二度目の世界で今度こそ俺は

開拓

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獣人国ゼルガルド王国編

#29会合

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 猫族の領地に向かい歩き始めて半日程だろうか。
 最初は獣道を進んでいたが、ある程度進むと街道のように整備された場所にでた。
 街道を進めば猫族領につくらしい。街道を歩くに連れて、少しずつだが、商人と思われる人達ともすれちがった。
 おそらく猫族領にかなり近いのだろう。

 シルファが連れてきた狐族の精鋭は二十人程だった。
 聞けば狐族は近接戦闘よりも魔法に特化しているらしく、数がいすぎても意味がないので、二十人に絞ったようだ。
 それよりも気になるのは精鋭がすべて女性ということだ。そういえば村でも男をみなかった。
 まぁどっちにしろ前衛は猫族の協力が必要不可欠。ロベルト達はうまく協力を得られているだろうか。

 その後街道をしばらく進むと、木を何本も束ねたような外壁が見えてきた。その中央に門があり、何人かの兵士が大所帯の行商人と思われる人々をチェックしているように見える。
 門の中に少し見えるのは立派な木造の建物だ。
 狐族の領地は、まさに秘境って感じで、街というよりは村と言った感じだったが、猫族は完全に街といえる。
 というかゼルガルド王国で立ち寄った栄えていた街は序列三番目の犬族の街だから、序列二番目の猫族の街が小さい訳はないだろう。
 狐族は……きっと特殊なんだろうなぁ。

「戻って……これました……」

 サーリャの小さなつぶやきが俺の耳をかすめる。
 どうやら猫族の領地に間違いないらしい、ようやく本来の目的だったサーリャを故郷に送ることができた。
 サーリャは俺の元から離れてしまうがしかたない。今生の別れでもないのだ。生きてさえいればまた会える。

 感慨に耽っていると、門のあたりが騒がしくなり始めた。
 次々と門の前に兵士が集まってくる。
 商人と思われる人々を急いで門の中に入れているのも確認できる。

「セインさん、もしかすると我々がいるので警戒させてしまったのかもしれません」

 なるほど、シルファの言う通りだ。
 向こうの族長は戦に反対してくれているとはいえ、周りは戦の準備をしているのだった。
 そこに狐族と思われる武装した一団が、少数とはいえ向かってくるのだ、警戒して当然だろう。
 このまま近づけば矢を撃ち込まれかねない。

「ちょっと危なそうなので、僕とサーリャだけで先に行って話をつけてきます、みなさんはここで少しお待ちを」

「分かりました。宜しくお願い致します」

「サーリャ行こうか」

「はい!」

 目に見えてごきげんなサーリャを微笑ましく思いながら、二人手を繋ぎ門に向かって歩く。
 少しづつ近づくに連れて、隊列を組み終わっていた猫族の兵士達が騒ぎ始めた。
 どうやらサーリャの姿を確認したのだろう。何名か街の中に急いで走っていったものもいる。
 だがこちらに近づいてくることもない。何か探っているように見える。

「サーリャ様でしょうか!?」

 猫族の隊列の先頭にいた男から大きな声があがる。

「ええ! 私は無事です! 急ぎ父上に伝えたい事があります!! 通してもらえますでしょうか!?」

「もちろんです!!」

 少し遠い距離での会話でとりあえず安全は得た。
 駆け足でその隊列に向かう。

「サーリャ様ご無事でなによりです! 一つ聞きたいのですが、お隣の方とあちらにいる狐族の方はいったい?」

「この人は私の命の恩人です。年は若いですが、素晴らしい魔法使いです。狐族の方々は今回の拉致事件の犯人ではありません。そのことでも父と話したいので彼女達も来てもらってもいいでしょうか?」

