二度目の世界で今度こそ俺は

開拓

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獣人国ゼルガルド王国編

#16旅路

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「えい。」

「ニャ!?」

「とう。」

「ニャニャ!?!?」

 おはよう皆!
 今日も良い朝だね!
 今俺は、ソフィアからもらった商業用馬車で、
 獣人国ゼルガルド王国に向かって移動中だよ!
 何でそんなに気持ち悪いくらい上機嫌かって?
 仕方ない! 君に教えてあげよう!!


-----------------------------------


 王都から旅立ち、ゼルガルド王国へ移動中の、サーリャと俺はかれこれ五日目の朝を迎えていた。

 ソフィアから貰った商業用馬車は、馬二頭で引くタイプの馬車で、手綱を引くための二人用の席の付いた御者台、後ろには二人くらいな十分寝られるスペースの荷台のついた物だった。

 当然普段は御車台で二人で座っている。
 荷台には、ソフィアから貰った杖や食料、俺のために用意してくれた剣術や魔力活性の教本、魔法書なども積まれている。

 王国内では獣人を見ると、変に絡まれたり、冷たい目線を浴びる現実が、俺にはきつかった。
 まれに石を投げてくるものや、盗賊なんかにもでくわしたが、十メートルくらい浮かせて落としてやるだけで、静かになった。

 宿屋に泊まるの街中に入るのも視線をあつめるため、サーリャにはフードのついた羽織を容易して、耳を隠してもらうことにした。

 正直宿屋などに泊まるより、サーリャと二人荷台で寝るほうが、変に気も使わず、楽だった。

 最近気がついたのだが、俺に震えてついてきていたサーリャは、今では二人っきりだと、お姉さんのように接してくる。
 実際サーリャからすれば、俺が魔国軍を殲滅していたところを見たわけでもなく、盗賊を撃退できるくらいには少し強い弟。そんな位置づけなのかもしれない。
 かといって俺からすれば精神的には遥かに年下なわけで、頭を撫でられたり、御者台で膝枕をしてくれたり、正直すごい嬉しいが、悔しくもあったりする。

 ある日荷台で朝を迎え、座ったまま伸びをしていると、サーリャの脚の上に猫が乗ってきた。

 猫は気持ちよさそうに丸くなっている。
 サーリャは脚に乗ってきた猫に驚きつつも、優しくなではじめた。

「ニャーニャー」

「ニャ?」

「ンミャー」

「ニャニャ!?」

「ニャー、ニャー、ニャニャ」

「え、なにそれ……超かわいい……」

 しまった口にでてしまった。
 俺の方を見て顔を赤くしているサーリャ。

「会話できるの?」

「ええ……猫族ですから……」

「なんて話してたの?」

「えっと……」

「教えて欲しいな、猫がどんな話をするのか気になるよ!」

「はい……」

「いい脚してるねおねーちゃん」

「俺と子供を作らない……か?」

「えっと……そんな子供じゃ満足できないだろ? です……」

「このやろう!!! サーリャの脚から降りやがれおらあああああ!!!!」

 俺はおっさん猫を抱きかかえ荷台から放り投げる。
 見事に着地した猫は鳴き声をあげてそのまま去っていった。

「えっと今のは……」

「いや言わなくてもだいたいわかるからいい!」

「それはそうとサーリャ」

「な、なんでしょう……」

「語尾にニャとかつけてもらえないですかね?」


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 それ以来、頑としてニャと言わなくなったサーリャに、どうやったら話してもらえるか色々試していたところ、脇腹を突いたり、くすぐったり、しっぽを撫で上げまくったりすると、隠している猫語がでてしまうことが分かったので、しきりに突きまくっているのが現在の状況だ。

 実は猫族は語尾にニャとつけて話す者、話さない者がいるらしく、サーリャは付けていたらしいのだが、人間に奴隷にされていたことで、話さなくなったそうだ。

 本気で頼み込んで一日ニャを付けてもらったこともあったが、可愛すぎて俺の精神がもたなかったので、今は普通にしてもらっている。

 でも少しは聞きたいよね!?
 だって可愛いんだもん!!


