二種族が築いた魔法の文明は既に想像を絶する程の発展を遂げていました。王子と王女は魔法に触れて一つの仮説を打ち立てます。
もし、時間を移動する事が出来るなら。
仮に神罰を受けたとしても再び出会う事ができるのではないか。
同じ瞬間、同じ結論に至った二人は世間の目を盗んで再び出会います。積み上げた叡智を、アーティストの作成に費やしました。そこで完成したのが『クロノリング』です。
「『クロノリング』」
俺は自然とその言葉を呟いていた。
何故かしっくりとくるその言葉は、欠けたピースを嵌めるように俺の頭の中にすっと入り込んでくる。これを何故ラケナリアが持っていたのか。俺はそれが気になった。
彼女は言った。通信用の魔道具を作成すると。
だが、これは時間移動を可能とする魔道具だと絵本は綴っていた。
描かれたイラストと指輪は怖いくらいに酷似していた。
『クロノリング』はそうして完成しました。ただし同時に二人はその危険性を十分に理解していました。時間を移動するとは即ち、世界に干渉するかもしれない事を。
二人はその指輪を自らの血統のみが使えるという制約を設け、更にはそれを納める遺跡を作り、大切に保管する事を誓いました。
そしてある時魔族と人族との間に子は産まれました。おぎゃおぎゃとそれは大層元気よく泣きました。二人は喜ぶと同時に神罰を覚悟しました。王子の手には例の指輪が握られていました。離れ離れになったら、王子が王女を迎えに行くと誓っていたのです。
神罰が下ったと理解したのは、王子が荒廃した土地に転移した時です。いつの時代か分からないその場所で彼は孤独になりました。しかし彼は決して恐れません。全身を蝕む痛みに耐えながら、膨大な魔力を行使し『クロノリング』の力を発動させます。
元の時代に跳躍した彼はしかし、そこで衝撃の事実を知ります。王女は死んでいたのです。
死の運命を変えようと彼は再び指輪を行使します。しかし、彼は一度目の跳躍で重い後遺症を患い跳躍することが出来なくなりました。また、その指輪を使えるだけの魔力の持ち主は、その世界に王子と王女を残して誰もいませんでした。
魔族側は王女の死を迎えて酷く悲しみ、怒りました。
人族の王子のせいで魔族の王女はその命を落としたのだと。
人族と魔族の関係に亀裂が入り、翌年には大規模な戦争が起き始めました。
王子は泣きながら、その指輪を遺跡を納め、彼は自ら死を選びました。
こうして、禁断の愛を犯した二人は、二度と会う事はありませんでした。彼らが自ら人族と魔族の関係を作り、そして壊したのです。
「以上です。悲しいお話ですね」
「ああ。これはきっとノンフィクション。本当にあった話なんだ」
ラケナリアこの指輪を持っていたという事は、この遺跡から持ち出したという事だ。それと同時に彼女は知っていたんだ、この伝承を。
だからあの時、ラケナリアは俺にこう言った。
『嘘、そんな……グラスが?』
あいつが人族の国に来たのはただの好奇心なんかじゃない。
この指輪の適合者。人族の王子と魔族の王女の間に産まれた子の子孫たる存在を探しにやって来ていた。俺にこの指輪を渡したのは、俺を試していたのか?
「……どうなんだ、ラケナリア?」
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