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Kapitel 07:文化祭
文化祭 02
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私立瑠璃瑛学園中等部・メインストリート。
校門から校舎までつながる幅の広い通路は、模擬店が陳列し、構内の案内板や模擬店のポスターが掲示され、最も多くの人々で賑わう場所のひとつだ。
大振りのフリルを豪勢にあしらった衣装を身につけたメードたちが、ガラスハウスへ是非いらっしゃいませ、と道行く人々に声かけをする。白もまた同じメード服を身に纏い、クラスの模擬店の看板を持って立っていた。
白の装いは普段とはまったく異なった。メード服を着用したのはほかのクラスメイトたちと同じだが、髪色に合わせたウィッグまで用意されてロングヘアになっており、明らかに手が込んだ力作に仕上げられていた。そこに本人の意志決定は介在しないけれども。
白と共に宣伝係となったクラスメイトたちは、本人に気づかれないように感動を噛み締める。
「はあ~~、アキラくんほんとカッコカワイイ~❤」
「普段は凜々しくいらっしゃるのに、あんなにも可愛らしくもなられるなんて、アキラくんには無限の可能性がありますわ」
「アキラくんの衣装をメード服にするか執事服にするか、女子生徒全員で何度も会議を重ねたのに決まらず、最終的に多数決になりましたものね」
「メード服に票入れてよかった~。アキラくんを可愛らしくできるなんてレアだもん」
くしゅんッ。――白がくしゃみをしてぶるっと体を震わせた。
それが風が吹きつけているからか、間近で噂話をされているからかは、神のみぞ知る。
大丈夫ですか、と女子生徒たちはササッと白を取り巻いた。
「今日ものすごく風強いね。このカッコで外は寒いよ」と白。
「今日は強風警報が出ておりましてよ。台風並みの風が吹くところもあるとか」
「屋外で模擬店をなさっている皆様は大変ですわね。風でテントが壊れたり物が飛んできて怪我なさったりしたら、せっかくの文化祭が台無しですもの」
「その点、わたしたちはマシだよね。ガラスハウスに戻れば風は入ってこないしあったかいし」
「そう言えば、何でメード喫茶と執事カフェをやることになったんだっけ?」
白は自分の衣装を引っ張りながら尋ねた。
「メードや執事は、庶民の皆様には大変な人気と聞きまして」
「模擬店の売り上げを上げる為にはお客様にお喜びいただけるものを提供しなくては。わたくしたちには使用人は身近な存在で真似しやすいでしょう? 特技を活かすときがやって参りましたわ」
「特技なんだコレ」
クラスメイトの一人は、得意気にピッと人差し指を立てた。
「ガラスハウスでカフェというアイディアはなかなかよろしいでしょう?」
「咲いているお花に囲まれているほうが、教室を飾り付けるよりもずっと素敵ですもの」
白はガラスハウスの情景を思い浮かべてみた。
冷たい風に晒されることもない暖かい室内、緑のなかに並ぶゴシック調のクラシカルなテーブルセット。ゴールドの細工を施したヨーロピアンかつ豪奢なカップやポット。甘い焼き菓子の匂いとフルーティな紅茶の香り。
御客様としてその場にいられるなら少々羨ましい。残念ながら今回は給仕する側なのだけれど。
「確かに雰囲気はいいよね」
「ガラスハウスの使用許可を取りつけるのは大変でしたわ。火は厳禁とか、植物を痛めないように注意するとか、来客誘導のコースを作るとか、いろいろと交渉してやっと園芸部からスペースを借りられましたのよ」
「いつもはそういう大変な部分をすべてアキラくんが請け負ってくださっているのですね。アキラくんは本当に働き者さんです」
「そんなことないよ。交渉がんばってくれてありがとう。クラスの出し物、全然手伝えなくてごめんね」
「いいえいいえ! アキラくんはもう! その衣装を着てくださるだけで!✨✨」
ビョォオオッ。――冷えた強い風に吹きつけられ、白を含めクラスメイトたちは震え上がった。
メードの衣装は半袖。白は寒風に晒されて鳥肌が立った腕をしきりに摩った。クラスメイトたちも素足を摩って暖を取る。
「呼び込みはいつまでやるんだっけ」
「交代時間までもう少し。がんばろう、アキラくん」
「ガラスハウスはメインストリートから離れているので呼び込みに力を入れなくては御客様がいらしてくださいませんわ」
クラスメイトたちはグッと手を握って見せて白を励ました。
白は素直にうんと頷いた。
「ん。そうだね。がんばる」
きゅぅうーん❤ ――健気にうんと頷いた白の姿に、クラスメイトたちは胸が締めつけられた。
(本当は少しでも長くメード姿を近くで凝視したいだけなんですごめんなさい~~!)
