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魁皇
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「...何やってんだあいつ」
倉庫の入口付近から声が聞こえて、周りを見渡しながら振り向けばそこにはまーくんの姿。あたしたちを見ながら下っ端たちはものすごく固まっていて、奏が一切動いてくれないからそのままでいたらまーくんがどんどん近付いてくる。
「ほれ、お前らは散れ。んで妃葵とテメェは立て」
「誰?」
「お前らの偉大な先代様だよ」
「妃葵、立てる?」
「うん。あたしはいいから、先に挨拶して」
まーくんの低い声にビビってるのか下っ端たちはすぐに逃げていった。下の奥の部屋に。
先代よりもあたしを優先してしまう奏は優しいと思うけど、それじゃあ魁皇幹部としての示しがつかない。きちんと教育してきたはず、というか彼らはみんなあたしより年上だからそこらへんは大丈夫だと思っていたんだけど、あたしが年下でなおかつ女だからなのかすごく過保護で甘い。
「魁皇7代目幹部、親衛隊長の倉科 奏です。アラキタ2年で、幹部の中で4番目に強いです」
「よし」
奏はあたしから離れて、まーくんの目を見ながら話し終えたら頭を下げた。最初の態度悪かったからどうなるかと思ったけど、やっぱりあたしのお兄ちゃんポジションのまーくんは根本的に優しいらしい。にこりと笑い、奏の頭をわしわしと撫でている。
ちなみにアラキタは荒川北高校であたし以外の幹部のみんなが通ってる学校だ。
「ひ、ひなたさーん!!」
「おかえりなさい!お久しぶりー!」
「相変わらず可愛いわぁ」
「やーっと来やがった!遅ぇんだよ、待ちくたびれたぜ!」
和やかな光景を見ていると色んな声が聞こえてきた。
あ、もしかしてさっきの下っ端たち、怖いからって呼び出したな?つーか、仮にも下っ端とは言え、魁皇のメンバーなんだからそんなにビビらないでほしい。
「シン、泣かないで。マコ、ただいま。ありえないと思うけど、もしそうならハナのおかげかな。ありがと、マサ」
4人それぞれに順番に返せばみんなに囲まれる。
なんだかシンは眉を八の字にして泣いてるし、マコはひとりで飛び回ってる。ハナはいかつい見た目の癖して相変わらずオネェだし、マサはふんっと鼻を鳴らしながらも嬉しそうにしてる。
やっぱ良い仲間持った。みんな大切だ。
「おいおいうるせぇよ、何騒いでんだ」
「二階まで聞こえるとかほんとうるさいんだけど」
「訪問者でしょうか」
あたしは4人と。奏はまーくんと話していれば唐突に上から聞こえる声。
あたしがあっ、と声を上げるとすぐに気づいたのは耳の良い颯。これまた奏と一緒で目を見開いて驚いてる。でもすぐにはっとしたような顔になり、両サイドにいる空と望夢に耳打ちしている。
その後、こっちを見た空と望夢は一瞬固まった。かと思えば、普段のんびり屋の望夢がすぐ動き出し、颯といっしょに階段を降りてくる。
「空?こっち来ないの?」
まだ固まって動かない空に問いかければ何を思ったか階段を使わないで二階から飛び降りやがった。何考えてんだ。さすがとでも言うべきか、あたしが心配する間もなく、無事着地して駆け足でこっちへ向かってくる。
「お、まえ、いつ来てたんだよ。連絡しろよな。なかなか来ねぇから心配した。大丈夫だったか?」
空はあたしにとって太陽なみたいな男だ。
ものすごく口は悪いけど、心配性で面倒見も良いし、何よりも頼りがいがある。あたしがいない間、魁皇のことは副総長である空に任せっきり。それでも安心出来るのは空に信頼を置いてるから。今だってあたしの頬を両手で包みながら、心配そうな顔で覗き込んできてる。全国を纏めてるこの男に、こんな顔させちゃダメだよね。また心配かけちゃった。
「大丈夫、ありがとう。そんなに心配しなくてもあたしは弱くないよ」
「お前がいくら強くても俺らは心配なんだよ」
「...よくわかんない」
あたしは強いのに。
心配されると嬉しい気持ち半分と申し訳ない気持ち半分。ありがたいけど、迷惑になってると思う。
「ああもうほら、妃葵が心配で望夢が泣いちゃってる」
奏の声にそっちを向けば、ほろりと瞳から涙を流す望夢の姿。
「望夢?こっちおいで」
「ヒナっ...」
ぎゅっと抱きしめれば聞こえてくる声。
あたしここまで心配かけてたの?
望夢は泣くような奴じゃないのに、あたしが泣かせた。心配かけて、泣かせた。
「心配、かけたよね。ごめん。みんなに連絡入れれば良かったね」
「ごめんなさい、取り乱しちゃいました」
抱きしめていた腕の拘束を解けば、目元を赤くしながらもへにゃりと笑う顔が目に入る。
あたしよりも10cmは高い身長の望夢を見上げて、手を伸ばす。そっと頭に触れればサラリと流れる髪。
空も奏も、もちろん望夢も。
「心配してくれてありがとう」
にこっと笑えば望夢も笑う。
こうやって笑ってる望夢は普段通り。よかった。望夢は抗争の時とか、冷静でめちゃくちゃ怖い。頭良いってのはこういう所でも才能発揮するんだね。
「望夢、ちょっとこっち来い」
「ん」
空に呼ばれて望夢はそっちに向かう。
やっぱり空はよくわかってる。周りをみて、自分はいつも後回し。気遣いがほんとに助かる。
たまに心配になるけれど、あたしが言えることじゃないだろうなぁ。
倉庫の入口付近から声が聞こえて、周りを見渡しながら振り向けばそこにはまーくんの姿。あたしたちを見ながら下っ端たちはものすごく固まっていて、奏が一切動いてくれないからそのままでいたらまーくんがどんどん近付いてくる。
「ほれ、お前らは散れ。んで妃葵とテメェは立て」
「誰?」
「お前らの偉大な先代様だよ」
「妃葵、立てる?」
「うん。あたしはいいから、先に挨拶して」
まーくんの低い声にビビってるのか下っ端たちはすぐに逃げていった。下の奥の部屋に。
先代よりもあたしを優先してしまう奏は優しいと思うけど、それじゃあ魁皇幹部としての示しがつかない。きちんと教育してきたはず、というか彼らはみんなあたしより年上だからそこらへんは大丈夫だと思っていたんだけど、あたしが年下でなおかつ女だからなのかすごく過保護で甘い。
「魁皇7代目幹部、親衛隊長の倉科 奏です。アラキタ2年で、幹部の中で4番目に強いです」
「よし」
奏はあたしから離れて、まーくんの目を見ながら話し終えたら頭を下げた。最初の態度悪かったからどうなるかと思ったけど、やっぱりあたしのお兄ちゃんポジションのまーくんは根本的に優しいらしい。にこりと笑い、奏の頭をわしわしと撫でている。
ちなみにアラキタは荒川北高校であたし以外の幹部のみんなが通ってる学校だ。
「ひ、ひなたさーん!!」
「おかえりなさい!お久しぶりー!」
「相変わらず可愛いわぁ」
「やーっと来やがった!遅ぇんだよ、待ちくたびれたぜ!」
和やかな光景を見ていると色んな声が聞こえてきた。
あ、もしかしてさっきの下っ端たち、怖いからって呼び出したな?つーか、仮にも下っ端とは言え、魁皇のメンバーなんだからそんなにビビらないでほしい。
「シン、泣かないで。マコ、ただいま。ありえないと思うけど、もしそうならハナのおかげかな。ありがと、マサ」
4人それぞれに順番に返せばみんなに囲まれる。
なんだかシンは眉を八の字にして泣いてるし、マコはひとりで飛び回ってる。ハナはいかつい見た目の癖して相変わらずオネェだし、マサはふんっと鼻を鳴らしながらも嬉しそうにしてる。
やっぱ良い仲間持った。みんな大切だ。
「おいおいうるせぇよ、何騒いでんだ」
「二階まで聞こえるとかほんとうるさいんだけど」
「訪問者でしょうか」
あたしは4人と。奏はまーくんと話していれば唐突に上から聞こえる声。
あたしがあっ、と声を上げるとすぐに気づいたのは耳の良い颯。これまた奏と一緒で目を見開いて驚いてる。でもすぐにはっとしたような顔になり、両サイドにいる空と望夢に耳打ちしている。
その後、こっちを見た空と望夢は一瞬固まった。かと思えば、普段のんびり屋の望夢がすぐ動き出し、颯といっしょに階段を降りてくる。
「空?こっち来ないの?」
まだ固まって動かない空に問いかければ何を思ったか階段を使わないで二階から飛び降りやがった。何考えてんだ。さすがとでも言うべきか、あたしが心配する間もなく、無事着地して駆け足でこっちへ向かってくる。
「お、まえ、いつ来てたんだよ。連絡しろよな。なかなか来ねぇから心配した。大丈夫だったか?」
空はあたしにとって太陽なみたいな男だ。
ものすごく口は悪いけど、心配性で面倒見も良いし、何よりも頼りがいがある。あたしがいない間、魁皇のことは副総長である空に任せっきり。それでも安心出来るのは空に信頼を置いてるから。今だってあたしの頬を両手で包みながら、心配そうな顔で覗き込んできてる。全国を纏めてるこの男に、こんな顔させちゃダメだよね。また心配かけちゃった。
「大丈夫、ありがとう。そんなに心配しなくてもあたしは弱くないよ」
「お前がいくら強くても俺らは心配なんだよ」
「...よくわかんない」
あたしは強いのに。
心配されると嬉しい気持ち半分と申し訳ない気持ち半分。ありがたいけど、迷惑になってると思う。
「ああもうほら、妃葵が心配で望夢が泣いちゃってる」
奏の声にそっちを向けば、ほろりと瞳から涙を流す望夢の姿。
「望夢?こっちおいで」
「ヒナっ...」
ぎゅっと抱きしめれば聞こえてくる声。
あたしここまで心配かけてたの?
望夢は泣くような奴じゃないのに、あたしが泣かせた。心配かけて、泣かせた。
「心配、かけたよね。ごめん。みんなに連絡入れれば良かったね」
「ごめんなさい、取り乱しちゃいました」
抱きしめていた腕の拘束を解けば、目元を赤くしながらもへにゃりと笑う顔が目に入る。
あたしよりも10cmは高い身長の望夢を見上げて、手を伸ばす。そっと頭に触れればサラリと流れる髪。
空も奏も、もちろん望夢も。
「心配してくれてありがとう」
にこっと笑えば望夢も笑う。
こうやって笑ってる望夢は普段通り。よかった。望夢は抗争の時とか、冷静でめちゃくちゃ怖い。頭良いってのはこういう所でも才能発揮するんだね。
「望夢、ちょっとこっち来い」
「ん」
空に呼ばれて望夢はそっちに向かう。
やっぱり空はよくわかってる。周りをみて、自分はいつも後回し。気遣いがほんとに助かる。
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