【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

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第3章 冒険者ギルド

第33話 失った記憶。

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「グラジオラス!」

 グロリオサだ。大剣を背負い、魔物の血肉を浴びながら、俺達が倒れるその場所までやって来た。

 彼女はAランク冒険者だ。俺達よりも遥かに経験が豊富で適切な判断を下す。更には、昇格試験で実力を目の当たりにしていただけに、ここまでやって来られるのも不思議ではなかった。

 ただ何故。なぜ彼女がここにいる。

「目撃者がいた。グラジオラスが向かった鉱山にて、ドラゴンの目撃情報が得られたんだ。推奨難易度は一気にAランクへと跳ね上がり、討伐隊にあたしが参加した」

 視線を後ろへと向ける。

「他の仲間も一緒だ。皆グラジオラスを心配している」

 そうか、それは良かった。
 助かったんだ、俺達は生きて帰れるんだ。

「大丈夫かい、グラス!」
「ちょっとボロボロじゃないの……」
「うわっ、痛そ……コトちゃん回復魔法っ」
「う、うん。分かった……!」

 スターチスにプロテア。コットンにルスカスまで。
 皆来てくれたんだ。

 急いで駆け寄ってくる。
 俺は安堵しきっていた、だから忘れていた。

「グラジオラス。?」

 え?



 しまった。今のラケナリアやカトレアは、憔悴しきっていて認識阻害魔法をかけられていない。角やしっぽが完全に露出している状態で見つかってしまった。

「こ、れは……」
「詳しくは後で聞こう……グラジオラス以外の2人も一応は治癒をしてやってくれ。その後連行する」

 癒しの光に包まれる。
 四肢の感覚が久しぶりに蘇る。

 ここで意識で手放してしまう方が楽だった。でも今の俺は一つだけ確認しておかなければならない。


「グロリオサさん。彼女達をどうするつもりですか」
「お前が聞いてどうする。関係がないだろ」
「もし、危害を加えるつもりならいくら貴女でも容赦はしない。リアとカトレアは、俺の仲間だ」

 グロリオサの眉が少しだけ上がった。

「───もし、殺すといったら?」

 俺は刀を持ち上げる。

「俺が止める」

 グロリオサはふっと笑って警戒を解いた。

「意外だなっ、お前がそこまで言うとは。余程大切な仲間とみた。お前達、その者達に布を被せておけ。今は混乱を避ける為、出来るだけ誤魔化すんだ」

 いつもの陽気な彼女に戻ると、四人に指示を送る。プロテアやコットンは率先してラケナリア達の保護に回った。

 魔族と人族が手を取り合う。
 そんな未来もかつてはあった。

 そして現代にも、その可能性はあるんだ。

 □■□

 あれから、数日が経った。
 皆には事情を説明し、俺が糾弾されるような事態に陥る事無く、平穏な日々を暮らしていた。

 グロリオサが中心となって事態を隠蔽し、落ち着くまでは俺が責任者となって二人を管理することになった。

 そう。戻った平穏な日々。
 でも、元通りにはいかなかった。


?」

 きっかけはラケナリアからの問いだ。
 その指輪を指差しながら。

……グラスなの?」

 思い出のあの人を、思い返すように。

「グラスが、私を助けた人族の冒険者なの?」

 俺は大切なナニカを忘れていた。
 だが記憶は戻ってきた。

 俺が鉱山からこの家に戻り、落ち着いた頃には───。
 指輪が爛々と光を発する。

「この指輪、『クロノリング』は魔物を倒した時に発生する魔力の残滓を吸収して魔法発動を助ける。それと同時に、俺がこの魔法で失った記憶が、戻ったんだ」


 アルデバラン。アンタレス。そしてドラゴン。
 強力な魔物を倒し、大量の魔力を吸収した『クロノリング』はようやくその本能を発現した。

 そして、俺という人間が誰なのかも全て思い出した。


 俺がFランク冒険者だった理由。
 ラケナリアを救ったという謎の過去。
 俺とは別の『俺』という存在。
 殺された俺の母親。

 ありとあらゆる謎が、記憶の解放によって解決された。


 そして、次に俺がする行動も全て理解した。


「リア。落ち着いて聞いてくれ。俺は───」







 次回、最終章。
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