「そうでしたか……。我々は勘違いをしていたようですね……。わかりました。急ぎ族長に会合の席を作っていただけるように伝令を走らせます」

「ありがとうございます」

「ライア、狐族のお客人達をこちらに案内しなさい。ルーダ、お前は族長に急ぎ会合の準備をと知らせろ」

「はい! 行ってまいります!」

「承知しました!」

「皆様揃われましたらご案内させていただきます。私はゼオンと申します。失礼ですがお名前を聞いても宜しいでしょうか?」

「はい。セイン・レイフォードと申します」

「セイン様、サーリャ様を助けていただきありがとうございます。サーリャ様は族長や皆から愛される、猫族の宝のような存在です。本当に、本当にありがとうございます」

 やっぱりサーリャは愛されていたんだなぁ。
 本当にここまで連れてくることができてよかった。
 あとは二度とあんな事件が起きないように、元凶達を叩き潰すだけだ。
 ただ、いまさらながら事情を説明すれば、奴隷としてサーリャを買ったカンザスも恨まれるのではないのだろうか……。
 もちろんカンザスがサーリャに行った仕打ちは許されることでもない。
 だがカンザスはあれでも大きな街を支える領主だ。
 いきなり消されでもしたらソフィアも困るかもしれない。
 ここはこちらで罰を与えると交渉してなんとか引いてもらおうか……。
 罰はソフィアから下してもらえばいいだろう。

「隊長! お連れいたしました!」

「族長のシルファ様でしたか!? お待たせして申し訳ありません!」

「いえ気にしないでください」

「では行きましょう」

 サーリャの言葉に従うように、ゼオンに連れられ、街の中に入っていく。
 猫族の街は大きかった。
 最初に立ち寄った犬族の街も大きかったがそれよりも建物なんかも立派だ。
 大きな商店や、宿屋。冒険者ギルドなんかもかなり大きな佇まいだ。
 道の脇には屋台が立ち並び美味そうな匂いを放っている。
 人々は狐族を見て殺気立っていたようだが、サーリャを見るとすぐに嬉しい声を上げこちらに近づいてくる。
 ゼオンが急ぎの用があるからと断りを入れると皆素直に引き、サーリャの無事を喜ぶ言葉をくれる。
 温かい街だ。それにサーリャも嬉しそうだ。薄っすらと目尻に涙が見える。
 絶えない人だかりと温かい声援で俺も少しばかり感動で泣きそうだ。
 人だかりはずっと続き、大きな屋敷の前に到着した。

「こちらで族長や、幹部の方々がお待ちです。シルファ様とレイア様、あと護衛に二名程だけお入りください、他の方々はとなりの建物で歓迎の席を用意しておりますのでおくつろぎください」

「はい。いきましょう」

「ラーズお前はとなりの建物にいたほうがいい、正体がバレないように気をつけろよ。殺されかねないからな」

「分かりました」

 小声でラーズに指示をだし、両開きの大きな扉を開け中に入る。
 そこは大きな部屋になっており、中央に大きな机があった。
 狐族の村でもこんな感じの部屋だったのを覚えている。ただ規模はこちらの方がかなりでかいし、中央の机や、飾り物など色々と豪華だが。
 奥には一人の巨躯な男がどっしりと座っていた。顔には大きなキズがあり、歴戦の戦士というのがすぐに分かる。
 その付近にも巨躯な男程ではないが、大柄で筋肉の要塞のような男たちが六人程座っている。
 すごい迫力だ。きっと身体強化や、魔法での防御なしで殴られたら一瞬で殺されるだろう。

「サーリャ!! よくぞ無事に戻った!!」

「サーリャちゃん! 怪我はないか!?」

「サーリャちゃん!! おじさん心配したよ、大丈夫かい?」

 口々にサーリャに黄色い声を上げる。
 なるほどここまで溺愛されていたのか……。
 それにしても筋骨隆々の男たちの黄色い声援というのは思った以上に怖いな。
 俺達に続いてシルファとレイア部屋に入った途端、黄色い声援がピタっととまり、今まで何もなかったように渋い顔に戻る。

