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#04:Sign of Recurrence
Appearance of the little demon 03
夕方。渋撥と鶴榮は並んで帰途に就いていた。
特段約束を交わしているわけではないが、同じクラスで同じ通学ルートだから下校が重なるのは自然の流れ。所謂幼馴染みだから自宅住所も近いのだ。
「オマエが麻雀なんぞやっとるさかい遅うなってしもたやろ」
渋撥は夕方の時分を過ぎ、群青色に染まった空を見上げて鶴榮に言った。
「こんな時間になってもーたんはワシの所為ちゃうで。ワシのひとり勝ちやったからなー。もう半荘もう半荘言われたら勝ち逃げでけへんやろ」
「嫌々の割りには気分良さそうやな」
「アイツら下手くそやからなんぼやってもワシの儲けやねん」
「オマエが稼ぎたいだけやろ」
渋撥に責められ、鶴榮は口を尖らせた。確かに直ぐ終わるからと言って待たせたのは鶴榮のほうだった。
「どーせ早よ家に帰ったかてすることあれへんやろ。家でひとりで時間持て余しとるぐらいやったらオマエも麻雀くらい覚えーや」
「興味あれへん」
「オマエ昔からせえへんなァ。嫌いなんか、博奕」
「嫌いも何も興味あれへん」
「まあ、撥はルール覚えるのがワヤやでなあ」
「オイ、人をアホみたいに言うな。俺は興味がない言うてんねん」
渋撥はブスッとして鶴榮の足を爪先で軽く蹴飛ばした。
「俺は鶴ほどヒマちゃう」
「オマエ何か忙しいことあったかァ? 無趣味のクセに」
「自分でメシ作らんでええヤツは呑気なもんや」
「オマエがそのツラで律儀にメシ作っとるっちゅうほうが似合わへん」
「腹が減ったら自分で作らな誰が食わしてくれんねん」
「そう言えば、オマエの得意料理て何や。今度ワシにも食わしてくれや」
「キショイことぬかすな」
渋撥は鶴榮の肩をドンッと突き飛ばした。自分の分だって飢えに耐えかねて必要に駆られてやっているだけなのに、男に料理を作ってやるなんて想像するだけで寒気がする。
鶴榮にしたって本気で渋撥から手料理を振る舞われることなど期待してはいない。カッカッカッと肩を揺すって笑った。
「何やったら今日ウチでメシ食ってくか? ゴチソーちゃうけど、おかんのメシはなかなかウマイで」
「またにしとくわ」
「遠慮すんな。ちゅうかウチのおかんより撥のほうがメシ美味かったら嫌やな~」
「オマエしつこいねん。シバくぞ」
機嫌がよいときの鶴榮の冗談は長引く。渋撥は不快そうな表情でポケットから煙草の箱を取り出した。煙草を一本引き出して唇に挟み、その間に箱はまたポケットの中へ。
「鶴」
「何や、今日は火ィ忘れたんか」
せっかく気を回してやった鶴榮の予想を裏切り、渋撥のポケットから100円ライターが出てきた。
「あの鼻ァどうした」
渋撥はそう言って煙草の先端に火を点した。鶴榮は渋撥の手の平のなかで点る仄かな赤い輝きを横目で見ながら「ああ、気づいたかあ」と零した。
渋撥がゆっくりと空に顎先を向け、白い煙がゆらりと立ち上った。煙の輪郭が浮かび上がるのは日が暮れたからだ。生暖かかった風がヒンヤリと頬をなぜる時刻に差しかかっていた。
「曜至やったガキと同じヤツか」
「みたいやで」
「フゥン。なかなか忙しいヤツやな」
「オマエ、どうするつもりや」
渋撥は何てことはない、取るに足らない雑談のように言った。対照的に、先ほどまで機嫌のよかった鶴榮のほうが途端に深刻な声になっていた。
王様然と君臨することが渋撥の宿命なら、鶴榮の使命はパラダイスの平和と安寧を維持すること。この王様は恐ろしく気紛れで独善的で凶暴だから、それは人が思っているほど楽な仕事ではない。
「どうもせえへん」
「動く気、あれへんのやな」
渋撥は「あぁ」と応え、煙草を口から放して灰を地面に落とした。
その一言を聞いた途端に鶴榮は肩から力を抜いたように見えた。そして自分の肩をトントンと叩いた。
「何や妙に気張ってんな」
「そーや。ワシはオマエの知らんトコでいっつも気ィ張ってんねん。偶には感謝してくれや」
鶴榮は冗談のように愚痴を零したが、渋撥の知らないところで配慮をしているのは事実だ。渋撥の拳は望もうとも望むまいと兇器を通り越し、狂気を宿し、人心に恐悸を齎す。そのような力は無為に振り回すべきではない。人として平穏無事に暮らしていけるようにと、鶴榮だけは友として切に願う。
「話がこれ以上でこうならんで済むならソレが一番ええんやけどな」
「済まんかったらどうなる」
鶴榮は蟀谷辺りを指先でカリカリと掻いた。
「相手の狙いが荒菱館なんやったらちぃっと面倒なことになる」
「そうか」
「それだけか。気楽なもんやな」
「頭使うのは俺の仕事ちゃう」
鶴榮は「はあー」と深い溜息を吐いた。そう高を括っているから、渋撥は波乱の予感がしても看過して関心なく放っておける。呆れるほど高慢で怠惰な王様だ。
「他人事みたいに言うとるけど、もしそうなったらお前が一等面倒なことになるんやで。少しは頭使う準備しといたらどうや。オマエ、いまだに自分の立場よう分かってへんやろ」
渋撥は「俺の立場?」と聞き返し、煙草を口に咥えたままハッと鼻先で笑った。
「そんなモン、イチイチオマエに言われんでも分かっとる」
渋撥の顔の表面をうっすらと覆っていた笑みがにわかに消え失せた。
「俺の仕事はぶっ殺すことなんやろ」
鶴榮には、他の誰にも見えていないものが見えている。人の姿をした鬼と誰よりも長く共に在るが故に。諦念とも決意ともつかない。雄々しく逞しく頼もしく、刹那的で暴力的で破滅的。この鬼そのものが不安定で歪で、弾ける寸前でギリギリの拮抗を保っている。拮抗が崩れたらどうなるか。鬼の中から真っ黒なものがおどろおどろしく溢れ出し、すべてを濁流で押し流してしまうのだ。
「ぎょうさん人使うて街中血眼になって犯人探し回って身元割り出して見つけ出してとっ捕まえてケジメつける。……想像しただけでもどんだけめんどい思てんねん。なるべくならやりたないわ、そんなこと」
「めんどいことは全部オマエらがやれ。最後のトドメだけは俺がキッチリ刺したるァ」
鶴榮には、随分投げ遣りな言い方に感じた。やりたくない気持ちを掻き消す為に、自身に強制する為に、無理矢理口に出しているような。
「オマエそれでええんか、撥」
鶴榮は急に足を停め、渋撥の腕を掴んだ。
「周りからそうするよに期待されとるからて、自分の役割分かったフリして、仕事みたいに義務みたいに、憎くもない相手追い詰めたりぶん殴ったり。他人の為に動いてやるなんかオマエらしくないで」
渋撥を鬼と恐れ王と崇める者は皆、口を揃えてその強さが価値のすべてであるかのように語る。渋撥本人が自身に暴力以外の存在価値を見出していないのと同じように、付き随う者も彼の暴力性以外を見ようとしない。彼がふるう圧倒的な暴力に目が眩んでしまっている。暴力という名の魔力は、それほどまでに兇悪で凄烈で魅力的なのだ。
「ワシらは神サンに化け物みたいな力もろたけど……ほんまモンの化け物ちゃう」
渋撥はまだ大分長さの残っている煙草をプッと足下に吐き捨てた。
「今更や。最初にそうせえ言うたのは、オマエやろ」
「それは――……」
鶴榮は渋撥が捨てた煙草を見た。眼下に広がる薄暗い地面の上で、先端だけが今にも消えそうに赤く煌めいていた。
ワシらみたいなバケモノは、そうやって人の世界に生きるしかないからや。
ワシらにこんな力を与えた神サンが手違いなんか、ワシらがこの世界に生まれてきたんが手違いなんかは分かれへんけど。
煙草の火がやけに明るく見えることで、いつの間にか陽が完全に沈んでいることに気づいた。夜の暗闇に包まれ、等間隔の街灯が標となり、辺りは静まり返っていた。
ひたり、ひたり、と道の先から足音が聞こえてきた。鶴榮は渋撥から手を離し、自然と足音のほうへ意識を向けた。鶴榮から「オイ」と声をかけられ、渋撥も同じ方向を見た。歩道に等間隔に立っている街灯の何本先であろうか、少年らしき人影が此方へ近づいてくる。普段なら気にも留めないが、今は時期が時期であるだけに注意を払ってしまう。
渋撥と鶴榮は揃って少年が歩いてくるほうへ歩き出した。この先が各々の自宅までの最短コースだし、この少年が件の人物であるのか確認する必要がある。
沈黙の中、時と距離だけが確実に縮まる。キャップを目深に被った少年、彼に近づくにつれ鶴榮は勘づかれないようにサングラスの下からマジマジと観察してみた。渋撥も少年を俯瞰から凝視するが、襲いかかってくるような気配はない。何と言うことはない、何処にでもいそうなごく普通の少年という印象を受けた。
丁度、少年とふたりが擦れ違う地点は街灯が煌々と照らす範囲内であった。キャップのつばが影を作っており少年の目許は窺えないが、顔の下半分は街灯に照らされてハッキリと分かった。スッキリした輪郭、細い顎、華奢な首、やたらと白い肌。
渋撥と鶴榮は少年とすれ違って二、三歩進み、お互いに何を確認し合うことなく足を止めて振り返った。
「なァ」
渋撥は、鶴榮に対して何の合図もなく突然少年に向かって声を発した。鶴榮は少々虚を突かれた。渋撥は何事にも無関心な質だから、よもや彼が声をかけるとは思っていなかった。
少年は足を止めてゆっくりとふたりのほうを振り返った。互いの距離は三メートルと少しといったくらいであろうか。少年の全体像を見るに、華奢な体つきであることは洋服の上からでも分かった。確かに曜至たちが言うように、まず高校生には見えなかった。
「荒菱館て知っとるか?」
今度は鶴榮が尋ねると、少年は思いがけず素直にコクンと頷いた。
「ここ最近立て続けにウチのモンやってくれとんの、自分ちゃうよなァ?」
少年を注意深く観察していた渋撥は見た。少年の口許が悪魔のように歪むのを。
ビョオビョオと風の音は鬼哭啾々。生暖かかった風がヒンヤリと頬をなぜる。時刻は逢魔ヶ時。このような刻は、悪魔に出逢ってもおかしくない。
「多分……そうなんちゃう?」
悪魔の声は、少女のように澄んでいた。
鶴榮はゴクリと生唾を嚥下した。まさかこんなところで鉢合わせするとは思ってもみなかった。
最初は小さな歯車の軋み。何枚もの歯が重なり合って絡み合い噛み合って噛み合って、次第に大きな歯車へ――――。
「そうやったら何?」
鶴榮はやや大きな声で「あァッ?」と少年に聞き返した。先輩や曜至が憤っていたように確かに面と向かって放言されるとカチンとくる。
「お兄ちゃんらァも昨日の人みたいにやる? カタキ討ちやって」
渋撥は「仇討ち?」と帽子を目深に被った少年に聞き返した。少年は鶴榮から渋撥のほうへと顔を向け、質問を肯定するように「ふう」と小さな息を吐いた。
「なんやえらい剣幕で怒ってはったよ。全然こっちの話聞かへんねやもん」
「せやさかい鼻折ったったんか、あァッ?」
鶴榮の敵対的な口調に対して少年は肩を竦めた。少し間を開けてからゆっくりと口を開いた。
「昨日の人、鼻やってしもたん? その前のお兄ちゃんは拳やって言うてたし、みんな可哀相になァ」
それはまるっきり他人事の口振りで、鶴榮は正直少々面喰らってしまった。世の中喧嘩両成敗。やってしまえばどちらが良いも悪いもないが、ここまで頓着がないのは無邪気を通り越して無知だ。罪の意識や他人の痛みについて無知なのだ。
「オマエが犯人で間違いなさそうや」
「犯人て……えらい言われようやけど」
「何でウチのモンを狙う? ジャリがたったひとりで荒菱館敵に回すつもりか」
少年は足許に向かって小さな溜息を漏らした。少し面倒臭そうな仕草だった。
「べつに……。全部売られたケンカやし、どこのガッコとか何やってる人とか興味あれへんし。ただ…………」
渋撥も鶴榮も少年の言葉の続きを黙って待った。何を思ったか少年は不意にフフッと笑みを零した。
「強い人なら嬉しいかな」
鶴榮は大きめの声で「はあ?」と聞き返した。少年の発言は十二分に想定外だった。外見の割りには過ぎたるものでも、自分よりも一回りは大きな年上の男たちを平伏させた実力に見合う尊大さは持ち合わせているらしい。
「で、どうする? お兄ちゃんも、やんの?」
少年は渋撥を狙い澄まして言い放った。ただの不遜ならまだしも知ってか知らずか、あまつさえ荒菱館の王様を挑発までする。恐い物知らずとはこのことだ。
少年の口許はまた、悪魔のように歪んでいた。自分でどのような顔で笑っているかなど知らないのだろうな。戦いに興じて踊り狂う悪魔の化身が無邪気に残酷に微笑んでいる。けれども戦い敗れた戦士をヴァルハラへと誘うヴァルキューレの如く端正で静謐。
「……分かった。ほなやるか」
渋撥の返事を聞いて鶴榮は驚愕した。
「ちょっ、オマエいきなり何言い出してんねん! さっきまで動く気ない言うてたやろッ」
「今、興味が湧いてきたんや」
「アホかーー!」
鶴榮は渋撥の肩を掴んだが、彼は肩を大きく振ってその手をを振り払った。そしてズンズンと少年へと驀地で距離を詰めてゆく。
鶴榮は「クソッ」と吐き捨てたが渋撥を制止することを諦めた。一度動き出したならば止められない。
渋撥が一体少年の何に掻き立てられたのか鶴榮にも分からない。渋撥に問うても言葉で上手く説明してくれることは望めないだろう。鶴榮は最早、渋撥と少年とのやり合いを通してそれを見極めるしかないと思った。
渋撥は少年に向かって拳を振りかぶった。
少年の身のこなしは素早く、渋撥の大振りの拳はブゥオンッと空を切った。渋撥が拳を振り切って肩を見せたところで少年の膝が浮いた。
バシィインッ!
