二度目の世界で今度こそ俺は

開拓

文字の大きさ
24 / 34
獣人国ゼルガルド王国編

#24嘘か真か

しおりを挟む
 俺の名はラーズ。今俺は生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている。
 腕と足を縛られ、地面に座らされている俺達の目の前には、小さな子供が立っていた。
 見た目はどう見てもただの子供、だがこいつを少しでも怒らせれば、途端俺達の人生は終わる。
 俺達を見下ろしている氷のような視線は、俺達を殺すのに何の躊躇もない事を理解させる。
 周りを取り囲む冒険者や商人は、誰一人として口を開かず異様な静けさだ。
 辺りの散らばる肉となった者達から漂う血の匂いが、俺の心を徐々に恐怖で侵食していく。
 断頭台の前に立つ気持ちは、きっとこんな感じなのだろう……。
 先輩盗賊達は常日頃言っている。殺して奪う。捕まえ奴隷にする。好きな女を抱く。
 人を貶め楽をしているのだから、殺される覚悟はいつでもしておけと。
 だけど俺にはそんな覚悟はない。食うのに困って盗賊になったが、こんなに自分の欲望を満たしてくれることは他にはない。
 こんな所で死にたくない。目の前の子供に縋っても、盗賊仲間を裏切ってでも、絶対に生き抜いてやるんだ。

-----------------------------------------------------------------------------

 三人が降伏した後、ロベルト達が盗賊達を縛り上げた。
 正直俺は盗賊達に近づくなら、体の周りに風の障壁を張らないと、とても安心して近づくことはできない。
 いくら強い魔力を持っていても、不意打ちで致命傷を受ければ、すぐに死んでしまうだろう。
 かといって障壁を展開しながらだと風が邪魔でロープなんかとても結べない。
 盗賊と俺の間に微妙な間が流れたあと、空気を読んだウォルフの面々が、ロープを用意し、捕縛してくれた。
 奴らは思った通り、狐耳と猫耳、猿のしっぽの飾り、兎耳など色々荷物に忍ばせていた。もちろん匂い消しも大量に入っていた。

 そして今、目の前の三人の盗賊達の周りを、マルウェルさんとウォルフとレイクのメンバー、正面を俺とサーリャという形で囲んでいる。
 盗賊達の顔色はどんどん悪くなっている。それはそうだろう、自分達を殺すかもしれない人間達が周りを取り囲んでいる上に数分無言なのだ。気味が悪いし、気が気じゃないだろう……。
 別に何かを狙って無言の間を取っている訳ではない。ただ考えを纏めているだけだ。

「じゃあ質問いいかな? 先に行っておくけど、死にたくなかったら嘘を言わずに正直に答えたほうがいいよ。嘘だと分かったらできるだけ苦しむように殺すから、そのへん踏まえて返答してね」

「……ああ……分かった」

「じゃあ一つ目の質問ね。そのへんに転がってるお前達の仲間を調べたけど、一人残らず人間だったけど、獣人国を拠点にしてるのかな?」

「……ああ、その通りだ」

「なんで獣人国を拠点にしてる?」

「……エルレインじゃ盗賊の発見の報告が届いたらすぐに討伐隊が向かってくるし、街道が整備されていて発見されやすい。その点獣人国は街や村までの間隔が長いし、身を隠せる森や山なんかがいたるところにあるからある程度仕事しやすいんだ」

「他には? もっと理由があるよね?」

「……獣人国なら色々な部族がいるから変装すれば罪を擦り付けられる。……その部族間で揉めている間に安全なところに逃げられる。それに獣人族はエルレインの変態共に高値で売れる……」

 高値で売れる。この言葉に、同じ人間のウォルフのメンバーからは軽蔑のまなざしが向けられ、獣人のライアン、レイクの二人、そしてサーリャから凄まじい殺気が放たれる。

「っひ!?」

 盗賊達三人の中の一番若い盗賊が、殺気を感じて小さな悲鳴をあげる。
 他の二人は盗賊として長くやってきているのだろう。殺気にも動じず、目をつむっている。殺される覚悟が出来ているのだろうか。
 俺の知ってるアニメにもあったな、撃っていいのは――って感じの心構え。
 きっと若い盗賊はその覚悟ができていないだろう。俺もそうだ。そんな覚悟はない。
 今まではいきなり襲われたからその都度対処してきただけだ。自分から襲う側として積極的に動く覚悟などできない。
 俺はきっと、やられたからやりかえすを言い訳に、何とか殺しを正当化して、自分の心を守っているのだ。
 戦闘中興奮してしまうのも、冷徹な態度とるのも、相手を煽ることも、どれも普通のテンションじゃ精神がもたないからかもしれない。元から他人に対して冷めた性格なのもあるだろうけどな……。
 まぁ自分のことは今はいいか。俺は生きたいように生きるだけだし、やりたいこと、できること、するべきことをするだけだ。
 とりあえず後ろの盗賊は扱いやすいかもしれない。生かしてやるとほのめかせば、色々と情報を話すだろう。

