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聖女と女騎士
第43話 聖女セシリア、メスの顔
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豪邸のキッチンに移動したアランは腕まくりをし、目の前の極上の肉塊――リオラクーンの肉と向き合った。
「よし、やるぞ!」
(赤身はステーキだな。シンプルに岩塩と、庭のフィルモローズマリーで香りを付けるのが一番だろう。焼き加減は……ミディアムレアが基本だが、子どもたちもいるし、少ししっかり目に焼くか。脂肪が多い部位は……薄切りにして、神トマトと玉ねぎと一緒にサッと炒め合わせるのもいいかもしれない。あの肉の甘みとトマトの酸味は絶対に合うはずだ!)
アランの脳内で、次々とレシピが組み立てられていく。
大きな鉄板で、アランはリオラクーンのステーキを焼き始める。
ジュウウウゥゥ……! という音と共に、極上の肉が焼ける香ばしい匂いがキッチンを満たしていく。
その匂いが、料理の完成を待つ食堂にまで漂い、子どもたちの「お腹すいたー!」 の大合唱がボリュームを増し、ブリジットとセシリアもゴクリと喉を鳴らした。
そしてついに、アラン渾身のリオラクーン料理が完成。
レンがテーブルに配膳を行なっていく。
完璧な焼き加減の厚切りステーキ、彩り鮮やかな神トマトと薄切り肉の炒め物、そして余った部位で作った特製のコンソメスープ。
それらがテーブルに並べられると、皆の喉が再びゴクリと音を鳴らした。
全員の配膳が終わったところで、アランがブリジットとセシリアの壮行会の挨拶を述べようとする……のをミミーニャに止められ――
「わ、分かった。それじゃ、食べるか!」
アランの言葉を契機に、全員が一斉に動いた。
「「「「いっただっきまーす!」」」」
「んんん~~~っ!! なにこれ、とろけるぅぅぅ!」
「美味しい! 今まで食べたどんなお肉より美味しいぞ!」
「スープも最高……!」
「おかわり!!」
子どもたちの反応は予想通り、いや予想以上だった。そのあまりの美味しさに、普段は行儀の良いトリンですら目を輝かせ、無心で肉を頬張っている。
ブリジットとセシリアも、恐る恐るステーキを口に運ぶ。
「……っ!?」
「こ、これは……!」
二人もまた、言葉を失った。
絹のように滑らかな舌触り、噛むほどに溢れ出す濃厚な旨味と甘い脂。そして、アランの家庭菜園で栽培されたハーブがその後味を爽やかに引き締める。
まさに至高の味。奇跡の野菜だけでなく、アランの料理の腕そのものが、既に人知を超えた領域に達している、と二人は本気で思った。
そんな中、レンも他の皆と同じように、リオラクーンのステーキを完璧なテーブルマナーで口に運んでいた。
「肉への熱伝導率、加熱時間、温度変化、いずれも最適化されており、メイラード反応による芳香成分生成は理論上の最大値に迫っています。使用されたフィルモローズマリー及び岩塩との相乗効果により、旨味成分グルタミン酸およびイノシン酸の活性が推定 183 %向上。総合評価、 SSS (トリプルエス)。素晴らしい調理でした、旦那様」
「……そ、そうか。まあ、素材が良かったからな」
レンの良く分からない賛辞に、アランは照れながらも、満更でもない表情を浮かべる。
そして、その宴の中心で、ひときわ深い感動に打ち震えていたのがセシリアだった。
彼女は、口にしたリオラクーン料理の、天上の味わいに文字通り涙していた。
一口ごとに聖なる力が体を満たし、魂が浄化されていくような、神聖な感覚。
(ああ、アラン様……。貴重な食材を至高の料理へと昇華させてしまうなんて……。やはり、この御方こそ女神ラーナリアがこの世に遣わされた聖者!)
セシリアは、恍惚とした表情でアランを見つめる。
その翠色の瞳は潤み、頬は喜びと感動で上気し、唇はわずかに開かれ、熱っぽい吐息が漏れている。
それは、聖女が見せる敬虔な祈りの表情とは違う、もっと個人的で、熱烈な――傍から見れば、年頃の乙女が憧れの男性に向ける、メスの顔になっていた。
(この御方に、私の全てを捧げたい……。この御方の御側に仕え、その偉大なる御業を、この目で見続けたい……!)