§ § § § §
ガラスハウス。
メインストリートから戻った白は、両手に吐息を吹きかけて擦り合わせた。冷え切った身体にガラスハウス内の温度が染み入る。
「白」と虎子から声をかけられた。
「お疲れ様です。外はかなり寒いみたいですわね」
「寒かったよ~。気温はそんなに低くないけど風が強くて」
「大変でしたわね。白は寒いのは苦手ですものね」
「それがもっと苦手なものが出てきちゃってさあ……」
白はガラスハウスの天井を仰いで遠い目をした。
「呼び込みしてたら甲斐先輩に見つかっちゃって、いつも通り話が長くなりそうだから逃げてきた」
よくできました、と虎子は白の頭を丁寧に撫でた。
「白に御客様ですよ」
「ボクに? ……甲斐先輩、じゃないよね?」
「御客様だからと言ってわたくしがにこやかに以祇を案内すると思いますか」
――いいえ、思いません。
白は誰かと尋ねたが、虎子は答えずに白の手を取った。その手を引いて歩き出した。
白は抗うことなく虎子に手を引かれた。ガラスハウスの中にいた虎子の手は温かかった。
鬱蒼とした緑の茂みの奥の奥、馨しい花の芳香、純白のクロスがかかった丸テーブル、煌びやかなティーセット、その前に座すひとりの人物。
白はギョッと顔色を変えた。
「ティエン⁉」
虎子はクスクスと笑いながら白をテーブルの傍まで連れて行った。
天尊は白をジッと見詰めるばかりで、言葉を発しなかった。
虎子は白を連れてくるからと言ってテーブルを離れた。連れて戻ってきたのは、見知らぬ少女だった。白いフリルをふんだんに用いた衣装に身を包み、艶やかな黒髪を長くして、大きな黒い瞳を伏せ、若い盛りの桜色の頬、ぷくっと張りのある潤った薄桃の唇、膨らんだスカートから伸びる細い脚。可憐な少女が羞じらいながら佇立していた。
(ッ……そんな真面目な顔して見ないでよ)
沈黙が続くと、白は居たたまれなくなった。似合わない恰好をしているとかおかしいとか思っているなら、いつも通り笑い飛ばしてくれてよい。無理にお世辞やフォローの言葉を考えさせているとしたら申し訳ない。
「アキラちゃんじゃないみたい。一瞬誰だか分かんなかったよ」
ようやく沈黙が破られ、白はホッとした。
「戴星くんも来てたの?」
「ティエンゾンさんに道案内を頼まれて」
戴星は丸テーブルに肘を突いて前のめりの姿勢になり、椅子に座ったままできる限り白に上半身を近づけた。
「アキラちゃんのメード姿が見れるなんてレアだなー。アキラちゃん、ボーイッシュなカッコが好きだよね。女の子っぽいカッコしてるイメージなかったけど、こういうカッコもかわいいね」
「うん。服はかわいい。けど、ボクには似合わないよ」
「そんなことないよ。女の子って変わるもんだね。コレ、ウィッグ?」
「うん。友だちが付けてくれて」
へー、はー、と戴星は感心しながら首を左右に動かして白をいろいろな角度から観察した。戴星の目には、白のロングヘアは本物の髪の毛と見分けが付かなかった。純粋な興味から白へとふらっと手が伸びた。
バチンッ。 ――その黒髪に触れようという寸前、指先が弾かれた。
「って~……静電気スゲー」
戴星は痺れた自分の指を握り締めて涙目。
白には誰の仕業かは分かった。天尊のほうへ目を向けると、丁度椅子から立ち上がるところだった。
天尊は白の前に片膝を突き、白と目線を近くして真正面から見詰めた。
白は、天尊の乳白色の瞳からスッと目を逸らした。
「何?」
「ああ、メイクをしているのか。雰囲気が少し違うと思った」
「うん。ココがヘアメイクさん呼んでくれて」
「良くできてる。ココが見せたがるわけだ」
