二度目の世界で今度こそ俺は

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獣人国ゼルガルド王国編

#23敵襲、真相への鍵

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 サーリャの同胞達が狐族と一瞬即発になっていることを知って十日が過ぎた。
 目的地の猫族領はあと二、三日くらいらしい。意外と小さい国なのかと思ったが、奥行きが短いだけで、横長な国なんだそうだ。
 人間の国からそう距離がないから奴隷狩りも頻発するのだろう……。
 そういえば、いつ戦争になってもおかしくない猫族領に、隊商が向かうのか不思議だったのだが、これはマルウェルさんが雑談まじりに教えてくれた。
 なんでも猫族領の部族長は戦争を止めているらしいが、その他の猫族の権力者達が武器や食料などを買いあさっているらしい。
 部族長以外はすぐにでも戦争ができるように準備してるようだ……。

 ここまでの道中だが、魔物との戦闘も怪我を負うこともなく順調に猫族領に向けて進んでいる。
 魔物は最初に戦った兎のような魔物ばかりだ。兎のような魔物はウサリーというらしく、魔物とはいえそこまで強くない。
 ただすごく好戦的で、ゼルガルド王国の全域に数多く生息するため、一般人だと対応しきれず角に刺されて殺されることもあるため、護衛は必須とのことだ。
 途中ゴブリンなどとも遭遇したが、大してウサリーと変わらないくらい弱かった。
 一度だけオークと出くわしたときはウォルフが四人で取り囲んで排除した。
 オークはC級の魔物らしく、普段はこんな街道には現れないそうだ。
 現れたとしても、はぐれた者くらいで、距離がある状態で戦闘が始まれば、十体くらいまでなら対応できるとウォルフは夕食のとき話していた。
 B級のオーガなどが出た場合、荷物を捨ててでも逃げるべきと言っていたが、街道にはまず現れることもないそうなので心配ないらしい。もし出たとしても俺なら多分倒せるだろう。
 それよりも、正直オークくらいならサーリャ一人で倒せそうに感じた。
 なんでこんなこと思うのかというと、今までの戦闘で、サーリャが攻撃を受けたところを見たことないのだ。
 猫族と狐族の話を聞いてから、戦闘中も上の空のようなサーリャだが、それでもヒラヒラと敵の攻撃をかわしながら、急所に一撃必殺の如く短剣を滑り込ませていく。
 相当戦闘慣れしている上に、なぜか見ていて安心感を覚えるほど安定した戦いぶりだ。強いし可愛いしサーリャたんマジ最高。
 猫族領についてゴタゴタを片付けたらサーリャともお別れか……。正直残念すぎる。
 名残惜しいがサーリャと別れた後のことも考えておかなければならない。
 王都に戻ったらソフィアと約束した魔法を学ぶ学校に行くのだ。
 今から準備といっても殆ど何もできないが、とりあえず冒険者のクエスト報酬でも貯めておこう。お金はいくらあっても困らないしな。
 クエストの報酬の一日銅貨十五枚の保証と、魔物討伐料は意外とおいしい。
 銅貨はサーリャと俺それぞれに十五枚だから生活には十分すぎるくらいだし、夕食は奢ってもらえているから、丸々銅貨十枚は貯金できる。討伐料はウサリーで一体銅貨三枚、一日十体以上倒すからウハウハだ。もちろんサーリャに多めに渡している。俺はあんまり派手に戦えないからな……。

 いつものように夕日が辺りの草原を美しいオレンジ色に染め、それを合図に天幕を張る準備をし始めたときだった。

「敵襲――!! 敵襲だ――!! 隊商右側!! 数二十以上!! 盗賊です!!」

 手打ちの鐘を馬車の上から叩くマルウェルさんの私兵。呼びかけと鐘の音がなった瞬間ウォルフチームはすぐに隊商の右側に駆け出す。
 その様子を見て俺とサーリャも隊商を挟んだ反対側に移動する。
 敵は見たところ二百メートル程の所まで迫っている。馬に乗っているもの数名とその後ろに走って付いてくる二十人くらいの集団。
 湾曲したサーベルや弓、長剣など統一性のない武器をみるかぎり確かに盗賊だ。俺の目線を釘付けにしたのはその集団が全員狐耳を付けていることだ。

「商人の方々も自衛の準備を!! 最悪馬に乗って逃げます!! 冒険者は集まって敵を食い止める!! 取りこぼしは私兵の方々頼む!!」

 ロベルトの号令に従ってウォルフ、レイクに俺達は馬車から二十メートルほどの位置で待ち構える。

「レイナは魔法の詠唱を! 一番近い騎馬兵を何人か巻き込んでくれ!! ライアンは弓からレイナを守ってくれ!! ユウナは俺の後ろで相手を狙撃!! レイクもセイン達も弓に気をつけろ!!」

 的確な判断だ。まず突進力を持つ騎馬兵を魔法で一掃するために、敵の弓を当たらないように後衛を前衛が守る。その後取りこぼしたもの達は前衛がそのまま接敵する気だろう。ここに来るまでに盗賊を何人削れるかがキーだ。
 ただ、レイクの二人は戸惑っている。盗賊に襲われるのは初めてなのだろう。それもこちらは冒険者八人で迎え撃つのに対して、向こうは二十人以上、相手が軽装とはいえ取り囲まれたらひとたまりもないから無理もない。

「ハッ!!」

 そんなことを考えている間にユウナは次々と弓を引いていく。
 その度に一人また一人と後続の歩兵を討ち取っていく。
 騎馬兵を狙わないのはレイナの魔法で騎馬兵を一掃できることを信用しているからだろう。
 それにユウナが狙っているのは弓を持っている盗賊だ。敵が近づいたとはいえ、この距離を的確に射抜く技術は凄まじい……。本当にこれでC級なのだろうか。
 レイクや俺達が弓から身を守れないかもと危惧しているのだろう、次々と弓を持った盗賊が倒れていく。
 相手も弓を引くが、まったく届かずかなり手前で矢が落ちていく。すでに敵の数は二十人を切ったくらいだ。ようやく正確に数を数えられそうだ。

「魔力を練り終えました!! いつもの作戦で行きましょう!! ファイアーレイン」

「了解した!! ライアン!! いつも通り切り込むぞ!!」

「了解」

レイナが打ち出した炎の球体が騎馬兵達の手前の上空に向かう。そして敵が上空を見上げると共に球体が爆散し、雨のように降り注いだ。

「アチッ!」

「クソが!! 魔術師が居やがる!! 隊商護衛なんて精々C級冒険者が相場のはずだろうが!!」

 相手の声が微かに聞こえる。致命傷ってより火傷って感じだな。
 いつもレイナが使うファイアーボールと違い相手を丸焦げにするような魔法ではなく、触れた所を火傷にするくらいの魔法だ。
 ファイアーボールは範囲が狭いしかわされる可能性があるからだろう。しかしなぜ火傷程度の魔法を……。
 そう思ったが、理由はすぐに分かった。
 盗賊達を乗せていた馬達が火傷に驚き暴れ出したのだ。
 暴れ馬から盗賊は落馬し、そこにロベルトとライアンが切り込もうと近づいていく。
 見事な連携だ……。C級とはここまでチームワークがあり、実力もあるものなのだろうか。
 俺なら多分一人でも何とかできるだろう。
 だけど足りない部分や、お互いの得意な所を理解し合い、信頼し、培われているチームワークは俺にはとても美しく見えたし、羨ましかった。
 実力は全然違うが、かつてのリーナやエレナ、クレイルの後姿と重なって見える。 

 切り込んだロベルトとライアンは落馬した盗賊三人を一瞬と止めを刺し、弓を引き続けていたユウナによって数を十人程まで減らした盗賊を迎え撃つ。
 ロベルトとライアンに釣られる様にサーリャとレイクも敵に向かう。俺はレイナさんの横に向かい、サーリャに風の防壁魔法を展開する。

「敵襲だ!! 隊商左側距離二百メートル!! 殆ど騎馬兵だ!! さっきより数が多いぞ!!!」

「なっ!?」

「馬鹿な!? こんな大所帯の盗賊などありえんぞ!!」
 
 マルウェルさんの驚いた顔は、敵を切り伏せながら振り返ったロベルトと同じような感情を含んでいた。
 それはそうだろう普段からこんな大所帯の盗賊が出没するなら、隊商の護衛を十人以内、それもC級冒険者募集ではあまりにも無謀だ。

 「クソが!!」

 すぐに戦闘に戻ったロベルトが今考えていることは、俺が考えていることと殆ど同じだろう。
 まずロベルトとライアン、サーリャにレイクは切り込んだ為、隊商から五十メートルは離れている。
 それにまだ盗賊と一対一の戦闘中だ。サーリャがすでに二人目を相手にしているから時間は掛からないだろうが、今から反対側に行ったのでは間に合わない。
 反対側にギリギリ間に合うのは二十メートルの位置にいる俺とユウナとレイナ、それと私兵達十名程だ。
 さっきより多い数の兵が迫っている上に、レイナが今からさっきの魔法を練っても前衛が私兵では連携は取れないだろうし、前衛をする私兵は正直一般人に毛が生えた程度の腕で、殆ど索敵の為の兵だ。とても後衛を守れない。
 今ユウナとレイナを反対側に向かわせれば間違いなく死ぬだろう。
 ロベルトは必死に何かを考え、すぐに決断した。

「マルウェルさん!! 商人を連れて逃げてください!! 守りきれません!!」

「なっ!? しかし積荷が!?」

「命が第一です!! 私達も護衛しながら逃げます!! 奴らは街に我々が逃げ討伐隊を編成させる気は間違いなくありません!! 全員殺そうと追ってきます!! 急がなければその分生存率が下がります!!」

 ここで逃げている時間はない。俺とサーリャはすぐにでも猫族領に行かなくてはいけないのだ。
 それに今から護衛しながら逃げたとしても、間違いなく実力不足のレイクは死ぬだろう。それにウォルフのメンバーも多分だれか死ぬ。
 おそらく後衛を守ってロベルトかライアンが死ぬだろう。もしユウナやレイナが捕まれば、二人は確実に慰み者にされる。ユウナはとりわけ美しいから最悪弄ばれた後、奴隷として売り飛ばされるだろう。
 ロベルト達には世話になったし、皆良い人達だ、今の戦闘も俺達に被害がないように積極的に前に出てくれてる。
 ロベルトは態度が堅いが良い奴だし、冒険者の基本事項を空いた時間に色々教えてくれる。
 ライアンも無口だがいつも食事のとき俺に干し肉を差し出して「大きくなれ」と言ってくれる。
 レイナは美味しい飯を作ってくれるし、同じ魔術師だからだろうか、俺の魔力切れをいつも心配してくれる。
 ユウナは落ち込んでいるサーリャを、いつも慰めてくれてるし、美しい太ももをサーリャとセットで鑑賞させてもらっている。
 レイクの二人もサーリャにちょっかいかけるものの、気の良い奴らだ。
 毎晩意気揚々に話す、いつかS級冒険者になるという夢の話を聞いて見殺しなど寝覚めが悪い。

 赤の他人はどうでもいいと躊躇なく殺すこともできるが、一度触れ合って良い奴だと分かってしまうと、もう見殺しなどできない。
 俺はロベルトとマルウェルさんの大声の会話を聞きながらすぐに決断した。自分の魔力を隠している時ではない。
 それに奴ら狐耳の盗賊は、俺の勘が正しければ色々な問題が片付く。

「待ってください!!」

 突然の俺の大声に二人の会話が途切れる。

「どうした!? 悪いが時間がない!! 何か用ならすぐに言ってくれ!!」

「セイン君どうしたの?」

 焦っているロベルトと、横にいるユウナとレイナがこちらを心配している。

「俺が全員排除します! 皆さんは目の前の盗賊に集中してください!!」

 ロベルト達に背を向けすぐさま馬車の反対側に駆け出す。

「なっ!? 何考えてんだ!! レイナ!! ユウナ!! 引きずってでも連れ戻してくれ!!」

「セイン!!」

 ロベルトの大声とサーリャの不安そうな声が聞こえる。
 馬車の付近の馬に跨る商人達や私兵達を抜ける。
 俺の後ろから二人の足音が聞こえるが、もう馬車の間を抜け反対側に付こうとする俺には僅かに届かない。

 馬車の向こう側にはもう五十メートルほどまで迫った盗賊達の群れがいた。
 舌舐めずりをしている者。世紀末マンガに出てくるモブのような奇声をあげている者。ぐるぐると剣を回して興奮している者。女女と叫んでいる者。

「ああ。いいな。皆良い感じに屑の顔をしてる。遠慮しなくて良さそうだ。……あの魔法の名前何だっけかな。全然使わないから名前忘れちゃったけどまあいいか。じゃあいくよ。吹き飛べええええ!!」

 巨大な竜巻が視界を遮るように発生し、目の前にいた筈の盗賊達が馬ごと宙を舞って行く。耳障りな奇声は野太い悲鳴に変わり、そのまま竜巻の中に飲み込まれ木霊する。

「おえぇぇえぇ」

 俺の後ろにいたレイナが、昼間に食べたであろう物体を地面にもどしていく。

「あらら!? しまったレイナさん近くにいるのに魔力開放しちゃった……。すいません……大丈夫ですか」

 魔力を抑えレイナの背中をさすり、介抱する。横にいたユウナは竜巻を見ながら呆然としている。
 すべて出し切ったレイナをユウナに任せて、俺は振り返る。

「そこの四人、竜巻に巻き込まれなくて助かったと思ってるのかな?」

 竜巻の発生場所から僅かに外れていた四人は足を止め、竜巻を見ていた顔をこちらに向ける。

「助かったんじゃなくて、わざと外してあげたんだよ? さあ!! 俺に選ばれた幸運な四人の盗賊達!! 喜べ!! お前達が俺に従順になるなら命だけは助けてやろう!! 反抗するなら――!! 分かりますよね?」

「ふ……ふざけんなこの!!」

 俺の発言に対して怒りをあらわにした一人に、右手の指を鳴らすと同時に、風の刃を無数に飛ばしバラバラにする。
 見せしめの意味を込めているが、やはり目の前でスプラッタはやっぱ気持ち悪いな。

「あらら、三人になっちゃったね。んで、あんたらはどうする?」

「わ……分かった降参だ。お願いだ。いえ……。お願いします。助けてください……」

 徐々にガタガタと震え出す三人。

「賢明で何よりだ」

 竜巻を強制的に消し飛ばし、上空に巻き上げられた血が少し離れたところに雨となって降り注ぐ。
 丁度竜巻を見てすぐにこちらに向かってきていたロベルト達と馬から下りてきたマルウェルさんが到着し、その雨を見て戦慄している。

「驚かせてすみません。あと、力を隠していたことも、力を最初から使わなかったのも謝ります。もちろんあなた方が危険になるようなら助けましたし、治療魔法も中級まで使えるので、深手でもある程度なんとかなったことを最初に弁解として言わせてください」

 俺の言葉にようやく血の雨からこちらに全員が顔を向ける。
 すっと歩を進め、盗賊の一人に近寄る。怯えて尻餅をつき懺悔を始める盗賊を無視して頭に手を置く、そして狐耳を掴み一気に剥ぎ取る。

「やっぱりか」

「俺について聞きたいことは色々あるでしょうが、その前にこの盗賊達に話しを聞くことを優先します。俺の考えが間違ってなければ猫族と狐族の戦いの説明が付くはずです」

 俺が買ったものと変わらないような、精密な出来の付け耳を握り締め、氷のように冷たい目で盗賊を見下す俺に、誰も声を上げることは出来なかった。
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