セシリアの中で、アランへの崇拝は、もはや揺るぎない信仰へと昇華し、絶対的なものとなっていた。彼女はそっと胸の前でラーナリアの聖印を切り、それをアランに見られて赤面し、慌てて俯くのだった。
アランといえば、彼はセシリアのそんな内心の変化にも、熱っぽい視線にも全く気づくことなく、子どもたちにおかわりをよそったりして忙しくしていた。
こうして、セシリアの一方的な崇拝を決定的なものにした回復祝い&壮行会は、大成功のうちに幕を閉じた。
……アランの料理人としての満足感と、ヒロインたちの勘違いをさらに深める形で。
「よし、やるぞ!」
(赤身はステーキだな。シンプルに岩塩と、庭のフィルモローズマリーで香りを付けるのが一番だろう。焼き加減は……ミディアムレアが基本だが、子どもたちもいるし、少ししっかり目に焼くか。脂肪が多い部位は……薄切りにして、神トマトと玉ねぎと一緒にサッと炒め合わせるのもいいかもしれない。あの肉の甘みとトマトの酸味は絶対に合うはずだ!)
アランの脳内で、次々とレシピが組み立てられていく。
大きな鉄板で、アランはリオラクーンのステーキを焼き始める。
ジュウウウゥゥ……! という音と共に、極上の肉が焼ける香ばしい匂いがキッチンを満たしていく。
その匂いが、料理の完成を待つ食堂にまで漂い、子どもたちの「お腹すいたー!」 の大合唱がボリュームを増し、ブリジットとセシリアもゴクリと喉を鳴らした。
そしてついに、アラン渾身のリオラクーン料理が完成。
レンがテーブルに配膳を行なっていく。
完璧な焼き加減の厚切りステーキ、彩り鮮やかな神トマトと薄切り肉の炒め物、そして余った部位で作った特製のコンソメスープ。
それらがテーブルに並べられると、皆の喉が再びゴクリと音を鳴らした。
全員の配膳が終わったところで、アランがブリジットとセシリアの壮行会の挨拶を述べようとする……のをミミーニャに止められ――
「わ、分かった。それじゃ、食べるか!」
アランの言葉を契機に、全員が一斉に動いた。
「「「「いっただっきまーす!」」」」
「んんん~~~っ!! なにこれ、とろけるぅぅぅ!」
「美味しい! 今まで食べたどんなお肉より美味しいぞ!」
「スープも最高……!」
「おかわり!!」
子どもたちの反応は予想通り、いや予想以上だった。そのあまりの美味しさに、普段は行儀の良いトリンですら目を輝かせ、無心で肉を頬張っている。
ブリジットとセシリアも、恐る恐るステーキを口に運ぶ。
「……っ!?」
「こ、これは……!」
二人もまた、言葉を失った。
絹のように滑らかな舌触り、噛むほどに溢れ出す濃厚な旨味と甘い脂。そして、アランの家庭菜園で栽培されたハーブがその後味を爽やかに引き締める。
まさに至高の味。奇跡の野菜だけでなく、アランの料理の腕そのものが、既に人知を超えた領域に達している、と二人は本気で思った。
そんな中、レンも他の皆と同じように、リオラクーンのステーキを完璧なテーブルマナーで口に運んでいた。
「肉への熱伝導率、加熱時間、温度変化、いずれも最適化されており、メイラード反応による芳香成分生成は理論上の最大値に迫っています。使用されたフィルモローズマリー及び岩塩との相乗効果により、旨味成分グルタミン酸およびイノシン酸の活性が推定 183 %向上。総合評価、 SSS (トリプルエス)。素晴らしい調理でした、旦那様」
「……そ、そうか。まあ、素材が良かったからな」
レンの良く分からない賛辞に、アランは照れながらも、満更でもない表情を浮かべる。
そして、その宴の中心で、ひときわ深い感動に打ち震えていたのがセシリアだった。
彼女は、口にしたリオラクーン料理の、天上の味わいに文字通り涙していた。
一口ごとに聖なる力が体を満たし、魂が浄化されていくような、神聖な感覚。
(ああ、アラン様……。貴重な食材を至高の料理へと昇華させてしまうなんて……。やはり、この御方こそ女神ラーナリアがこの世に遣わされた聖者!)
セシリアは、恍惚とした表情でアランを見つめる。
その翠色の瞳は潤み、頬は喜びと感動で上気し、唇はわずかに開かれ、熱っぽい吐息が漏れている。
それは、聖女が見せる敬虔な祈りの表情とは違う、もっと個人的で、熱烈な――傍から見れば、年頃の乙女が憧れの男性に向ける、メスの顔になっていた。
(この御方に、私の全てを捧げたい……。この御方の御側に仕え、その偉大なる御業を、この目で見続けたい……!)
セシリアの中で、アランへの崇拝は、もはや揺るぎない信仰へと昇華し、絶対的なものとなっていた。彼女はそっと胸の前でラーナリアの聖印を切り、それをアランに見られて赤面し、慌てて俯くのだった。
アランといえば、彼はセシリアのそんな内心の変化にも、熱っぽい視線にも全く気づくことなく、子どもたちにおかわりをよそったりして忙しくしていた。
こうして、セシリアの一方的な崇拝を決定的なものにした回復祝い&壮行会は、大成功のうちに幕を閉じた。
……アランの料理人としての満足感と、ヒロインたちの勘違いをさらに深める形で。
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