天使の慈悲 〜家族みんなで転生しました〜

きぬた

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第2章 異世界(トゥートゥート)

10. 初めての経験

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 ええと・・・これはこれは。
 ???
 ・・・・どういう事だ?

 豪勢なシャンデリアがキラキラと輝き、宮廷楽団の演奏でホールにいる男女が色とりどりの衣装を着て、華やかに踊っている。
 その奥の上座には、すでに王様と王妃様が鎮座していた。
 あれがこの国の王様とお妃様かぁとマジマジと見ていたが、どうも様子がおかしい。 
 金ピカの立派な玉座に座っている王様は、肘掛に片肘を立てて頬杖を付いた状態で、なんとも不貞腐れた表情を浮かべて宴を見るともなしに見ていた。
 その隣では、玉座よりやや小ぶりの金ピカの椅子に座る王妃様が、背筋を伸ばした美しい姿勢で、だらしなく座る王様の姿を半眼で、文字通り見下している。

 「どうやら計画は上手くいったようだな。」

 横にいるブラッドが悪どい表情を浮かべてニタリと笑った。
 なんだか背筋がゾッとしたんだが。
 いや・・・何も聞くまい。

 しかし、あれが王様かぁ・・・。
 大柄でガッチリとした貫禄のある体躯に、プラチナブロンドの髭を蓄えた強面の顔。
 おそらく普通に座っていれば威厳があるんだろうな。
 今はなんだか、項垂れて萎んでいるようだ。
 隣にいる王妃様は、シルバーの美しいストレートヘアを腰まで伸ばした、凛として知性的なクールビューティーだ。
 二人はなかなか子宝に恵まれなかったらしく、王子は王が40代、王妃が30代の時にやっと授かった一人息子らしい。
 さぞや可愛かろう。
 その気持ちは分かるぞ。
 俺も幸希コウキが来た時は、本当に嬉しかったもんな!
 
 そうこうしていると、城の使いと思われる人物がブラッドに「王子の体調が優れないため本日の謁見は中止となりました。どうぞごゆるりと舞踏会をお楽しみくださいませ。」と言ってきた。
 今日の舞踏会で、王子は一人一人の娘と踊る予定だったはずだ。
 どうやらそれが中止になったらしい。

 「スノウ、そういう事だ。私はとっとと挨拶を済ませてくるから、お前はここで座って待ってなさい。ダンスに誘われても、踊ってはダメだよ。足を怪我していると言いなさい。」

 めっちゃ階段登ってきたけど。

 「ブラッド、あそこに並べてある軽食は食べてもいいのかしら?」

 そんなことよりもさっきから気になっていたのは、壁際のテーブルに用意されているオードブルの数々だ。

 「フッ、そう言うと思って一番近いこの椅子を選んだんだよ。」

 ブラッドがクスリと笑うと、何故だか周囲の人がザワザワした。
 気のせいか?
 でも、娘たちはブラットの笑顔に見惚れているようだ。
 罪な男だな、ブラッドは。

 「じゃあ、行ってくる。大人しくしているんだ。いいな。なるべく早く済ませて帰ってくるから。」

 そう言って、ブラッドは俺の頭にキスをして、王様や側近が集まるホールの奥へと歩いて行った。
 一体俺のこと、何歳だと思っているのだろうか。
 これじゃまるで、留守番をする子供だな。

 早速オードブルを物色する。
 まだ舞踏会が始まったばかりということもあり、そこには誰もいなかった。
 そもそもコルセットがキツすぎて、女の人は食べる事も出来ないのではないだろうか。
 実際俺も、あまり入らなそうだ。
 腹は減っているというのに・・・クソっ。

 「良かったら、お取りしましょうか?」

 腹に入れられる量が限られてくるとなると、よく吟味して選ばなければ・・・、そう真剣に考えていたら、いつの間にか隣に知らない男が立っていた。
 アッシュブロンドの髪を綺麗にセットした、優男風のイケメンだ。

 「ありがとうございます。でも自分で選んで取るのも楽しみの一つなんです。」
 「あぁ、なるほど。わかりますよ。あなたは自立した女性なのですね。」

 ・・・それしきの事で、自立とか言われてもな。
 この国の貴族の女性って想像以上に窮屈なのか?