(ティエンを呼んだのはココか。そんなことだろうと思った)
白が虎子のほうを見ると、口許を手で隠した虎子から目元だけでニッと微笑まれた。何の思惑かは知らないが、ほくそ笑まれた気がする。
白はツンツンと髪をわずかに引っ張られた。
白が顔を元の位置へ引き戻すと、天尊が指に黒髪を一房巻きつけ、スルリと指の間から取り逃がした。
「髪もよく似合っている。本当に伸ばせばいい」
「髪は、伸ばさないよ」
白はぷいっと天尊から顔を逸らした。
そうか、と天尊は白の顎に手を添えてクリッと自分のほうへ向き直らせた。
「随分冷えているな」
「外は風が強いから。天気もあんまり良くないし――」
ちゅ。――手の甲に柔らかくて温かいものが触れた。
いつの間にか天尊が白の手を持ち上げて甲に口づけていた。完全に想定外だった白は、唖然としてしまって手を引き戻すことを失念してしまった。
!!!! ――その場に居合わせたクラスメイトの女子生徒諸君に衝撃が走った。
複数の女子生徒が素早くポケットからスマートフォンを取り出した。握り締めてブルブルと震えて欲求と葛藤する。
「しゃっ、写真! 写真撮りたい……ッ」
「無断撮影はマナー違反ですわ! 撮影をするときはアキラくんに許可をいただくお約束ですわよッ」
「メードに傅いてキスなんてシチュエーションよすぎ! 文化祭ありがとうッ✨✨」
白は数秒遅れて我を取り戻し、慌てて手をバッと引っこめた。眉を逆八の字に吊り上げ、顔面はカーッと真っ赤になった。
「ティエン……! バ、バカ! 何してんのッ」
「何故怒る。この前は怒らなかった」
「こっ、この前はこの前! ビックリして怒る暇なんてなかッ……とにかく、人前で目立つことしないでよっ」
天尊は本当に白が何故怒るのか分からないという顔だ。不思議そうに小首を傾げ、地面から膝を持ち上げて真っ直ぐに立った。
(地球人じゃないから羞恥心ズレてる……ッ)
白は、どれほど力説しても天尊には伝わる気がしなくて眩暈がした。
アキラくん、アキラくん、とスマートフォンやデジタルカメラを携えたクラスメイトの女子生徒たちから取り囲まれた。
「お写真を撮影してもよろしいですか?」
「ええッ、この恰好で?」
「この恰好だからです。こんなに可愛らしいお洋服を着ているアキラくんはとてもレアなんですもの~」
「いつもカッコイイアキラくんが可愛らしく着飾っているなんて感動です。記念に一枚、高画質で一枚、お守りに一枚」
白は高速でフルフルフルと首を左右に振った。普段ならどうしてもと頼みこまれて断り切れず仕方なく撮影に応じるところだが、自分では納得していない姿を半永久的に画像に残されるなどお断りだ。
天尊は白の肩に手を置き、アッハッハッと声を上げて笑った。
「そう言わず撮ってもらえ。貴重な姿だ。ヒキドー家末代までの家宝にしよう」
「しないよホントにバカなのキミ⁉」
校門から校舎までつながる幅の広い通路は、模擬店が陳列し、構内の案内板や模擬店のポスターが掲示され、最も多くの人々で賑わう場所のひとつだ。
大振りのフリルを豪勢にあしらった衣装を身につけたメードたちが、ガラスハウスへ是非いらっしゃいませ、と道行く人々に声かけをする。白もまた同じメード服を身に纏い、クラスの模擬店の看板を持って立っていた。
白の装いは普段とはまったく異なった。メード服を着用したのはほかのクラスメイトたちと同じだが、髪色に合わせたウィッグまで用意されてロングヘアになっており、明らかに手が込んだ力作に仕上げられていた。そこに本人の意志決定は介在しないけれども。
白と共に宣伝係となったクラスメイトたちは、本人に気づかれないように感動を噛み締める。
