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武勇伝と胸の内
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マサside
総長の話をし出して3分ほど経った。たくさんの武勇伝の中からひとつを頭の記憶箱から取り出し、話す。総長の話はいっぱいある。だからこそ、毎月のようにひとつずつ話してる。幹部の皆さんは聞き飽きちまったらしいが、それも当然だろう。同じ話を元から知ってるんだから。でも下っ端のコイツらは知らねぇから、いくらでも教える。総長が強いのは力だけじゃねぇ。
シンと話していた総長は俺の話に耳を傾け、昔のことは恥ずかしい思い出なのか目で俺にやめろと訴えてくる。それでも俺は話をやめず、話し続ける。
「それでな、自分の体重の3倍くらいありそうな男を一発で仕留めたんだ。身長だってくそみたいにデケェ奴だったのに、ビックリするほどの大ジャンプしてこめかみに回し蹴りを決めたんだよ。もう見てる俺らが興奮しちまってよぉ、縄張り争いだったはずなのにみんなそっちに夢中でな?ほとんど総長がひとりでやったんだ」
「...マサ」
俺にとっては当然だが、話を聞いたこいつらにとってもきっと大切な話になる。あんたが偉大な人ってのを俺らみんなが知ってるのにいつまでも自覚ないんだもんな。
「つっても、あの頃はまだ総長じゃなくて幹部だったか。どういうことかわかるだろ?まだ総長でもない奴がほぼひとりで一つのチームを潰したんだ、そりゃあ魁皇は最恐とも呼ばれるよな。他にそれよりも強い総長たちがいたわけなんだから。でも倒したのは女だぜ?相手の野郎どもは屈辱だろうよ。どんなにたくさんの野郎共で狙っても武器を持っても一発も当たらねぇんだ。むしろ避けられて返り討ちにあう。俺らはそれを見てるのが楽しくてよぉ、ウチのチームでは、妃葵さんを守ることをやめた。見捨てたわけじゃねぇよ?守らないで共に戦ったんだ。守られるのは性にあわないらしくてな、彼女もそれを喜んでくれた。それからすぐだったか、妃葵さんが前総長に次期総長として任命されたのは。いっちゃなんだが、テメェらみてぇに納得しねぇ奴もいたよ。魁皇初の女総長だしな」
「...マサ?」
「妃葵さん」
シンが首を振ってこっちに寄ろうとする総長を止める。
自分でも表情が崩れてるのはわかっていた。別に表情豊かってわけでもポーカーフェイスってわけでもないが、総長の話になるとどうしてか感情が強く湧き上がる。でも、ここからが本当に話したいことだから。中学生だったあんたに逆らわなかった理由なんて決まってるだろ?口悪くて態度悪い俺でもすげぇ感謝してるし、大切だから。
「それでも、だ。妃葵さんは認められてないってわかってるのに助け続けた。救い続けた。ずっと居場所を作り続けてくれた。普通なら力でねじ伏せるだろ?それが一番手っ取り早いし、彼女は俺らよりもずっと強い。なのにだよ、彼女は手を出さなかった。奴らはな、ソレに甘えて散々やらかした。まあ当然だけど先に空さんがキレたんだ。その時知ったのは助けたのも救ったのもソイツらのためじゃねぇ、俺らのためだったってことだ。いつも一緒にいた俺らのために居場所をなくさないでくれた。でも、奴らは諦めが悪くてソイツらと俺らで1回大きな喧嘩があったんだ。彼女は俺らにだけ怒って俺らにだけ手を上げた」
「それおかしくねぇすか?」
「普通ならソイツら怒るんじゃないんすか」
俺にも理解出来なくて考えがわからなくて。大して痛くもない、軽く殴られた頭をそっとさすった。ずっと前から妃葵さんの考えてる事がわかるのは空さんだけだった。
「あぁ、普通はそうだろうよ。でも違ぇ。奴らの方に行ったから怒るのかと思ったら、彼女は首を傾げたんだ。奴らをじっと見つめながら『ここは魁皇のたまり場なので出てってくれませんか?』そう言ったんだよ。俺らは唖然としてその場を動けなかった。あんなに冷たい声を聞いたのは初めてだった。奴らも固まってて、中には震えてる奴もいた。とりあえずその時は前総長がたまたま遊びに来て事なくを得たけどな。そのあと前総長と空さんの話を聞いてわかったのは、妃葵さんは興味がない奴には見向きもしねぇこと。ソイツらがそうだったように一切怒らない。手も上げない。声をかけることもない。仲間だと思ってなかったんだよ、最初から」
驚いて固まる下っ端を見て、俺はあの頃が思い出される。普段全く怒らない人が静かにキレた。俺らが該当者な訳じゃねぇのに、恐ろしかった。今も昔も、妃葵さんがキレたのを直接目で見たのはあれしかない。
妃葵さんは昔から切り捨てが早かった。決め手は喧嘩の強さじゃない。魁皇にとって喧嘩の強さはあとからでも付けられるものだと考えられてる。彼女はいつでも心を見ていた。
思えば最初からコイツらには慈愛に満ちた目を向けていた。
やっぱり何考えてるかわかんねぇけど最恐で最高の総長だよ。いくら言っても信じてくれねぇだろうから一度も言わないけどな。
「お前ら今日、全員殴られただろ」
あんたの心には今でもあの事件が残っていていつでも心にぽっかり穴が空いてるだろうけど、いつか大切な人だけじゃなくて想い人でも作って幸せになって欲しい。まあ総長である前にひとりの女として魅力的なあんたには、それ相応のオトコじゃなきゃ俺ら全員黙ってねぇけどな。それまではずっと遠くで見守ってる。
「今まで今回みたいな事があっても決して妃葵さんは手を上げなかった。殴る蹴るなしで背中を地面につけさせてたんだよ。だから昔からいるメンバーは結構驚いてる。俺らの大切な総長に期待されてよかったな」
俺らの大切な総長に認められてんだ。俺らだってもちろん認めてる。だからみっちり鍛え抜いてやるから。強くて儚い総長は人のことばっかりだからな、周りの俺らが隠れて支えてやらねぇといけない。それがいつものお返しだから。
今回みたいな事は本当は許されることじゃないけれど、生憎ウチの総長は優しすぎるから。総長がどれだけ強くて優しくて、チームにとって大切かを理解させてやるよ。力強く頷いたお前らのこと、これでも信用してるんだぜ?
「マサ...」
俺も含めみんな、あんたが幸せになってくれることを心の底から願ってるから。
総長の話をし出して3分ほど経った。たくさんの武勇伝の中からひとつを頭の記憶箱から取り出し、話す。総長の話はいっぱいある。だからこそ、毎月のようにひとつずつ話してる。幹部の皆さんは聞き飽きちまったらしいが、それも当然だろう。同じ話を元から知ってるんだから。でも下っ端のコイツらは知らねぇから、いくらでも教える。総長が強いのは力だけじゃねぇ。
シンと話していた総長は俺の話に耳を傾け、昔のことは恥ずかしい思い出なのか目で俺にやめろと訴えてくる。それでも俺は話をやめず、話し続ける。
「それでな、自分の体重の3倍くらいありそうな男を一発で仕留めたんだ。身長だってくそみたいにデケェ奴だったのに、ビックリするほどの大ジャンプしてこめかみに回し蹴りを決めたんだよ。もう見てる俺らが興奮しちまってよぉ、縄張り争いだったはずなのにみんなそっちに夢中でな?ほとんど総長がひとりでやったんだ」
「...マサ」
俺にとっては当然だが、話を聞いたこいつらにとってもきっと大切な話になる。あんたが偉大な人ってのを俺らみんなが知ってるのにいつまでも自覚ないんだもんな。
「つっても、あの頃はまだ総長じゃなくて幹部だったか。どういうことかわかるだろ?まだ総長でもない奴がほぼひとりで一つのチームを潰したんだ、そりゃあ魁皇は最恐とも呼ばれるよな。他にそれよりも強い総長たちがいたわけなんだから。でも倒したのは女だぜ?相手の野郎どもは屈辱だろうよ。どんなにたくさんの野郎共で狙っても武器を持っても一発も当たらねぇんだ。むしろ避けられて返り討ちにあう。俺らはそれを見てるのが楽しくてよぉ、ウチのチームでは、妃葵さんを守ることをやめた。見捨てたわけじゃねぇよ?守らないで共に戦ったんだ。守られるのは性にあわないらしくてな、彼女もそれを喜んでくれた。それからすぐだったか、妃葵さんが前総長に次期総長として任命されたのは。いっちゃなんだが、テメェらみてぇに納得しねぇ奴もいたよ。魁皇初の女総長だしな」
「...マサ?」
「妃葵さん」
