追放された冒険者を案内する『追放処理班』のギルド職員、裏で『ざまぁ代行屋』と呼ばれていた件。〜お望みのざまぁプランはこちらですか?〜

TGI:yuzu

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case3 異国日本からの転移者

戦闘の果て

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 世界が止まった。
 俺が『恩恵スキル』を紡いだ時、まず最初にそう感じた。

 暫くして、遅くなったという表現が正しかったと悟る。
 俺の命を奪わんとする刃は少しずつ動いていた。

 ステータスを見る。

 名前 ベリアル
 性別 男
 体力 1500/21120 魔力0/62500
恩恵スキル』『鑑定』他

 魔力が0になっていた。
 それだけじゃない、俺の体力は今も減り続けている。

 1400、1300、1200……。

 止まらない。

 ───体力 500/21120

 ───体力 400/21120

 ───体力 300/21120

 ───体力 200/21120

 これで止まらなかったらどうなるんだろう。
 そろそろ怖くなったところで止まった。

 ───体力 87/21120

 瀕死だった。
 でも命と魔力を引き換えに俺は成功した。

超鑑定ラプラス』という奇跡を超えた力。

 莫大な魔力と文字通り命を賭した『恩恵スキル』。
 三人の包囲網を抜け、突き飛ばした。

 奥山は俺の動きをまだ認識できていない。
 トドメを刺そうとして血を吐いた。

 俺の身体も限界に近かった。
 一瞬、『恩恵スキル』が解けた。

 時間が等倍に戻る。
 俺の意識は朦朧としていた。

 ここで倒れれば負けると分かっている。
 なのに身体が動かない。

 動、け……動け、動けッ、動けよォオッ!!

 その時、離島から声が聞こえた。

「ベリアル、さん……生きて」

「アイシャ、さん……」

 彼女の声が聞こえた。
 視界はもう安定しないけれど、俺がアイシャの声を聞き間違えるはずもなかった。確かに俺に「生きて」と伝えた。

 もう、それだけで十分だった。

「奥山……これが最後になるだろう」

 俺は冷静にそう呟いた。
 たった一度の交錯で戦闘が決定づけられる。

「……なにっ、いつの間に動いて、まさかまだ力を隠していたのか!? クソ、アンネの力も借りているというのにっ」

 アンネの魔法は言わば、爆発的な身体強化だ。
 物理限界を超えない限り攻略は不可能。
 魔法がある世界で物理を語るのは些か変だろうが。

超鑑定ラプラス』の前では、あらゆる強化も無意味だ。

 奥山はヒステリックな声と共に突撃してくる。
 冷静さを欠いているのは火を見るより明らかだった。

「終わりにしよう」
「ふざけるなァァァァァッッ……!」

 俺は『超鑑定ラプラス』を起動する。
 再び体力の減少は始まった。
 奇跡の代償だ。身体が徐々に蝕まれていく。

 奥山の姿が消えた。
『追跡』の効果だ。

 だが遅すぎだ。
 俺は剣を逆手に持って背後に突き刺す。

 肉を断ち切る不快な音がした。
 ぐしゅり……血が吹き出した。

 見ると俺の剣は間違いなく奥山の腹を貫いていた。
 よろよろと奥山はよろめく。

 俺の手から剣が離れた。
 奥山は剣を突き刺したままバランスを崩し───。

 そのまま、マグマへと落ちた。


 奥山が死んだ。


「早く……アイシャを助けなきゃ」
「ごしゅ、じんさまぁ……」

 声を滲ませて、アンネが駆け寄ってくる。
 正直俺は、前に歩くことすら出来なかった。

 肩を貸してもらいながら、離島を目指す。
 だが俺達に待ったをかけたのは奥山の奴隷達だ。

「なんだ、まだやるのか……」
「いやぁ、旦那はあの女を助けるつもりでしょ。でも無駄だ。あの少女は既に死んでいる」

 えっ、と掠れた声で聞き返した。
 頭からつま先まで鋭い衝撃が駆け抜けた。

「そんな。俺は……声を聞いて───」

「奇跡です。元々遅効性の毒を盛ってあって、仮に貴方が勝っても彼女は死ぬはずでした。あの瞬間、意識が戻ったのは……」

「余程旦那に死んで欲しくなかったんだろうね」

 二人は面白いものを見たと言うふうに笑った。
 俺はがくりと膝を折って項垂れた。

 もうどうでも良くなった。
 復讐すべき奥山は死に、アイシャも死んだ。

 俺の手に残った者は誰一人いないのだ。

 奴隷達は俺に敵対するでもなく、初めから赤の他人だったという様に踵を返して歩き始めた。

「お前達はどうするんだ」


「実はね、奴隷にはご主人が死ねば自由になるっていう規則があるのさ。"奥山さん"は死んだんだから晴れてあたし達は自由って訳。まあ仮に彼が勝っても別に良かったんだけど」

 ははは、と俺は壊れた機械のように力なく笑った。
 つまりこの子達も奥山を利用していたということだ。

 奥山の下につけば、アンネのサポートも相まっていずれは世界最強の一角になっていただろう。地位や金、名声等思うがまま。
 そして奥山が死ねば、その分の自由は保証される。

 つまり彼女達にとって、奥山の決闘こそ最大の目標であり、狙いであった。決着が着いた今、最早戦う意味をなくしたのだ。

「だから、好きにするよ」
「では御機嫌よう。アンネさんも」

 エルフの女はにこりと笑って丁寧にお辞儀をした。
 殺し合っていた仲間とは思えなかった。


 □■□


 二人が去った後、俺はアイシャの元に向かった。
 彼女達が言った通り、アイシャは既に事切れていた。

 幸せそうに笑いながら目を瞑っている。
 俺と最後に逢えて嬉しかった、とでも言いたけだ。

 俺の視界がぶれる。
 横たわるアイシャの頬に、涙が零れ落ちた。

 もう、話すことも聞くことも。
 触れ合うことも出来ない。

 彼女がこの世界に稀にいる"善人"で打算なき人生を送っていた。俺が彼女と出会うのは運命とさえ感じた。

 この世界に連れてこられた意味とも思った。

「死んだら……意味ないだろ」

 俺のせいだ。
 俺が巻き込んだせいで、この人は死んだ。

「ご主人様……」

 アンネは俺の背中に覆い被さる。
 灼熱に身が焼ける程の暑さに見舞われているというのに、アンネの体温はほんのりと温かくて安心出来た。

 このまま包まれて、いなくなってしまいたいと願った。

 眼下で沸き立つマグマを見る。
 本当に俺は一人の男を殺してしまった。

 俺の手で、直接人を───殺した。

 俺の両親は詐欺師だった。
 人から金を巻き上げて、生計を立てるクズだ。

 だが、そんなクズでも人殺しはしななった。
 死に追いやることもあったが、直接手を下すことは絶対になかった。俺は今、心底軽蔑した両親よりも悪人になった。

 不可抗力だ、と人は俺を擁護するだろう。
 でも俺は俺自身が許せなかった。

 大切な人も守れず、同郷の人間を殺す悪人。
 なるほど、俺が彼女に相応しくないのも納得だ。


 約束も守れず、俺の心は空っぽだ。

 もう俺は、頑張れないかもしれない。
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