側頭部に伸びてきた少年の蹴りを、渋撥は片手でガードした。渋撥は一見大柄で鈍重に見えるが、その反応速度は少年の予想よりも格段に速かった。少年がやや驚いている隙に、渋撥はすでに拳を振りかぶっていた。
少年は咄嗟に体の前で腕を十字に組んだ。その直後、渋撥の拳が少年を襲った。
ガキィンッ!
豪速球のような一撃。あと一瞬ガードを作るのが遅れていたら直撃は免れなかったであろう。
少年から「つっ……!」と細い声が漏れた。完全にガードしているのにお構いなしに質量が押し寄せてくる。モーションもタイミングもデタラメ。有無を言わさず腕力だけで凌駕してこようとする。
「あ!」
少年は、渋撥の腕力の前に踏み留まりきれなかった。足が地を離れて吹っ飛ばされた。
ずさっ……ざざざ、ずしゃあっ!
渋撥と距離を取りながらどうにか踏み留まり、体勢を崩しつつも無様に地べたに転倒することは免れた。
少年は右腕を押さえて顔を上げ、渋撥を見据えた。ガードした腕の指先までビリッビリッと痺れている。
(一発ガードしただけでもう腕が……。なんちゅう馬鹿力)
少年の視界の真ん中で、渋撥は憮然と佇んでいた。体勢を崩したのはチャンスだったはずなのに、猛攻することはなく落ち着き払っていた。顎をやや上げて俯瞰気味に此方を観察してくる。その視線は冷ややかなのに闘争心が剥き出しだった。敵を叩きのめすことに、地べたに這い蹲らせることに、跡形も無くグチャグチャに粉砕することに、何の抵抗もない無慈悲な敵意と純然たる破壊衝動。
――ゾクゥッ。
刃物のように鋭利な視線で突き刺されるのが、こんなにも気持ちがいいなんて。
身震いするほどの昂揚。脳や脊髄を支配する適度の戦慄。電気信号がシナプスを駆け巡って脳天から爪先までピリピリする。これまでに体験した似たような快感を完全に塗り替えた。これまで生きてきて、今日が最も気持ちいいと言っても過言ではない。
「くふっ……ふふ」
少年は肩を震わせて囀るように笑った。ゆるりとキャップのつばに手をかけ脱帽して足許に投げ捨てた。前髪を掻き上げて露わになった素顔は、悪魔とも天使ともつかない端正さだった。街灯を照り返すその双眸は、夜にギラギラと輝いていた。だからやはり、天使ではなく悪魔なのだろう。
鶴榮は街灯に煌々と照らされた少年の素顔をマジマジと観察した。敵を分析する為という目的が半分。残りの半分は純粋に目を奪われていた。天使みたいに笑う悪魔だなんて馬鹿げている。
(連日ケンカしてきた割にはキレエなツラしとる。ケンカで相手に顔殴らせへんっちゅうことか)
渋撥は悪魔の素顔を目にした途端、ストンと肩の力を落とした。
鶴榮が訝しげに「オイ?」と話しかけ、渋撥は突然クルリと踵を返して少年に背を向け歩き出した。「帰る」とだけ言って鶴榮の横を通過した。
鶴榮は完全に虚を突かれた。困惑しながらも慌てて渋撥の後を追った。
「オイオイオイ。急にどうした撥。急に仕掛けてみたり途中で已めたり」
「どうもこうも、あんなのとはやれん」
渋撥はガッカリした様子で溜息を吐いた。
「自分から始めといてコレか。ほんま何考えとんねん、ウチの王様は」
鶴榮は後頭部を掻きながら、ふと少年のほうを振り返った。訳の分からない自分と同じく、あの綺麗な顔でどのように面喰らっているか少し覗いてやろうと思った。
「‼」
鶴榮は目を見開いた。
サングラス越しに見ている夜の空を少年が泳いでいるように見えた。星屑を散らしたような端正な横顔が横断していった。
暗黒を纏った悪魔が、渋撥の背中に襲いかかる。
「撥ゥーーッ‼」
鶴榮は咄嗟に大声で叫んだ。
渋撥が振り返ったときには、少年のスニーカーの底が見えた。回避できる距離ではない。手立てを考えるより先に本能的に頭部をガードしていた。
ガッキィインッ!
