二度目の世界で今度こそ俺は

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獣人国ゼルガルド王国編

#25見えてきた真実

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 俺は必死だった。何せ命がかかっている。
 痛みで転げまわっていた仲間の一人は荒い呼吸で地面に寝ている。
 腕を失ったもう一人はもう動かない。どくどくと血だまりがだけができていく。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 血に濡れた顔でこちらに笑顔を向ける目の前の異常な少年に、命だけは見逃してもらえるようにと淡い希望を抱いて、俺は俺の知るすべてを、懺悔のように話すのだった。


------------------------------------------------------------------


「さてラーズ君、知ってることを教えてもらいましょうか」

「は、はい……」

「まず今回の事件の依頼人からいこうか。依頼主はだれかな?」

「依頼人はエルレインの奴隷商、スペイズです」

 ふむ。盗賊を直接雇っていたのは奴隷商だったか。

「なるほど、じゃあそのスペイズの主は誰でしょうか?」

「……スペイズはエルレインの貴族の何名かから支援を受けています。ですが、深い考えなどなくただ単に獣人奴隷が好きなものや、他種族を虐げることで欲を満たす者の個人的な支援です。スペイズの商品になる奴隷は、他の奴隷商と違い、質が良い者が多いですから」

 嘘ではないとすれば、貴族が獣人国の国力低下を狙っていた線は消えるな。確かに良く考えてみれば、国力を低下させても、あのソフィアが戦争を許可するはずもないしな。
 貴族に国力低下をさせる旨みはあまりないだろう。せいぜい変態貴族達が、自分達のコレクションとして獣人奴隷をどさくさに手に入れるのが限界だろう。
 商人達であれば国力低下に漬け込んで、需要のあるものを高値で売ることもできるから、そっちとつるんでいた場合は別だが……。

「もう一つあるでしょう。スペイズの支援者か、もしくは共犯者かな? そこで寝ている奴に聞いているときラーズ君も反応してたし」

「はい……。スペイズの最大の支援者は……犬族の族長です……」

「な!?」

 犬族の族長と言ったラーズに飛びかかろうとしたレイクと、レイクを止めつつも驚きを隠せない様子のウォルフ。
 信じられないのも無理はない。別部族とはいえ同じ獣人の仲間だ。自分達の族長が獣人を売るはずなどないと、だれだって思うだろう。

「でしょうね。納得いかないだろうレイクのために、少し僕の考えを話しましょう」

「まず、人攫いは話によると数ヶ月前からおき始めています。なのに一向に被害がなくならない。如何にこの盗賊達が上手く変装していたとしてもさすがに不可解と思いませんか?」

「続けてくれ……」

 ウォルフになだめられ少しだけ冷静を取り戻したレイク。

「エルレインに獣人国から行くには通り道にある犬族の領地を通らないと行けません。たとえ街に入らなかったとしても、さすがに数ヶ月も奴隷狩りが続けば誰かしら目撃するでしょう? 鉄檻のついた荷馬車なんて大きな物で移動していたんですから。なのに未だにこいつらは捕まっていなかった。理由は二つに絞られます。一つ目はほぼ可能性は皆無でしょうが、絶対に見つからないルートを見つけた。二つ目は犬族の上層部と結託しているかです」

 狩猟や冒険者が毎日のように平野や山、草原などに出向く獣人国で、誰にも見つからないなんてことは、一日や二日偶然あったとしても、何ヶ月も続くことはありえない。

「……続けてくれ」

「続いて理由その二です。いくら山など身を隠せる場所が多いからと言って、数ヶ月潜伏するならどこかの部族に匿ってもらうしかありません。これは別に犬族でなくてもどこでも可能性はあります」

 これも一つ目と同じ理由だ。狩猟者の多い場所で長い間潜伏など不可能だ。どこかの部族が匿わない限り。

「……まだあるのか?」

「はい。三つ目の理由は、僕が聞いた情報ですが、人間との交易がいやになった狐族は、犬族に丸投げしましたよね? これは間違っていたらすみません」

「いや、確かにそうだ」

「よかった。その交易が始まってからというもの、犬族の奴隷になる数がかなり減ったと聞いています。それに伴い、ゼルガルド王国でもっともエルレインからもっとも遠い位置の狐族と猫族に、最近奴隷狩りの被害が頻繁に起きています。そして犬族はこの国のナンバースリーです。狐族と猫族が失脚して、もっとも恩恵に預かるのは……」

