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第十九話 動向確定
しおりを挟む「記憶喪失か…」
そう言いながらダースはううむと唸った。
すかさずフィーがフォローするように口を挟んだ。
「この場合だと私たちが保護する必要がありますね」
「…なんにせよ、このあと行動を共にすることには変わりないな」
少し考えていたダースは、一旦答えを保留にした。
「アイも我々と同行する形で問題はないか?」
「えっ、あっはい」
ダースからそう確認されたアイもとっさに肯定した。
ダースは頷いて返すとそのまま続けた。
「ひとまずアイに関しては同行させ、保護継続とするとして、先に俺たちの報告を済ませておこう。アイのことに関する内容も含まれているから、記憶を思い出す鍵があるかもしれない。聞いていてくれ」
グー。
するとタイミングを見計らうように、アイの腹の虫が部屋に響いた。
当人は顔を赤らめながらうつむいた。
「…あ…すみません…」
「フフ、安心してお腹が空いちゃったかしら?」
ワーシャはそう言って腰を上げた。
「アタシが何か軽いものでももらってくるわね」
「では私が」
「シアはダメよ!ちゃんと報告聞かなきゃ」
代わりに行こうとシアが立ち上がろうとしたが、ワーシャ本人から止められた。
「それにアタシはダースといっしょだったから、報告は聞かなくても問題ないしね」
「…わかりました」
渋々といった感じでシアが引き下がり、そのまま腰を下ろすのを確認すると、ワーシャは手のひらをヒラヒラさせながら扉に向かって行った。
「それじゃアイちゃんも話聞きながら待っててね~」
「あっはい」
アイが返事をするとそのままワーシャは部屋を出ていった。
それを確認するとまたダースが話し始めた。
「…では改めて、俺からの報告だ。アイにもわかるように経緯を説明すると、まず俺とワーシャはヴァルキュア城の調査のために動いていた。そしてその城内で君が大勢に囲まれているところに遭遇し、連れ出したという形だ。覚えていないかもしれないが」
「そう、だったんですね」
アイもようやく今までの出来事を多少なりとも理解できた。
ただそれ以前の記憶がないことがどうしても気がかりだった。
「それから城までの道中に気になるものはなかった。舗装された街道とそれを挟むように広がる森。途中開けた原っぱがあったがそれぐらいだ」
それよりも、とダースは続けた。
「城のほうが特徴的だった。城自体は石材建築で特筆するような外観ではなかったんだが、結界…いや対物理障壁が城の壁に沿って張られていた」
「障壁があったって、お前どうやって侵入したんだよ」
ビーにそう聞かれたダースは少し視線をそらしながら答えた。
「…あの障壁も自然の力には勝てなかったということだ」
「…また無茶したのかお前は」
その答えを聞いたビーは呆れたように言葉をもらした。
アイ以外はあぁまたかといった表情で聞いていた。
その空気を払拭しようと、リアがダースに確認した。
「そういえばどうしてアイちゃんは囲まれてたんだろうね?」
「それは正直俺にはわからなかった…だが推測はできる」
最後の言葉にその部屋にいる全員が反応をした。
「あの部屋に押し入った瞬間、何かが部屋中に残留していたように感じた。その上で、アイの格好はこの世界では見慣れない材質にデザイン…」
「…まさか」
ビーはダースの言わんとしていることに気づいた。
フィーやシアも目を見開き、表情を変えた。
「そのまさかだ。恐らくアイは別の世界からこの世界に喚び寄せられたんじゃないかと考えていてな。あの部屋に残留していた何かもそれを行なうためのものだろうと踏んでいる」
「え…」
アイはそう言われて、少しだけ思い出したことがあった。
よく読んでいた小説に、異世界転移という言葉。
それはアイが読んでいた小説でよく見かけた設定だった。
多くの小説ではその理由が作中で解き明かされないこともあったが、よく見かけていたのは手違いを起こした神様の力や勇者が必要な国が起こしたものだったり。
今回は後者に近いのかもしれないとアイは感じた。
話を聞いたフィーが言葉をもらした。
「進んだ文明だとは思いましたけど、そこまで進んでいたなんて…」
