キモヲタ男爵奮戦記～天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ～

帝国妖異対策局

文字の大きさ

大中小

31 / 239

第31話　ケモミミ耳の香りスーハーッ

しおりを挟む

　キーラがキモヲタの奴隷となって一カ月が過ぎました。

　それだけキモヲタと一緒に生活を続けていたので、現在のキーラはキモヲタのことをほぼ完ぺきに理解していました。

　今となってはキモヲタと初めて会ったときのトラブルも、魔族捕虜収容所の待合室での出来事も、単にキモヲタが自分のことを助けてくれたのだと理解していました。

　ただキモヲタは、本人がキモくて小心者でキモイために、他人から色々な誤解を招いてしまうだけ。本当のキモヲタはそうじゃないことを、キーラはもう知っていました。

　つまり本当のキモヲタは、キモくて小心者でキモイい小物であることを、キーラは完ぺきに理解していたのです。

　なので、朝一番に始まるキモヲタの奇妙な行動も、今では寝た振りを続けることができました。

「スーハーッ、スーハーッ、犬耳族のケモミミ耳の香りスーハーッ、たまらんでござるぅぅ」

　耳元でブツブツと呟くキモヲタに背を向けて、キーラは反対側に寝返りを打ちした。その際、毛布が尻尾に引っ掛かって白いお尻が少しだけ外に出てしまいました。

　次の瞬間には、キモヲタがキーラのお尻の前に移動していました。

「ふはぁぁあ、この真っ白な天使のプリケツ！　至高！　至高のお尻でござるよ」

　寝ている振りを続けるキーラの背後で、キモヲタがスッと動く気配を感じました。

「……ふぉっとぉおお！」

　突然、大声をあげて後ずさるキモヲタ。キーラに向って伸ばされた自分の右腕を掴みながら、口の中でブツブツと何かの呪文を唱え始めます。

「イェス・ロリータ・ノータッチ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……」

　キモヲタのブツブツ声がうるさくなってきたので、キーラはもう起きることにしました。

「んっ……んっー！　キモヲタおはよう！」

　この宿の部屋で一緒に過ごし始めた当初、キーラもキモヲタに襲われるかもしれないという恐怖に怯えていました。しかし今では、キモヲタが女性に手を出すような（出せるような）男ではないことは完ぺきに理解しているのでした。

　キモヲタが「自分は二次元ロリ紳士教を信仰している」と言ってきたことがありました。キモヲタから教義の内容を聞かされたとき、キーラはいったい何の冗談かと笑っていました。ですが最近では、キモヲタが本気でその教義を信仰していると考えるようになりました。

「お、おはようごでござる、キーラ殿！　わわわ、我輩も今起きたところでござるよ。デュフコポー」

　本人は動揺を隠しているつもりなのでしょうが、キモヲタは自分の荒い息遣いも、額に流れる汗も隠しきれていませんでした。

「うん！　今日もいい天気だねー！　日差しがキモチイイぃぃ！」

　キーラはキモヲタのキモイ行動に気づかないフリをして、そのまま窓辺によると、両腕を思いっきり上に伸ばします。そのときキーラはシャツの脇から横乳がチラリと見えてしまってことに気がつきました。薄目を開いて見てみると、キモヲタは一瞬でキーラの隣への移動を済ませており、キーラの白い横乳を覗き込んでいたのでした。

（いつの間に！？）

　あまりにも素早いキモヲタの動きに焦ったキーラでしたが、そのまま気づかないフリをして――

「ふーっ！」

　ゆっくりと息を吐きながら、キーラは伸ばした腕を降ろすのでした。その後、キーラが目を開いたときには、いつの間にかキモヲタはキーラの傍から離れた部屋の入り口に立っていました。

（早っ！？）

　驚くキーラをよそに、何事もなかったかのような素振りでキモヲタが声を掛けてきました。

「キーラ殿は先に朝食をとっておいてくだされ、我輩は少し所用を済ませてから参るでござる」

　そう言ってキモヲタがそそくさと部屋を出て行ったので、キーラは先に食事を済ませておくことにしました。

　こうした自分の行動がキーラにまったくバレていないと思っているキモヲタ。普段は、何かにつけてキーラのことを「子どもだ」とバカにしてくる傾向がありました。

　ちょっとした口喧嘩になったときなどは、

「まったくこれだからお子ちゃまは駄目なのでござるよ。文句があるなら受付のお姉さんくらいの胸部装甲を装備してから言えなのでござる！」

　と、一瞬でキーラを沸騰させるような言葉を投げかけてきます。

　最初の頃は、キモヲタのこうした煽りに簡単にブチ切れて飛び掛かっていったキーラでしたが、

「あーあー。そうですかー。それは残念だなー」

　最近は、毎朝のように自分の胸をチラ見しようと必死になっているキモヲタに呆れると同時に、キモヲタが自分に魅力を感じている自信が持てたことで、今では余裕で煽りを受け流すことができるのでした。

～依頼～

　今日も、いつものように地下室での治療の仕事を終えたキモヲタとキーラ。

　解体場での仕事を手伝った報酬に、親方からたっぷりの肉を分けてもらったキーラは、ニコニコ顔でキモヲタの隣を歩いておりました。

　二人が冒険者ギルドの裏口から入ると、受付嬢がキモヲタに気づいて声を掛けてきました。

「キモヲタさん！　お客様がいらっしゃってますよ」

「お客様？　今日はもう閉店なのでござるが……」

　そう言って断ろうとしたキモヲタの前に、ヌッと背の高い人影が現れました。

「キモヲタ様！」

　それは、キモヲタに高い好感度を持つ珍しい存在、姫騎士ヒロインにして白バラ騎士団の第三隊長、ユリアス・ヴァルガーその人でした。

「おぉ、ユリアス殿ではござらんか！　なんだか久しぶりな感じがしますな！　デュフコポー」

「はい！　ずっとお会いしたかったのですが、何分今はまだ戦時中、自由にできる時間がなかなかとれない状況なので」

「白バラ騎士団の姫隊長ともなれば仕方なきことでござる。それで本日は我輩にどのようなご用向きで参られたのでござるか？」

「はい。実は……」

　ユリアスは、キモヲタに期待を寄せるようなキラキラとした瞳を向けてきました。

「キモヲタ様に、賢者の石の捜索を手伝っていただきたいのです」

　この連日、ずっと治癒仕事が続いていたために、何故か精神を摩耗していたキモヲタは冒険の予感に胸を躍らせるのでした。

（お金をたんまりと貯めて、田舎でのんびりスローハーレムが一番の目標でござるが、それにしても治療しては微妙な感謝と憎悪を受け取る日々には、ちょっとうんざりしていたところでござる。そろそろ冒険したい気分だったでござるよ！）

「承りました！」
　
　詳細を聞かずに先に返事をするキモヲタでした。

しおりを挟む