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第七話 蛇と狸は仲がいい。
しおりを挟む試合会場でのトーナメント表が決定し、第一試合の用意が進められている中、ステージを一望出来る豪奢な部屋には二人の男が豪奢な椅子に座り、歓談していた。
かたや上質でくどくないきらびやかさを備えた衣をまとった、物腰の柔らかい小太りの男。
かたや上質ながら無駄が一切見られないローブをまとった鷹の目のような鋭い眼光のやせぎすな男。
そんな正反対な二人が同席していながらもその場の空気は実に和やかだった。
そんな中でやせぎすな男、ネクス・ハシャックはその鋭い目つきである一点を睨みつけながらつぶやいた。
「しかしエヴォルか…」
「今年はどんな試合を…ハシャック殿?いかがなされた?」
そんなネクスの小さな一言に同席していた小太りの男が気づいた。
「ん?あぁいや話の途中で上の空とはすまない、ケーモ殿。少し教え子たちの対戦相手のことを考えていましてな」
ケーモと呼ばれた男はその名前を聞いて、はて?と少し考える素振りを見せた。
そしてすぐにネクスの教え子のことを思い出した。
「教え子…あぁ!【不死の黄金鳥】でしたか」
「えぇ」
ケーモは合点がいったと、すっきりした表情で続けた。
「かの【不死の黄金鳥】もかなり腕を上げましたな。まぁ教えてもいない私が言うのも変な話ですが」
「いや、ケーモ殿や他の方の助力あってこそですよ」
ネクスは少しだけ口角を上げて答えた。
そしてそのまま話題を変えた。
「ところで出資者組合のほうであのエヴォルというチームに聞き覚えはありますかな?」
「エヴォルですか…」
ケーモは【ヴァルキュア黒狼騎士杯】の出資を目的とした商人の組合を運営していた。
ネクスはその組合で何か情報を得ていないか
だがケーモはその問いに少しだけ苦い顔をしながら返した。
「あー…それなんですが、私どものほうでも昨日の本戦出場を受けて各チームのことを調べたんです。ですがエヴォルという名前も登録選手たちの名前も何も情報がかすらなかったんです」
ケーモは続けた。
「それにあの奇抜な格好ならと服飾関係の知人に訊ねても誰の記憶にも思い当たるフシがありませんで…組合での結論を言いますと、どこぞの辺境から来た田舎者が腕試しに来たのだろうということになりましてな」
「ふむ…」
その商人として情報収集に富むケーモを含めた出資者組合の話でエヴォルは自分が感じているような、異様な存在ではないのではないかとネクスは感じた。
ネクスが考えていることに構わず、そのままケーモは話した。
「初出場で本戦出場とはなかなかやるようですが、まぁ【不死の黄金鳥】ならば何も問題は…何か気がかりなことでも?」
「…いや、なんでもありません」
話している途中でネクスの表情の異変に感づいたのか、ケーモは話題を打ち切った。
しかしネクスはそれ以上掘り下げることなく、話題を切り替えた。
「そうはそうと今回も前回に引き続き組合から出資していただき、感謝いたします」
話題を切り替えたネクスは感謝の言葉とともに、椅子に座ったまま頭を深く下げた。
その行動にギョッとしたケーモは慌てて、ネクスの頭を上げさせようとした。
「いえいえ!顔を上げてくだされ!我々としては好きでやらせていただいている上に会場外での営業をさせてもらっておりますので感謝するのはこちらも同じ!それに出資は場所代のようなものですし…」
それに対し、ネクスは頭を上げながら答えた。
「そうであっても形式上はこちらがしていただいたものに変わりありません。言葉だけでも受け取っていただきたい」
「…そういうことなら。ではまた次回の開催でもきっちりと支援させてくだされ」
ケーモはネクスが折れないことを感じると諦め気味に言った。
会話が途切れると同時に部屋の扉を叩く音が室内に響いた。
ネクスは訝しく思いながらも一言添え、応対した。
「失礼…誰だ」
「【不死の黄金鳥】のカエ・フレイヤです」
「カエ?…少し待て」
ネクスはケーモへ教え子の失礼を謝罪した。
「お話の腰を折って申し訳ない。教え子が至らぬばかりに…」
「気になさらんでくだされ。それに私としても渡りに船というもの。よければご挨拶をさせてはいただけませんか?」
「…わかりました。入れ」
「はっ!お話中のところ失礼します!」
威勢よく、扉から入ってきたのは、はっきりしたつり目な赤い瞳に、瞳と同じ色の燃えるような髪をした美しい女性、カエ・フレイヤだった。
「お前の顔を覚えてもらおうと思ってな。こちらの方は毎回騎士杯に出資してくださっている組合のケーモ殿だ。組合長をなさっている」
ネクスの紹介を受けるとケーモは即座に話し始めた。
「お初にお目にかかります。【不死の黄金鳥】やフレイヤ殿のことは聞き及んでおります。前回の騎士杯での戦いぶりはまさに戦神のごとくでしたな」
「いえそんな…ハシャック先生の御指導あってこそですから」
カエが謙遜するとケーモは頬を上げた。
「それを含めても、ですよ。それに前回の兄弟子たちとの同門対決は年甲斐もなくたぎらせてもらいました。それに今回は1勝したらすぐに同門対決。前回決勝の再現が早々に見れるとなったら今からワクワクで」
「それもこれもまずは1勝したらのお話ですがね」
「…」
ケーモからの持ち上げで気を良くしていたカエだったが、ピシャリと言い放たれたネクスの一言で一気に顔を引き締めた。
その光景を見たケーモは思わず、大笑いした。
「ハッハッハ!これはなかなか手厳しい先生だ…もっと話していたいところですがお時間のようだ。フレイヤ殿、楽しい時間をありがとう」
部屋の時計をちらりと見たケーモは話を切り上げ、席を立った。
そして感謝の言葉をカエに残しつつ、握手を求めた。
カエはそれを見て慌てて手を伸ばし、返した。
「い、いえ!こちらこそありがとうございます」
「試合、ぜひとも応援させていただきます…ではハシャック殿、これにて」
「良き会談でした。ぜひ楽しんでいってください」
ケーモが席を立つと同時に立ち上がっていたネクスが同様にケーモと握手するとそのままの流れでケーモの退室まで見送った。
見送り終わると、先ほどまで座っていた椅子に腰かけ、カエへ問いかけた。
「それで…試合前の大事な時間にお前は何しに来た?」
「あの、それは…」
静かながら重みを感じてしまうほどのネクスからの問いは、カエを縮こませた。
話が進まないと感じたネクスは自ら切り出した。
「…まぁいい。先ほどの方は今後とも付き合いの多くなるお人だ。きっちりと顔を覚えておきなさい」
「あっ…わかっております…先生」
そう言われ、シュンとした顔を見せたカエを見て、カエがこの場に来た魂胆を理解したネクスは小さくため息をつき続けた。
「それと…お前たちの全力を出してこい。そうすれば勝てない相手はいない」
「え…は、はい!」
そんなネクスからの激励を耳にしたカエは一瞬何を言われたのか理解できなかった。
だが、じわりじわりと実感してからは次第に明るさを取り戻し、まばゆいまでの明るい表情になった。
「だが、初戦には注意しろ。それだけだ」
「…はい…?」
カエは何を言われたのか理解できなかった。
その上、思考を遮られるようにネクスから会話を打ち切られた。
「話は終わりだ。試合の準備に行ってこい」
「わ、わかりました!ありがとうございます!」
カエは考える暇もなくネクスに退出を命じられた。
そして促されるまま、爛々とした表情はそのままに部屋から出ていった。
「エヴォルか…調べておけ」
「…はっ」
ネクスの他には誰もいないはずの部屋でそうつぶやくとネクス・ハシャックはその鋭い目つきで会場の一点を見つめるのであった。
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