キモヲタ男爵奮戦記 ~ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ~

帝国妖異対策局

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第56話 裏方のお話

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~ リアル「ナイトタイムラバー」 ~

 帝都新宿区にあるアダルトグッズ専門店「ナイトタイムラバー」。 

 昼夜問わず人通りの比較的少ない路地裏、小さな公園の前にそのお店はありました。お店の前には大きな自動販売機が二つ置かれていて、その間に黒いガラスの自動ドアが設置されています。

 店名はドア表面にピンクのインクで描かれているだけで、看板などはありません。そのため普通に通りがかる人には、ここにお店があることさえ気付かない人も多いのでした。

 とはいえ、自動販売機の前で足を止めた人や、エロ嗅覚が一般人の50倍は鋭いと言われるDTや魔法使いは、そのドアの向こうに何があるのかを感知してしまうのでした。

 そんな「ナイトタイムラバー」を経営しているのは、一流企業を脱サラして大人のおもちゃ販売で一旗あげようとした佐藤隆作(45歳)。アルバイトの遠野雫(22歳)と二人でお店を切り盛りしています。

「店長ぉ~、またあのお客さんが公園からこっち見てますよ~」

 胸が大き過ぎるあまりパッツンパッツンになったノーブラTシャツの雫が、黒髪ポニーテイルを揺らしながら、隆作の下に走ってきました。

「はぁ~。またかよ! 誰から隠れてるのか知らねーが、いまさら何だって話だろうに」

 無精ひげを弄りながら隆作がボヤきました。

「え~、もしかして~、店長が店番してるかどうか探ってるんじゃないですか~。この前、買い物に来た時、店長が顔だしたら目を丸くして驚いてましたしぃ~。ほら店長ぉ~、カッコイイからぁ~。ププッ。緊張しちゃったんじゃないかな~。ププッ」

 雫は隆作の背中を叩きながら、ニヤニヤ顔で言いました。 

「うっせぇ! つまんねぇこと言ってんじゃねー」

「痛いですぅ~。暴力反対ぃ~」

 雫の頭をコツンと叩いた隆作に、雫が口をとがらせて抗議しました。

 艶やがあって柔らかそうな雫の唇にドキリとさせられた隆作でしたが、それを顔に出さないようにして雫に言いました。

「わ~ったよ。じゃぁ俺は上で休憩してっから、あのお客に教えてやれ」

「はぁ~い」

 隆作が2階の事務所に引っ込むと、雫はドアを開け、公園で隠れている人物の方に向って胸の前でハートマークに指を組みました。

 公園の木に隠れていた人物。

 野球帽を深く被り、濃いサングラスをかけ、マスクで口元を隠しているその人物は、その雫のハートマークを見ると、素早く左右を確認し、全速力で「ナイトタイムラバー」へと駆け込んだのです。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「いらっしゃいませぇ~」

 怪しい風体の人物は、店内に店長がいないことを確認すると、ようやく安心したのか背筋をピンと伸ばして雫に向き直りました。

「ど、どうも……」

 その声とブラウスの胸の膨らみが、この人物が女性であることを示していました。

「ネットでご注文いただいたもの、全部揃ってますよ~。こちらになりますぅ~。ご確認ください~」

 そう言って、雫は店内のカウンターに商品を並べるのでした。

「こちらぁ~。女子学生の匂いがする縞々パンティ5色セット各サイズ一式でしょ~。それとこちらがエロエロコスプレシリーズ黒セーラー上下セットぉ、イケナイ女教師上下セットぉ、体操服一式とぉ~。あっ、こちらが最新のオ……」

「分かった! 分かったから、いちいち声に出さないで、すぐに持って帰るから梱包をお願いできる?」

「……ナホの確認はいいんですねぇ~。分かりました。あっ、でも使い心地が本物そっくりだって凄い人気なんですよ、店長もこのオ……」

 そう言って雫は、銀髪の美少女のあられもない姿が描かれた箱を持ち上げました。

「説明はいいから早くして!」

「はぁ~い」

 雫は製品を全て梱包すると、その人物に手渡しました。

「ま、また来る!」

 商品が梱包されたダンボール箱を抱きかかえるとそのまま店を出て、その人物はまるでモンスターをハントするゲームで卵を運ぶような動きで、公園の奥へと消えて行きました。

「お買い上げありがとうございましたぁ! またのご利用お待ちしてまぁぁす!」

 何だか分からないけれど、一生懸命頑張っているのが伝わってくる背中に、雫は感謝の言葉を投げかけるのでした。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 マスクの人物は、公園からしばらく歩いた先で、ダンボールを地面において息を切らしていました。

「お、重い。や、やっぱ駄目だ。今回はカレーが無かったから、運べるかと思ったけど。なんなのあの沢山の厭らしい絵の箱。すごく重いじゃない。しかもいっぱい買ってたし……。まったく、あの転移者……ろくでもないわ」

 マスク女は、スマホを取り出すと同僚のに連絡するのでした。

「あっ! ココロ? ごめん荷物運ぶの手伝ってくれない? えっ、うんうん、シリルも一緒に連れて来て! わかってる、わかってるって! 帰りにホームスイーツのクリームタワーホットパンケーキおごるから! えっ、パフェも付けろ? ……わ、分かったわ。でも、ちゃんと転移装置に入れるのも手伝ってよ!」

 スマホを締まったマスク女は、額に流れる汗をハンカチで拭うと、吐き捨てるようにつぶやきました。

「まったく私の担当する転移者……ほんとろくでもないわ」

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