230 / 239
第229話 エルミアナの憂鬱
しおりを挟む
エルミアナ・シンダリンは、アシハブア王国で冒険者として活躍していたエルフです。
星の光と称えられる金色の髪と、エメラルドの精霊が宿っていると言われる美しい瞳。
その姿は風に揺れる一本の白いユリのようであり、陶磁のように滑らかな肌には、長い時を生きてきた者が持つ独特の気品が漂っていて、彼女と出会う全てのものが、その美しさに息を呑むのでした。
戦いの中にあってさえ、エルミアナは清廉さと気高さを纏っており、その美しさは冒険者の間で語り草となっていました。
そんなエルミアナが冒険者パーティ「明けの明星」で活動していた頃に、キモヲタとの不幸な出会いをしてしまいます。
それまでは多くの冒険者やパーティ仲間から、清廉で高潔で気高きエルフとして、尊敬の目を向けられていたエルミアナ。
彼女の気高さは、本来の気質というよりも、そうあるべくして振る舞うよう努めてきた結果からくるものでした。それは故郷の復興を果たすべく約束を交わした兄と分かれるときに立てた、故郷の名を穢さぬという誓いだったのです。
エルミアナがオークに襲われて命を落としかけたとき、キモヲタによる【足ツボ治癒】は確かに彼女の命を救ってくれました。しかしその結果、心に大きなダメージを受けてしまったのでした。
キモヲタの【足ツボ治癒】では、ほとんどの人が心にダメージを負うものです。しかし、清廉で気高く高潔なエルフは、清廉で気高く高潔である故に、そのダメージがクリティカルヒットしてしまったのでした。
パーティ仲間たちは、エルミアナが【足ツボ治癒】で受けた被害について、基本的には見なかったことにしてくれました。※ただし僧侶リリアは除く。
しかしエルミアナにとっては、その気遣いこそが却って心を深くえぐってきたのです。
それでも何とかこらえていたエルミアナの心を完全に折ったのは、キモヲタを路地裏に追い詰めたときの出来事。
キモヲタがエルミアナから逃亡するために放った【お尻痒くな~る】が、エルミアナを襲ったのでした。
お尻の痒みから逃れるために、近くにあった丸太にお尻をこすり続けたエルミアナ。
ようやく痒みから解放されて、その場から離れようとしたとき――
カタンッ。
と音が聞こえました。
それはエルフの聴覚だからこそ捉えられた小さな音。
エルミアナの首がギギギギッと音を立ててゆっくりと動いたその先で、目が合ったのは――
人間の少年でした。
かぁぁあああっ!
顔を真っ赤に染めたエルミアナは、慌ててその場を走り去ります。
少年の目を見たエルミアナは、少年に自分の痴態が見られていることを確信していました。
「もうここには居られない」
この出来事以降、ずっと居たたまれなくなっていたエルミアナ。そんな彼女のところに飛び込んできたクエストが、ユリアスによる「賢者の石捜索」だったのです。
その後、なんだかんだでキモヲタたちと冒険を続けることになったエルミアナは、カザン王国に到着して賢者の石の捜索クエストが終了した後も、なんだかんだでキモヲタたちと行動を共にしていました。
今ではキモヲタに対する誤解も解け、エルミアナはキモヲタに対して、そこそこ好感を持つようになっています。
キモヲタのことを、出来の悪い困った弟くらいには――非常に出来の悪いとくにエロについては質の悪い弟くらいには、考えるようになっていたのです。
キモヲタには命を救われたこともあり、その恩返しもしたいという気持ちがエルミアナにはありました。
また、いつか故郷にキモヲタを連れて行って、故郷の復興に手を貸して欲しいという願いもあって、エルミアナはキモヲタと行動を共にすることにしたのです。
「なるべくキモヲタの力になろう」
そう決めたエルミアナなのでした。
……が、それが思っていたよりもストレスフルな状況になっている今日この頃なのでした。
~ 呑み処きもをた ~
深夜の屋台では、今日もエルミアナが日本酒のグラスを片手にくだを巻いていました。
エルミアナが訪れる深夜の時間帯は、日付を過ぎて客足が少なくなる頃。エルミアナ以外の客は、エレナとシモンがいるだけでした。
「わらしはぁ~、やっぱりぃ~、えっちなのはいけないとおもうのれすよ~。いやいや姉さんのしごとのことじゃないれすよ~。おかねでおんのこがからだをうるなんてよくないれってそういうことれす」