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 王都から発って十日程だろうか。
 馬車は交代で手綱を握り、手が空いたときは基本書物をを読んで、魔法や剣術を勉強し、それをしつつ魔力活性の練習をする。
 もしくはサーリャに故郷の事などを聞くのが定例になっていた。
 今日も魔力活性の練習をしつつ、サーリャと話す。

「サーリャ、お父さんって厳しい人なのかな?」

「えっと、父は部族でも一番強くて、厳しい人です」

「そうか……お嫁にもらうには苦労するかもな……」

「え? 何か言いましたか?」

「いや!? なんでもない独り言だよ!?」

「ちょっと聞きづらいんだけど、いいかな?」

「なんですか?」

「サーリャが奴隷にされた時の事を詳しく聞きたいんだ」

「……はい。分かりました。もう私はセインやエレナ様たち、ソフィア様に出会って、立ち直れましたから……」

「ごめんね。きつかったら無理しなくてもいいから」

「いえ……、大丈夫です」

「私が奴隷として捕まったのは、猫族の領地と狐族の領地の間にある山で、狩りをしに行っていたところを襲われました。人数は三十人くらいはいたと思います。襲った者達は匂い消しを使っていたようでしたが、僅かに人間の匂いがする狐族でした」

「ふむ……、人間の匂いがする……狐族か……」

「ちなみに狐族ってたしか今のゼルガルド王国をまとめてる部族だよね?」

「はい。そうです」

「なにか狐族に恨まれたりするようなことある?」

「特に狐族とは仲は悪くありません。ただ猫族は先代、ゼルガルド王国をまとめていたのと、最近力を強めていたので、狐族にもかなりの影響力がありました」

「それだけだと情報としてはまだ薄いかな……、狐族は人間と組んだりするような部族かな?」

「いえ。狐族は人間は苦手なはずです。昔から狐族は数も少なく、希少な能力を持つ存在なので、人間がかなり奥地にもかかわらず、奴隷にしようと侵入してきては戦ってました。」

「国の代表となってからは、交易などもあるので、しかたなしに人間と会うこともあるようでしたが、それさえも嫌なようで、最近はエルレイン王国に近い犬族に交易の交渉をさせていたはずです」

「ちなみに狐族と猫族はエルレイン王国から遠いの?」

「一番離れているといってもいいと思います」

「ちなみに犬族は国の中で、どういう立ち位置なのかな?」

「はい。犬族はゼルガルド王国でも序列的に言えば三番目に強い部族です。エルレイン王国に一番近いので、奴隷にされる数が多いのが犬族です。最近は交易を任されているので、奴隷被害も格段に少なってるみたいですが」

 ふむ……、人間の匂いのする狐族。人間と狐族は仲が悪い。悪いフリをしている可能性。
 猫族を恐れているかもしれない。希少な能力。交易を任されている犬族。
 遠い位置にある狐族と猫族。序列的に三番目の犬族。人間に恨みをもつ。

  だめだ……、まだ情報が少ないな……

 ふと目を落とすと、力の限り手を握りこんでいるサーリャの手が目に入る。
 こんなに早く立ち直れるはずもないのに、無理をしてくれたのだろう。

「ありがとうサーリャ。ゼルガルド王国にはいったら、そこでも情報を集めよう。サーリャを送り届けたら、二度とサーリャに危害が及ばないように、犯人たちは根絶やしにするから安心していいよ」

 不覚にも殺気の籠った目でもしていたのだろう。
 サーリャを驚かせてしまった。
 すぐに笑顔に切り替えて、ごまかしつつ、真っ赤になったサーリャの手を引いて荷台から御者台に移動する。

 出会った頃のサーリャを思い出す。
 ボロボロの服を着て、手足には鞭で打たれた跡、怯えた様子、感情をあまり感じられない目、人に近づくと震える体。

 当然こんなに可愛いんだ、聞かなくても察することはできる。
 性的な暴行を受けていない可能性はほとんどないだろう。
 でも俺はサーリャがそれを受けていたからと言って、サーリャにどうこう思うことは無い。
 それを行った者への憎しみが、俺の中で膨らむだけだ。

 少し気が早いかもしれないが、今からでも犯人達を苦しめる方法でも考えておこう。

 襲われる者の苦しみ、与えられた肉体的な苦痛は返さなくてはいけない。
 暖かな陽気に気持ちのいい風が流れる日和に、どす黒い感情を膨らませながら、今日も旅路を進む。
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