マインハール ――屈強男×しっかり者JCの歳の差ファンタジー恋愛物語

熒閂

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Kapitel 09:懸隔

耀龍 01

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 瑠璃瑛ルリエー学園大学・カフェテリア。
 大学キャンパスのセキュリティは、高等部以下の敷地ほど厳しくなく、出入りは比較的自由だ。学生食堂やカフェテリアは本学学徒以外にも開放されており、高等部以下の生徒や一般人の姿も珍しくはない。
 アキラ虎子トラコも久し振りにカフェテリアでランチを摂ることにした。ランチタイムのカフェテリア内は人でごった返している。屋外にあるパラソルを立てたテーブルを確保した。少々の肌寒さは否めないが、本日は風が穏やかだからよしとしよう。
 二人はトレイに乗せたランチを前に、手を合わせていただきますと唱えた。
 メニューは二人とも同じもの。パスタとハンバーグのボリューミーなセット。量のみならず質も保証されている。瑠璃瑛学園は名家の子女が多く在籍する。舌の肥えた彼らを満足させる為に、学生食堂の味のレベルは星を持つレストランにも劣らないとの評判だ。

「急に大学にランチ行こうなんて、どうしたの。しかも、本当にオゴってもらっていいの?」

「大学カフェテリアの水曜日の数量限定ランチは絶品との評判ですわ。がんばった自分への御褒美です。文化祭は本番も準備も大変でしたからね」

「じゃあココの分はボクがオゴるよ。クラスのほうは放ったらかしにしちゃったから、大変だったでしょ」

以祇モチマサに請求書を回しますのでお気になさらず」

「え」と白は漏らして箸の動きを停止した。

「文化祭といい別荘のことといい、アキラとわたくしが必要以上の労力を強いられた諸悪の根源は以祇ですから。いつもいつも呼びも誘いもしないのに突然現れて迷惑千万ですわ」

 白はアハハと苦笑した。
 好き勝手に飲食した代金を一方的に請求するなど善良な行為とは言えないが、虎子から以祇への積年の宿意は邪悪になりたくもなるほどなのであろう。この二人は熟々、折り合いが悪い。


「サスガは限定ランチ。パスタのソース美味しいよ」

「ハンバーグも絶品ですわ」

 白と虎子はそれぞれパスタとハンバーグに手をつけ、満足そうにふむふむと頷いた。

「もう少ししたら、こうして外でランチもできなくなりますわね」

「だいぶ風が冷たくなったね」

 寒さに弱いという白は、ランチと一緒に注文したホットティーのカップで手を温めながら食事を進めた。

「文化祭が終わったのはついこの前だけど、あっという間に冬になって、あっという間に春休みになるんだろうなあ」

「春休みが待ち遠しいのですか。何か御予定でも?」

「予定というか、春休みは銀太ギンタの新しい制服とか鞄とか準備しないとね」

「来年から銀太くんも初等部ですわね」

「送り迎えも無くなるし、我が家もいよいよスマホ導入の時期かも」

「その時にはアキラの分もお忘れなく。銀太くんだけがお持ちになっても意味がありませんわよ」

「分かってます」

 白から従順な返答をすると、虎子は満足そうにフフッと微笑んだ。

「その前に、わたくしたちも卒業式がありますわね」

「高等部に上がるだけだし、あんまり卒業ってかんじしないなー」

「内部試験の勉強は、捗っていますか」

「一応はしてるよ。試験に落ちたら卒業式どころじゃないもん」

アキラの成績でしたら落ちる心配など不要でしょう」

「やはりこの学園では、世間一般に言う受験生ほどの緊張感とは縁遠いですわね」

「そうだねえ」

 白と虎子はたわいのない世間話をしながらランチタイムを楽しんだ。
 風は少々冷たいけれど、気が置けない友人と美味しいランチに温かい飲み物、ゆったりとした時間を過ごしていると、自然と落ち着いた気持ちになった。
 今日のランチは文化祭の犒い目的ということで、白は文化祭のときに天尊ティエンゾンから髪について言及されたことを思い出した。

