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本編
婚約破棄から始まるバッドエンド 1
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「アネモネ・グリンフィンガー! 貴様との婚約を破棄する!」
会場中の全ての人がそちらを振り向くよく通る大きな声で、エドモンド・ペタル第一王子は言った。
今日は王立学園の卒業パーティ。卒業生たちとその後輩が舞踏会さながらの豪奢な会場で別れを惜しむその会は、ひとりの少女を糾弾する声により、和やかな空気を一瞬にして失った。
周囲の人間は関わり合いになることを恐れつつも今から何が起きるのか見届けたいという好奇心を隠さずに、エドモンドを中心にして遠巻きな円を形成して息をひそめている。
エドモンドに名指しされた少女、アネモネ・グリンフィンガーは、その円の内側で美しい顔に貼り付けた笑みをそのままに動きを止めた。そしてほんの数瞬のうちに自分が何を言われたのかを理解すると、がくりと身体の支えを失ったように冷たい床へと座り込んだ。
彼女の髪と瞳の色に合わせた青いドレスが場違いにも花のように膨らむ。
水色の髪を結い上げて深い青の双眸を持つ少女は、失望したような怯えたような顔でエドモンド王子の顔を見上げた。
広いダンスホールの天井からいくつも垂れ下がるまばゆいシャンデリアが今は邪魔だった。逆光になり、王子の顔がよく見えない。
眩しさに目を細め、アネモネは口を開く。
「……理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか」
凛と張ったつもりの声は、震えが多く混じりささやきといってもよいものだった。
ホールの中心の一番目立つところに胸を張って立つ王子は、そこから少し離れたところにへたり込むアネモネに向けて心底馬鹿にしきった表情で笑う。
「理由? 理由だと? それは貴様が誰よりも理解していると思っていたがな、アネモネ! あさましいグリンフィンガーの徒花め!」
『グリンフィンガーの徒花』というのは社交界でのアネモネの不名誉な二つ名だ。
ここペタル王国は植物に関連する魔法が使える血筋ほど貴い身分だとされる。アネモネの生家であるグリンフィンガー公爵家は植物の生長を自在に操る魔法を使いこなすことで有名な一族であり、『緑の親指』と称賛されていた。当然長女のアネモネはその力を存分に発揮することが期待されていたのだが。
「王族に次いで力ある貴族である貴様は、その血を持って生まれたくせに家系魔法が上手く使えない! 全ての植物を枯らす呪われた女! それが貴様の正体であろう!」
その言葉にアネモネは俯き唇を強く嚙んだ。その通りだったからだ。
アネモネが家系に伝わる魔法……「緑の親指」を使うと、その対象である植物はことごとくが枯れてしまう。塵すら残らない枯れ方をすることもざらにあった。
「……それは、エドモンド王子のおっしゃる通りです。ですがわたくしはいつか必ず魔法を使いこなせるようにと鍛錬と研究を欠かしたことはございません! それにその点以外には問題がないからわたくしは貴方様の婚約者として選ばれたのです。この婚約は国益のためのもの。わたくしとの婚約を破棄したとして、その後どうなさるおつもりですか!」
「ご心配なく、お姉さま。あたくしがおりますわ」
周囲を取り囲む群衆の中から、甘ったるい声の女が進み出て、エドモンド王子の隣に立った。
柔らかそうな金髪のツインテール。アネモネよりも薄い青の瞳。ピンクから紫へと変わるグラデーションのドレスを着てにこやかな笑みを浮かべたその女は、そのままするりと王子の左腕に己の腕を絡ませアネモネを見下ろした。
「ベラ……? どうして」
「お姉さまがエドモンド王子の婚約者に選ばれたのは、確かに国益のためですわ。けれど、グリンフィンガー公爵家との結束を強めるためでしたら別にお姉さま相手でなくても良いのです。あたくしは家の魔法も上手に使えますし、何より政略しか頭になかったお姉さまとは違って、心からエドモンドさまを愛しています!」