 「迷っているのでしたら、これがオススメですよ。宮廷で出されるパイ料理は評判ですから。」

 と、気づけば反対側の隣にも知らない男が立っている。
 ビビった~。
 全然気付かなかったぜ。
 しかし聞き捨てならない。
 なになにパイ料理だと?

 「それはぜひ頂きます。」

 パイには魚と牛肉と鶏肉の三種類があるようだ。
 それぞれ味付けが違うらしい。
 よし、3つともゲットだぜ!

 「庶民街ではパイ料理は珍しいですか?」

 3つも欲張ったからだろうか?
 貴族の娘はいっぺんにそんなに食べないのだろう。
 がっついて見えたようだ。
 いや、がっついてはいるんだが。

 「おいっ、失礼だろそんな言い方。」
 「あっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ・・・、僕あまり庶民のことを知らなくて・・・。」

 本当に申し訳なさそうに言う少年。
 まだ16,7歳ぐらいだろうか?
 栗色のサラサラヘアの可愛らしい少年だ。

 「いえ、いいんですよ。気になさらないでください。確かに庶民街ではこういった、飾りが施してある繊細な作りのパイは見かけませんね。でも、煮込み料理やスープをパイで包んで食べる事はありますよ。それは、それで美味しいんです。」

 街のパン屋で食べたパイの味を思い出しながら、恐らく俺はまただらしない顔で話しているのだろう。
 それを聞いていた、二人の顔も赤く染まっていく。
 俺のパイ料理への熱意が伝わったか。

 「へぇ~、美味しそうですね。食べてみたいなぁ。」
 「お、俺も、一度庶民街には行ってみたいと思ってたんだ。」

 それなら打って付けじゃないか!
 庶民街にはそこそこ詳しいし、何より俺もパイが食べたい。
 これは良い理由が出来た!

 「良かったらご案内しますよ。庶民街へは最近もよく行くんです。」

 ていうか、ここのとこ毎日行ってたな・・・。
 ただ、なかなか寄り道できないってのが悩みの種だ。

 「え?今でも・・?」
 「はい。ですから、行きたいところがあったらおっしゃって下さいね。」
 「ホント?!じゃあ僕、前から行きたかったところが・・・」
 「アラン様、ここにいらしたの?キャサリンが探していたわ。ダンスの約束をしたのでしょ?」

 ちょうど話が盛り上がり始めたところ、何やら一際威厳を放つゴージャスな美少女がゾロゾロと4、5人の娘を引き連れてやって来た。

 「え?あぁ・・・うん。そうだったね、今行くよ。」

 栗色のサラサラヘアの少年はアランというらしい。
 行ってしまったが、また会えるだろうか?
 結局街へは行くのか?行かないのか?

 「エリック様もイザベラを放っておいて良いのですか?」
 「あぁ、これから行こうと思ってたんだ。では、失礼。」

 アッシュブロンドの優男はエリックか。
 手の甲に口付けして、カッコ良く去って行ってしまった。
 あぁ、せっかく寄り道する口実が出来たと思ったのに・・・。

 「困りましたわね。殿方の火遊びにも。」

 美少女が頬に手を当てて、悩ましげに首を傾けて溜息をついた。

 「庶民の女性は、食事にも異性関係にも大らかだと聞きますけれど・・・ホントに無邪気で可愛らしい方ね。」

 そう言って、美少女は俺に向かって可憐に微笑んだ。

 「・・・・。」
 
 こ・・・こぇ~~~~~~~!!!!!
 何これ!すげぇ恐ぇ~じゃん!!
 取って付けたような言い回しに、笑顔のフルコンボ!
 精神をザクザクと削っていくこの感じ・・・。
 俺、この苦手だ。
 
 人生初めての経験だった。
 食べ物を目の前にしながら、早くここから立ち去りたいと、そう思ったのは。
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