224 / 243
第224話 黒糖ショウガドリンク
しおりを挟む
とりあえず、俺は魔法使いという体で話を進めることにする。
「ま、ま、魔法使い!? そんなのいるわけないじゃないですの!」
とエリザベスが俺に詰め寄って来たので……
「【幼女化】(意識継続:一時間)」
ボンッ!
幼女をもう一人増やしてみた。
「姉さん!」
エドワードが俺に向ってこようとするのを、ライラが立ち塞がって制止する。
「エドワード! 座りなさい! この方は私の命を助けてくださったのですよ! エリザベスもです! この方への無礼は母が許しません!」
幼女(アルミン夫人)が、エドワードを鋭く叱責する。
「「母上……」」
エドワードと幼女(エリザベス)がシュンッと小さくなるのを見て、幼女(アルミン夫人)は優しい声で二人に話しかける。
「二人は、倒れているときの私を見ていますね。私は……」
そこで夫人は一端言葉を切って目を閉じる。
「お腹を裂かれて私は、ただ死を待つだけでした」
夫人は、大声で泣き始めた二人を優しく抱きしめながら、俺の方を向いた。
「もしかしたら、もう死んでいるのかもしれませんね」
その場にいる全員の視線が俺に注がれる。
ローザとアリスが不安そうに夫人を見ている。
「母上、死んじゃったの?」
「死んでない……ここにいるのは母上……」
俺は子供たちの頭を撫でながら、夫人に話しかける。
「あなたは死んでませんよ。ただ……」
エドワードと幼女(エリザベス)が泣くのを止めて、続く俺の言葉を待つ。
「あなたが今生きていられるのは、その幼女の姿でいるからです。幼女の姿を解いた瞬間、恐らくあなたは死んでしまうでしょう」
「……そう……ですか」
「ど、どうにかできないんですの!?」
「お、お願いだ! 何でもする! どうか母上を助けて欲しい!」
エドワードとエリザベスが必死に俺に訴える。
「もう命は助けてる。これ以上は何もできないよ」
「「そんなっ!!」」
厳密に言えば嘘である。俺は致命傷を受けたライラを元に戻そうとしているのだから。だがそのための代償として、悪魔勇者を倒さねばならない。それだけのことをして、天上界の温情をようやく受けられるというだけの話だ。
なおも食い下がって来る二人に、俺は厳しい顔を向けて告げる。
「賢者の石を手に入れることができれば、母親の命を保ったまま元の姿に戻れるかもしれない。だがそれも可能性の話だ。元に戻った瞬間、母親は死ぬかもしれない。それでも良いというなら、俺のところに持ってくるといい」
「け、賢者の石……」
「そ、そんなおとぎ話に出てくるような宝物なんて……」
がっくりと肩を落とす二人を、慈愛に満ちた目で見つめながら、幼女(アルミン夫人)が言葉を掛ける。
「二人とも、わたしは今、生きて二人と、ローザとアリスと会えて本当に嬉しいのです。この魔法使い様との出会いは、女神ラーナリアの与えてくださった奇跡に違いありません」
「母上!」
幼女(エリザベス)が幼女(アルミン夫人)に飛びついてヒシッと抱きしめる。
「魔法使い様……わたしはずっと幼子の姿のままですの?」
「はい。怪我や病気で命を落とすか、あるいは寿命を迎えるまで、その姿のままです」
正確には死んだ後でもだ。幼女のまま朽ちていくことになる。
「そうですか……」
幼女(アルミン夫人)は、一度うつむいた後、再び顔を上げた。
笑顔だった。
「それはよかったわ! 母はずっとこの若い姿でいられるのです! シワシワのお婆ちゃんにはなれませんが、あなた達の子供や孫たちとも、一緒に遊べるお婆ちゃんになれるんですもの!」
そう言って、夫人は小さい腕を一杯に広げて子供たちを抱きしめた。
「「「「母上ぇぇぇ」」」」
縋り付く子供たちを愛でていた夫人が、ふと顔を上げて俺を見た。
「ま、魔法使い様、え、エリザベスもずっとこのままなのですか?」
母親の言葉にハッとエリザベス(幼女)が顔を上げる。
「大丈夫。彼女は一時間もすれば元の姿に戻りますよ」