エレナの護衛として行動を共にしていたエルミアナ。キモヲタが「ナイトタイムラバー」で仕入れた商品を捌いてお金を稼ぎ続けるエレナを、今ではかなり高く評価しています。
カザン王国に到着したばかりの頃、エルミアナはエレナがキモヲタを利用して、自分のための金儲けをしていると思っていました。
しかしその後、それがいつの頃からはハッキリしないものの、エレナが本気でキモヲタのために働こうとしていると感じるようになってきました。
エレナにずっとくっついているエルミアナは、エレナが自分の利益にはならないことにでも、キモヲタのために働く場面を何度も目にしているのでした。
それはエレナがキモヲタに惚れているというより、キモヲタの成功とエレナの成功が良い具合に重なり合っているのだろうと、エルミアナは考えていました。
「はいはい。私だってそう思うわよ。いい子だからこっちの水も飲みなさいね」
エレナが差し出す水をグイッと飲み干して、また日本酒に口を付けるエルミアナ。
エレナの商売相手と言えば、娼館や性欲を持て余した貴族たちがほとんどです。今はソープランド建設関連で、比較的まともな連中を相手にすることが多くなってきたものの、エルミアナにとっては、できるだけ関わりたくないのはもちろん、顔も合わせたくない者たちばかり。
そうした連中を目の前に、氷の仮面の表情で押し通すエルミアナ。
その心の内でずっと渦巻いていたストレスを、深夜の呑み処でぶちまけるようになってしまったのでした。
「小姉さん、この焼き鳥も一緒に食べてくださいよ。すきっ腹に酒を入れるのはよくありませんから」
シモンがそっと焼き鳥(塩焼き)の皿をエルミアナに差し出します。
「呑み処きもをた」が出来て以降、エレナとシモンは、こうしてお酒を飲みながらエルミアナの腹に溜まっているものを吐き出させるのが習慣になりつつあったのでした。
星の光と称えられる金色の髪と、エメラルドの精霊が宿っていると言われる美しい瞳。
その姿は風に揺れる一本の白いユリのようであり、陶磁のように滑らかな肌には、長い時を生きてきた者が持つ独特の気品が漂っていて、彼女と出会う全てのものが、その美しさに息を呑むのでした。
戦いの中にあってさえ、エルミアナは清廉さと気高さを纏っており、その美しさは冒険者の間で語り草となっていました。
そんなエルミアナが冒険者パーティ「明けの明星」で活動していた頃に、キモヲタとの不幸な出会いをしてしまいます。
それまでは多くの冒険者やパーティ仲間から、清廉で高潔で気高きエルフとして、尊敬の目を向けられていたエルミアナ。
彼女の気高さは、本来の気質というよりも、そうあるべくして振る舞うよう努めてきた結果からくるものでした。それは故郷の復興を果たすべく約束を交わした兄と分かれるときに立てた、故郷の名を穢さぬという誓いだったのです。
エルミアナがオークに襲われて命を落としかけたとき、キモヲタによる【足ツボ治癒】は確かに彼女の命を救ってくれました。しかしその結果、心に大きなダメージを受けてしまったのでした。
キモヲタの【足ツボ治癒】では、ほとんどの人が心にダメージを負うものです。しかし、清廉で気高く高潔なエルフは、清廉で気高く高潔である故に、そのダメージがクリティカルヒットしてしまったのでした。
パーティ仲間たちは、エルミアナが【足ツボ治癒】で受けた被害について、基本的には見なかったことにしてくれました。※ただし僧侶リリアは除く。
しかしエルミアナにとっては、その気遣いこそが却って心を深くえぐってきたのです。
それでも何とかこらえていたエルミアナの心を完全に折ったのは、キモヲタを路地裏に追い詰めたときの出来事。
キモヲタがエルミアナから逃亡するために放った【お尻痒くな~る】が、エルミアナを襲ったのでした。
お尻の痒みから逃れるために、近くにあった丸太にお尻をこすり続けたエルミアナ。
ようやく痒みから解放されて、その場から離れようとしたとき――
カタンッ。
と音が聞こえました。
それはエルフの聴覚だからこそ捉えられた小さな音。
エルミアナの首がギギギギッと音を立ててゆっくりと動いたその先で、目が合ったのは――
人間の少年でした。
かぁぁあああっ!
顔を真っ赤に染めたエルミアナは、慌ててその場を走り去ります。
少年の目を見たエルミアナは、少年に自分の痴態が見られていることを確信していました。
「もうここには居られない」
この出来事以降、ずっと居たたまれなくなっていたエルミアナ。そんな彼女のところに飛び込んできたクエストが、ユリアスによる「賢者の石捜索」だったのです。
その後、なんだかんだでキモヲタたちと冒険を続けることになったエルミアナは、カザン王国に到着して賢者の石の捜索クエストが終了した後も、なんだかんだでキモヲタたちと行動を共にしていました。
今ではキモヲタに対する誤解も解け、エルミアナはキモヲタに対して、そこそこ好感を持つようになっています。
キモヲタのことを、出来の悪い困った弟くらいには――非常に出来の悪いとくにエロについては質の悪い弟くらいには、考えるようになっていたのです。
キモヲタには命を救われたこともあり、その恩返しもしたいという気持ちがエルミアナにはありました。
また、いつか故郷にキモヲタを連れて行って、故郷の復興に手を貸して欲しいという願いもあって、エルミアナはキモヲタと行動を共にすることにしたのです。
「なるべくキモヲタの力になろう」
そう決めたエルミアナなのでした。
……が、それが思っていたよりもストレスフルな状況になっている今日この頃なのでした。
~ 呑み処きもをた ~
深夜の屋台では、今日もエルミアナが日本酒のグラスを片手にくだを巻いていました。
エルミアナが訪れる深夜の時間帯は、日付を過ぎて客足が少なくなる頃。エルミアナ以外の客は、エレナとシモンがいるだけでした。
「わらしはぁ~、やっぱりぃ~、えっちなのはいけないとおもうのれすよ~。いやいや姉さんのしごとのことじゃないれすよ~。おかねでおんのこがからだをうるなんてよくないれってそういうことれす」
エレナの護衛として行動を共にしていたエルミアナ。キモヲタが「ナイトタイムラバー」で仕入れた商品を捌いてお金を稼ぎ続けるエレナを、今ではかなり高く評価しています。
カザン王国に到着したばかりの頃、エルミアナはエレナがキモヲタを利用して、自分のための金儲けをしていると思っていました。
しかしその後、それがいつの頃からはハッキリしないものの、エレナが本気でキモヲタのために働こうとしていると感じるようになってきました。
エレナにずっとくっついているエルミアナは、エレナが自分の利益にはならないことにでも、キモヲタのために働く場面を何度も目にしているのでした。
それはエレナがキモヲタに惚れているというより、キモヲタの成功とエレナの成功が良い具合に重なり合っているのだろうと、エルミアナは考えていました。
「はいはい。私だってそう思うわよ。いい子だからこっちの水も飲みなさいね」
エレナが差し出す水をグイッと飲み干して、また日本酒に口を付けるエルミアナ。
エレナの商売相手と言えば、娼館や性欲を持て余した貴族たちがほとんどです。今はソープランド建設関連で、比較的まともな連中を相手にすることが多くなってきたものの、エルミアナにとっては、できるだけ関わりたくないのはもちろん、顔も合わせたくない者たちばかり。
そうした連中を目の前に、氷の仮面の表情で押し通すエルミアナ。
その心の内でずっと渦巻いていたストレスを、深夜の呑み処でぶちまけるようになってしまったのでした。
「小姉さん、この焼き鳥も一緒に食べてくださいよ。すきっ腹に酒を入れるのはよくありませんから」
シモンがそっと焼き鳥(塩焼き)の皿をエルミアナに差し出します。
「呑み処きもをた」が出来て以降、エレナとシモンは、こうしてお酒を飲みながらエルミアナの腹に溜まっているものを吐き出させるのが習慣になりつつあったのでした。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる