追放されたおっさん、辺境ダンジョンで【家庭菜園】始めたら、伝説の植物が育ちすぎて

帝国妖異対策局

文字の大きさ
43 / 96
聖女と女騎士

第43話 聖女セシリア、メスの顔

しおりを挟む
 豪邸のキッチンに移動したアランは腕まくりをし、目の前の極上の肉塊――リオラクーンの肉と向き合った。

「よし、やるぞ!」 

(赤身はステーキだな。シンプルに岩塩と、庭のフィルモローズマリーで香りを付けるのが一番だろう。焼き加減は……ミディアムレアが基本だが、子どもたちもいるし、少ししっかり目に焼くか。脂肪が多い部位は……薄切りにして、神トマトと玉ねぎと一緒にサッと炒め合わせるのもいいかもしれない。あの肉の甘みとトマトの酸味は絶対に合うはずだ!)

 アランの脳内で、次々とレシピが組み立てられていく。

 大きな鉄板で、アランはリオラクーンのステーキを焼き始める。

 ジュウウウゥゥ……! という音と共に、極上の肉が焼ける香ばしい匂いがキッチンを満たしていく。

 その匂いが、料理の完成を待つ食堂にまで漂い、子どもたちの「お腹すいたー!」 の大合唱がボリュームを増し、ブリジットとセシリアもゴクリと喉を鳴らした。

 そしてついに、アラン渾身のリオラクーン料理が完成。

 レンがテーブルに配膳を行なっていく。

 完璧な焼き加減の厚切りステーキ、彩り鮮やかな神トマトと薄切り肉の炒め物、そして余った部位で作った特製のコンソメスープ。

 それらがテーブルに並べられると、皆の喉が再びゴクリと音を鳴らした。

 全員の配膳が終わったところで、アランがブリジットとセシリアの壮行会の挨拶を述べようとする……のをミミーニャに止められ――

「わ、分かった。それじゃ、食べるか!」 

 アランの言葉を契機に、全員が一斉に動いた。

「「「「いっただっきまーす!」」」」
「んんん~~~っ!! なにこれ、とろけるぅぅぅ!」 
「美味しい! 今まで食べたどんなお肉より美味しいぞ!」 
「スープも最高……!」 
「おかわり!!」 

 子どもたちの反応は予想通り、いや予想以上だった。そのあまりの美味しさに、普段は行儀の良いトリンですら目を輝かせ、無心で肉を頬張っている。

 ブリジットとセシリアも、恐る恐るステーキを口に運ぶ。

「……っ!?」 

「こ、これは……!」 

 二人もまた、言葉を失った。

 絹のように滑らかな舌触り、噛むほどに溢れ出す濃厚な旨味と甘い脂。そして、アランの家庭菜園で栽培されたハーブがその後味を爽やかに引き締める。

 まさに至高の味。奇跡の野菜だけでなく、アランの料理の腕そのものが、既に人知を超えた領域に達している、と二人は本気で思った。

 そんな中、レンも他の皆と同じように、リオラクーンのステーキを完璧なテーブルマナーで口に運んでいた。

「肉への熱伝導率、加熱時間、温度変化、いずれも最適化されており、メイラード反応による芳香成分生成は理論上の最大値に迫っています。使用されたフィルモローズマリー及び岩塩との相乗効果により、旨味成分グルタミン酸およびイノシン酸の活性が推定 183 %向上。総合評価、 SSS (トリプルエス)。素晴らしい調理でした、旦那様」

「……そ、そうか。まあ、素材が良かったからな」

 レンの良く分からない賛辞に、アランは照れながらも、満更でもない表情を浮かべる。

 そして、その宴の中心で、ひときわ深い感動に打ち震えていたのがセシリアだった。

 彼女は、口にしたリオラクーン料理の、天上の味わいに文字通り涙していた。

 一口ごとに聖なる力が体を満たし、魂が浄化されていくような、神聖な感覚。

(ああ、アラン様……。貴重な食材を至高の料理へと昇華させてしまうなんて……。やはり、この御方こそ女神ラーナリアがこの世に遣わされた聖者!)

 セシリアは、恍惚とした表情でアランを見つめる。

 その翠色の瞳は潤み、頬は喜びと感動で上気し、唇はわずかに開かれ、熱っぽい吐息が漏れている。

 それは、聖女が見せる敬虔な祈りの表情とは違う、もっと個人的で、熱烈な――傍から見れば、年頃の乙女が憧れの男性に向ける、メスの顔になっていた。

(この御方に、私の全てを捧げたい……。この御方の御側に仕え、その偉大なる御業を、この目で見続けたい……!)

 セシリアの中で、アランへの崇拝は、もはや揺るぎない信仰へと昇華し、絶対的なものとなっていた。彼女はそっと胸の前でラーナリアの聖印を切り、それをアランに見られて赤面し、慌てて俯くのだった。

 アランといえば、彼はセシリアのそんな内心の変化にも、熱っぽい視線にも全く気づくことなく、子どもたちにおかわりをよそったりして忙しくしていた。

 こうして、セシリアの一方的な崇拝を決定的なものにした回復祝い&壮行会は、大成功のうちに幕を閉じた。

 ……アランの料理人としての満足感と、ヒロインたちの勘違いをさらに深める形で。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。

黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。 彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。 しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。 「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。 周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。 これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...