追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

TGI:yuzu

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case3 異国日本からの転移者

奥山のざまぁ~メインディッシュ~

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 日本人との殺し合い。
 異世界という舞台で繰り広げられる、世界でもトップクラスの戦闘。日本にいた頃のゲーム知識や攻略法を駆使し世界の強者として腕を磨き続けて来た。

 俺はぐっと、剣を握った。
 人を簡単に殺せるのだと物語るように、その剣はずしりと重たかった。

 奥山には、アンネという強大過ぎる力を与えてしまった。
 そして彼は、異世界という束縛のなき空間で、自由の良さを知ってしまった。独裁者の如く力を振り翳し、なんの罪もない人を躊躇なく攫う。

 俺は許せなかった。
 他でもないアイシャを、巻き込んだことが。

 周囲のマグマにも劣らない、確固たる闘志。
 暑く身体が火照る。全身は汗でびしょびしょだ。

 額の汗を拭った。
 ズボンで掌を拭いて、グリップを握り直す。


 腰を落とし、油断なき構えで相手の出方を伺う。
 奥山にはこの戦闘が、楽しそうに見えた。

 笑っていた。白い歯を見せて、獰猛な笑みで。
 ここからが始まるのは、まるで戦闘ではなく蹂躙だと思っている。

 舐めるな。

 俺は、俺だけが持つ『鑑定』で奥山を『視る』。

 名前 奥山忍
 性別 男
 体力 25340/25340 魔力52500/52500
恩恵スキル』『追跡』
 魔法『ブースト』

 やはり、高い。
 そして白精魔法『ブースト』を習得済みだ。

『ブースト』は身体強化を目的とした無属性系統魔法の一種で、使い方によっては身体の一部分の筋力を底上げできる。
 白精魔法は、火精魔法や水精魔法のような属性を持たない故に、誰でも使う事が出来る。それを一か月の間で習得まで至ったという事は、その魔法を用いたナニカがあるはずだ。

 俺は最大限に警戒する。

「準備はいいか、代行屋」

「ああ。いつでも来い」

「そうか。一撃で沈まぬように祈っておく」

 
 俺は、禁断の『恩恵スキル』を解放する。

「『』ッ!!!」

 ケージが持っていた、限定的未来を盗み見る能力。
 殊更戦闘においては無類の強さを発揮する。

 そして、俺は一秒先を視た。
 その結果に俺は言葉を失った。

 奥山は、俺の目の前から消えていた。
 たった一秒での高速移動。

 転移や不可視のいずれでもない場合、考えられるのは一つだ。

「『追跡』」

「ここだっ!」

 俺は、剣を背中へと向ける。
 瞬間、背後から火花が散り、皮膚が僅かに避けた。

「へえ、初見で防ぐのか」

 奥山は見直したと言うように、目を丸めた。
 仕切り直しをすべく一旦距離を取る。

「『追跡』の能力は相手の背後に回る能力か」

「ああ。そしてこんなことも出来る」

『先見』の映像に奥山が再び消えた。
 今度は余裕をもって後ろに斬撃を置く。

 びりびりと手先が痺れる。
 全力で振った剣同士が響き合って、特有の金属音を響かせた。

「『追跡』『追跡』『追跡』」

 奥山の姿が『先見』に映らなくなった。
 すなわち、視界内から永続的に消えた状態。

『追跡』の連続使用……!