「はあ~~、アキラくんほんとカッコカワイイ~❤」
「普段は凜々しくいらっしゃるのに、あんなにも可愛らしくもなられるなんて、アキラくんには無限の可能性がありますわ」
「アキラくんの衣装をメード服にするか執事服にするか、女子生徒全員で何度も会議を重ねたのに決まらず、最終的に多数決になりましたものね」
「メード服に票入れてよかった~。アキラくんを可愛らしくできるなんてレアだもん」
くしゅんッ。――白がくしゃみをしてぶるっと体を震わせた。
それが風が吹きつけているからか、間近で噂話をされているからかは、神のみぞ知る。
大丈夫ですか、と女子生徒たちはササッと白を取り巻いた。
「今日ものすごく風強いね。このカッコで外は寒いよ」と白。
「今日は強風警報が出ておりましてよ。台風並みの風が吹くところもあるとか」
「屋外で模擬店をなさっている皆様は大変ですわね。風でテントが壊れたり物が飛んできて怪我なさったりしたら、せっかくの文化祭が台無しですもの」
「その点、わたしたちはマシだよね。ガラスハウスに戻れば風は入ってこないしあったかいし」
「そう言えば、何でメード喫茶と執事カフェをやることになったんだっけ?」
白は自分の衣装を引っ張りながら尋ねた。
「メードや執事は、庶民の皆様には大変な人気と聞きまして」
「模擬店の売り上げを上げる為にはお客様にお喜びいただけるものを提供しなくては。わたくしたちには使用人は身近な存在で真似しやすいでしょう? 特技を活かすときがやって参りましたわ」
「特技なんだコレ」
クラスメイトの一人は、得意気にピッと人差し指を立てた。
「ガラスハウスでカフェというアイディアはなかなかよろしいでしょう?」
「咲いているお花に囲まれているほうが、教室を飾り付けるよりもずっと素敵ですもの」
白はガラスハウスの情景を思い浮かべてみた。
冷たい風に晒されることもない暖かい室内、緑のなかに並ぶゴシック調のクラシカルなテーブルセット。ゴールドの細工を施したヨーロピアンかつ豪奢なカップやポット。甘い焼き菓子の匂いとフルーティな紅茶の香り。
御客様としてその場にいられるなら少々羨ましい。残念ながら今回は給仕する側なのだけれど。
「確かに雰囲気はいいよね」
「ガラスハウスの使用許可を取りつけるのは大変でしたわ。火は厳禁とか、植物を痛めないように注意するとか、来客誘導のコースを作るとか、いろいろと交渉してやっと園芸部からスペースを借りられましたのよ」
「いつもはそういう大変な部分をすべてアキラくんが請け負ってくださっているのですね。アキラくんは本当に働き者さんです」
「そんなことないよ。交渉がんばってくれてありがとう。クラスの出し物、全然手伝えなくてごめんね」
「いいえいいえ! アキラくんはもう! その衣装を着てくださるだけで!✨✨」
ビョォオオッ。――冷えた強い風に吹きつけられ、白を含めクラスメイトたちは震え上がった。
メードの衣装は半袖。白は寒風に晒されて鳥肌が立った腕をしきりに摩った。クラスメイトたちも素足を摩って暖を取る。
「呼び込みはいつまでやるんだっけ」
「交代時間までもう少し。がんばろう、アキラくん」
「ガラスハウスはメインストリートから離れているので呼び込みに力を入れなくては御客様がいらしてくださいませんわ」
クラスメイトたちはグッと手を握って見せて白を励ました。
白は素直にうんと頷いた。
「ん。そうだね。がんばる」
きゅぅうーん❤ ――健気にうんと頷いた白の姿に、クラスメイトたちは胸が締めつけられた。
(本当は少しでも長くメード姿を近くで凝視したいだけなんですごめんなさい~~!)