「獣人族を高く売れるのはそうでしょうね。買う糞野郎を一人知ってますし。でもあなた達に奴隷を売るルートがあるのですか?」

「……奴隷商に売るんだ」

「なるほどね……。ここまでで一つ腑に落ちないことがありました。」

「何だ……」

「今絶賛揉めている猫族と狐族の事は知っていますよね? あなた達のせいなのですから」

「……ああ。知っている」

 盗賊に向かおうとするサーリャを手で制し、質問を続ける。

「さっきあなたは揉めている間に逃げられると言っていたのに、僕達を襲ったときあなたたちは狐耳を付けていました。おかしくありません? 揉めてる間に逃げるのに、わざわざ話題になっている部族の変装をするなんて? 荷物には他の部族の変装道具もあったのに」

「……隊商が見えたからとっさに付けたのだ」

「そうなんですか、てっきり僕は猫族と狐族で戦争をおこすように、火種を作る依頼でも受けているのかと思いましたよ。狐族はゼルガルド王国の代表ですし、盗賊やら人さらいやらをしてるのを見られただけでも、効果は絶大でしょうしね。国力が下がれば喜ぶ人間も大勢いますし、例えば奴隷商とか、例えば獣人国に近いエルレインの貴族とか、あともう一つ得しそうなところがありますけど、まだ推測ですからここはあえて言いませんが」

「そんな依頼などない。俺達は稼ぎたくて獣人国に来ただけの盗賊団だ」

 今まで言葉を発するのに、少し間をあけて考えているようだったのに、ここは即答で否定ね……。肯定してるようだよそれじゃあ。
 それに俺が貴族や奴隷商やら、もう一つなどと言った時に後ろの若い盗賊がうろたえちゃってるしね。あんたら二人だけ上手く装えても、意味ないんだよ。
 でもこれで後ろの若い奴も、核心の部分を知っていることは分かった。でなければあんな反応できないだろうし。

「次の質問です。あなた達の本拠地はどこですか? 盗賊団はあなた達だけじゃないでしょう。それに捕えた奴隷を監禁する場所も必要でしょうし」

「……拠点はない。攫ったらすぐにエルレインに向かうからな。盗賊団も今生きているのは俺達三人だけだ」

「サーリャ、こいつらの言ってることは本当?」

「いえ、私は捕まった時、洞窟のようなところの牢屋に入れられました。そこで奴隷商に売られて鉄檻のついた荷馬車でそのままエルレインの街にいきました。人数はわかりません」

「!?」

盗賊の反応は予想通りだったが、周りの冒険者も驚いている。そういえば皆にはサーリャが捕まった事言ってなかったな。
まぁつらい記憶だし、わざわざ伝える必要などないが。

「最初に言いましたよね。正直に答えたほうがいいと」

「っが」

 話し相手だった先頭の盗賊の顔面を蹴る。魔力で少し強化した蹴りだ。盗賊は歯を撒き散らしながら二メートル程吹っ飛んだ。

「っぐぅ。ああああぁぁあぁあ」

「さて、指先から少しずつ細切れになるのと、口の中に魔法を撃ち込んで、体内から焼かれて死ぬの、どちらがいいですか?」

あからさまに後ろの若い盗賊が青ざめる。

「それともそこの人から始めましょうか」

若い盗賊の方を向くと、盗賊の足元が水浸しになっていった。
あらら。まぁここまで怯えてくれれば滑らかに話してくれるだろう。

「君はちゃんと真実を話してくれるかな?」

「……は……はい……話します……話させてください」

「おいラーズ!! 黙れ!!」

「お前が黙ってろ」

 話さないように促そうとしたもう一人の盗賊の腕を風の刃で切断する。

「がああああああああああああああああ」

 地面をのたうち回る二人を無視して、盗賊の目の前で腰を下ろし、満面の笑みを向ける。

「正直に話してくれたらここからは逃がしてあげるよ。素直に話そうラーズ君?」

 周りを囲む者達がセインを恐れる中、ユウナは気が付くと涙を流していた。セインを恐れてではない。憐れんでいるのだ。
 ユウナはどうしても考えてしまうのだ。どこで人生を間違えれば、平穏に遊びまわっているであろう九歳の子供が、悪人とはいえ何人も殺し、そして殺すことに慣れているかのように平然とし、返り血を塗れた顔で満面の笑みを向けることができるのだろうかと……。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...