キモヲタ男爵奮戦記 ~ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ~

帝国妖異対策局

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第229話 エルミアナの憂鬱

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 エルミアナ・シンダリンは、アシハブア王国で冒険者として活躍していたエルフです。

 星の光と称えられる金色の髪と、エメラルドの精霊が宿っていると言われる美しい瞳。

 その姿は風に揺れる一本の白いユリのようであり、陶磁のように滑らかな肌には、長い時を生きてきた者が持つ独特の気品が漂っていて、彼女と出会う全てのものが、その美しさに息を呑むのでした。

 戦いの中にあってさえ、エルミアナは清廉さと気高さを纏っており、その美しさは冒険者の間で語り草となっていました。

 そんなエルミアナが冒険者パーティ「明けの明星」で活動していた頃に、キモヲタとの不幸な出会いをしてしまいます。

 それまでは多くの冒険者やパーティ仲間から、清廉で高潔で気高きエルフとして、尊敬の目を向けられていたエルミアナ。

 彼女の気高さは、本来の気質というよりも、そうあるべくして振る舞うよう努めてきた結果からくるものでした。それは故郷の復興を果たすべく約束を交わした兄と分かれるときに立てた、故郷の名を穢さぬという誓いだったのです。

 エルミアナがオークに襲われて命を落としかけたとき、キモヲタによる【足ツボ治癒】は確かに彼女の命を救ってくれました。しかしその結果、心に大きなダメージを受けてしまったのでした。

 キモヲタの【足ツボ治癒】では、ほとんどの人が心にダメージを負うものです。しかし、清廉で気高く高潔なエルフは、清廉で気高く高潔である故に、そのダメージがクリティカルヒットしてしまったのでした。

 パーティ仲間たちは、エルミアナが【足ツボ治癒】で受けたについて、基本的にはにしてくれました。※ただし僧侶リリアは除く。

 しかしエルミアナにとっては、その気遣いこそが却って心を深くえぐってきたのです。

 それでも何とかこらえていたエルミアナの心を完全に折ったのは、キモヲタを路地裏に追い詰めたときの出来事。

 キモヲタがエルミアナから逃亡するために放った【お尻痒くな~る】が、エルミアナを襲ったのでした。

 お尻の痒みから逃れるために、近くにあった丸太にお尻をこすり続けたエルミアナ。

 ようやく痒みから解放されて、その場から離れようとしたとき――

 カタンッ。

 と音が聞こえました。

 それはエルフの聴覚だからこそ捉えられた小さな音。

 エルミアナの首がギギギギッと音を立ててゆっくりと動いたその先で、目が合ったのは――

 人間の少年でした。

 かぁぁあああっ!

 顔を真っ赤に染めたエルミアナは、慌ててその場を走り去ります。

 少年の目を見たエルミアナは、少年に自分の痴態が見られていることを確信していました。

「もうここには居られない」

 この出来事以降、ずっと居たたまれなくなっていたエルミアナ。そんな彼女のところに飛び込んできたクエストが、ユリアスによる「賢者の石捜索」だったのです。

 その後、なんだかんだでキモヲタたちと冒険を続けることになったエルミアナは、カザン王国に到着して賢者の石の捜索クエストが終了した後も、なんだかんだでキモヲタたちと行動を共にしていました。

 今ではキモヲタに対する誤解も解け、エルミアナはキモヲタに対して、そこそこ好感を持つようになっています。
 
 キモヲタのことを、出来の悪い困った弟くらいには――非常に出来の悪いとくにエロについては質の悪い弟くらいには、考えるようになっていたのです。

 キモヲタには命を救われたこともあり、その恩返しもしたいという気持ちがエルミアナにはありました。

 また、いつか故郷にキモヲタを連れて行って、故郷の復興に手を貸して欲しいという願いもあって、エルミアナはキモヲタと行動を共にすることにしたのです。

「なるべくキモヲタの力になろう」

 そう決めたエルミアナなのでした。

 ……が、それが思っていたよりもストレスフルな状況になっている今日この頃なのでした。



~ 呑み処きもをた ~
 
 深夜の屋台では、今日もエルミアナが日本酒のグラスを片手にくだを巻いていました。
 
 エルミアナが訪れる深夜の時間帯は、日付を過ぎて客足が少なくなる頃。エルミアナ以外の客は、エレナとシモンがいるだけでした。

「わらしはぁ~、やっぱりぃ~、えっちなのはいけないとおもうのれすよ~。いやいや姉さんのしごとのことじゃないれすよ~。おかねでおんのこがからだをうるなんてよくないれってそういうことれす」

 エレナの護衛として行動を共にしていたエルミアナ。キモヲタが「ナイトタイムラバー」で仕入れた商品を捌いてお金を稼ぎ続けるエレナを、今ではかなり高く評価しています。

 カザン王国に到着したばかりの頃、エルミアナはエレナがキモヲタを利用して、自分のための金儲けをしていると思っていました。

 しかしその後、それがいつの頃からはハッキリしないものの、エレナが本気でキモヲタのために働こうとしていると感じるようになってきました。

 エレナにずっとくっついているエルミアナは、エレナが自分の利益にはならないことにでも、キモヲタのために働く場面を何度も目にしているのでした。

 それはエレナがキモヲタに惚れているというより、キモヲタの成功とエレナの成功が良い具合に重なり合っているのだろうと、エルミアナは考えていました。

「はいはい。私だってそう思うわよ。いい子だからこっちの水も飲みなさいね」

 エレナが差し出す水をグイッと飲み干して、また日本酒に口を付けるエルミアナ。

 エレナの商売相手と言えば、娼館や性欲を持て余した貴族たちがほとんどです。今はソープランド建設関連で、比較的まともな連中を相手にすることが多くなってきたものの、エルミアナにとっては、できるだけ関わりたくないのはもちろん、顔も合わせたくない者たちばかり。
 
 そうした連中を目の前に、氷の仮面の表情で押し通すエルミアナ。

 その心の内でずっと渦巻いていたストレスを、深夜の呑み処でぶちまけるようになってしまったのでした。

ちい姉さん、この焼き鳥も一緒に食べてくださいよ。すきっ腹に酒を入れるのはよくありませんから」

 シモンがそっと焼き鳥(塩焼き)の皿をエルミアナに差し出します。

「呑み処きもをた」が出来て以降、エレナとシモンは、こうしてお酒を飲みながらエルミアナの腹に溜まっているものを吐き出させるのが習慣になりつつあったのでした。
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