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第234話 クレーマー&クレーマー姉弟
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プレオープンした夢の楽園ソープランドにて、アリエッタ姫を案内していたキモヲタ。
アリエッタ姫に随行しているのは護衛騎士やカザン王国の大臣だけではなく、アシハブア王国やルートリア連邦の貴族もいました。
先頭のアリエッタ姫にはキモヲタが説明をしていましたが、その後方ではユリアスやシスター・エヴァ、エレナが随行しているに対して説明を行っています。
そして、キモヲタがアリエッタ姫を薬草栽培温室に案内しているときに、一行の後方から、激しい怒号が中庭に響き渡りました。
「この獣人風情が! 汚らわしいわね、近寄らないで!」
「下賤の者が私に触れるんじゃない! 斬って捨てるぞ!」
中庭にいる全員が、その怒声を響かせた人たちに目を向けます。
中庭の植木に潜んでいたキーラとソフィアも、その声に驚いて姿を見せました。二人は、アリエッタ姫が通りかかったときに飛び出して、姫に花の冠をプレゼントするサプライズイベントを行うはずだったのです。
皆の視線が集まっているにも関わらず怒号はさらに続きます。
甲高い金切り声を上げる女性とその隣で怒鳴っている男性は、アシハブア王国のクラウディア・モリトールとカール・モリトールの姉弟。
彼らの前で深く頭を下げているのは兎耳族の女性スタッフ。二人の貴族から激しく責められて足がガクガクと震えています。その手には貴族の扇が握られていました。
姉のクラウディアがその扇をピシャリと叩くと、女性スタッフの手から扇が弾かれて飛んで床に落ちました。
「どうして獣人がこんなところにいるのです! こちらの施設は、わたくしたちアシハブアの貴族が快適に過ごせる場ではないようですわね!」
「姉上にこのような獣人を近づけさせるとは何事か! まったく教育がなっておらんではないか!」
クラウディアが地面に落ちた扇を見て言いました。
「せっかくのお気に入りでしたのに、汚らわしい手で触られてしまってはもう使うことができないじゃないの! どうしてくれるのよ!」
「申し訳ございません! 申し訳ございません!」
兎耳族の女性スタッフが、深く頭を下げて何度も謝罪しましたが、クラウディアの怒りは一向に収まる様子がありません。
「な、なにごとでござるか!?」
驚くキモヲタたちのところに、モリトール姉弟の近くで説明をしていたユリアスが慌てて走ってきました。
そしてキモヲタの右側に立つと、事の次第を話し始めます。
「クラウディア様が落とした扇をあの女性スタッフが拾って渡そうとしたら、あのような事態に」
「えっ!? 落ちたものを拾ってくれたら、普通は『ありがとう』でござろう?」
事態が呑み込めないキモヲタに、アリエッタ姫がため息をつきながら説明しました。
「まったく男爵の仰る通りです。しかし、カザン王国と違ってアシハブア王国は人間以外の種族に厳しい態度をとられる方が多いのです」
そう言ってアリエッタ姫がユリアスに目を向けると、今度はユリアスがキモヲタに話し始めました。
「恥ずかしい話ですが、アリエッタ姫殿下の仰る通り、我が国では亜人や獣人に敵意を抱く者が多いです。特に貴族に……全ての貴族がというわけではないのですよ、ラミアを妻に迎えられたドルネア公爵のような方もいらっしゃいます」
そこまで話を聞いて、キモヲタはハッと思い出しました。
「そういえばあそこの二人はモリトールでござったな」
「はい。特にモリトール家は……」
ユリアスの言葉が途中で途切れてしまいました。公の場で、しかもアリエッタ姫を目の前にして、同国の貴族を批判するのをためらったからでした。
当然、ユリアスはアシハブア王国の貴族が人間以外のスタッフと接触するのを警戒していました。案内役を務めながら、モリトール姉弟のことをずっと注視していたのですが――
「クラウディア様が扇を落とされる際に、チラッと兎耳族のスタッフに視線を向けているのを見ました」
事実は事実としてキモヲタに伝えるべきだと考えたユリアス。その言葉を聞いてキモヲタの眉が大きく跳ね上がりました。
「つまり、言いがかりをつけるためにわざと扇を落としたのでござるか!?」
「恐らく……」
ユリアスの返事を聞く前に、今度はキモヲタの左側にシスター・エヴァが駆け寄ってきました。
「キモヲタ様! フォンベルト議員が……」
現在、続く怒号はモリトール姉弟からだけのものではありません。連邦貴族議員のアイザック・フォンベルトも、また別のスタッフを相手に怒鳴り散らしていました。
シスター・エヴァによると、案内を受けている最中、フォンベルト議員が突然、
「喉が渇いた。ワインを持ってこい」
と言い出したため、スタッフが大慌てでワインを用意しました。
するとフォンベルト議員は、ワインを運んできたスタッフにわざとぶつかられた風を装い、グラスのワインを床にぶちまけたのでした。
慌てて議員の足下にこぼれたワインを拭こうとしたスタッフに、フォンベルト議員は足を駆けて転ばし、そして怒鳴り始めたのでした。
こうして、モリトール姉妹の怒号とユリアスの報告を右の耳で聞き、フォンベルト議員の怒涛とシスター・エヴァの報告を左の耳で聞いていたキモヲタは、
プッチン!
と、頭の中で糸が切れる音を聞いたのでした。
アリエッタ姫に随行しているのは護衛騎士やカザン王国の大臣だけではなく、アシハブア王国やルートリア連邦の貴族もいました。
先頭のアリエッタ姫にはキモヲタが説明をしていましたが、その後方ではユリアスやシスター・エヴァ、エレナが随行しているに対して説明を行っています。
そして、キモヲタがアリエッタ姫を薬草栽培温室に案内しているときに、一行の後方から、激しい怒号が中庭に響き渡りました。
「この獣人風情が! 汚らわしいわね、近寄らないで!」
「下賤の者が私に触れるんじゃない! 斬って捨てるぞ!」
中庭にいる全員が、その怒声を響かせた人たちに目を向けます。
中庭の植木に潜んでいたキーラとソフィアも、その声に驚いて姿を見せました。二人は、アリエッタ姫が通りかかったときに飛び出して、姫に花の冠をプレゼントするサプライズイベントを行うはずだったのです。
皆の視線が集まっているにも関わらず怒号はさらに続きます。
甲高い金切り声を上げる女性とその隣で怒鳴っている男性は、アシハブア王国のクラウディア・モリトールとカール・モリトールの姉弟。
彼らの前で深く頭を下げているのは兎耳族の女性スタッフ。二人の貴族から激しく責められて足がガクガクと震えています。その手には貴族の扇が握られていました。
姉のクラウディアがその扇をピシャリと叩くと、女性スタッフの手から扇が弾かれて飛んで床に落ちました。
「どうして獣人がこんなところにいるのです! こちらの施設は、わたくしたちアシハブアの貴族が快適に過ごせる場ではないようですわね!」
「姉上にこのような獣人を近づけさせるとは何事か! まったく教育がなっておらんではないか!」
クラウディアが地面に落ちた扇を見て言いました。
「せっかくのお気に入りでしたのに、汚らわしい手で触られてしまってはもう使うことができないじゃないの! どうしてくれるのよ!」
「申し訳ございません! 申し訳ございません!」
兎耳族の女性スタッフが、深く頭を下げて何度も謝罪しましたが、クラウディアの怒りは一向に収まる様子がありません。
「な、なにごとでござるか!?」
驚くキモヲタたちのところに、モリトール姉弟の近くで説明をしていたユリアスが慌てて走ってきました。
そしてキモヲタの右側に立つと、事の次第を話し始めます。
「クラウディア様が落とした扇をあの女性スタッフが拾って渡そうとしたら、あのような事態に」
「えっ!? 落ちたものを拾ってくれたら、普通は『ありがとう』でござろう?」
事態が呑み込めないキモヲタに、アリエッタ姫がため息をつきながら説明しました。
「まったく男爵の仰る通りです。しかし、カザン王国と違ってアシハブア王国は人間以外の種族に厳しい態度をとられる方が多いのです」
そう言ってアリエッタ姫がユリアスに目を向けると、今度はユリアスがキモヲタに話し始めました。
「恥ずかしい話ですが、アリエッタ姫殿下の仰る通り、我が国では亜人や獣人に敵意を抱く者が多いです。特に貴族に……全ての貴族がというわけではないのですよ、ラミアを妻に迎えられたドルネア公爵のような方もいらっしゃいます」
そこまで話を聞いて、キモヲタはハッと思い出しました。
「そういえばあそこの二人はモリトールでござったな」
「はい。特にモリトール家は……」
ユリアスの言葉が途中で途切れてしまいました。公の場で、しかもアリエッタ姫を目の前にして、同国の貴族を批判するのをためらったからでした。
当然、ユリアスはアシハブア王国の貴族が人間以外のスタッフと接触するのを警戒していました。案内役を務めながら、モリトール姉弟のことをずっと注視していたのですが――
「クラウディア様が扇を落とされる際に、チラッと兎耳族のスタッフに視線を向けているのを見ました」
事実は事実としてキモヲタに伝えるべきだと考えたユリアス。その言葉を聞いてキモヲタの眉が大きく跳ね上がりました。
「つまり、言いがかりをつけるためにわざと扇を落としたのでござるか!?」
「恐らく……」
ユリアスの返事を聞く前に、今度はキモヲタの左側にシスター・エヴァが駆け寄ってきました。
「キモヲタ様! フォンベルト議員が……」
現在、続く怒号はモリトール姉弟からだけのものではありません。連邦貴族議員のアイザック・フォンベルトも、また別のスタッフを相手に怒鳴り散らしていました。
シスター・エヴァによると、案内を受けている最中、フォンベルト議員が突然、
「喉が渇いた。ワインを持ってこい」
と言い出したため、スタッフが大慌てでワインを用意しました。
するとフォンベルト議員は、ワインを運んできたスタッフにわざとぶつかられた風を装い、グラスのワインを床にぶちまけたのでした。
慌てて議員の足下にこぼれたワインを拭こうとしたスタッフに、フォンベルト議員は足を駆けて転ばし、そして怒鳴り始めたのでした。
こうして、モリトール姉妹の怒号とユリアスの報告を右の耳で聞き、フォンベルト議員の怒涛とシスター・エヴァの報告を左の耳で聞いていたキモヲタは、
プッチン!
と、頭の中で糸が切れる音を聞いたのでした。
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