§ § § § §
ガラスハウス。
メインストリートから戻った白は、両手に吐息を吹きかけて擦り合わせた。冷え切った身体にガラスハウス内の温度が染み入る。
「白」と虎子から声をかけられた。
「お疲れ様です。外はかなり寒いみたいですわね」
「寒かったよ~。気温はそんなに低くないけど風が強くて」
「大変でしたわね。白は寒いのは苦手ですものね」
「それがもっと苦手なものが出てきちゃってさあ……」
白はガラスハウスの天井を仰いで遠い目をした。
「呼び込みしてたら甲斐先輩に見つかっちゃって、いつも通り話が長くなりそうだから逃げてきた」
よくできました、と虎子は白の頭を丁寧に撫でた。
「白に御客様ですよ」
「ボクに? ……甲斐先輩、じゃないよね?」
「御客様だからと言ってわたくしがにこやかに以祇を案内すると思いますか」
――いいえ、思いません。
白は誰かと尋ねたが、虎子は答えずに白の手を取った。その手を引いて歩き出した。
白は抗うことなく虎子に手を引かれた。ガラスハウスの中にいた虎子の手は温かかった。
鬱蒼とした緑の茂みの奥の奥、馨しい花の芳香、純白のクロスがかかった丸テーブル、煌びやかなティーセット、その前に座すひとりの人物。
白はギョッと顔色を変えた。
「ティエン⁉」
虎子はクスクスと笑いながら白をテーブルの傍まで連れて行った。
天尊は白をジッと見詰めるばかりで、言葉を発しなかった。
虎子は白を連れてくるからと言ってテーブルを離れた。連れて戻ってきたのは、見知らぬ少女だった。白いフリルをふんだんに用いた衣装に身を包み、艶やかな黒髪を長くして、大きな黒い瞳を伏せ、若い盛りの桜色の頬、ぷくっと張りのある潤った薄桃の唇、膨らんだスカートから伸びる細い脚。可憐な少女が羞じらいながら佇立していた。
(ッ……そんな真面目な顔して見ないでよ)
沈黙が続くと、白は居たたまれなくなった。似合わない恰好をしているとかおかしいとか思っているなら、いつも通り笑い飛ばしてくれてよい。無理にお世辞やフォローの言葉を考えさせているとしたら申し訳ない。
「アキラちゃんじゃないみたい。一瞬誰だか分かんなかったよ」
ようやく沈黙が破られ、白はホッとした。
「戴星くんも来てたの?」
「ティエンゾンさんに道案内を頼まれて」
戴星は丸テーブルに肘を突いて前のめりの姿勢になり、椅子に座ったままできる限り白に上半身を近づけた。
「アキラちゃんのメード姿が見れるなんてレアだなー。アキラちゃん、ボーイッシュなカッコが好きだよね。女の子っぽいカッコしてるイメージなかったけど、こういうカッコもかわいいね」
「うん。服はかわいい。けど、ボクには似合わないよ」
「そんなことないよ。女の子って変わるもんだね。コレ、ウィッグ?」
「うん。友だちが付けてくれて」
へー、はー、と戴星は感心しながら首を左右に動かして白をいろいろな角度から観察した。戴星の目には、白のロングヘアは本物の髪の毛と見分けが付かなかった。純粋な興味から白へとふらっと手が伸びた。
バチンッ。 ――その黒髪に触れようという寸前、指先が弾かれた。
「って~……静電気スゲー」
戴星は痺れた自分の指を握り締めて涙目。
白には誰の仕業かは分かった。天尊のほうへ目を向けると、丁度椅子から立ち上がるところだった。