「ありがとう、魔法使い様。あなたには本当に返しきれない御恩をいただきました」
魔法使い様って……そういや自己紹介してなかったな。
俺は家族が落ち着くのを待ってから、改めて自己紹介した後、父親の墓に出向いてアルミン男爵を弔った。
墓前で別れを告げる家族を残して、俺とライラは先に馬車に戻る。
彼らが戻ってきたときのために、温かい飲み物を準備していたとき、ふとライラが俺の背中にしがみついてきた。
「ライラ、どうしたの?」
「わたしを助けるために、シンイチさまがどれだけ大変なことをなさろうとしているのか……」
ライラの腕にギュッと力が込められらる。
「わたしには、その御恩を返せそうにありません」
「ライラは……」
俺は背中に手を回して、ライラの頭を撫でる。
「ライラは俺の全てだから……」
それは当たり前のことなので、当たり前のようにそんな言葉が口から流れ出る。
「……」
ライラがさらに力を込めてしがみ付いてきた。
「……私のすべてもシンイチさまです」
「そう……だったら恩なんて返す必要はないね」
「……はい」
ここに来て、今の会話の照れくささが激流のように押し寄せてきた。俺何言ってんだ!? 恥ずかしい!
「それに!」
俺は急に立ち上がって背中のライラを掴むと、グルリと手前に廻して抱き直した。
「だいたい悪魔勇者なんて、全然大したことないから! 俺の【幼女化】スキルがあればハエみたいなもんだから! 今度あったら瞬殺!」
そう言ってカラカラと笑って照れ隠しした。
「そうです! シンイチさまなら、悪魔勇者なんてハエです!」
そう言ってライラはギューッと俺の首にしがみ付いてくる。
そんな茶番をしているうちに、弔いを終えた夫人たちが戻ってきた。
彼らの顔には、寂しさを纏いながらも、これから前を向いて生きて行こうという決意が現れていた。
「おかえりなさい。温かい飲み物を用意してますよ」
そして、
俺たちは皆で黒糖ショウガドリンクを楽しんだ。
「ま、ま、魔法使い!? そんなのいるわけないじゃないですの!」
とエリザベスが俺に詰め寄って来たので……
「【幼女化】(意識継続:一時間)」
ボンッ!
幼女をもう一人増やしてみた。
「姉さん!」
エドワードが俺に向ってこようとするのを、ライラが立ち塞がって制止する。
「エドワード! 座りなさい! この方は私の命を助けてくださったのですよ! エリザベスもです! この方への無礼は母が許しません!」
幼女(アルミン夫人)が、エドワードを鋭く叱責する。
「「母上……」」
エドワードと幼女(エリザベス)がシュンッと小さくなるのを見て、幼女(アルミン夫人)は優しい声で二人に話しかける。
「二人は、倒れているときの私を見ていますね。私は……」
そこで夫人は一端言葉を切って目を閉じる。
「お腹を裂かれて私は、ただ死を待つだけでした」
夫人は、大声で泣き始めた二人を優しく抱きしめながら、俺の方を向いた。
「もしかしたら、もう死んでいるのかもしれませんね」
その場にいる全員の視線が俺に注がれる。
ローザとアリスが不安そうに夫人を見ている。
「母上、死んじゃったの?」
「死んでない……ここにいるのは母上……」
俺は子供たちの頭を撫でながら、夫人に話しかける。
「あなたは死んでませんよ。ただ……」
エドワードと幼女(エリザベス)が泣くのを止めて、続く俺の言葉を待つ。
「あなたが今生きていられるのは、その幼女の姿でいるからです。幼女の姿を解いた瞬間、恐らくあなたは死んでしまうでしょう」
「……そう……ですか」
「ど、どうにかできないんですの!?」
「お、お願いだ! 何でもする! どうか母上を助けて欲しい!」
エドワードとエリザベスが必死に俺に訴える。
「もう命は助けてる。これ以上は何もできないよ」
「「そんなっ!!」」
厳密に言えば嘘である。俺は致命傷を受けたライラを元に戻そうとしているのだから。だがそのための代償として、悪魔勇者を倒さねばならない。それだけのことをして、天上界の温情をようやく受けられるというだけの話だ。
なおも食い下がって来る二人に、俺は厳しい顔を向けて告げる。
「賢者の石を手に入れることができれば、母親の命を保ったまま元の姿に戻れるかもしれない。だがそれも可能性の話だ。元に戻った瞬間、母親は死ぬかもしれない。それでも良いというなら、俺のところに持ってくるといい」
「け、賢者の石……」
「そ、そんなおとぎ話に出てくるような宝物なんて……」
がっくりと肩を落とす二人を、慈愛に満ちた目で見つめながら、幼女(アルミン夫人)が言葉を掛ける。
「二人とも、わたしは今、生きて二人と、ローザとアリスと会えて本当に嬉しいのです。この魔法使い様との出会いは、女神ラーナリアの与えてくださった奇跡に違いありません」
「母上!」
幼女(エリザベス)が幼女(アルミン夫人)に飛びついてヒシッと抱きしめる。
「魔法使い様……わたしはずっと幼子の姿のままですの?」
「はい。怪我や病気で命を落とすか、あるいは寿命を迎えるまで、その姿のままです」
正確には死んだ後でもだ。幼女のまま朽ちていくことになる。
「そうですか……」
幼女(アルミン夫人)は、一度うつむいた後、再び顔を上げた。
笑顔だった。
「それはよかったわ! 母はずっとこの若い姿でいられるのです! シワシワのお婆ちゃんにはなれませんが、あなた達の子供や孫たちとも、一緒に遊べるお婆ちゃんになれるんですもの!」
そう言って、夫人は小さい腕を一杯に広げて子供たちを抱きしめた。
「「「「母上ぇぇぇ」」」」
縋り付く子供たちを愛でていた夫人が、ふと顔を上げて俺を見た。
「ま、魔法使い様、え、エリザベスもずっとこのままなのですか?」
母親の言葉にハッとエリザベス(幼女)が顔を上げる。
「大丈夫。彼女は一時間もすれば元の姿に戻りますよ」
「ありがとう、魔法使い様。あなたには本当に返しきれない御恩をいただきました」
魔法使い様って……そういや自己紹介してなかったな。
俺は家族が落ち着くのを待ってから、改めて自己紹介した後、父親の墓に出向いてアルミン男爵を弔った。
墓前で別れを告げる家族を残して、俺とライラは先に馬車に戻る。
彼らが戻ってきたときのために、温かい飲み物を準備していたとき、ふとライラが俺の背中にしがみついてきた。
「ライラ、どうしたの?」
「わたしを助けるために、シンイチさまがどれだけ大変なことをなさろうとしているのか……」
ライラの腕にギュッと力が込められらる。
「わたしには、その御恩を返せそうにありません」
「ライラは……」
俺は背中に手を回して、ライラの頭を撫でる。
「ライラは俺の全てだから……」
それは当たり前のことなので、当たり前のようにそんな言葉が口から流れ出る。
「……」
ライラがさらに力を込めてしがみ付いてきた。
「……私のすべてもシンイチさまです」
「そう……だったら恩なんて返す必要はないね」
「……はい」
ここに来て、今の会話の照れくささが激流のように押し寄せてきた。俺何言ってんだ!? 恥ずかしい!
「それに!」
俺は急に立ち上がって背中のライラを掴むと、グルリと手前に廻して抱き直した。
「だいたい悪魔勇者なんて、全然大したことないから! 俺の【幼女化】スキルがあればハエみたいなもんだから! 今度あったら瞬殺!」
そう言ってカラカラと笑って照れ隠しした。
「そうです! シンイチさまなら、悪魔勇者なんてハエです!」
そう言ってライラはギューッと俺の首にしがみ付いてくる。
そんな茶番をしているうちに、弔いを終えた夫人たちが戻ってきた。
彼らの顔には、寂しさを纏いながらも、これから前を向いて生きて行こうという決意が現れていた。
「おかえりなさい。温かい飲み物を用意してますよ」
そして、
俺たちは皆で黒糖ショウガドリンクを楽しんだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる