キモヲタ男爵奮戦記～天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ～

帝国妖異対策局

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第46話　屋根よ～り～高い～♪　巨大スライムではござらんか！？

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「みんな聞いて欲しい」
　
　セリアの体力が回復したのを見届けたユリアスが、全員に声をかけました。

「この岩トロルが魔族軍と合流するはずだったことは間違いない。奴らの目的は分からない。だがこの足跡の方向から、この先にある村が奴らに襲われるのは確かだろう」
　
　ユリアスの視線がエルミアナとキモヲタ、そしてキーラに向けられました。

「私とセリアは白バラ騎士団であり、ここはまだアシハブア王国フェイルーン子爵領だ。内密の任務に就いている今は、これが正しい選択でないことはわかっている。だが魔族軍に蹂躙される領民を看過することは、私にはどうしてもできない。これから私は魔族軍の後を追うが……できれば皆の力を借りたい」

　そう言って頭を下げるユリアスを見て、セリアは溜息を吐きながら言いました。

「一応、私は白バラ騎士団に身を置いているのだし、ユリアスに従うわ」

「魔族軍を減らすためであれば、どのようなことでも協力しましょう」

　セリアに続いて、エルミアナもユリアスに協力することに同意しました。

　ユリアスの視線がキモヲタとキーラに向けられます。

「ボ、ボクは、キモヲタの奴隷だから、キモヲタに聞いて欲しい」

　キモヲタの後ろに隠れるキーラを腕で庇いつつ、キモヲタは一歩前に進み出ます。

「このキモヲタ！　我が姫騎士ユリアス殿のためとあれば、魔族軍の連中の尻をば地面に擦り付けさせてみせましょうぞ！」

　顔に自信をみなぎらせたキモヲタは、ユリウスの手をしっかりと握ります。このときのキモヲタは、岩トロルに【お尻痒くな～る】が通用したことで調子こいていたのでした。

「キ、キモヲタ様……今、私のことを我が姫と……」

　ユリアスの頬は紅く染まり、その瞳は溢あふれる涙で揺れていました。

　そんなユリアスの様子を見たキモヲタは、ユリアスとのエッチイベント確定フラグを立ったことを確信し、その喜びがニチャリと表情に出てしまうのでした。

「キモヲタ、絶対やらしいこと考えてるでしょ！　顔がキモイもの！」

　そんなキーラの指摘も気にならないほど、キモヲタは浮かれていたのでした。

　そしてユリウス一行は、魔族軍の後を追って街道を進んで行きました。

～数時間後～

　魔族軍を追って進んでいると、街道沿いに村が見えてきました。村は既に魔族軍の襲撃を受けており、激しい火の手が上がっていたのでした。

　キモヲタたちは街道を逸れ、村の東にある森を経由して近づくことにしました。木陰からこっそりと村を覗いてみると、必死で逃げ惑う人々の姿が見えてきました。

　ただ不思議なことに、魔族軍の兵士たちも、村人と同様に必死に逃げ惑っています。魔族兵の中には村の外へ走り去ったり、キモヲタたちが隠れている森に駆け込んで来るものもいました。

「なんだこれは！？　なにが起こっているというのだ」

　村人も魔族兵も逃げ回っているという奇妙な状況に、困惑したユリアスが声をあげました。隣にいるセリアがユリアスの腕を引っ張ります。

「ユリウス、村人や魔族軍はアレから逃げてるんじゃないかしら？」

　セリアが指さす方向に視線を向けたエミリアは、村の建物の上に奇妙な泥水が吹きあがっているのを見ました。

「屋根に……泥水が吹きあがっている？」

　キモヲタも同じものを見ていましたが、エルミアナの言葉には違和感を感じていました。

「泥水……にしては何か妙な感じがしますな。まるで水飴のような粘度ではござらんか」
　
　首を傾げるキモヲタとエミリアの間に、白いイルカが姿を現しました。

「エルミアナ、あれはヤバイわ！　妖異ってやつよ！　気をつけて！」　

　風の精霊ウィンディアルがそう警告した途端、ずっと泥水を見ていたユリアスとキーラがいきなり絶叫を上げました。

「うわぁあああああああ！」
「いやぁああああああ！」

　二人の目には狂気と恐怖が宿り、口からは白い泡が噴き出ています。その視線は泥水……ではなく、今や建物を押しつぶそうとしている巨大なスライムに釘付けになっているのでした。

　最も早く行動したのはセリアでした。

「エルミアナはユリアスを！　キモヲタはキーラを拘束して！」

　セリアの命令に従って、エルミアナとキモヲタがユリアスとキーラを後ろから羽交い絞めにします。

　拘束された二人にセリアが手をかざしました。

「女神ラヴェンナの名を持って命ずる。眠りの神ヒュプノースよ、汝の眠りの手を以てこのものを祝福せん……」
　
　瞳の中の青い焔を燃え上がらせたセリアが呪文を唱え、キーラとユリアスの眉間に指を当てます。すると二人の身体から力が抜けて、そのままガクリと頭を垂れてしまいました。

　二人が眠りに落ちたことを確認したセリア。

「この二人はここに寝かせておきましょう。あの巨大スライムは、私たちだけで何とかするしかないわ」

　セリアの言葉を聞いたエルミアナが、風の精霊に問いかけます。

「なんとかすると言われても……ウィンディアル、あのスライムを倒せそう？」

　風の精霊は首を左右に振りました。

「無理ね。炎の精霊ヴォルカノンと連携すれば炎の嵐で追い払うことはできるかもしれない。だけどエルミアナは、ヴォルカノンと契約してないでしょ」

　エルミアナが下を向いて拳を握りしめます。

「残念ですがその通りです。セリア殿は何かヤツに有効な魔法をお持ちですか」

「いや、さすがにあのサイズだと鋼龍くらいしかないかな……」

　ため息をつく二人。その目線が今度はキモヲタに向けられました。

　そのときのキモヲタは、家を押し潰した巨大スライムから、長い突起が伸びるのを見ていました。

　その突起は一度上方へ高く伸びた後――

　ザシュッ！

　次の瞬間には、腰を抜かして動けなくなっていた魔族兵の身体を貫いてしまったのでした。

「ひいぃ！　ヤバイヤバイヤバイ！　あれは相当ヤバイ奴ですぞ！」

　一瞬で魔族兵の命を奪ったスライムに恐怖するキモヲタ。そんなキモヲタを、エルミアナとセリアがジッと見つめています。

「……って、お二人ともどうしてそんな目で我輩を見ているでござるか？」

　視線に気づいたキモヲタに、エルミアナとセリアが顔を近づけてきます。

「「あの怪物を何とかできませんか？」」

　二人の美女に顔を寄せられたキモヲタは、その近さに思考が遮られてしまい、

「はひぃぃぃ」
　
　と、鼻の下を伸ばしながら返事をしてしまうのでした。

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