天尊は白の前に片膝を突き、白と目線を近くして真正面から見詰めた。
白は、天尊の乳白色の瞳からスッと目を逸らした。
「何?」
「ああ、メイクをしているのか。雰囲気が少し違うと思った」
「うん。ココがヘアメイクさん呼んでくれて」
「良くできてる。ココが見せたがるわけだ」
(ティエンを呼んだのはココか。そんなことだろうと思った)
白が虎子のほうを見ると、口許を手で隠した虎子から目元だけでニッと微笑まれた。何の思惑かは知らないが、ほくそ笑まれた気がする。
白はツンツンと髪をわずかに引っ張られた。
白が顔を元の位置へ引き戻すと、天尊が指に黒髪を一房巻きつけ、スルリと指の間から取り逃がした。
「髪もよく似合っている。本当に伸ばせばいい」
「髪は、伸ばさないよ」
白はぷいっと天尊から顔を逸らした。
そうか、と天尊は白の顎に手を添えてクリッと自分のほうへ向き直らせた。
「随分冷えているな」
「外は風が強いから。天気もあんまり良くないし――」
ちゅ。――手の甲に柔らかくて温かいものが触れた。
いつの間にか天尊が白の手を持ち上げて甲に口づけていた。完全に想定外だった白は、唖然としてしまって手を引き戻すことを失念してしまった。
!!!! ――その場に居合わせたクラスメイトの女子生徒諸君に衝撃が走った。
複数の女子生徒が素早くポケットからスマートフォンを取り出した。握り締めてブルブルと震えて欲求と葛藤する。
「しゃっ、写真! 写真撮りたい……ッ」
「無断撮影はマナー違反ですわ! 撮影をするときはアキラくんに許可をいただくお約束ですわよッ」
「メードに傅いてキスなんてシチュエーションよすぎ! 文化祭ありがとうッ✨✨」
白は数秒遅れて我を取り戻し、慌てて手をバッと引っこめた。眉を逆八の字に吊り上げ、顔面はカーッと真っ赤になった。
「ティエン……! バ、バカ! 何してんのッ」
「何故怒る。この前は怒らなかった」
「こっ、この前はこの前! ビックリして怒る暇なんてなかッ……とにかく、人前で目立つことしないでよっ」
天尊は本当に白が何故怒るのか分からないという顔だ。不思議そうに小首を傾げ、地面から膝を持ち上げて真っ直ぐに立った。
(地球人じゃないから羞恥心ズレてる……ッ)
白は、どれほど力説しても天尊には伝わる気がしなくて眩暈がした。
アキラくん、アキラくん、とスマートフォンやデジタルカメラを携えたクラスメイトの女子生徒たちから取り囲まれた。
「お写真を撮影してもよろしいですか?」
「ええッ、この恰好で?」
「この恰好だからです。こんなに可愛らしいお洋服を着ているアキラくんはとてもレアなんですもの~」
「いつもカッコイイアキラくんが可愛らしく着飾っているなんて感動です。記念に一枚、高画質で一枚、お守りに一枚」
白は高速でフルフルフルと首を左右に振った。普段ならどうしてもと頼みこまれて断り切れず仕方なく撮影に応じるところだが、自分では納得していない姿を半永久的に画像に残されるなどお断りだ。
天尊は白の肩に手を置き、アッハッハッと声を上げて笑った。
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