「おお、ベラ……! 俺の天使!」
アネモネは目の前の事態が呑み込めていなかった。
人のことを忘れていちゃついているのは、幼い頃から婚約者だと聞かされていたこの国の第一王子と実の妹だ。
この妹は昔からアネモネのことを嫌っていて決して態度は良くなかったが、まさか婚約者を奪われるとは思っていなかった。
アネモネは確かにグリンフィンガー公爵家の最大の証明である魔法が苦手だ。しかしそれ以外のことは努力によって人並み以上に出来る。
この王立学園での成績もいつも上位であったし、長年の王妃教育により将来の王妃になる者に相応しい振る舞いというものを完璧に身につけている。容姿も礼儀も最高に磨き上げられているその姿で、『徒花』なりに周囲からの信頼も徐々に勝ち取っているところだった。
悔しいのか悲しいのかも分からない混乱の中、エドモンドが再び大きく声を上げた。
「アネモネ貴様、先程俺に反論したときに『鍛錬と研究を欠かしたことはない』と言ったな? 未来の王たるこの俺に嘘を吐くとは、全く救いようがないな」
「う、嘘? 嘘など吐いておりません」
「いいえ嘘ですわ! お姉さまはあたくしの研究を盗んだのです!」
「ベラ……!? 何を言っているの」
「これが証拠ですわ!」
ベラがばっと掲げたのは、ボロボロの分厚いノートだった。
「それは……わたくしのノート? ベラ、貴女まさか」
「これはお姉さまがあたくしから盗んだものです。先日ようやく取り戻しました。お姉さまは魔法を上手く使えるあたくしを妬み、大切な研究を記したノートを盗んで自分のものだと言っていたのです。それにあたくしはお姉さまの手によって公爵家の庭にある温室に閉じ込められたこともあります。幸い大事には至らなかったものの、とても恐ろしかった……。皆様これでお分かりでしょう、あたくしの姉アネモネ・グリンフィンガーは嫉妬に狂っているのです!」
アネモネは声が出なかった。ベラに言われたことが何一つ身に覚えがなかったからではない。逆だ。今ベラが言ったことは、数か月前にアネモネがベラにされたことだったからだ。
魔法の鍛錬や研究の全てを記したノートを紛失し、冬に一晩温室に閉じ込められた。どちらもベラの仕業だとすぐに判明したが、「緑の親指」の力に長けているベラを両親は溺愛しているので、アネモネの声は家の中で封殺された。ただの悪戯、勘違いだと。結局卒業パーティの今日までノートは返してもらえなかったので最近は別のノートに書くようにしていた。当然ベラから謝罪はなかったが、いつものことだと諦めてしまっていた。
それがまさか、まさかこんなことになろうとは。
失意のどん底にいるアネモネに追い打ちをかけるようにエドモンドが再び口を開く。
「聞いたか皆! アネモネは罪を犯した! ペタル王国の最大の罪、嫉妬だ! この女は我が婚約者には相応しくない! よって俺はここに宣言する! アネモネ・グリンフィンガーとの婚約を破棄し、ベラ・グリンフィンガーと婚約する! そして罪人アネモネには然るべき方法で罪を償わせると!」
この宣言により周囲の人間たちにどよどよと動揺が広がっていった。
「アネモネさま、魔法が上手く使えないからといって妹から研究を盗むなんて」
「……いや、でもあのノートをベラ様が書いているところなんか見たことないぞ。アネモネ様が一生懸命何か書きつけているところはよく見たが」
「しっ! 滅多なことを言うな。次の王であるエドモンド王子がアネモネ様は罪人だと言ったんだ。事実かどうかは関係ないんだ」
「ペタル王国初代国王陛下のお言葉により、嫉妬は重罪ですわよね。『黒い親指』様は公爵令嬢ですし元とはいえ第一王子の婚約者でしたから、相当罪が重くなるのでは……」
「ああ。……国外追放は免れないかもしれないな……」
ペタル王国の創始者たる初代国王は、後世に向けていくつかの言葉を遺した。その中でも最も大切にされている言葉が、「花はそれぞれ特別で、だからこそ素晴らしい」というものだ。この言葉は王国民に広く知られ互いを尊重し合うことを伝えているが、法律にも強く影響を与えている。
曰く、嫉妬は重罪。
それぞれ皆良いところは違うのに、それを認められず他人を害そうとは言語道断、初代国王の言葉に逆らう不届き者め、ということだ。
そして王族と貴族は民の見本となるために、法を順守することを求められる。
グリンフィンガー公爵家は、かつて王女と結婚したこともある格式ある家柄だ。そのため王族とほぼ同等の責任が伴う。
そんな家の娘、しかも第一王子の婚約者だった人間が重罪を犯したとあれば、生半可な罰では済まないことは明らかだった。
「最後の温情だ、今日はこれで屋敷へ帰るがいい。妙な気を起こさないよう監視はつけさせてもらうが、家族との別れをよくよく惜しむのだな。明日には貴様が受ける罰の報せが届くだろう!」
「エドモンド王子、愚かな姉に優しさをありがとうございます。さ、帰りましょうお姉さま。お姉さまと屋敷で過ごせる夜は、これが最後になるかもしれませんもの」
エドモンド王子から腕を解き、アネモネの元へ歩み寄ってきたベラは優しげな微笑みを浮かべて冷たい床に座り込んだままのアネモネに手を差し出した。
アネモネはまた深く俯くと、ほんの一瞬顔を歪めて苦しみを表出させた。深呼吸を一つして前を向くと、口を真一文字に引き結び、その手を見なかったことにして立ち上がった。
ふわりとドレスの裾が持ち上がり、花が枯れる直前に大きく咲くように見える。立ち上がるだけで優雅なその姿は、エドモンドとベラを含めたその場全ての人間の目を釘付けにした。
深い悲しみを湛えた青い双眸を歪めながらも淑女の完璧な笑みを保つアネモネは、その表情のまま片足を引きドレスを摘みお辞儀をする。
下げた顔を上げたときにはもう悲しみも怒りもその表情になかった。
「お心遣い、ありがたく頂戴いたします、エドモンド王子。そしてベラとのご婚約、誠におめでとうございます。良き国を築かれますよう、家臣としてお祈り申し上げます。それでは失礼いたします。皆様、ごきげんよう」
仮面のように完璧な笑み。落ち着いた声。王妃教育はいっそ哀しいほどにアネモネに染み付いていた。
会場中の全ての人がそちらを振り向くよく通る大きな声で、エドモンド・ペタル第一王子は言った。
今日は王立学園の卒業パーティ。卒業生たちとその後輩が舞踏会さながらの豪奢な会場で別れを惜しむその会は、ひとりの少女を糾弾する声により、和やかな空気を一瞬にして失った。
周囲の人間は関わり合いになることを恐れつつも今から何が起きるのか見届けたいという好奇心を隠さずに、エドモンドを中心にして遠巻きな円を形成して息をひそめている。
エドモンドに名指しされた少女、アネモネ・グリンフィンガーは、その円の内側で美しい顔に貼り付けた笑みをそのままに動きを止めた。そしてほんの数瞬のうちに自分が何を言われたのかを理解すると、がくりと身体の支えを失ったように冷たい床へと座り込んだ。
彼女の髪と瞳の色に合わせた青いドレスが場違いにも花のように膨らむ。
水色の髪を結い上げて深い青の双眸を持つ少女は、失望したような怯えたような顔でエドモンド王子の顔を見上げた。
広いダンスホールの天井からいくつも垂れ下がるまばゆいシャンデリアが今は邪魔だった。逆光になり、王子の顔がよく見えない。
眩しさに目を細め、アネモネは口を開く。
「……理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか」
凛と張ったつもりの声は、震えが多く混じりささやきといってもよいものだった。
ホールの中心の一番目立つところに胸を張って立つ王子は、そこから少し離れたところにへたり込むアネモネに向けて心底馬鹿にしきった表情で笑う。
「理由? 理由だと? それは貴様が誰よりも理解していると思っていたがな、アネモネ! あさましいグリンフィンガーの徒花め!」
『グリンフィンガーの徒花』というのは社交界でのアネモネの不名誉な二つ名だ。
