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第235話 キーラと二人のモリトール
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夢の楽園ソープランドの中庭では、三人のクレーマーによる怒声の三重奏に、頭の糸がプチンと切れてしまったキモヲタ。
しかし、キモヲタの他にも同じようにプチンと切れていた者がいたのでした。
モリトール姉妹を睨みつけているのは犬耳少女のキーラ。その尻尾は逆立って激しく震え、その顔はまるで猛獣のように眉根を寄せて歯ぎしりしています。
「この獣人風情が! 汚らわしいわね、近寄らないで!」
モリトール姉のクラウディアがこの罵倒を口にした瞬間から、キーラの怒りは頂点に達していました。
それはクラウディアが兎耳族の亜人女性を獣人呼ばわりしたからです。
この大陸においては、亜人と獣人は敵対関係にあるわけではありませんが、亜人と獣人の区分をわざと取り違えることは、酷い侮蔑表現とされているのでした。
それが大勢の人がいる場で行われたのなら、決闘騒ぎや乱闘が発生してもおかしくないものだったのです。
クラウディアの前で、頭を深く下げて謝罪している女性スタッフを見たキーラ。兎耳族の彼女が震えている理由が怯えだけではないことを、この場でキーラだけが正確に理解していたのでした。
ただ、この程度の出来事は、決して珍しいことでもありませんし、キーラが直接侮辱されたわけでもありません。
しかし、キーラが強く握りしめた自分の手は、爪を喰い込ませて血を流し震えていました。
キーラの怒髪が天を衝くほどに怒った理由。
それは犬耳族の聴覚がキモヲタたちの会話を捉えてしまったからでした。
「そういえばあそこの二人はモリトールでござったな」
ユリアスに対してキモヲタが放った言葉に、キーラは全身の血が沸騰するのを感じました。
「モリトール!」
それはかつて、キーラを拷問して彼女の犬耳と尻尾を切り落とした部隊の名前。
人類至上主義者が多いアシハブア王国でさえ、その残虐さにおいて悪名を轟かせているモリトール伯爵家の名を耳にしたからでした。
「フーッ! フーヌッ! モリトール! ドゥルーティーダ!」
思わずキーラが洩らした魔族語の罵倒。幸いなことにそれを理解するものは近くには誰もいませんでした。
モリトール姉弟を睨み続けるキーラでしたが、彼らに爪を突き立ててやりたいという怒りに任せて飛び出すことはありませんでした。
なぜならキーラの瞳には、自分と同じように怒りに震えている男が映っていたからです。キーラは、その男が怒っている理由の一部を共有していることを知っていました。
キーラの視線の先に立っている男。
拷問で失われたキーラの耳と尻尾を、その奇跡のスキルで癒してくれた男。
奴隷となったキーラの境遇を聞いて、一緒に泣いてくれたご主人様(一応)。
モリトールという言葉が聞こえたとき、もし傍にいればキーラの手をギュッと握ってくれる男――
キモヲタが、
ブルブルブルブルッ。
その太った身体を小刻みに震わせていました。
キーラが飛び出してモリトール姉弟に爪を立てに行かなかった理由。
それは、
キモヲタの邪魔をしたくなかったからなのでした。
「聞けばここには魔族もいるというではないですの! 下等な動物を働かせるなど、アシハブア王国の名に傷でもつける気かしら!」
「姉上、ここは私がカザン王国に掛け合って、醜い亜人共を解雇させるよう働きかけましょう」
言いたい放題のモリトール姉妹。
「ここの男爵は、下民にまともな躾けもできんのか!」
ルートリア連邦のフォンベルト貴族議員も、二人に負けじと大声を張り上げます。
このような騒ぎの中でアリエッタ姫が、額に手を当てて首を振ることしかできない状況は、まさにカザン王国とルートリア連邦、そしてアシハブア王国の力関係を表す構図そのものでした。
