16 / 18
総長の強さ
しおりを挟む
「勝負あり。妃葵の勝ちだね」
「みんなわかってたでしょう?ヒナが負けるわけないですよ」
「審判の意味ねぇ...」
「ま、当然だよねぇ」
「想像以上だな、やっぱり総長は別格だよなぁ」
勝負が終わってみんな口々に言葉を漏らす。
その声を聞きながらハナの元へと向かう。
手加減したおかげか10人全員が伸びてるというわけじゃなく、何人かは仲間の手当てに回っていた。きっと周りが指示してあげてるんだろう。殆どの奴は何も言われずに出来るわけない。そんな様子をぼーっと見ていたら、いつの間にかみんな意識を復活させてて、顔やカラダの湿布や絆創膏が少し、痛々しく見えた。
ちょっとやりすぎたかな、なんて思っていればあたしの存在に気づいた10人全員がその場に正座をして頭を下げてきた。
「あたしのこと、認めてくれた?」
「はい!...でも、ごめんなさい。正直にいうと最初はナメてました。どうせ女だからって」
「体全体細いし、喧嘩できるように見えないし。ほんとに総長なのかなって、信じられなくてそこから自分ら間違ってたんスよ」
「言い訳になっちゃうんですけど、今までの女は男に頼ってる奴しかいなかったから、みんな同じだろうと思っちゃったんです」
「副総長が強いからって威張ってるだけなんじゃないかって。でも実際無駄な動きなんて一切なくて、ちっとも隙なんか見せてくれなくてほんとに強かった...」
「初めてっす...拳を当てられて熱くなったのなんて」
申し訳なさそうに目を伏せる奴、未だに驚きを隠せない奴、感動したかのように視線をぶつけてくる奴。
正直、驚いたのはこっちだ。
各々が思ってることを話してくれた。たった1回、それもタイマンなわけじゃなかったのにこんなにもたくさんのことを感じ取ってくれてる。きちんと人の目を見ながら謝ることが出来て、自分の思ってることを相手に伝えることが出来て、拳に込めた思いをわかることが出来る。こういうところから真剣に勝負してくれたんだな、なんて感じて嬉しくなる。
正座されてると話しにくいと言って、みんなに立ってもらって話を続ける。
「今度こそ本当にようこそ、魁皇へ。左から順に名前教えてよ」
「ユウです」
「タケルっす」
そうして名前を言ってもらい最後のひとりにいったところで、自己紹介が止まった。なんだろうと思ってそいつの顔を見れば見覚えがある。
「ヨシヒト...っス。その、総長...」
最初入ってきた時に喧嘩腰だったスキンヘッドだ。
ヨシ、じゃなくてヨシヒトが申し訳なさそうに目を伏せる姿はまるで犬。可愛らしいといえば可愛らしいのだけど、ハナも含め、やっぱりスキンヘッドはいかつい。
「なに?最初の気にしてるの?」
「や、その、はい。すんません...でした」
「全然。仲間だって知らなかったらみんなそんなもんだよ。ねぇ、空?」
「...あん時は悪かったよ」
昔を思い出したのか、空はバツが悪そうに目を逸らす。
初めての出会いなんてそんなもん。
相手の素性がわからないときなんて警戒して当たり前。警戒しない方がおかしい。いやまあさすがに総長知らないのは驚いたけど、教えてなかっただろうし仕方ない。過ぎたことは気にしてもしょうがない。
「おし、総長に挨拶終わったならちょっと俺んとこ来いや。今から大事な話をするからな」
話ってなんだろう。今終わったところじゃないのかな。
マサは時々よくわからない行動をする。信念はあるみたいなんだけど教えてくれない。あたしには全く理解できないけれどハナには理解できるらしくて、たまに加勢してることがある。悪い事じゃないからって放置してたけど、さらにわからなくなってきた。
さっきの下っ端たち以外はぞろぞろと動き出し、この場から離れていく奴が多くなった。みんな呆れた顔してる。なんで?
「上戻るぞ、妃葵」
「空は気にならないの?これ」
「見飽きた」
「ね、一緒に上行こう?さっき雅也さんが車戻ってお菓子と飲み物持ってきてくれたよ?」
「...少ししたら上行くよ」
見飽きたって、この光景はいつもなんだろうか。
そういや、マサは酔うとすごく饒舌になる。口悪いのはまんまだけど。なんだかその時と似てるような光景。
やっぱり気になって奏の誘いを断って、その場に残る。
座ろうか悩んでいれば後ろから妃葵さん、と名前を呼ばれ振り向けば椅子をふたつ抱えたシンの姿。
「これ、どうぞ」
「ありがとう」
にこっと笑いながら椅子をあたしの近くに置いてくれる。彼自身も隣に椅子を置き、同じように話を聞く姿勢になった。
「妃葵さんは知らないですよね、この恒例行事」
「恒例行事?」
「はい。月に一度くらいの頻度ですかね...マサが貴女の凄さについて語るんです。所謂、武勇伝ですね」
「武勇伝?マコは一緒に聞かないのかな」
「アイツはもう全部知ってるからいいって言ってました」
あたしに武勇伝なんてあったかな。
武勇伝好きなマコは記憶力が良いからきっと色んな人の武勇伝を知ってる。だから新しい話が好きだ。現に今日もまーくんの武勇伝聞いていた。
ていうか、毎月一度ずつも話してるの。みんな迷惑だろうなあ、なんだか申し訳ない。
「お前らには初めてだからな、いちばん聞いてほしい話をする」
「みんなわかってたでしょう?ヒナが負けるわけないですよ」
「審判の意味ねぇ...」
「ま、当然だよねぇ」
「想像以上だな、やっぱり総長は別格だよなぁ」
勝負が終わってみんな口々に言葉を漏らす。
その声を聞きながらハナの元へと向かう。
手加減したおかげか10人全員が伸びてるというわけじゃなく、何人かは仲間の手当てに回っていた。きっと周りが指示してあげてるんだろう。殆どの奴は何も言われずに出来るわけない。そんな様子をぼーっと見ていたら、いつの間にかみんな意識を復活させてて、顔やカラダの湿布や絆創膏が少し、痛々しく見えた。
ちょっとやりすぎたかな、なんて思っていればあたしの存在に気づいた10人全員がその場に正座をして頭を下げてきた。
「あたしのこと、認めてくれた?」
「はい!...でも、ごめんなさい。正直にいうと最初はナメてました。どうせ女だからって」
「体全体細いし、喧嘩できるように見えないし。ほんとに総長なのかなって、信じられなくてそこから自分ら間違ってたんスよ」
「言い訳になっちゃうんですけど、今までの女は男に頼ってる奴しかいなかったから、みんな同じだろうと思っちゃったんです」
「副総長が強いからって威張ってるだけなんじゃないかって。でも実際無駄な動きなんて一切なくて、ちっとも隙なんか見せてくれなくてほんとに強かった...」
「初めてっす...拳を当てられて熱くなったのなんて」
申し訳なさそうに目を伏せる奴、未だに驚きを隠せない奴、感動したかのように視線をぶつけてくる奴。
正直、驚いたのはこっちだ。
各々が思ってることを話してくれた。たった1回、それもタイマンなわけじゃなかったのにこんなにもたくさんのことを感じ取ってくれてる。きちんと人の目を見ながら謝ることが出来て、自分の思ってることを相手に伝えることが出来て、拳に込めた思いをわかることが出来る。こういうところから真剣に勝負してくれたんだな、なんて感じて嬉しくなる。
正座されてると話しにくいと言って、みんなに立ってもらって話を続ける。
「今度こそ本当にようこそ、魁皇へ。左から順に名前教えてよ」
「ユウです」
「タケルっす」
そうして名前を言ってもらい最後のひとりにいったところで、自己紹介が止まった。なんだろうと思ってそいつの顔を見れば見覚えがある。
「ヨシヒト...っス。その、総長...」
最初入ってきた時に喧嘩腰だったスキンヘッドだ。
ヨシ、じゃなくてヨシヒトが申し訳なさそうに目を伏せる姿はまるで犬。可愛らしいといえば可愛らしいのだけど、ハナも含め、やっぱりスキンヘッドはいかつい。
「なに?最初の気にしてるの?」
「や、その、はい。すんません...でした」
「全然。仲間だって知らなかったらみんなそんなもんだよ。ねぇ、空?」
「...あん時は悪かったよ」
昔を思い出したのか、空はバツが悪そうに目を逸らす。
初めての出会いなんてそんなもん。
相手の素性がわからないときなんて警戒して当たり前。警戒しない方がおかしい。いやまあさすがに総長知らないのは驚いたけど、教えてなかっただろうし仕方ない。過ぎたことは気にしてもしょうがない。
「おし、総長に挨拶終わったならちょっと俺んとこ来いや。今から大事な話をするからな」
話ってなんだろう。今終わったところじゃないのかな。
マサは時々よくわからない行動をする。信念はあるみたいなんだけど教えてくれない。あたしには全く理解できないけれどハナには理解できるらしくて、たまに加勢してることがある。悪い事じゃないからって放置してたけど、さらにわからなくなってきた。
さっきの下っ端たち以外はぞろぞろと動き出し、この場から離れていく奴が多くなった。みんな呆れた顔してる。なんで?
「上戻るぞ、妃葵」
「空は気にならないの?これ」
「見飽きた」
「ね、一緒に上行こう?さっき雅也さんが車戻ってお菓子と飲み物持ってきてくれたよ?」
「...少ししたら上行くよ」
見飽きたって、この光景はいつもなんだろうか。
そういや、マサは酔うとすごく饒舌になる。口悪いのはまんまだけど。なんだかその時と似てるような光景。
やっぱり気になって奏の誘いを断って、その場に残る。
座ろうか悩んでいれば後ろから妃葵さん、と名前を呼ばれ振り向けば椅子をふたつ抱えたシンの姿。
「これ、どうぞ」
「ありがとう」
にこっと笑いながら椅子をあたしの近くに置いてくれる。彼自身も隣に椅子を置き、同じように話を聞く姿勢になった。
「妃葵さんは知らないですよね、この恒例行事」
「恒例行事?」
「はい。月に一度くらいの頻度ですかね...マサが貴女の凄さについて語るんです。所謂、武勇伝ですね」
「武勇伝?マコは一緒に聞かないのかな」
「アイツはもう全部知ってるからいいって言ってました」
あたしに武勇伝なんてあったかな。
武勇伝好きなマコは記憶力が良いからきっと色んな人の武勇伝を知ってる。だから新しい話が好きだ。現に今日もまーくんの武勇伝聞いていた。
ていうか、毎月一度ずつも話してるの。みんな迷惑だろうなあ、なんだか申し訳ない。
「お前らには初めてだからな、いちばん聞いてほしい話をする」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる