追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

TGI:yuzu

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case3 異国日本からの転移者

覚醒。

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 ぞっと背筋が凍るような感覚に襲われた。
 意志に反して動かない身体、荒い息だけが零れる。

 奥山は身を屈め、嘲笑うように俺の前に立った。

「今から死ぬ気分はどんな感じかな?」

 俺は無言で睨みつけた。
 興味を無くしたようにふっと笑うと背を向けた。

「僕はアンネを手に入れたい。その為ならどんな手段だって用いる」

 分かっている。
 戦いにルールなんてものは存在しない。
 横槍を入れてはいけないという制約は存在しない。

「ごめんねぇ、痛くないように一瞬で殺すからさ」
「アイシャ。早くしますよ」

 奴隷の二人がにじり寄ってくる。
 その内一人には見覚えがあった。

 ソフィア。俺がアンネを探す前に『鑑定』した子だ。
 爪が本来の主武装だったはずだ。

 腰から短剣を取り出し彼女は首にあてがった。
 刃先は驚くほどひんやりしていた。

「悪いね、旦那。あたしも必死だからさ」

 少し申し訳なさそうに息を落とした。

「ご主人様ぁ……!」

 アンネが泣き叫びながら俺を呼んだ。
 刃がどんどんと皮膚に食い込んでいく。
 つぅ、と一条の鮮血が首筋を伝って落ちた。

 
 俺は、ソフィアの手首をがっちりと掴んだ。

「えっ、そんな……ッ」

 そのまま手首を捻じり、足首を払った。
 バランスを崩したソフィアは派手に臀部を打ち付けた。

 傍らから様子を眺めていたエルフの女は、瞬時に背後に跳躍して弓を番えた。だが、それよりも前に距離を詰めていた俺は、弓を蹴りで叩き落として押し倒す。

 肺に溜め込んでいた空気を押し出す勢いで地面に叩き付ける。

「がはっ」

 良心は捨てた。殺し合いに慈悲はない。
 俺は二人が反撃しないのを確認して奥山を見つめる。

 一気に形勢が逆転した。
 アンネはぱぁと表情を明るくさせた。

「良かった……っ」

「どういう手品だ? 麻痺は効いていなかったのか!?」

 僅かに狼狽した奥山が俺に怒鳴った。
 だが俺からすれば実に簡単な話だ。

「『回復』しただけだが」

 既に首に受けた傷も癒えつつある。
 原初魔法とアイシャは言っていただろうか。

『鑑定』によって精霊に干渉し直接魔法を行使する技術。

『聖女』程の爆発的回復を施す事は出来ないが、無詠唱で麻痺程度の状態異常なら解除できる。俺を完全に殺すなら、早くとどめを刺すべきだった。

 奥山本人ではなく奴隷に殺害を頼んだのは……。
 奥山が直接人殺しをする事に抵抗を覚えたから。

 奥山は法治国家日本の生まれ。
 殺人という最大の罪を前に、詰めを誤った。

「自慢の奴隷もこのざまだ。次はどうする?」

 奥山を挑発した。
 彼のシナリオなら、ここで俺は力尽きていたはずだ。
 だが俺は毒を克服した。奇襲は失敗に終わったのだ。

「想定外だ、素直に認める。そしてお前はやはりここで殺すべき存在だ。今取り逃したとしてもいつか僕の前に立ちはだかって邪魔をしてくるだろうから」

 全ての執念を、怨恨を紡ぐ言葉へと組み込んでいく。
 言葉の一つ一つが凶器のように、殺意の波動に俺は慄く。

「ああ、僕は甘かった。甘すぎた」

 俺はこの感覚を知っている。
 復讐心に取り付かれた男が、俺を殺す瞬間と同じ。

 俺《・》

「アンネ。力を貸せ」

 そして奥山は背後にいるアンネに声を掛けた。

「なんで、嫌だっ」

「断ったら、あの女を殺す」

「……っ」

 あの目は本気だ。
 逆らったら、アイシャは間違いなく死ぬ。
 何か遠隔操作できる細工でも施しているのか。

「アンネ。奥山に従え」

 俺は苦渋の決断をした。

「だめだよ」
「いいから。これは命令だ」

 アンネは俯いて耳を塞ぎこんだ。
 あれでは歌うどころか俺の言葉すら聞き届けられない。

「アンネ。カウントダウンだ。十数えたら殺す」

 奥山の目は血走っていた。
 あまりの剣幕に、二人の奴隷も呆気に取られている。

「十、九……」

「いや……っ、いやぁ!」

「八、七……!」

「死んじゃう、ご主人様が死んじゃう」

 アンネは今、脳内で二人の命を天秤にかけている。
 俺か、アイシャか。
 アンネの国の王は俺を求めていた。