とはいえ、この場を収めるのは自分しかいないと覚悟を決めたアリエッタ姫が、騒ぎ立てる三人に向って足を踏み出そうとしたそのとき、彼女の隣にいたキモヲタがブツブツと何かをつぶやく声が聞こえてきました。
しかし、キモヲタの他にも同じようにプチンと切れていた者がいたのでした。
モリトール姉妹を睨みつけているのは犬耳少女のキーラ。その尻尾は逆立って激しく震え、その顔はまるで猛獣のように眉根を寄せて歯ぎしりしています。
「この獣人風情が! 汚らわしいわね、近寄らないで!」
モリトール姉のクラウディアがこの罵倒を口にした瞬間から、キーラの怒りは頂点に達していました。
それはクラウディアが兎耳族の亜人女性を獣人呼ばわりしたからです。
この大陸においては、亜人と獣人は敵対関係にあるわけではありませんが、亜人と獣人の区分をわざと取り違えることは、酷い侮蔑表現とされているのでした。
それが大勢の人がいる場で行われたのなら、決闘騒ぎや乱闘が発生してもおかしくないものだったのです。
クラウディアの前で、頭を深く下げて謝罪している女性スタッフを見たキーラ。兎耳族の彼女が震えている理由が怯えだけではないことを、この場でキーラだけが正確に理解していたのでした。
ただ、この程度の出来事は、決して珍しいことでもありませんし、キーラが直接侮辱されたわけでもありません。
しかし、キーラが強く握りしめた自分の手は、爪を喰い込ませて血を流し震えていました。
キーラの怒髪が天を衝くほどに怒った理由。
それは犬耳族の聴覚がキモヲタたちの会話を捉えてしまったからでした。
「そういえばあそこの二人はモリトールでござったな」
ユリアスに対してキモヲタが放った言葉に、キーラは全身の血が沸騰するのを感じました。
「モリトール!」
それはかつて、キーラを拷問して彼女の犬耳と尻尾を切り落とした部隊の名前。
人類至上主義者が多いアシハブア王国でさえ、その残虐さにおいて悪名を轟かせているモリトール伯爵家の名を耳にしたからでした。
「フーッ! フーヌッ! モリトール! ドゥルーティーダ!」
思わずキーラが洩らした魔族語の罵倒。幸いなことにそれを理解するものは近くには誰もいませんでした。
モリトール姉弟を睨み続けるキーラでしたが、彼らに爪を突き立ててやりたいという怒りに任せて飛び出すことはありませんでした。
なぜならキーラの瞳には、自分と同じように怒りに震えている男が映っていたからです。キーラは、その男が怒っている理由の一部を共有していることを知っていました。
キーラの視線の先に立っている男。
拷問で失われたキーラの耳と尻尾を、その奇跡のスキルで癒してくれた男。
奴隷となったキーラの境遇を聞いて、一緒に泣いてくれたご主人様(一応)。
モリトールという言葉が聞こえたとき、もし傍にいればキーラの手をギュッと握ってくれる男――
キモヲタが、
ブルブルブルブルッ。
その太った身体を小刻みに震わせていました。
キーラが飛び出してモリトール姉弟に爪を立てに行かなかった理由。
それは、
キモヲタの邪魔をしたくなかったからなのでした。
「聞けばここには魔族もいるというではないですの! 下等な動物を働かせるなど、アシハブア王国の名に傷でもつける気かしら!」
「姉上、ここは私がカザン王国に掛け合って、醜い亜人共を解雇させるよう働きかけましょう」
言いたい放題のモリトール姉妹。
「ここの男爵は、下民にまともな躾けもできんのか!」
ルートリア連邦のフォンベルト貴族議員も、二人に負けじと大声を張り上げます。
このような騒ぎの中でアリエッタ姫が、額に手を当てて首を振ることしかできない状況は、まさにカザン王国とルートリア連邦、そしてアシハブア王国の力関係を表す構図そのものでした。
とはいえ、この場を収めるのは自分しかいないと覚悟を決めたアリエッタ姫が、騒ぎ立てる三人に向って足を踏み出そうとしたそのとき、彼女の隣にいたキモヲタがブツブツと何かをつぶやく声が聞こえてきました。
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