「皆さん感動の再会でしょう。別に続けてもらっても大丈夫ですよ?」

「なんのことだ? 我らには何を言っているかわからんな」

 さすがにあれだけ大きな声だったのだ、無理があるだろう……。

「そうですか。では私は何も聞いていなかったということで会合を始めて頂いてもいいですか?」

「うむ、そのまえに何人か来るものがおる」

 俺たちはそれぞれ席につく。
 やはり族長の正面には俺とサーリャが座るようだ。それとなくサーリャに誘導された。

「失礼します」

 部屋に入ってきたのはロベルト達四人だった。

「ロベルトさんお久しぶりです。皆さんも無事でなによりです」

「セイン。お前こそ無事でなによりだ。盗賊団のアジトはどうだった?」

「それはこれから説明します」

「ロベルトさん、ラーズが隣の建物にいますが、盗賊団の人間とは言わないようにお願いします。絶対に殺されますので」

「わかった」

 俺は小声でロベルトに耳打ちする。

「とりあえずウォルフの方々も席についてくれ」

「分かりました」

 十一人で席を囲み会合が始まった。

「ではまずサーリャよ。無事で何よりだった」

「ええ父様」

「俺は猫族族長ガイウスだ。ウォルフの方々に謝っておく。サーリャを見なければ信じないと頑なだった我らを許して欲しい」

「いえ、よくよく考えれば、人族の奴隷商に捕まったという話を人族から聞いても簡単に信用できないでしょう。我々も考えが足りませんでした」

 なるほど、まだ信用しては貰えてなかったということか。
 というかロベルト達に説明しに行ってもらったのは俺だし、俺の考えが足りなかったな。
 でもまぁあの話を聞いてすぐに戦をしようなんて考える奴はいないだろうから、足止めという意味では成功だったな。

「すまないな、冒険者が嘘を我らにわざわざ言うはずはないと思ったのだが、どうしてもサーリャの無事をこの目で確かめるまで信じることができなくてな」

「もう大丈夫ですから、話を戻しましょう」

「うむ。ロベルト殿から話は聞いている。元凶は奴隷商と犬族族長で間違いないのだな?」

「ええ、間違いないと思います」

「そなたは?」

「申し遅れました、セイン・レイフォードと申します」

「そなたがサーリャを救ってくれたセイン殿か、心から礼を言う。ありがとう」

 深く頭を下げるガイウス。

「気にしないでください。僕がしたいことをしただけですから。それよりも盗賊団のアジトにあと十日くらいで奴隷商が来ます。そちらを捕まえるための援軍をお願いしたいです」

「いや、奴隷商は我らに任せてもらっても大丈夫だ。セイン殿はゆっくりと休んでいかれよ」

 幹部であろう一人が自信満々に話す。

「いえ、盗賊団のアジトでの話はまだしてませんでしたね、盗賊団は狐族も何人も誘拐していました。そこにいるシルファ様の子、レイア様も捕まっておりました。猫族だけの戦いではなくなっております」

「なるほど……猫族と狐族双方に不埒な真似をしておったのか」

「それに奴隷商は私と同じ人族です。なので身柄は私に頂きたい」

「なんだと!? それは許さん!! そいつは八つ裂きにしなければとても腹の虫が収まらん!!!」

「良く考えてください。奴隷商を八つ裂きにしてもすでに奴隷になってしまった者は戻りません。ですが、私に奴隷商を預けてくれればうまく行けば同胞を取り戻すこともできます。それにこういった事件が起きないように奴隷商には見せしめとして使いたいのです」

「本当に……同胞は戻ってくるのか?」

「約束はできません。奴隷商が吐かなければ不可能です。ですが、たとえ吐いたとしても力を持った貴族が囲っていることは間違いない。エルレイン側で権力のある者が動かなければ確実に戻ってくる可能性はないでしょう」

「……分かった。奴隷商の身柄はまかせよう……」

「その代わり犬族族長は好きにしてください。そちらはこっちが手を下すところではないでしょう。もちろん生かすようなら二度とこんな事が無いようにはなにか手を打って頂けるとありがたいです」

「…………」

 何人かを除いてほぼ全員が顔を落として無言になっている。
 何か変なことを俺は言ったのだろうか。

「セイン様やサーリャさん、レイアは知らないでしょう、武術大会など何年も前のことですから……。犬族の族長は獣人の中でも最強の力を持っているのです。この中で彼に勝てる者はいません」