シンが首を振ってこっちに寄ろうとする総長を止める。
自分でも表情が崩れてるのはわかっていた。別に表情豊かってわけでもポーカーフェイスってわけでもないが、総長の話になるとどうしてか感情が強く湧き上がる。でも、ここからが本当に話したいことだから。中学生だったあんたに逆らわなかった理由なんて決まってるだろ?口悪くて態度悪い俺でもすげぇ感謝してるし、大切だから。
「それでも、だ。妃葵さんは認められてないってわかってるのに助け続けた。救い続けた。ずっと居場所を作り続けてくれた。普通なら力でねじ伏せるだろ?それが一番手っ取り早いし、彼女は俺らよりもずっと強い。なのにだよ、彼女は手を出さなかった。奴らはな、ソレに甘えて散々やらかした。まあ当然だけど先に空さんがキレたんだ。その時知ったのは助けたのも救ったのもソイツらのためじゃねぇ、俺らのためだったってことだ。いつも一緒にいた俺らのために居場所をなくさないでくれた。でも、奴らは諦めが悪くてソイツらと俺らで1回大きな喧嘩があったんだ。彼女は俺らにだけ怒って俺らにだけ手を上げた」
「それおかしくねぇすか?」
「普通ならソイツら怒るんじゃないんすか」
俺にも理解出来なくて考えがわからなくて。大して痛くもない、軽く殴られた頭をそっとさすった。ずっと前から妃葵さんの考えてる事がわかるのは空さんだけだった。
「あぁ、普通はそうだろうよ。でも違ぇ。奴らの方に行ったから怒るのかと思ったら、彼女は首を傾げたんだ。奴らをじっと見つめながら『ここは魁皇のたまり場なので出てってくれませんか?』そう言ったんだよ。俺らは唖然としてその場を動けなかった。あんなに冷たい声を聞いたのは初めてだった。奴らも固まってて、中には震えてる奴もいた。とりあえずその時は前総長がたまたま遊びに来て事なくを得たけどな。そのあと前総長と空さんの話を聞いてわかったのは、妃葵さんは興味がない奴には見向きもしねぇこと。ソイツらがそうだったように一切怒らない。手も上げない。声をかけることもない。仲間だと思ってなかったんだよ、最初から」
驚いて固まる下っ端を見て、俺はあの頃が思い出される。普段全く怒らない人が静かにキレた。俺らが該当者な訳じゃねぇのに、恐ろしかった。今も昔も、妃葵さんがキレたのを直接目で見たのはあれしかない。
妃葵さんは昔から切り捨てが早かった。決め手は喧嘩の強さじゃない。魁皇にとって喧嘩の強さはあとからでも付けられるものだと考えられてる。彼女はいつでも心を見ていた。
思えば最初からコイツらには慈愛に満ちた目を向けていた。
やっぱり何考えてるかわかんねぇけど最恐で最高の総長だよ。いくら言っても信じてくれねぇだろうから一度も言わないけどな。
「お前ら今日、全員殴られただろ」
あんたの心には今でもあの事件が残っていていつでも心にぽっかり穴が空いてるだろうけど、いつか大切な人だけじゃなくて想い人でも作って幸せになって欲しい。まあ総長である前にひとりの女として魅力的なあんたには、それ相応のオトコじゃなきゃ俺ら全員黙ってねぇけどな。それまではずっと遠くで見守ってる。
「今まで今回みたいな事があっても決して妃葵さんは手を上げなかった。殴る蹴るなしで背中を地面につけさせてたんだよ。だから昔からいるメンバーは結構驚いてる。俺らの大切な総長に期待されてよかったな」
俺らの大切な総長に認められてんだ。俺らだってもちろん認めてる。だからみっちり鍛え抜いてやるから。強くて儚い総長は人のことばっかりだからな、周りの俺らが隠れて支えてやらねぇといけない。それがいつものお返しだから。
今回みたいな事は本当は許されることじゃないけれど、生憎ウチの総長は優しすぎるから。総長がどれだけ強くて優しくて、チームにとって大切かを理解させてやるよ。力強く頷いたお前らのこと、これでも信用してるんだぜ?
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俺も含めみんな、あんたが幸せになってくれることを心の底から願ってるから。
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