少年の跳び蹴りが渋撥のガードに直撃した。急造のガードは崩され、顎先を捉えた。
しかしながら、ガードにより跳び蹴りの威力は半減した。渋撥は巨体をやや揺らめかせただけでその場に踏み留まった。華麗にアスファルトに着地した少年と、渋撥の視線がぶつかった。少年は着地した体勢のまま悔しそうな表情で渋撥を見詰めた。
(あのタイミングで外すなんて初めてや。ガードが間に合うて、どんな反射神経してんの)
渋撥は少年に視線を固定したまま自分の顎に触れた。スニーカーの底との摩擦で摩り切れた皮膚から血が滲んでおり、忌々しげに「クソが」と零した。彼にとっては痛むような傷ではないが、顔面を足蹴にされて上機嫌ではいられない。
「何で途中でやめんの」
足許からの問いかけを、渋撥はハッと鼻先で笑い飛ばした。
「女と殴り合いでけるか、ボケ。男に生まれ変わって出直してこい」
渋撥に駆け寄ってきた鶴榮は「はあッ⁉」と声を上げてビタッと動きを停めた。バッと少年の顔を確認し、すぐさま渋撥の顔を見た。うん、これは冗談で言っているのではないと確信を得て、再び少年のほうへと目を戻した。
「女ァッ⁉」
「何で分かれへんねん」
渋撥は自信満々で断言した。鶴榮は納得がいかない様子で何度も渋撥と少年との間で視線を行ったり来たりさせる。
「この前、曜至が道端で見つけた女や」
渋撥は「さァ見ろ」と言わんばかりに自分の足元の少年をビシッと指差した。
「あん時の子ォかァ⁉ んん~っ?」
鶴榮は首を伸ばして様々な角度から少年の素顔を不躾にじろじろと凝視する。そうまでしてもやはりピンと来なかった。言われてみれば確かに顔立ちは似ているのに、あの街角で笑っていた美少女とこの闘争心剥き出しの悪魔とが同一人物とは思えなかった。
渋撥は首を捻っている鶴榮を無視して〝少女〟に目を落とした。
「けったいな女やのォ。何が目的か知らんけど、無茶ばっかやらんとここで打ち止めにしとけ」
「アンタには関係あれへん。無茶してるつもりないし」
少女は間髪入れず言い返した。渋撥と目が合っても逸らそうとはせず強い視線を送り続けた。大の男でも渋撥と目が合うとそそくさと目を余所にやることが多々あるというのに、彼女は小枝のように細い手足と華奢な肉体と花のようなかんばせをもってして、臆すことなく怯むことなく毅然としていた。一輪の薔薇の香のように清しく凛と澄んだ目をして。
渋撥にとっては少々不思議な時間だった。敵の多い身であると自覚はあるが、流石に初対面の少女に挑まれ憎まれる理由など心当たりは無い。否、このような清澄な瞳の裏側にあるものが憎悪であるはずがない。そうだ、これはただひたすらに純粋な好奇心。
「……アホらし」
渋撥は溜息交じりに独り言を零した。
「何が無茶かも分かってへんジャリが。何で俺がオマエみたいな世間知らずに付き合ったらなあかんねん。帰れ。どうせ俺には勝たれへん」
少女は素早く立ち上がって「何で」と食い下がった。
「オマエが今までノしてきたヤツよりも俺のほうが強いからや」
「アンタよりウチのほうが強いかもしれへんやん」
「オマエ、ケンカで負けたことあれへんのか」
「無い」
「一遍もか」
「無い」
「そうか」
少女はハッとした。今の今まで淡々と声を発していた目の前の大男は、いつの間にか拳を握っていた。
気づいた次の瞬間ではすでに遅い。視界を突き進んでくる拳に目を奪われ、手足は動かずただただゾクッと戦慄に射抜かれた。
パンッ……パッ、パッ!
ズガァアンッ‼
顔面の直ぐ横を通り抜け、弾丸のような拳がコンクリート塀にぶち当たった。
ペキンッ、とコンクリート塀が剥離する音。弾丸が豪速で通過した後になって少女の額から汗がぶわっと噴き出した。
(迅い、打撃……!)
停止していた心臓が動き出し、喧しく警鐘の代わりに鼓動を掻き鳴らす。肋骨にぶつかりそうな勢いで心臓が大きく伸縮を繰り返しているのが分かる。反応するどころか身動きもできなかった。声すらも出なかった。不意だったとはいえ、咄嗟の防衛本能すらついてゆけなかった。この男が本当に殴る気でいたなら、弾丸で撃ち殺す気でいたなら、この一撃ですべては終わっていた。
(風を潰す音がした。到底受けきれへん……! ウチぐらいじゃ腕ごと壊されるっ……)
幼い頃から幾度となく稽古や手合わせをしてきたし、市井での揉め事も数多く経験した。それらを経て、女の身に生まれついたからには男女の肉体差は如何ともしがたいことは重々理解している。しかし、これほどまでに如実に力の差を思い知らされたのは初めてだった。
これまで拳を交えてきた者たちが皆、自分に対して手加減していたとは思わない。相手が本気かそうでないか見抜くくらいの目は持っている。故に、今夜出逢ったこの男が、近江渋撥が、隔絶された存在なのだと断言することができる。同じ野獣でありながら他とは確然たる格の差、それが王者たる資質。
圧倒的な力。圧倒的な威圧感。圧倒的な恐怖や戦慄。この男の持つすべてが、王であると誇示している。
ガッ、と突然頭を掴まれ、少女はギクッとして目を見開いた。その小さな頭は渋撥の大きな掌に優に収まってしまった。少女は完全に捕らえられたと思った。殴られる覚悟を決めて歯を食い縛った。
「もう一遍だけ言うたる。ここらで打ち止めにしとけ」
渋撥の声は、思っていたよりもずっと静かに響いた。
少女が狩人なら渋撥は野獣。その関係性は自然の摂理に帰すれば互いに獲物に他ならない。少女は捕らえられたからには当然喉元に食らいつかれると思っていた。そうしなかったということは、渋撥にとって少女はまさに歯牙にかける価値のある獲物ですらないということ。
少女は声も出なかった。拍子抜けしたのかもしれない、もしかしたら侮られたことを自覚してショックだったのかもしれない。どうして何も言えないのか自分でも分からず、ただ半ば呆然と三白眼を見詰めていた。
渋撥は悪魔ような少女からイエスの返答など求めなかった。少女の頭を一度ポンッと叩き、ズボンのポケットに手を突っこんだ。踵を返して無防備に背中を見せて歩き出した。
どんどん離れてゆく背中を、少女はただただ呆然と眺めていた。その背中には警戒心がまるでないのに、もう一度飛びかかる気概は湧いてこなかった。ほら、まだ声が出ない。引き留めるどころか、食い下がるどころか、身動きひとつできやしない。
天を駆る黒い翼は獣に喰まれ、地べたを這いずり回る獣によって悪魔はついには陥落された。獣の王は一噛み浴びせることもせず、悪魔の魂を持つ年若い狩人を残して去っていった。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
