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交渉
しおりを挟む王宮の奥にある部屋でギルバートとマリアンヌ、ロルフが向かい合っている。
私はオーウェンとギルバートの後ろで、三人を見つめることしかできない。
「それで。話というのは?」
マリアンヌがギルバートを見つめる。
「二人を呼んだ時点で検討はついているでしょう。あなたたちの不義についてです」
予想していたのだろう、マリアンヌとロルフの表情は変わらない。
マリアンヌが口を開く。
「証拠は?」
「残念ながら物的証拠はありません」
ルーナたちが目撃しただけで、証拠となるものは何もない。
「しかし事実でしょう。このことが明るみに出れば、王はどう思われるか」
ギルバートの言葉にマリアンヌが片眉をあげる。
「それをお前が言うのか。王が妻でもない女と交わってできた子供のお前が!」
今まで冷静だったマリアンヌに怒りの表情が浮かぶ。
「マリアンヌ、落ち着け」
ロルフがマリアンヌの肩を掴む。
マリアンヌは肩を一瞥し、息を吐き出す。
そしてもう一度ギルバートを見る。
「王はなんとも思わないわよ」
吐き捨てるようにつぶやき、椅子に座る。
ロルフはそんなマリアンヌを見つめると口を開いた。
「それで、お前は俺たちを処刑するのか?」
その言葉は事実と認めたようなものだった。
ギルバートが返事をする前に、再びロルフが言う。
「彼女は関係ない。俺が無理矢理したんだ」
「ロルフ!」
ロルフの言葉に驚いたように、マリアンヌが声を出す。
その二人の様子を見て、ギルバートが告げる。
「俺は二人とも処刑するつもりだった。だがリーゼの進言により、一度あなたたちと話をすることにした」
マリアンヌとロルフが驚いたような顔でこちらを見る。
「教えてくださいませんか。あなたたちと国王陛下のことを。それから、今後のことを決めましょう」
「なぜあなたたちに話を…」
マリアンヌが言いかけたのをロルフが制止する。
「いや、話そう。だからマリアンヌは処刑するな」
ロルフがもう一度念を押す。
「そちらに決定権はないぞ。まぁいい。玉座を争わなくてよくなるだけマシだ」
ギルバートが言い、ロルフが安心したように息を吐く。
やはりロルフにとって、マリアンヌは大切な存在なのだと感じる。
反対にマリアンヌは無言で眉間に皺を寄せた。
「長くなるぞ、なんせ20年分くらいだからな」
ロルフが微かに笑い、その笑みはアドルフ王と似ていた。
*****
「マリアンヌは侯爵家の令嬢として、俺たちの婚約者候補だった。それで幼い頃からよく三人で遊んでいた」
ロルフが語り出す。
「やがて兄が18歳になり、結婚相手を決める段になった。その時俺が14歳でマリアンヌは12歳だった。侯爵家は次期王である兄にマリアンヌを嫁がせようとしていたが、まだ結婚できる年齢ではないし、マリアンヌの結婚相手は俺で、兄には別の人を探すことになりそうだった」
「けれどアドルフ王とマリアンヌ王妃が結婚されたのですね」
「そうだ。その頃権力を持っていた侯爵家の要望を通した方が王家としても余計な反乱を生まずに済む。それに…」
ロルフがちらりとマリアンヌを見る。マリアンヌはその視線から逃れるように窓の外を見る。
ロルフがため息をつくように、言葉を吐き出す。
「何よりマリアンヌが兄を好きだったからだ」
マリアンヌの肩がピクリと揺れる。
マリアンヌはアドルフ王が好きだったのだ。
「それで4年経ってから、兄とマリアンヌが結婚した。それと同時に兄が即位した」
アドルフ王の誕生である。
「その頃には俺にも別の縁談もきていたが、兄と同じ時に結婚するのもとか言って、適当に逃れた。幸い、俺が王になる可能性はなかったから、初めはいろいろ言われたが、そのうち何も言われなくなって、今の状態だ」
ロルフはきっと昔からマリアンヌのことが好きだった。
兄と想い人が結婚するという状況を一体どんな気持ちで受け入れていたのだろう。
「俺の目から見て、二人は仲の良い夫婦に見えたよ」
「確かに仲は良かったわ。けれどあの方は私を妹のように思っていらっしゃった…」
マリアンヌが瞬きをする。
「1年経っても子供ができなかったわ。世継ぎを産むのは大切な役目なのに。こうなると私か、あの方の体に問題がある可能性が高かった」
その時のことを思い出したのだろう。何かに耐えるようにうつむく。
そして顔を上げ、ギルバートを見つめる。
「不安な気持ちに苛まれていた頃、あの女が来たのよ」
その目は憎しみに満ち溢れていた。
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