ここペタル王国は植物に関連する魔法が使える血筋ほど貴い身分だとされる。アネモネの生家であるグリンフィンガー公爵家は植物の生長を自在に操る魔法を使いこなすことで有名な一族であり、『緑の親指』と称賛されていた。当然長女のアネモネはその力を存分に発揮することが期待されていたのだが。
「王族に次いで力ある貴族である貴様は、その血を持って生まれたくせに家系魔法が上手く使えない! 全ての植物を枯らす呪われた女! それが貴様の正体であろう!」
その言葉にアネモネは俯き唇を強く嚙んだ。その通りだったからだ。
アネモネが家系に伝わる魔法……「緑の親指」を使うと、その対象である植物はことごとくが枯れてしまう。塵すら残らない枯れ方をすることもざらにあった。
「……それは、エドモンド王子のおっしゃる通りです。ですがわたくしはいつか必ず魔法を使いこなせるようにと鍛錬と研究を欠かしたことはございません! それにその点以外には問題がないからわたくしは貴方様の婚約者として選ばれたのです。この婚約は国益のためのもの。わたくしとの婚約を破棄したとして、その後どうなさるおつもりですか!」
「ご心配なく、お姉さま。あたくしがおりますわ」
周囲を取り囲む群衆の中から、甘ったるい声の女が進み出て、エドモンド王子の隣に立った。
柔らかそうな金髪のツインテール。アネモネよりも薄い青の瞳。ピンクから紫へと変わるグラデーションのドレスを着てにこやかな笑みを浮かべたその女は、そのままするりと王子の左腕に己の腕を絡ませアネモネを見下ろした。
「ベラ……? どうして」
「お姉さまがエドモンド王子の婚約者に選ばれたのは、確かに国益のためですわ。けれど、グリンフィンガー公爵家との結束を強めるためでしたら別にお姉さま相手でなくても良いのです。あたくしは家の魔法も上手に使えますし、何より政略しか頭になかったお姉さまとは違って、心からエドモンドさまを愛しています!」
「おお、ベラ……! 俺の天使!」
アネモネは目の前の事態が呑み込めていなかった。
人のことを忘れていちゃついているのは、幼い頃から婚約者だと聞かされていたこの国の第一王子と実の妹だ。
この妹は昔からアネモネのことを嫌っていて決して態度は良くなかったが、まさか婚約者を奪われるとは思っていなかった。
アネモネは確かにグリンフィンガー公爵家の最大の証明である魔法が苦手だ。しかしそれ以外のことは努力によって人並み以上に出来る。
この王立学園での成績もいつも上位であったし、長年の王妃教育により将来の王妃になる者に相応しい振る舞いというものを完璧に身につけている。容姿も礼儀も最高に磨き上げられているその姿で、『徒花』なりに周囲からの信頼も徐々に勝ち取っているところだった。
悔しいのか悲しいのかも分からない混乱の中、エドモンドが再び大きく声を上げた。
「アネモネ貴様、先程俺に反論したときに『鍛錬と研究を欠かしたことはない』と言ったな? 未来の王たるこの俺に嘘を吐くとは、全く救いようがないな」
「う、嘘? 嘘など吐いておりません」
「いいえ嘘ですわ! お姉さまはあたくしの研究を盗んだのです!」
「ベラ……!? 何を言っているの」
「これが証拠ですわ!」
ベラがばっと掲げたのは、ボロボロの分厚いノートだった。
「それは……わたくしのノート? ベラ、貴女まさか」
「これはお姉さまがあたくしから盗んだものです。先日ようやく取り戻しました。お姉さまは魔法を上手く使えるあたくしを妬み、大切な研究を記したノートを盗んで自分のものだと言っていたのです。それにあたくしはお姉さまの手によって公爵家の庭にある温室に閉じ込められたこともあります。幸い大事には至らなかったものの、とても恐ろしかった……。皆様これでお分かりでしょう、あたくしの姉アネモネ・グリンフィンガーは嫉妬に狂っているのです!」
アネモネは声が出なかった。ベラに言われたことが何一つ身に覚えがなかったからではない。逆だ。今ベラが言ったことは、数か月前にアネモネがベラにされたことだったからだ。