「文化祭といえばティエンがさー、髪伸ばせばって言ったんだよね」

 フォークを動かす虎子の手がピタリと停まった。

「髪を、伸ばすのですか?」

「う~ん。ティエンは思いつきで言っただけだし、そこまで真剣に考えてない。正直、髪を伸ばすの苦手だもん」

「…………。アキラが伸ばしたくなったら、伸ばせばよろしいですわ。ロングでもショートでも、アキラはどちらでも素敵です」

 虎子は口を横に引いてそう言った。白は「ありがとう」と笑顔で返した。

(ティエンが言ったからって気にすることないんだけど。……イヤ、そうでもないか)

 天尊には弟共々命を救われた。自分たちの許に残ってくれた。身を挺して厄災から守ってくれる。どのような大人たちよりも、弟と二人の世界を大切にして、味方でいてくれる。白は確かに天尊に感謝している。できることならその挺身に報いたいと考えている。何かしてあげたいという思いは自然と湧いてくる。しかし、天尊の望むものは分からなかった。

 ――「アキラはくれるからだ。俺の欲しいものを」

 ティエンの欲しいものなんてボクには分からない。ティエンが何を考えてああ言ったのかも分からない。
 でも、キミはボクたちと一緒にいてくれから、ボクもキミの望むことをしてあげる。キミの欲しいものは何だってあげるよ。


「あ」

 白が突然声を上げた。
 どうかなさいましたか、と虎子は首を傾げた。
 白の視線を辿ると、カフェテリア内の或るテーブルに行き着いた。

「お知り合いですか? アキラ

 一人の青年と、複数人の女性が彼を取り囲むテーブル。青年の人相を見るに、成る程、若い娘が好むであろう整った顔立ちだ。しかし、虎子の既知ではない。白は異性の容貌に安易に色めき立つタイプではないから不思議だった。

 青年は得意気な笑顔を頌える。自分を取り囲む若い娘たちに見せつけるように人差し指を立てた。

「よく見ててね。オレ、このマジック得意なんだ」

 青年は自分の人差し指に軽くキスした。その指先にボッと火が付き、一瞬で消え失せた。
 わぁあっ、と娘たちは飛び上がって歓喜して驚嘆の黄色い声を上げた。

「えぇ~、スゴーイ。何でこんなことできるの?」

「ライター隠してないよね? 熱くないの? フシギー」

 青年は足を組んでフフフと微笑んだ。

「秘密だよ」


  § § § § §


 疋堂ヒキドー家。
 白は帰宅するとすぐにリビングに直行した。
 リビングでは銀太と天尊がテレビゲームの真っ最中。

「ヤオロンさんってどうしてるの」

 白の開口一番。
 白はハッキリと天尊の後頭部に向かって尋ねたが、彼は白のほうを振り返らずテレビと向き合ったままだった。手元からカチャカチャとゲーム機のリモコンを操作する音。銀太の遊び相手をするうちに随分と巧みになったものだ。

「ヤオロンさんって帰ったんだよね。アスガルトってところに」

「そうだ。急にどうした」

「今日ヤオロンさん見たんだけど。学校にいた」

「他人の空似だろう。ちゃんと確認したか? 見間違えじゃないか?」

「そりゃあ近くでマジマジと見たわけじゃないけど」

 白は天尊に問い質されると自信がなくなり、自然と声がフェードアウトした。

「ヨシ、俺の勝ちだ」

「おとなげないぞティエン!」

「常に全力を尽くす大人になれ」

「オレはティエンみたいなおとなにならないっ」

「俺みたいにはなろうと思ってもなれるものじゃない。まずは、好き嫌いせず何でも食うところからだな」

「だからならねーっていってんだろ!」

 白は通学鞄を床にドサッと下ろして天尊の隣に座りこんだ。

「ちゃんと話聞いてよ。ティエン」

 分かった分かった、と天尊はゲーム機のコントローラーをソファの座面に置いた。

「で? ロンはアキラのガッコで何をしていた」

「て、手品」

「意味が分からん」

 天尊は小さな嘆息を漏らして首を縮めた。

「アスガルトとミズガルズは自由に往来できるようなものじゃない。アスガルトにいるはずのロンが、ミズガルズのアキラの学校にいて、真っ昼間から手品を披露する。何だそれは、目的も意味も分からん」

「ボクも自分で言ってて分かんなくなってきた……」

 白は天尊から目を逸らして額を押さえた。
 カフェテリアで青年の人相をしっかりと確認したわけではない。雰囲気や背格好を自分の既知に当て嵌め、安易に耀龍ヤオロンが一番近いと思った。他人の空似と言われると否定できるほど自信が持てなかった。
 ピンポーン。――チャイムが鳴った。
 銀太がスクッと立ち上がり、たたたーっとインターホンへ向かった。インターホンのモニターには知った顔が映し出されていた。

「あ。ロォン」

 白はパッと天尊の顔を見上げた。
 天尊は白の前に手の平をズイッと押し出して苦笑した。

「俺が悪かった。アキラ」


 耀龍は以前と変わらぬ柔和な笑顔を湛えて現れた。
 以前と異なる点は、白から見ても一般的な大学生として違和感のない衣服を身に付けていたことだ。今回も2メートルを超える巨体の男を随え、彼もこの世界でよく見るような黒いスーツを着用していた。
 耀龍はソファに座し、巨躯の従者はソファの隣に直立した。天尊は耀龍とは直角の位置にあたるソファに腰を下ろした。銀太はテーブルを挟んで耀龍の正面の位置、カーペットの上に座りこんだ。
 白は耀龍と従者のお茶を二つ並べて置いた。

「アキラ。前にも言ったが、コイツに茶を出す必要はない」

 天尊は肉親と対面しているというのに明らかに不機嫌だった。
 そう言われても客人に茶を出さないなど白にできるはずはない。白はトレイを抱えて気まずそうな表情をする。

「なんか機嫌悪くない? 天哥々ティエンガコ

 耀龍は天尊とは対照的に上機嫌だった。ニコニコしているのは変わりないが、何となく声の調子まで明るかった。

「ここでお前の顔を見て、いい気分になるわけがないだろう」

「何で? オレのこと嫌い?」

「何をしに来た」

「オレは天哥々ティエンガコのこと大好きなんだけどな~」

「俺の質問に答えろ」

天哥々ティエンガコに邪険にされると傷ついちゃうな」

ロン

「あ。そもそも優しくされたことそんなになかったや。天哥々ティエンガコは子どもだからって甘やかす人じゃなかったからさー」

 天尊は急に腰を持ち上げたかと思うと、耀龍の胸倉をガッと掴んで力尽くで引き上げてソファから立たせた。

「話をする気があるのか」

「ティエンッ」と白が咄嗟に声を上げた。
 ソファの脇に控えていた巨躯の従者が、スッと耀龍の隣に立った。

「大隊長。そこまでに。耀龍ヤオロン様への乱暴はお控えください」

 天尊は巨躯の従者を睥睨した。
 天尊は自身より屈強で剛力な敵が出現したからといって怯む男ではない。悪辣な異形のモンスターを相手にする恐れ知らずだ。白は一触即発の雰囲気を察知してハラハラした。

「オレが来た目的はー、簡単に言うと留学生、みたいなかんじ?」

 耀龍が口を開いてくれて、白は内心ホッとした。

「ヤオロンさんが留学ですか? うちの学校に?」

 天尊は耀龍の胸倉から手を離して腕組みをした。

「具体的に」

「留学生は留学生だよ。ミズガルズで言う〝留学〟と同じ意味で使ってる、つもり」

 耀龍は天尊への回答を続けつつ、服の襟刳りを正して皺を伸ばした。それから再びストンとソファに腰を下ろした。

「ガッコなどごまんとあるのに、何故アキラと同じガッコにいる」

「都合が良くって」

「どういう意味だ」

「アキラの学校って実はかなりの名門なの。こっちの王族や貴族も留学生として多く受け容れてる。だから、オレも身分的な理由で必要以上に目立たなくて済む。セキュリティも設備もかなりのものだ。それに、侍従を連れて通学していい学校ってほかになかなか無いんだよね。オレが留学するのにこれほどうってつけの条件はない」

 耀龍は天尊にウィンクして見せた。しかし、天尊の納得していない表情は少しも変わらなかった。
 天尊が疑り深い性分であることは耀龍もよく分かっている。天尊から白のほうへと顔を向けてニッコリと微笑みかけた。

「そういうワケで、これからは御近所さんとしてヨロシク」
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