「それだけでは確証にはならない!」

「その通りです。確証にはなりません。あくまで僕の推察でした。ここにいるラーズ君の証言をもらうまではね?」

「そいつが嘘を言っている可能性だってあるだろう!!」

「ッハ!! 確かに嘘かもしれませんね? でも状況は黒だと言ってるし、証言まである。すでに疑って掛かったほうが良いんですよ。ちなみに言うと俺は犬族のあなた達二人は隊商護衛、最初の夜からずっと警戒していましたよ!!」

「この!?」

 今度はこちらに飛びかかろうとするレイクをウォルフ達が必死に止める。

「レイク。お前達が信じようが信じまいが、俺にはどうでもいいんだよ。ぎゃあぎゃあ騒ぐから親切に説明してやってんだろうが? 俺はサーリャを奴隷にした奴らを根こそぎ踏み潰したいだけなんだ? いい加減だまってろ」

 レイクの方向に片手を向け、できるだけ冷たく威嚇する。
 ウォルフはとっさにレイクをかばうように体をいれ、レイクも俺の威嚇を感じて動きを止めた。

「ッツ……」

「レイク、そこまでにしておけ、サーリャもいるんだ。それに奴隷商を捕まえればはっきりする、そうだろセイン。」

「ああ」

「セインもこいつら二人まで疑うのはやりすぎだし言い過ぎだ」

 ロベルトは本当に優しいな。未だに手を向けている俺に恐怖を感じているのだろう。額から滲む汗が良く見える。それでもレイクをかばうことを止めない。

「お優しいことで……、まあいいやそれよりラーズ君にはまだまだ色々聞きたかったんだ」

「は、はい……」

 今までの冷たい感じを取り払い明るく振舞い振り返った俺に、ラーズは一層怯えている。
 やっぱりイラつくと俺とかっていう言葉遣いに戻ってしまうのは何とかしたほうがいいかもな……。
 子供の姿とのギャップがすご過ぎて異常に怖がられるし。

「ごめんね。少し素がでちゃったから怖がらせたかもね。安心していいよ。ちゃんと話してくれれば生かしてあげるから」

「は、はい。わかりました……ありがとうございます……」

「次はあれだな。ラーズ君達の本拠地? 潜伏先かな? そこを教えて? あと残りの盗賊も」

「本拠地はここから東に少し行った所にある山の洞窟です。そちら側に見えているあの山です。中にはまだ二十人位います。それと狐族を四人程捕まえていたはずです……」

「なるほどね。まぁまぁ近いし俺とサーリャとラーズ君はその洞窟に行こうか。まだ捕まってる人もいるみたいだし」

「待て、マルウェルさん達の護衛もあるだろう。それに二人では危険……ではないか」

「マルウェルさんの護衛ならウォルフだけでもさっきみたいな大群の盗賊が来ない限り大丈夫でしょう。それに今の話を猫族に伝える人が欲しい、マルウェルさんも知ってる通り、猫族は武器を集めています。いつ戦争を始めてもおかしくない。俺達のことは心配しなくていいですよ。それに俺達より捕まっている四人のほうが心配です」

「そうだな……。わかった猫族にはすぐに伝えに向かおう。マルウェルさんそれでいいか?」

「ええ、大丈夫です」

「ありがとう。恩に着るよ。俺達は狐族の四人を助けたら、そのまま狐族領に向かって狐族を止めます。それでいいかなサーリャ、猫族領に向かうのは少し遅くなるけど」

「大丈夫です。私はセインと一緒にいます」

「ありがとうサーリャ。ちなみにラーズ君。奴隷商が次に来るのはいつかな? それと残りの盗賊に強い奴とかいる?」

「奴隷商がくるのは一月に一回です。まだ半月ほど時間があります。残りの盗賊は頭と幹部が数人強いです、残りは俺とかわりません。ですが、多分あなたなら全く問題ないと思います」

「なるほど、なら四人を助けて狐族を説得して洞窟で奴隷商を待ち構えるのも間に合いそうですね。ラーズ君には付き合ってもらいますね。万が一嘘だったら殺さないといけないので」

「う、嘘などつきません!!」

「よろしい」

「では平和になったころにでも、猫族領で会いましょう。いこうかサーリャ」

「はいセイン」

 ラーズを片手で立ち上がらせ、前を進むように歩かせる。
 その場に残されたロベルト達には、淡々と家事でもこなすように厄介ごとを片付けていくその小さな子供の背中が、恐ろしく強大で、また不吉に見えるのだった。
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