特段約束を交わしているわけではないが、同じクラスで同じ通学ルートだから下校が重なるのは自然の流れ。所謂幼馴染みだから自宅住所も近いのだ。
「オマエが麻雀なんぞやっとるさかい遅うなってしもたやろ」
渋撥は夕方の時分を過ぎ、群青色に染まった空を見上げて鶴榮に言った。
「こんな時間になってもーたんはワシの所為ちゃうで。ワシのひとり勝ちやったからなー。もう半荘もう半荘言われたら勝ち逃げでけへんやろ」
「嫌々の割りには気分良さそうやな」
「アイツら下手くそやからなんぼやってもワシの儲けやねん」
「オマエが稼ぎたいだけやろ」
渋撥に責められ、鶴榮は口を尖らせた。確かに直ぐ終わるからと言って待たせたのは鶴榮のほうだった。
「どーせ早よ家に帰ったかてすることあれへんやろ。家でひとりで時間持て余しとるぐらいやったらオマエも麻雀くらい覚えーや」
「興味あれへん」
「オマエ昔からせえへんなァ。嫌いなんか、博奕」
「嫌いも何も興味あれへん」
「まあ、撥はルール覚えるのがワヤやでなあ」
「オイ、人をアホみたいに言うな。俺は興味がない言うてんねん」
渋撥はブスッとして鶴榮の足を爪先で軽く蹴飛ばした。
「俺は鶴ほどヒマちゃう」
「オマエ何か忙しいことあったかァ? 無趣味のクセに」
「自分でメシ作らんでええヤツは呑気なもんや」
「オマエがそのツラで律儀にメシ作っとるっちゅうほうが似合わへん」
「腹が減ったら自分で作らな誰が食わしてくれんねん」
「そう言えば、オマエの得意料理て何や。今度ワシにも食わしてくれや」
「キショイことぬかすな」
渋撥は鶴榮の肩をドンッと突き飛ばした。自分の分だって飢えに耐えかねて必要に駆られてやっているだけなのに、男に料理を作ってやるなんて想像するだけで寒気がする。
鶴榮にしたって本気で渋撥から手料理を振る舞われることなど期待してはいない。カッカッカッと肩を揺すって笑った。
「何やったら今日ウチでメシ食ってくか? ゴチソーちゃうけど、おかんのメシはなかなかウマイで」
「またにしとくわ」
「遠慮すんな。ちゅうかウチのおかんより撥のほうがメシ美味かったら嫌やな~」
「オマエしつこいねん。シバくぞ」
機嫌がよいときの鶴榮の冗談は長引く。渋撥は不快そうな表情でポケットから煙草の箱を取り出した。煙草を一本引き出して唇に挟み、その間に箱はまたポケットの中へ。
「鶴」
「何や、今日は火ィ忘れたんか」
せっかく気を回してやった鶴榮の予想を裏切り、渋撥のポケットから100円ライターが出てきた。
「あの鼻ァどうした」
渋撥はそう言って煙草の先端に火を点した。鶴榮は渋撥の手の平のなかで点る仄かな赤い輝きを横目で見ながら「ああ、気づいたかあ」と零した。
渋撥がゆっくりと空に顎先を向け、白い煙がゆらりと立ち上った。煙の輪郭が浮かび上がるのは日が暮れたからだ。生暖かかった風がヒンヤリと頬をなぜる時刻に差しかかっていた。
「曜至やったガキと同じヤツか」
「みたいやで」
「フゥン。なかなか忙しいヤツやな」
「オマエ、どうするつもりや」
渋撥は何てことはない、取るに足らない雑談のように言った。対照的に、先ほどまで機嫌のよかった鶴榮のほうが途端に深刻な声になっていた。
王様然と君臨することが渋撥の宿命なら、鶴榮の使命はパラダイスの平和と安寧を維持すること。この王様は恐ろしく気紛れで独善的で凶暴だから、それは人が思っているほど楽な仕事ではない。
「どうもせえへん」
「動く気、あれへんのやな」
渋撥は「あぁ」と応え、煙草を口から放して灰を地面に落とした。
その一言を聞いた途端に鶴榮は肩から力を抜いたように見えた。そして自分の肩をトントンと叩いた。
「何や妙に気張ってんな」
「そーや。ワシはオマエの知らんトコでいっつも気ィ張ってんねん。偶には感謝してくれや」
鶴榮は冗談のように愚痴を零したが、渋撥の知らないところで配慮をしているのは事実だ。渋撥の拳は望もうとも望むまいと兇器を通り越し、狂気を宿し、人心に恐悸を齎す。そのような力は無為に振り回すべきではない。人として平穏無事に暮らしていけるようにと、鶴榮だけは友として切に願う。
「話がこれ以上でこうならんで済むならソレが一番ええんやけどな」
「済まんかったらどうなる」
鶴榮は蟀谷辺りを指先でカリカリと掻いた。
「相手の狙いが荒菱館なんやったらちぃっと面倒なことになる」
「そうか」
「それだけか。気楽なもんやな」
「頭使うのは俺の仕事ちゃう」
鶴榮は「はあー」と深い溜息を吐いた。そう高を括っているから、渋撥は波乱の予感がしても看過して関心なく放っておける。呆れるほど高慢で怠惰な王様だ。
「他人事みたいに言うとるけど、もしそうなったらお前が一等面倒なことになるんやで。少しは頭使う準備しといたらどうや。オマエ、いまだに自分の立場よう分かってへんやろ」
渋撥は「俺の立場?」と聞き返し、煙草を口に咥えたままハッと鼻先で笑った。
「そんなモン、イチイチオマエに言われんでも分かっとる」
渋撥の顔の表面をうっすらと覆っていた笑みがにわかに消え失せた。
「俺の仕事はぶっ殺すことなんやろ」
鶴榮には、他の誰にも見えていないものが見えている。人の姿をした鬼と誰よりも長く共に在るが故に。諦念とも決意ともつかない。雄々しく逞しく頼もしく、刹那的で暴力的で破滅的。この鬼そのものが不安定で歪で、弾ける寸前でギリギリの拮抗を保っている。拮抗が崩れたらどうなるか。鬼の中から真っ黒なものがおどろおどろしく溢れ出し、すべてを濁流で押し流してしまうのだ。
「ぎょうさん人使うて街中血眼になって犯人探し回って身元割り出して見つけ出してとっ捕まえてケジメつける。……想像しただけでもどんだけめんどい思てんねん。なるべくならやりたないわ、そんなこと」
「めんどいことは全部オマエらがやれ。最後のトドメだけは俺がキッチリ刺したるァ」
鶴榮には、随分投げ遣りな言い方に感じた。やりたくない気持ちを掻き消す為に、自身に強制する為に、無理矢理口に出しているような。
「オマエそれでええんか、撥」
鶴榮は急に足を停め、渋撥の腕を掴んだ。
「周りからそうするよに期待されとるからて、自分の役割分かったフリして、仕事みたいに義務みたいに、憎くもない相手追い詰めたりぶん殴ったり。他人の為に動いてやるなんかオマエらしくないで」
渋撥を鬼と恐れ王と崇める者は皆、口を揃えてその強さが価値のすべてであるかのように語る。渋撥本人が自身に暴力以外の存在価値を見出していないのと同じように、付き随う者も彼の暴力性以外を見ようとしない。彼がふるう圧倒的な暴力に目が眩んでしまっている。暴力という名の魔力は、それほどまでに兇悪で凄烈で魅力的なのだ。