「なんだ、その使い方はッ!」

 俺は走りながら剣を裁く。
 常に背後から攻撃されている為、まともに打ち合えない。

 向き直ろうとすれば、すぐに背後を取られる。
 これじゃ一生不利対面だ。

「『恩恵スキル』発動……『手刀』ッ」

 腕から先の部分が緋色に光る。
 皮膚を容易く切り裂く長剣を真っ向から防いだ。

「はは、冗談だろ?」
「まじだ」
「馬鹿げてる」
「お前もだろ?」

 再び俺達は距離を取った。
 俺もようやくエンジンが付いてきた。

 第三ラウンドだ。

「『空撃』」

 圧縮した空気弾を放つ『恩恵スキル』。
 牽制に放った一撃を奥山は間一髪で避けた。

 この技は見えていないはずだ。
 それでも避けたのは、奥山に備わった危機察知能力か。

 つくづくやりずらい相手だ。
 こちらの攻撃パターンが見透かされているみたいだ。

 それは勿論、向こうも感じていること。


 例えばゲームでAボタンはジャンプかな、という憶測がある。
 その近くにダッシュボタンがあるはずという経験がある。

 ボス攻略で、溜め技が来たらとりあえず逃げよう。
 そんな当たり前の攻略が、今の駆け引きに活きている。

「楽しいな。さっきまで死ぬ程憎かったはずの相手が、こうもやり手だと熱が入るよ。今から死んでしまうのが心底惜しい」

「なら、大人しくアイシャを解放してくれないか」

「それは無理な相談だ。アンネが諦めるには、お前がこの世からいなくなっておく必要がある。僕が真のご主人様になる為の必要なステップなんだ」

「そうか。残念だ」

 交渉決裂。
 そろそろ遊びは終わりという感覚が芽生えつつあった。

 きっと俺はコイツを殺す為に今から全力になる。
 この世界の生き方とか、全部忘れて戦いにのめり込む。

 冷静に考えられるのは、これが最後かもしれない。

「奥山」
「なんだい?」
「死んでくれ」
「あはは、こっちのセリフさ」

 纏う空気が変わった。
 単なる遊びじゃ済まなくなる。
 ここからは本気で引き返せなくなる。

 奏。アンネ。アイシャ。俺は……ッ!!!

 初めて人殺しをする。

「うぉおおおおおおォォォ!!!」
「はぁああああああァァッ!!!」

 喉が枯れんばかりに吠えた。
 理性なき獣の如く、目の前の敵を屠る為に前に出る。

 ガキンッッ、これまでで一番の衝撃。
 真正面からぶつかりあった。

 奥山の双眸に刹那の揺らぎが見えた、
『追跡』をあえて使わない吶喊。
 先程までの攻防は全てブラフ、この一撃が本命か。

 だがそれは全て『先見』が教えてくれる。
 あらゆるフェイントが意味をなさない。

 奥山の動揺を誘い、ついに均衡が崩れた。
 俺は更に前足を踏み込み、上体を逸らす奥山の頬に傷を作った。
 ぽたぽたと雫のように落ちていく血液。

 片方の掌で傷口を押さえ、肩で息をしていた。
 それでも一瞬の隙も与えず、常にこちらを注視していた。

 日本人は痛みに弱い。
 痛みが恐怖を誘って勝負がつくと思っていた。

 だが、現実はそう甘くなかった。

「不思議かい? 僕はな、いじめられっ子だったから」

 蹴るや殴るといった痛みに慣れているから。
 嫌な慣れ方だなと少しだけ同情した。

 その一因に例のストーカー事件が関与しているのだろうか。
 それなら完全に自業自得だが。

「奥山。もう、諦めろ。お前の攻撃は全て見切った」

 いくら『追跡』が強くても俺には通用しない。
『先見』で完封できる。

 その瞬間俺は見てしまった。
『先見』で俺が倒れ込む姿を。

 理由が分からない。
 意味が不明だった。

 眼前で腕をクロスした。
 奥山の何らかの攻撃だと予想したからだ。

 だが、違った。
 俺の足が竦んだ。

 下半身の力が完全に消えうせた。
 電池が切れたように、身動きひとつとれない。

 奥山は倒れた俺を見て、嗤った。

?」

 その言葉に過度に反応していた理由が分かった。
 俺は正直すぎたのだ。
 激情に駆られ、状況を深く考える力を喪失させていた。

 コツコツコツ、と二つの足音が聞こえてくる。
 方向は奥山と真逆、俺の後ろからだ。

 どうして、気付かなかったのだろう。
 どうして、警戒していなかったのだろう。

 そんな今更遅い後悔の念が湧いてくる。


「成功だね、ご主人」
「一回で掛かってくれて良かったです」

 獣人と、エルフ。
 アイシャを連れ去った張本人。

 慌てて太腿を見る。
 僅かな熱を帯びたそこには、細い針が刺さっていた。
 急いで引き抜くと、一気に痛みが襲ってきた。

 毒、それも麻痺毒だ。


 そうか。俺はずっと間違えていた。
 これは一対一の決闘じゃない。
 これは、一対三の……。


「さて、メインディッシュの時間だ」










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