「どこまでがこの世界の技術なのかは判断の難しいところだからこの際捨て置こう。それと大事なことがもう一つある」
その内容はそこまで重要じゃないと言うようにダースは話題を切り替えた。
もっと張り詰めた雰囲気で。
「あの城に突入してわかったことだが、敵の最高戦力は『6日目レベル』。その部屋でアイを囲んでいた他の人間の内訳は明らかな『6日目レベル』が一人、『5日目レベル』が四、五人。俺が城に突入しようと決めたのもその強さが見えたからこそだ」
強さに関する話には異世界転移の内容に反応すら示さなかったブラックやリアも含め、【エヴォル】メンバーは全員目を見開いた。
「…薄々そんな気はしてたが」
「ボクたちが戦った三人もやっぱりこの世界だと強くない人たちだったんだね」
「そんな方々がもし敵になったら厄介ですね…」
実際に現地の人間と戦った騎士杯組の三人は苦い表情をしながらそう口にした。
重くなった空気を変えるためにダースは話を切り上げた。
「俺からの報告は以上だ…それで少しフィーとブラックに頼みたいことがある」
「城の再調査か?」
食い気味にブラックが内容を確認してきた。
調査がまともにできなかった尻拭いをフィーにさせるつもりか、と問うような語気の強い確認だったが、ダースはそのまま返した。
「そうだ。頼めるか?」
そう二人に確認したのだった。
その口ぶりに納得したのか、ブラックは目を閉じ、また壁に寄りかかった。
フィーはそのブラックの態度を肯定と受け取り、微笑んだ。
「お受けいたしましょう」
「すまない」
その短い謝罪にはいろんな意味を感じたフィーはうなずくことで返答とした。
すると見計らったかのようなタイミングで扉がガチャリと開いた。
「はーい。アイちゃんの宿泊許可と熱々のおかゆもらってきたわよー」
土鍋のような器を載せた盆を持ったワーシャが部屋に入ってきた。
アイはとっさにお礼を言った。
「あ、ありがとうございます」
「かなり熱いみたいだから少し冷ましてから食べてね。あと部屋については追加が用意できなかったから今の部屋をうまく使ってくれだって」
部屋を縫うように進んだワーシャはアイのベッドの近くにあった机に盆を載せながら、宿の従業員との内容をかいつまんで話した。
ワーシャが言い切り、アイの休むベッドに腰を降ろしたのを見計らったダースがまとめに入った。
「ワーシャも戻ったことだし、今後の動きを確認しよう。さっきも言ったとおり、フィーとブラックには明日以降の予定を変更して城への再調査に動いてくれ。アイに関することも可能なら調べてくれると助かる」
「はい」
フィーが代表して返事をした。
ブラックは微動だにせず、壁に寄りかかったままだった。
「ビーたちは変わらず騎士杯参加だ。大きなイベントごとだから何か起こるかもしれない。注視してくれ」
「おう」
騎士杯組はビーが返事をした。
リアとシアも了解と言うようにうなずいた。
「俺とワーシャはフィーたちの仕事を引き継ぐとともに、周囲の警戒レベルを上げる」
「アイちゃんの警護は?」
「それも俺たちが担当する。恐らく向こうさんも二日以内になにかしらの行動はあるだろうからな」
「そう。了解」
その言葉に納得したワーシャは手をヒラヒラとさせながらそう答えた。
「アイも今晩はこのままここで休んでくれ。明日以降は俺たちが護衛になる。もし聞きたいことや言っておきたいことがあればまとめておいてくれ。明日から聞く」
「は、はい!」
自分にも指示されるとは思っていなかったアイが慌てて返事をした。
「さて諸君。未だ敵の姿が不明瞭な状況ではあるが、時間は刻一刻と進んでいる。ここから先、イレギュラーも大量に起こることだろう。それに逐一対応できるよう、柔軟に行動してくれ」
そう言うダースに対してうなずいたり、そのまま聞いていたりと様々な反応だったが、その場の全員が了承した。
そして、ダースは話を締めくくり始めた。
「では各々用意ができ次第、解散」
その後はブラックのところにダースとビーがなにやら話しに行ったり、アイの周りにはワーシャやフィーたちが集まり、話し始めた。
ヴァルキュア滞在から、『三日目』が経とうとしている。
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