「ワシらは神サンに化け物みたいな力もろたけど……ほんまモンの化け物ちゃう」
渋撥はまだ大分長さの残っている煙草をプッと足下に吐き捨てた。
「今更や。最初にそうせえ言うたのは、オマエやろ」
「それは――……」
鶴榮は渋撥が捨てた煙草を見た。眼下に広がる薄暗い地面の上で、先端だけが今にも消えそうに赤く煌めいていた。
ワシらみたいなバケモノは、そうやって人の世界に生きるしかないからや。
ワシらにこんな力を与えた神サンが手違いなんか、ワシらがこの世界に生まれてきたんが手違いなんかは分かれへんけど。
煙草の火がやけに明るく見えることで、いつの間にか陽が完全に沈んでいることに気づいた。夜の暗闇に包まれ、等間隔の街灯が標となり、辺りは静まり返っていた。
ひたり、ひたり、と道の先から足音が聞こえてきた。鶴榮は渋撥から手を離し、自然と足音のほうへ意識を向けた。鶴榮から「オイ」と声をかけられ、渋撥も同じ方向を見た。歩道に等間隔に立っている街灯の何本先であろうか、少年らしき人影が此方へ近づいてくる。普段なら気にも留めないが、今は時期が時期であるだけに注意を払ってしまう。
渋撥と鶴榮は揃って少年が歩いてくるほうへ歩き出した。この先が各々の自宅までの最短コースだし、この少年が件の人物であるのか確認する必要がある。
沈黙の中、時と距離だけが確実に縮まる。キャップを目深に被った少年、彼に近づくにつれ鶴榮は勘づかれないようにサングラスの下からマジマジと観察してみた。渋撥も少年を俯瞰から凝視するが、襲いかかってくるような気配はない。何と言うことはない、何処にでもいそうなごく普通の少年という印象を受けた。
丁度、少年とふたりが擦れ違う地点は街灯が煌々と照らす範囲内であった。キャップのつばが影を作っており少年の目許は窺えないが、顔の下半分は街灯に照らされてハッキリと分かった。スッキリした輪郭、細い顎、華奢な首、やたらと白い肌。
渋撥と鶴榮は少年とすれ違って二、三歩進み、お互いに何を確認し合うことなく足を止めて振り返った。
「なァ」
渋撥は、鶴榮に対して何の合図もなく突然少年に向かって声を発した。鶴榮は少々虚を突かれた。渋撥は何事にも無関心な質だから、よもや彼が声をかけるとは思っていなかった。
少年は足を止めてゆっくりとふたりのほうを振り返った。互いの距離は三メートルと少しといったくらいであろうか。少年の全体像を見るに、華奢な体つきであることは洋服の上からでも分かった。確かに曜至たちが言うように、まず高校生には見えなかった。
「荒菱館て知っとるか?」
今度は鶴榮が尋ねると、少年は思いがけず素直にコクンと頷いた。
「ここ最近立て続けにウチのモンやってくれとんの、自分ちゃうよなァ?」
少年を注意深く観察していた渋撥は見た。少年の口許が悪魔のように歪むのを。
ビョオビョオと風の音は鬼哭啾々。生暖かかった風がヒンヤリと頬をなぜる。時刻は逢魔ヶ時。このような刻は、悪魔に出逢ってもおかしくない。
「多分……そうなんちゃう?」
悪魔の声は、少女のように澄んでいた。
鶴榮はゴクリと生唾を嚥下した。まさかこんなところで鉢合わせするとは思ってもみなかった。
最初は小さな歯車の軋み。何枚もの歯が重なり合って絡み合い噛み合って噛み合って、次第に大きな歯車へ――――。
「そうやったら何?」
鶴榮はやや大きな声で「あァッ?」と少年に聞き返した。先輩や曜至が憤っていたように確かに面と向かって放言されるとカチンとくる。
「お兄ちゃんらァも昨日の人みたいにやる? カタキ討ちやって」
渋撥は「仇討ち?」と帽子を目深に被った少年に聞き返した。少年は鶴榮から渋撥のほうへと顔を向け、質問を肯定するように「ふう」と小さな息を吐いた。
「なんやえらい剣幕で怒ってはったよ。全然こっちの話聞かへんねやもん」
「せやさかい鼻折ったったんか、あァッ?」
鶴榮の敵対的な口調に対して少年は肩を竦めた。少し間を開けてからゆっくりと口を開いた。
「昨日の人、鼻やってしもたん? その前のお兄ちゃんは拳やって言うてたし、みんな可哀相になァ」
それはまるっきり他人事の口振りで、鶴榮は正直少々面喰らってしまった。世の中喧嘩両成敗。やってしまえばどちらが良いも悪いもないが、ここまで頓着がないのは無邪気を通り越して無知だ。罪の意識や他人の痛みについて無知なのだ。
「オマエが犯人で間違いなさそうや」
「犯人て……えらい言われようやけど」
「何でウチのモンを狙う? ジャリがたったひとりで荒菱館敵に回すつもりか」
少年は足許に向かって小さな溜息を漏らした。少し面倒臭そうな仕草だった。
「べつに……。全部売られたケンカやし、どこのガッコとか何やってる人とか興味あれへんし。ただ…………」
渋撥も鶴榮も少年の言葉の続きを黙って待った。何を思ったか少年は不意にフフッと笑みを零した。
「強い人なら嬉しいかな」
鶴榮は大きめの声で「はあ?」と聞き返した。少年の発言は十二分に想定外だった。外見の割りには過ぎたるものでも、自分よりも一回りは大きな年上の男たちを平伏させた実力に見合う尊大さは持ち合わせているらしい。
「で、どうする? お兄ちゃんも、やんの?」
少年は渋撥を狙い澄まして言い放った。ただの不遜ならまだしも知ってか知らずか、あまつさえ荒菱館の王様を挑発までする。恐い物知らずとはこのことだ。
少年の口許はまた、悪魔のように歪んでいた。自分でどのような顔で笑っているかなど知らないのだろうな。戦いに興じて踊り狂う悪魔の化身が無邪気に残酷に微笑んでいる。けれども戦い敗れた戦士をヴァルハラへと誘うヴァルキューレの如く端正で静謐。
「……分かった。ほなやるか」
渋撥の返事を聞いて鶴榮は驚愕した。
「ちょっ、オマエいきなり何言い出してんねん! さっきまで動く気ない言うてたやろッ」
「今、興味が湧いてきたんや」
「アホかーー!」
鶴榮は渋撥の肩を掴んだが、彼は肩を大きく振ってその手をを振り払った。そしてズンズンと少年へと驀地で距離を詰めてゆく。
鶴榮は「クソッ」と吐き捨てたが渋撥を制止することを諦めた。一度動き出したならば止められない。
渋撥が一体少年の何に掻き立てられたのか鶴榮にも分からない。渋撥に問うても言葉で上手く説明してくれることは望めないだろう。鶴榮は最早、渋撥と少年とのやり合いを通してそれを見極めるしかないと思った。
渋撥は少年に向かって拳を振りかぶった。
少年の身のこなしは素早く、渋撥の大振りの拳はブゥオンッと空を切った。渋撥が拳を振り切って肩を見せたところで少年の膝が浮いた。
バシィインッ!