魔法の鍛錬や研究の全てを記したノートを紛失し、冬に一晩温室に閉じ込められた。どちらもベラの仕業だとすぐに判明したが、「緑の親指」の力に長けているベラを両親は溺愛しているので、アネモネの声は家の中で封殺された。ただの悪戯、勘違いだと。結局卒業パーティの今日までノートは返してもらえなかったので最近は別のノートに書くようにしていた。当然ベラから謝罪はなかったが、いつものことだと諦めてしまっていた。
それがまさか、まさかこんなことになろうとは。
失意のどん底にいるアネモネに追い打ちをかけるようにエドモンドが再び口を開く。
「聞いたか皆! アネモネは罪を犯した! ペタル王国の最大の罪、嫉妬だ! この女は我が婚約者には相応しくない! よって俺はここに宣言する! アネモネ・グリンフィンガーとの婚約を破棄し、ベラ・グリンフィンガーと婚約する! そして罪人アネモネには然るべき方法で罪を償わせると!」
この宣言により周囲の人間たちにどよどよと動揺が広がっていった。
「アネモネさま、魔法が上手く使えないからといって妹から研究を盗むなんて」
「……いや、でもあのノートをベラ様が書いているところなんか見たことないぞ。アネモネ様が一生懸命何か書きつけているところはよく見たが」
「しっ! 滅多なことを言うな。次の王であるエドモンド王子がアネモネ様は罪人だと言ったんだ。事実かどうかは関係ないんだ」
「ペタル王国初代国王陛下のお言葉により、嫉妬は重罪ですわよね。『黒い親指』様は公爵令嬢ですし元とはいえ第一王子の婚約者でしたから、相当罪が重くなるのでは……」
「ああ。……国外追放は免れないかもしれないな……」
ペタル王国の創始者たる初代国王は、後世に向けていくつかの言葉を遺した。その中でも最も大切にされている言葉が、「花はそれぞれ特別で、だからこそ素晴らしい」というものだ。この言葉は王国民に広く知られ互いを尊重し合うことを伝えているが、法律にも強く影響を与えている。
曰く、嫉妬は重罪。
それぞれ皆良いところは違うのに、それを認められず他人を害そうとは言語道断、初代国王の言葉に逆らう不届き者め、ということだ。
そして王族と貴族は民の見本となるために、法を順守することを求められる。
グリンフィンガー公爵家は、かつて王女と結婚したこともある格式ある家柄だ。そのため王族とほぼ同等の責任が伴う。
そんな家の娘、しかも第一王子の婚約者だった人間が重罪を犯したとあれば、生半可な罰では済まないことは明らかだった。
「最後の温情だ、今日はこれで屋敷へ帰るがいい。妙な気を起こさないよう監視はつけさせてもらうが、家族との別れをよくよく惜しむのだな。明日には貴様が受ける罰の報せが届くだろう!」
「エドモンド王子、愚かな姉に優しさをありがとうございます。さ、帰りましょうお姉さま。お姉さまと屋敷で過ごせる夜は、これが最後になるかもしれませんもの」
エドモンド王子から腕を解き、アネモネの元へ歩み寄ってきたベラは優しげな微笑みを浮かべて冷たい床に座り込んだままのアネモネに手を差し出した。
アネモネはまた深く俯くと、ほんの一瞬顔を歪めて苦しみを表出させた。深呼吸を一つして前を向くと、口を真一文字に引き結び、その手を見なかったことにして立ち上がった。
ふわりとドレスの裾が持ち上がり、花が枯れる直前に大きく咲くように見える。立ち上がるだけで優雅なその姿は、エドモンドとベラを含めたその場全ての人間の目を釘付けにした。
深い悲しみを湛えた青い双眸を歪めながらも淑女の完璧な笑みを保つアネモネは、その表情のまま片足を引きドレスを摘みお辞儀をする。
下げた顔を上げたときにはもう悲しみも怒りもその表情になかった。
「お心遣い、ありがたく頂戴いたします、エドモンド王子。そしてベラとのご婚約、誠におめでとうございます。良き国を築かれますよう、家臣としてお祈り申し上げます。それでは失礼いたします。皆様、ごきげんよう」
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