7 / 37
護衛
しおりを挟む昨日注意されたばかりなので、さすがに一人で行動しづらい。
しかしお手洗いはいいだろう。
オーウェンが部屋を出た後、一人で手洗いに向かう。
そのついでに少し遠回りをして、一人の時間を長くする。
そういえばルーナたちは王子に名前を呼ばれていたな、褒められていたし。
なんだか羨ましい。私も王子に名前を呼ばれたい。
などと考え事をしながら、いつも通らない廊下を歩いていた時だった。
「うわっ」
曲がり角から人が現れる。
ぶつかりそうになった相手が声を発する。
お腹から出たようなしっかりした発声で、こちらも驚き、慌てる。
後ろに下がろうとしたら、ドレスの裾を踏み、滑りそうになる。
「危ない!」
相手がさっと手を差し伸べ、体を支えてくれる。
「ご、ごめんなさい。ありがとうございます」
ぺこぺこと頭を下げる。
「いや、俺も不注意でしたから…ってリーゼ様?!」
相手も頭を下げかけ、私の顔を凝視し声をあげる。
「あ、はい。えっとあなたは…」
恐る恐る尋ねると、相手は私の顔を見たまま固まっている。
身長はそう高くないが、筋肉のついたがっしりとした体つきをしている。
鍛えている様子だ。騎士団の人だろうか。
先程の呼びかけに返事がない。
「あの…」
どうしたらいいかわからず、ためらいがちにもう一度呼びかける。
すると向こうは赤毛の短い髪をぷるぷると頭ごと振る。
「すいません。あまりにお綺麗で!」
ストレートな言葉にこちらもつい固まってしまう。
「あ、いや王子様の奥様にすいません。俺、ギルバート王子に憧れてて!いつも冷静で剣もうまくて、とにかくかっこよくて!」
焦りからか相手が早口に語る。
その様子を見て思わず、少し笑ってしまった。
王子は剣も強いのか。悪魔の子と恐れられていると思っていたが、意外とこの人のように憧れている人もいるのかもしれない。
そのことにも嬉しくなる。
「申し遅れました、私の名前はハリーです。王宮騎士団に属しています」
赤毛の彼が居住まいを正し、敬礼をする。
やはり騎士団だったか。
「は!そろそろ訓練に戻らないと!リーゼ様、またいつか!」
ぺこりと頭を下げると、ハリーは慌ただしく去っていく。
その姿を見送り、自分もハッとする。
お手洗いにしては長過ぎる、早く部屋に戻らなければ。
そそくさと廊下を後にした。
その日の夜、王子と寝ようとしていたら声をかけられた。
「お前の新たな護衛を探す」
「護衛ですか?」
昨日、マリアンヌとロルフに会ったせいだろうか。
守ってくれるのはありがたいが、護衛の数が増えるとますます一人の時間がなくなる。
内心でしょんぼりする。
「オーウェンを元の仕事に戻す。お前専属の護衛をつける」
そう言われてみればオーウェンがずっと付いてくれていたが、オーウェンは元々王子付きである。
「そうですよね、ずっとすいません」
「いや、それは構わん。しかし信頼できる者をどのみち増やしておくべきだからな」
申し訳なさに縮こまると、王子が特に気を遣う風でもなく、言う。
「そこでお前の力で、騎士団から信頼できる者を一人探してほしい」
「わ、私ですか?!」
てっきりもう決まっていると思っていたので驚く。
「ああ。お前付きだから、お前が選んだ方がいいだろう。もちろん候補者はこちらも調べるが」
そうだ、そもそもこういうことのために力が必要だと言われていたし、王子は忙しいのだ。
私の護衛選びに本来拘っている場合ではないだろう。
不安はあるもののうなずく。
「頑張ります」
「何かあれば相談しろ。騎士団のメンバーなど一人も知らないから、難しいだろう」
王子の言葉でふと一人の姿が頭に思い浮かぶ。
そう言えば昼間に会ったハリーは騎士団と言っていた。
明るい性格のようだし、王子に憧れていると言っていたのでいいかもしれない。
とりあえず手始めに彼についてルーナたちに聞いてみよう。
そう決意を固めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる