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第2章 異世界(トゥートゥート)
07. 奴は今世も奴だった
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「スノウ、ほら口開けろ。」
いや・・・、自分で食べられるから。
食堂の床にフォークを落とした俺は、「これ使えよ、使ってないから。」と言って隊長自らすくい上げたオムレツを、何故だか餌付けされそうになっている。
「えぇと・・、新しいのを貰ってきますので。」
そう言って立ち上がろうとする俺を、隊長がやんわりと押さえる。
「とりあえず食えって。これさっき食ったけど、旨かったぞぉ。中のチーズがトロトロに蕩けててな。トマトソースの酸味と甘み、それとスパイスの香りが最高のバランスだ。ほら、冷めないうちに一口食っとけ。」
ゔっ・・・、何だその旨そうな説明は。
そう言われると、食わずにはいられないじゃないか。
隊長の「早くしないと垂れる」、という言葉に急かされ、俺は思わずパクリと食いついた。
旨い!!
口の中で蕩けたチーズがまったりと広がる!
あぁ・・・至福の時間だ。
「くそっ・・・たまんねぇな。」
またよく分からんつぶやきを漏らしてやがる。
隣のマーガレットが、ガチャンと皿の中にスプーンをぶつけて、「ウググ・・・、やるな、なかなかやるな。」と独り言を言っていた。
普段、完璧なマナーの彼女にしては珍しい。
モグモグとよく味わってから飲み込むと、目の前にまた新たな一口が用意される。
俺は誘われるように、パクリとそれに食いついた。
うん、二口目も旨い!
「フッ、よく食うなぁ。」
気がつけば結局オムレツを全て餌付けされていた。
まずい・・・全然記憶にねぇ。
次に運ばれてきた料理からは自分で食べたが、隊長は終始ニヤニヤとしながら俺のことを見ている。
「人が食べてるの見てて、楽しいですか?」
「あぁ、楽しい。お前のはな。」
大食いが物珍しいのか?
まぁ、そうだろう。
俺も俺以上に食う奴がいたら、ついつい見てしまう。
嬉しくて。
残念ながら、まだ出会ったことは無いが。
「隊長は食べないんですね。」
さっきからグラスを傾けるだけで食事する気配がない。
赤ワインのようだが、王立騎士が昼間から酒飲んでていいのだろうか?
「アルベルトだ。」
何のことだと首をかしげると、隊長は頬杖をついた体勢でこちらを見ながらクスリと笑い、口に入りそうになっている俺の横髪を耳にかけてくれる。
サンキュ。
相変わらず面倒見のいい奴だな。
「俺の名前だ。アルベルト・エクウス。アルでいい。」
あ~・・・。
ここは、俺も自己紹介しといた方がいいんだろうな。
裕福な商家の街娘という設定だったんだが。
仕方ない。
隊長様に偽名使ったら捕まりそうだし・・・。
「スノウ・レッドモアです。」
スノウでいいぞって、お前もう勝手に呼んでんじゃん。
「レッドモア?レッドモアって・・・まさか、レッドモア公爵が養子にしたっていう赤毛の娘か?」
アルがギョッとしたように俺を見る。
こいつは赤毛に偏見がないようだが、当時、公爵が赤毛の養子を取ったという噂は、貴賎を問わずかなりの衝撃をもって伝わっていた。
それほど特異なことだったんだ。
「へぇ~、なるほどね。」
あぁ、こいつのこの顔、前世にもよく見たな。
表面は笑っているが、内心イライラしている時の顔だ。
何にムカついているのか知らんが、俺は用意された食事の最後の一口を堪能する。
あぁ、旨かった!
食堂のスタッフがチャタのパウンドケーキと俺用にイチゴを持って来てくれた。
目を輝かせてヨダレを垂らしているチャタを膝に乗せ、俺は一口ずつフォークでチャタに食べさせてやる。
「何だ、随分過保護な犬だな。」
アルがチャタをマジマジと見ながら呆れたように言う。
「確かにちょっと変わってますけど・・・」
聖獣だしな。
「チャタは昔から、こうしないと食べてくれないんで。」
「ふ~ん、手のかかる奴だな。じゃあ、イチゴは俺が食べさせてやるよ。」
いや、チャタは俺からしか食わねぇぞ。
そう言おうとしたら、アルは指でヒョイと摘んだイチゴを、俺の口に添えた。
あ、チャタじゃねぇのか。
俺は雛鳥のように、ほとんど条件反射で口を開ける。
大きすぎるイチゴは俺の口には入りきらず、半分ほどをかぶり付くと、瑞々しいピンク色の果汁が口の端から溢れ出た。
「旨そうだな。」
アルは俺に顔を近づけると、口元を伝う果汁をペロリと舐めとった。
獣みたいなやつだな。
「甘い。」とギラギラした目でニヤつく男を、俺は呆れた目で見ていた。
隣でガタンという大きな音が響く。
「いけません!!!今のはいけません!!!ダメ!!絶対ダメ!!!!・・・・ていうか私が殺される!!」
先ほどから、食事を終えチラチラとこちらの様子を伺いながらお茶を飲んでいたマーガレットが、突然立ち上がり叫び出した。
え??殺される!?
興奮して物騒な事を言うマーガレットに、俺は虚を衝かれて間抜けな顔をさらしていた。
騒がしかった食堂が一気に静まりかえり、注目を浴びている。
「マ、マーガレット??大丈夫?何があったの?」
青ざめた様子のマーガレットは、驚く俺の手首を掴むと「帰りますよ!」と言って問答無用で力強く引っ張り出した。
うぐぁっ!
あ、危ねぇっ・・・ムチウチになるかと思った・・・。
見かけによらず力持ちなんだな、マーガレットは。
片手にチャタを抱えて、半ば強引に引き摺られるように歩く俺は、状況がよく飲み込めず混乱したまま後ろのアルを振り返った。
奴は不適に笑うと、声には出さず『またな』と言って、俺に軽く手を振る。
クソっ、イケメンはどんな仕草もカッコいいな。
羨ましい。
次はいつ会えるのやら。
久しぶりに会った前世の友達だが、なかなか会える機会も無さそうだなと彼を見ていると、「振り返らないでください!!」とマーガレットに叱責されてしまった。
一体どうしたと言うんだ・・・。
最近、彼女の情緒が心配だ。
いや・・・、自分で食べられるから。
食堂の床にフォークを落とした俺は、「これ使えよ、使ってないから。」と言って隊長自らすくい上げたオムレツを、何故だか餌付けされそうになっている。
「えぇと・・、新しいのを貰ってきますので。」
そう言って立ち上がろうとする俺を、隊長がやんわりと押さえる。
「とりあえず食えって。これさっき食ったけど、旨かったぞぉ。中のチーズがトロトロに蕩けててな。トマトソースの酸味と甘み、それとスパイスの香りが最高のバランスだ。ほら、冷めないうちに一口食っとけ。」
ゔっ・・・、何だその旨そうな説明は。
そう言われると、食わずにはいられないじゃないか。
隊長の「早くしないと垂れる」、という言葉に急かされ、俺は思わずパクリと食いついた。
旨い!!
口の中で蕩けたチーズがまったりと広がる!
あぁ・・・至福の時間だ。
「くそっ・・・たまんねぇな。」
またよく分からんつぶやきを漏らしてやがる。
隣のマーガレットが、ガチャンと皿の中にスプーンをぶつけて、「ウググ・・・、やるな、なかなかやるな。」と独り言を言っていた。
普段、完璧なマナーの彼女にしては珍しい。
モグモグとよく味わってから飲み込むと、目の前にまた新たな一口が用意される。
俺は誘われるように、パクリとそれに食いついた。
うん、二口目も旨い!
「フッ、よく食うなぁ。」
気がつけば結局オムレツを全て餌付けされていた。
まずい・・・全然記憶にねぇ。
次に運ばれてきた料理からは自分で食べたが、隊長は終始ニヤニヤとしながら俺のことを見ている。
「人が食べてるの見てて、楽しいですか?」
「あぁ、楽しい。お前のはな。」
大食いが物珍しいのか?
まぁ、そうだろう。
俺も俺以上に食う奴がいたら、ついつい見てしまう。
嬉しくて。
残念ながら、まだ出会ったことは無いが。
「隊長は食べないんですね。」
さっきからグラスを傾けるだけで食事する気配がない。
赤ワインのようだが、王立騎士が昼間から酒飲んでていいのだろうか?
「アルベルトだ。」
何のことだと首をかしげると、隊長は頬杖をついた体勢でこちらを見ながらクスリと笑い、口に入りそうになっている俺の横髪を耳にかけてくれる。
サンキュ。
相変わらず面倒見のいい奴だな。
「俺の名前だ。アルベルト・エクウス。アルでいい。」
あ~・・・。
ここは、俺も自己紹介しといた方がいいんだろうな。
裕福な商家の街娘という設定だったんだが。
仕方ない。
隊長様に偽名使ったら捕まりそうだし・・・。
「スノウ・レッドモアです。」
スノウでいいぞって、お前もう勝手に呼んでんじゃん。
「レッドモア?レッドモアって・・・まさか、レッドモア公爵が養子にしたっていう赤毛の娘か?」
アルがギョッとしたように俺を見る。
こいつは赤毛に偏見がないようだが、当時、公爵が赤毛の養子を取ったという噂は、貴賎を問わずかなりの衝撃をもって伝わっていた。
それほど特異なことだったんだ。
「へぇ~、なるほどね。」
あぁ、こいつのこの顔、前世にもよく見たな。
表面は笑っているが、内心イライラしている時の顔だ。
何にムカついているのか知らんが、俺は用意された食事の最後の一口を堪能する。
あぁ、旨かった!
食堂のスタッフがチャタのパウンドケーキと俺用にイチゴを持って来てくれた。
目を輝かせてヨダレを垂らしているチャタを膝に乗せ、俺は一口ずつフォークでチャタに食べさせてやる。
「何だ、随分過保護な犬だな。」
アルがチャタをマジマジと見ながら呆れたように言う。
「確かにちょっと変わってますけど・・・」
聖獣だしな。
「チャタは昔から、こうしないと食べてくれないんで。」
「ふ~ん、手のかかる奴だな。じゃあ、イチゴは俺が食べさせてやるよ。」
いや、チャタは俺からしか食わねぇぞ。
そう言おうとしたら、アルは指でヒョイと摘んだイチゴを、俺の口に添えた。
あ、チャタじゃねぇのか。
俺は雛鳥のように、ほとんど条件反射で口を開ける。
大きすぎるイチゴは俺の口には入りきらず、半分ほどをかぶり付くと、瑞々しいピンク色の果汁が口の端から溢れ出た。
「旨そうだな。」
アルは俺に顔を近づけると、口元を伝う果汁をペロリと舐めとった。
獣みたいなやつだな。
「甘い。」とギラギラした目でニヤつく男を、俺は呆れた目で見ていた。
隣でガタンという大きな音が響く。
「いけません!!!今のはいけません!!!ダメ!!絶対ダメ!!!!・・・・ていうか私が殺される!!」
先ほどから、食事を終えチラチラとこちらの様子を伺いながらお茶を飲んでいたマーガレットが、突然立ち上がり叫び出した。
え??殺される!?
興奮して物騒な事を言うマーガレットに、俺は虚を衝かれて間抜けな顔をさらしていた。
騒がしかった食堂が一気に静まりかえり、注目を浴びている。
「マ、マーガレット??大丈夫?何があったの?」
青ざめた様子のマーガレットは、驚く俺の手首を掴むと「帰りますよ!」と言って問答無用で力強く引っ張り出した。
うぐぁっ!
あ、危ねぇっ・・・ムチウチになるかと思った・・・。
見かけによらず力持ちなんだな、マーガレットは。
片手にチャタを抱えて、半ば強引に引き摺られるように歩く俺は、状況がよく飲み込めず混乱したまま後ろのアルを振り返った。
奴は不適に笑うと、声には出さず『またな』と言って、俺に軽く手を振る。
クソっ、イケメンはどんな仕草もカッコいいな。
羨ましい。
次はいつ会えるのやら。
久しぶりに会った前世の友達だが、なかなか会える機会も無さそうだなと彼を見ていると、「振り返らないでください!!」とマーガレットに叱責されてしまった。
一体どうしたと言うんだ・・・。
最近、彼女の情緒が心配だ。
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