 だが俺は、アイシャを救って欲しいと思っている。

 どちらの意見を重視するかで行動は二極化される。

「六、五、四、三!」

 もう時間がない。
 俺はアンネに叫んだ。

「俺を信じろ、アンネ……っ!」

「二、一……!」

 にひぃと奥山の口角が上がった。
 アイシャに向かって手を伸ばす。

 その直前、アンネは立ち上がった。

 すう、と息を吸って歌を歌った。
 うっとりと心が安らぐ奇跡の歌声。
 戦闘中だというのにその声に魅了されて、一瞬時を忘れた。

「魔法発動『天界の宴舞サンクチュアリ』」

 黄金のパーティクルが、奥山とその奴隷達に降りかかり、恩恵を授ける。俺は光を受ける事は出来ず、何の強化も受けられなかった。 

 たった一度の歌声で力のバランスは明確に決まった。

「『鑑定』……」

 俺は念の為に強化効果を見た。見てしまった。

【体力回復】【体力自動回復】【体力最大値上昇】【攻撃力上昇】【会心率上昇】
【魔力回復】【魔力自動回復】【魔力最大値上昇】【防御力上昇】【俊敏性上昇】

「はは……支援魔法を十個重ねがけ?」

 目の前が真っ暗になる幻覚を覚えた。
 勝ち目がなさすぎる。
 強化を受けた奥山は最早、別人だ。

 体内精霊が活性化し、魔力が全身から迸っている。

「魔法『身体強化ブースト戦闘形態コンバット』」

 そして、最後の仕上げとばかりに奥山は魔法を紡いだ。
 身体強化、しかも戦闘重視の膂力・脚力上昇。

 そこからは戦闘と呼べるものではなかった。
『先見』で未来を見ても不可避の斬撃の連続だ。

 三方向から一斉に攻撃が仕掛けられた。
 人の動きの限界を超えた連撃に翻弄され続け傷だけが増える。

『追跡』の連続発動は更に磨きがかかっていた。
 俊敏性依存の超速移動によって、俺の剣は掠りもしない。

 これが、蹂躙という言葉の意味だろう。

「(『回復』、『回復』、『回復』……)」

 俺は心の中で何度も回復魔法を唱えた。
 そうしないと痛みで意識を失うからだ。

 血は大量に流れ、貧血の症状も現れ始めた。

「……ぁ、ぁああ」

 アンネが何かを言っている。
 悪い、もう聞こえない。

 俺は何気なく俺自身に『鑑定』をかけた。

 名前 ベリアル
 性別 男
 体力 4874/21120 魔力18700/62500
恩恵スキル』『鑑定』他

 どんどんと体力が削れていった。
『回復』を使うたびに魔力が減っていた。

 魔力が枯渇し、体力が0になれば俺は死ぬ。
 数値を見ながら、いつ死ぬのかが分かる。

 怖い。死にたくない。

 でも、どうすればいいか分からない。
 これまで本気で戦う事が無かった。
 誰かを守りたいと本気で願う事が無かった。

 嗚呼、俺は死ぬのか。



 だろ!
 今の俺は助けたい人がいる、守りたいと思える人がいる。
 俺は一人じゃない、俺が死んで悲しむ人が増えたんだ。

 あらゆる宿命や、願いを背負ってここに立っている。
 俺は、俺は……ここで奥山を倒すんだ!

 絶望した脳裏に、ようやく理性の光が灯った。


 一つでいい。何か打開策はないか。
 この状況を一転させる奇跡の力。

 俺は思考を加速する。
『回復』しながら本気で考え続けた。

 俺は神様に『目』を貰った。
『鑑定』という力で、まだ見ていないものはなんだ。


 考えろ、考え抜け。


 脳が焼ききれてもいい。


 限界まで考えて、『鑑定』しろ!


 全てを喰らい付くせ。全ての情報を握れッ!!!


 ……?
 俺の中に一筋の光が舞い込んだ。
 心臓がどきりと高鳴った。


 単なる閃き。正直馬鹿げた妄想だ。
 でも、成功する可能性もある。


 俺が唯一『鑑定』していないもの。

 それは、だ。

 俺が全て掌握出来るなら世界だって『鑑定』出来る。
 どうだ、この考えは。

 ふとラプラスの『確率の解析的理論』を思い出した。
 どんな物質も原子一つが集まってできている。
 その全てを解析し尽くした時、未来すらも予想できる。

『先見』は限定的な一つの未来の予測でしかない。

 だが、これならどうだ。
『鑑定』なら必然の未来を視る事が出来るんじゃないか?


 今の体力で、今の魔力でそれが出来るかは分からない。
 ただ、これしかないという予感があった。

 俺は、覚悟を決めて右目に力を込める。

 これが、最初で最後のチャンス。
 俺は世界を暴くッ!!!



「『恩恵スキル』発動……ッ、『超鑑定ラプラス』ッッッ!!!!!!」
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