「え……。奴隷商が来る盗賊団のアジトにはたまに族長も一緒に来るのですよ?」

「セイン殿……。それは初耳です。私たちは奴隷商の連れてくる兵と、犬族の兵士十人程とは聞きましたが、族長が来るとは聞いてません……」

 しまった。シルファにはサーリャから説明をしてもらったのだった。
 紙に情報を纏めているわけでもないし抜けるのは当然だ。俺であってもすべてを踏まえて話すことは無理だろう。
 それに正直犬族族長をそこまで危険視していなかった……。

「では犬族族長はどうやって捕らえるつもりだったのですか? 正直魔法で遠距離から攻撃し続ければ捕らえることは容易だと思うのですが」

「犬族族長には魔法が効かないのです……。正確には魔法を無効化する魔道具を持っています……」

「それに近接戦闘だと、俺やここにいる幹部全員で向かっても勝てない程の強者だ。この顔の傷も奴につけられたものだ。もし奴を倒すのなら、数百程の兵の犠牲は確実だろう。」

 おいおい……。魔法無効に近接戦闘があの筋肉の要塞のような連中より強いだと……。なんのチートだそれは……。

「というかそんなに強いなら普通に序列一位は犬族になるのではないですか?」

「簡単な話だ。部族の序列は二十年に一度の武術大会で決まる。そこにいるシルファの旦那が奴を倒し、トーナメントで逆側だった俺が二位になっただけだ」

なるほど、トーナメントで序列を決めていたのか……。それにしてもシルファの旦那どんだけ強いんだよ……。

「ではシルファさんの旦那さんがいれば捉えられるのでは?」

「私の旦那は風来坊でして……。いつも各地を旅しておりますのでたまにしか戻ってきません……」

「困った父上なのじゃ……。でも強さは本物じゃ、冒険者、風の剣聖の異名はどこまでも響いておるからの」

 ふむ。困った。どうしよう。
 実際どの程度の魔法を無力化するかわからない。
 俺の魔法が聞かなかったら詰みだし、まさか犬族族長一人のために猫族の戦士達を百人も失う訳にはいかない。
 だが、奴隷商を捕まえるチャンスはきっと今回で最後だ。
 盗賊が根絶やしになったことを知れば雲隠れするだろう。

「分かりました。盗賊のアジトには猫族からも精鋭を出していただき向かいましょう。奴隷商と一緒に来るのは犬族の族長か、もしくは幹部です。幹部の場合予定通り奴隷商を捕らえます。族長の場合は皆さんは逃げてください。僕が戦ってみます。もしかすると僕の魔法なら通じるかもしれないし、最悪逃げる手段は持っているので僕なら大丈夫でしょう。」

「いや、セイン殿がどれほどの魔術師かはわからんが、任せていては男が廃る。俺たちも戦うぞ」

「むしろ皆さんがいては僕が本気を出せません。確実に巻き込んでしまいます。二万の魔族の軍を退けるくらいの力は持っていますので僕の魔法で無理なら猫族の方々に近接戦闘で倒してもらうしかなくなります。族長達を失っては犬族族長を止めるものがいなくなるのです。すぐに逃げて街で守りを固めてください。できれば犬族族長だった場合は僕が最初に牽制しますので、その間に奴隷商だけは捕まえてください」

「セインの言っていることは本当です。二万の魔王軍を退けたことでエルレインの王女からも褒章をもらっています」

「……分かった。奴隷商だけはなんとしても捕まえよう」

「では詳しい作戦は現地の地形を把握しながらのほうがいいでしょう。出発の準備をしましょう」

 苦戦するかもしれないと思ったのは、初めて戦ったあの魔王軍との戦い以来だ。
 結局あのときは空からの攻撃だけで一方的だったが、今回は空を飛んでいても相手も魔法が効かなければ結局勝敗がつかない。
 魔法無効化の魔道具とやらの力次第だ。
 やはり近接戦闘も早く学ばなければいけない。
 俺の力を聞いて唖然としている皆を尻目に、俺は会合の場を後にした。
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