側頭部に伸びてきた少年の蹴りを、渋撥は片手でガードした。渋撥は一見大柄で鈍重に見えるが、その反応速度は少年の予想よりも格段に速かった。少年がやや驚いている隙に、渋撥はすでに拳を振りかぶっていた。
少年は咄嗟に体の前で腕を十字に組んだ。その直後、渋撥の拳が少年を襲った。
ガキィンッ!
豪速球のような一撃。あと一瞬ガードを作るのが遅れていたら直撃は免れなかったであろう。
少年から「つっ……!」と細い声が漏れた。完全にガードしているのにお構いなしに質量が押し寄せてくる。モーションもタイミングもデタラメ。有無を言わさず腕力だけで凌駕してこようとする。
「あ!」
少年は、渋撥の腕力の前に踏み留まりきれなかった。足が地を離れて吹っ飛ばされた。
ずさっ……ざざざ、ずしゃあっ!
渋撥と距離を取りながらどうにか踏み留まり、体勢を崩しつつも無様に地べたに転倒することは免れた。
少年は右腕を押さえて顔を上げ、渋撥を見据えた。ガードした腕の指先までビリッビリッと痺れている。
(一発ガードしただけでもう腕が……。なんちゅう馬鹿力)
少年の視界の真ん中で、渋撥は憮然と佇んでいた。体勢を崩したのはチャンスだったはずなのに、猛攻することはなく落ち着き払っていた。顎をやや上げて俯瞰気味に此方を観察してくる。その視線は冷ややかなのに闘争心が剥き出しだった。敵を叩きのめすことに、地べたに這い蹲らせることに、跡形も無くグチャグチャに粉砕することに、何の抵抗もない無慈悲な敵意と純然たる破壊衝動。
――ゾクゥッ。
刃物のように鋭利な視線で突き刺されるのが、こんなにも気持ちがいいなんて。
身震いするほどの昂揚。脳や脊髄を支配する適度の戦慄。電気信号がシナプスを駆け巡って脳天から爪先までピリピリする。これまでに体験した似たような快感を完全に塗り替えた。これまで生きてきて、今日が最も気持ちいいと言っても過言ではない。
「くふっ……ふふ」
少年は肩を震わせて囀るように笑った。ゆるりとキャップのつばに手をかけ脱帽して足許に投げ捨てた。前髪を掻き上げて露わになった素顔は、悪魔とも天使ともつかない端正さだった。街灯を照り返すその双眸は、夜にギラギラと輝いていた。だからやはり、天使ではなく悪魔なのだろう。
鶴榮は街灯に煌々と照らされた少年の素顔をマジマジと観察した。敵を分析する為という目的が半分。残りの半分は純粋に目を奪われていた。天使みたいに笑う悪魔だなんて馬鹿げている。
(連日ケンカしてきた割にはキレエなツラしとる。ケンカで相手に顔殴らせへんっちゅうことか)
渋撥は悪魔の素顔を目にした途端、ストンと肩の力を落とした。
鶴榮が訝しげに「オイ?」と話しかけ、渋撥は突然クルリと踵を返して少年に背を向け歩き出した。「帰る」とだけ言って鶴榮の横を通過した。
鶴榮は完全に虚を突かれた。困惑しながらも慌てて渋撥の後を追った。
「オイオイオイ。急にどうした撥。急に仕掛けてみたり途中で已めたり」
「どうもこうも、あんなのとはやれん」
渋撥はガッカリした様子で溜息を吐いた。
「自分から始めといてコレか。ほんま何考えとんねん、ウチの王様は」
鶴榮は後頭部を掻きながら、ふと少年のほうを振り返った。訳の分からない自分と同じく、あの綺麗な顔でどのように面喰らっているか少し覗いてやろうと思った。
「‼」
鶴榮は目を見開いた。
サングラス越しに見ている夜の空を少年が泳いでいるように見えた。星屑を散らしたような端正な横顔が横断していった。
暗黒を纏った悪魔が、渋撥の背中に襲いかかる。
「撥ゥーーッ‼」
鶴榮は咄嗟に大声で叫んだ。
渋撥が振り返ったときには、少年のスニーカーの底が見えた。回避できる距離ではない。手立てを考えるより先に本能的に頭部をガードしていた。
ガッキィインッ!
少年の跳び蹴りが渋撥のガードに直撃した。急造のガードは崩され、顎先を捉えた。
しかしながら、ガードにより跳び蹴りの威力は半減した。渋撥は巨体をやや揺らめかせただけでその場に踏み留まった。華麗にアスファルトに着地した少年と、渋撥の視線がぶつかった。少年は着地した体勢のまま悔しそうな表情で渋撥を見詰めた。
(あのタイミングで外すなんて初めてや。ガードが間に合うて、どんな反射神経してんの)
渋撥は少年に視線を固定したまま自分の顎に触れた。スニーカーの底との摩擦で摩り切れた皮膚から血が滲んでおり、忌々しげに「クソが」と零した。彼にとっては痛むような傷ではないが、顔面を足蹴にされて上機嫌ではいられない。
「何で途中でやめんの」
足許からの問いかけを、渋撥はハッと鼻先で笑い飛ばした。
「女と殴り合いでけるか、ボケ。男に生まれ変わって出直してこい」
渋撥に駆け寄ってきた鶴榮は「はあッ⁉」と声を上げてビタッと動きを停めた。バッと少年の顔を確認し、すぐさま渋撥の顔を見た。うん、これは冗談で言っているのではないと確信を得て、再び少年のほうへと目を戻した。
「女ァッ⁉」
「何で分かれへんねん」
渋撥は自信満々で断言した。鶴榮は納得がいかない様子で何度も渋撥と少年との間で視線を行ったり来たりさせる。
「この前、曜至が道端で見つけた女や」
渋撥は「さァ見ろ」と言わんばかりに自分の足元の少年をビシッと指差した。
「あん時の子ォかァ⁉ んん~っ?」
鶴榮は首を伸ばして様々な角度から少年の素顔を不躾にじろじろと凝視する。そうまでしてもやはりピンと来なかった。言われてみれば確かに顔立ちは似ているのに、あの街角で笑っていた美少女とこの闘争心剥き出しの悪魔とが同一人物とは思えなかった。
渋撥は首を捻っている鶴榮を無視して〝少女〟に目を落とした。
「けったいな女やのォ。何が目的か知らんけど、無茶ばっかやらんとここで打ち止めにしとけ」
「アンタには関係あれへん。無茶してるつもりないし」
少女は間髪入れず言い返した。渋撥と目が合っても逸らそうとはせず強い視線を送り続けた。大の男でも渋撥と目が合うとそそくさと目を余所にやることが多々あるというのに、彼女は小枝のように細い手足と華奢な肉体と花のようなかんばせをもってして、臆すことなく怯むことなく毅然としていた。一輪の薔薇の香のように清しく凛と澄んだ目をして。
渋撥にとっては少々不思議な時間だった。敵の多い身であると自覚はあるが、流石に初対面の少女に挑まれ憎まれる理由など心当たりは無い。否、このような清澄な瞳の裏側にあるものが憎悪であるはずがない。そうだ、これはただひたすらに純粋な好奇心。
「……アホらし」
渋撥は溜息交じりに独り言を零した。
「何が無茶かも分かってへんジャリが。何で俺がオマエみたいな世間知らずに付き合ったらなあかんねん。帰れ。どうせ俺には勝たれへん」
少女は素早く立ち上がって「何で」と食い下がった。
「オマエが今までノしてきたヤツよりも俺のほうが強いからや」
「アンタよりウチのほうが強いかもしれへんやん」
「オマエ、ケンカで負けたことあれへんのか」
「無い」
「一遍もか」
「無い」
「そうか」
少女はハッとした。今の今まで淡々と声を発していた目の前の大男は、いつの間にか拳を握っていた。
気づいた次の瞬間ではすでに遅い。視界を突き進んでくる拳に目を奪われ、手足は動かずただただゾクッと戦慄に射抜かれた。
パンッ……パッ、パッ!
ズガァアンッ‼
顔面の直ぐ横を通り抜け、弾丸のような拳がコンクリート塀にぶち当たった。
ペキンッ、とコンクリート塀が剥離する音。弾丸が豪速で通過した後になって少女の額から汗がぶわっと噴き出した。
(迅い、打撃……!)
停止していた心臓が動き出し、喧しく警鐘の代わりに鼓動を掻き鳴らす。肋骨にぶつかりそうな勢いで心臓が大きく伸縮を繰り返しているのが分かる。反応するどころか身動きもできなかった。声すらも出なかった。不意だったとはいえ、咄嗟の防衛本能すらついてゆけなかった。この男が本当に殴る気でいたなら、弾丸で撃ち殺す気でいたなら、この一撃ですべては終わっていた。
(風を潰す音がした。到底受けきれへん……! ウチぐらいじゃ腕ごと壊されるっ……)
幼い頃から幾度となく稽古や手合わせをしてきたし、市井での揉め事も数多く経験した。それらを経て、女の身に生まれついたからには男女の肉体差は如何ともしがたいことは重々理解している。しかし、これほどまでに如実に力の差を思い知らされたのは初めてだった。
これまで拳を交えてきた者たちが皆、自分に対して手加減していたとは思わない。相手が本気かそうでないか見抜くくらいの目は持っている。故に、今夜出逢ったこの男が、近江渋撥が、隔絶された存在なのだと断言することができる。同じ野獣でありながら他とは確然たる格の差、それが王者たる資質。
圧倒的な力。圧倒的な威圧感。圧倒的な恐怖や戦慄。この男の持つすべてが、王であると誇示している。
ガッ、と突然頭を掴まれ、少女はギクッとして目を見開いた。その小さな頭は渋撥の大きな掌に優に収まってしまった。少女は完全に捕らえられたと思った。殴られる覚悟を決めて歯を食い縛った。
「もう一遍だけ言うたる。ここらで打ち止めにしとけ」
渋撥の声は、思っていたよりもずっと静かに響いた。
少女が狩人なら渋撥は野獣。その関係性は自然の摂理に帰すれば互いに獲物に他ならない。少女は捕らえられたからには当然喉元に食らいつかれると思っていた。そうしなかったということは、渋撥にとって少女はまさに歯牙にかける価値のある獲物ですらないということ。
少女は声も出なかった。拍子抜けしたのかもしれない、もしかしたら侮られたことを自覚してショックだったのかもしれない。どうして何も言えないのか自分でも分からず、ただ半ば呆然と三白眼を見詰めていた。
渋撥は悪魔ような少女からイエスの返答など求めなかった。少女の頭を一度ポンッと叩き、ズボンのポケットに手を突っこんだ。踵を返して無防備に背中を見せて歩き出した。
どんどん離れてゆく背中を、少女はただただ呆然と眺めていた。その背中には警戒心がまるでないのに、もう一度飛びかかる気概は湧いてこなかった。ほら、まだ声が出ない。引き留めるどころか、食い下がるどころか、身動きひとつできやしない。
天を駆る黒い翼は獣に喰まれ、地べたを這いずり回る獣によって悪魔はついには陥落された。獣の王は一噛み浴びせることもせず、悪魔の魂を持つ年若い狩人を残して去っていった。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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