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23話∶和解
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ヴィンスの口から穏やかに語られる本心と離別への懇願の言葉を、ルナールはただ静かに聞いていた。自分が彼に与えたい祝福を、ヴィンスは求めていなかった。自分が、皆が求めているものを、きっとヴィンスが求めていると信じ切っていて、ヴィンス自身が何を求めているかを、考えようとしなかった。
最初から、自分のアプローチは間違っていた。こんな簡単な事にもっと早く気づいていれば、ヴィンスを傷つける事はなかった。こんなカタチで、彼の本心を聞く事なんて無かったのだろう。
ヴィンスの近くに横たわったまま、茫然と動けないでいる銀髪の男へと視線を向け、次いで彼の血で汚れた自分の手をじっと見つめた。彼の獣の様な腕よりも、欲に衝き動かされた結果、血で汚れることになったこの手の方が余程に忌まわしい。
(きっと、アイツは――ヴィンスが求めていたものが、ちゃんと考えていたんだ)
だから自分は選ばれず、この男が選ばれた。その事実をまざまざと痛感すると、ルナールの瞳からは静かな涙が零れ嗚咽を始めた。
「ヴィンス……ごめん……お前には……沢山、酷い事をした」
こんな事を言った所で、許されるはずはない。この思いを受け入れて貰えるだなんて、思ってもいない。それでも、悔恨の思いをルナールは口に告げずにはいられなかった。
「いいさ。私もまた――お前に向き合ってこなかったんだから」
「っ……」
覚悟していた拒絶の言葉ではなく赦しの言葉を投げかけられ、ルナールは大きく目を見開いた。愛は受け入れられずとも謝罪の思いは、ヴィンスは受け取ってくれた。立ち上がりながらルナールはヴィンスへと手を伸ばし、その意図に気づいたヴィンスが、自らの血に汚れた手をルナールへと伸ばした。
そこで限界になったのか、大きく膝を崩し跪いたヴィンスを目にして、ルナールの呼吸も思考もピタリと止まった。
「ヴィンス!!」
銀髪の男が駆け寄り身に纏っていたシャツを引き裂き止血の為にヴィンスの腕を縛ると、ルナールもまた我に還って駆け寄った。
「ヴィンス!! しっかりしてくれ!!」
痛みで意識が朦朧としているのか、二人の呼び声にヴィンスは答える気配は無い。金色の瞳から涙を零し、意識を取り戻させようとして何度も揺さぶろうとしている男に対し、ルナールは呼びかけた。
「おい、お前……タチアオイが生えてる場所を知ってるか?」
「タチアオイ……? 知ってるけど、何で……」
「俺が傷ついた時、ヴィンスがその根っことワインで止血止めの薬を作ったんだ!!」
「ワインなら……俺の家にある……」
男の言葉にルナールは指笛を鳴らすと、猟犬達が駆け寄った。ヴィンスを抱き上げ立ち上がるルナールの意図を読み取れずにいる男に対し、ルナールは自分達がこれからするべき事を指示した。
「俺はコイツの後についてお前の家まで行って薬を作る準備をする。お前はタチアオイを採った後に家に戻れ!!」
先程まで本気で殺意を向けていた相手の言葉だ。はいそうですか、と簡単に信じられるワケなんてない。それでも、ヴィンスを助ける為に行うべき最善の策は、この男と協力する事以外ルナールには考えられなかった。
「分かった――すぐに戻るから、家で待ってて」
だが男はすぐに首を縦に振ると、拍子抜けする程簡単に、自分の言葉を受けて素早い動きでタチアオイを取りに走った。己がヴィンスへと向けている愛情に偽りが無いと信じてくれたのか、自分とヴィンスのやり取りを見て、敵意が無い事と気づいたが故の事なのか。男の本意は分からないが、自分達には今はそれよりも成すべき事がある。
ルナールは、ヴィンスを抱きかかえると、指示を待って顔を見上げている猟犬達へと顔を向けた。
「行くぞ、お前達」
最初から、自分のアプローチは間違っていた。こんな簡単な事にもっと早く気づいていれば、ヴィンスを傷つける事はなかった。こんなカタチで、彼の本心を聞く事なんて無かったのだろう。
ヴィンスの近くに横たわったまま、茫然と動けないでいる銀髪の男へと視線を向け、次いで彼の血で汚れた自分の手をじっと見つめた。彼の獣の様な腕よりも、欲に衝き動かされた結果、血で汚れることになったこの手の方が余程に忌まわしい。
(きっと、アイツは――ヴィンスが求めていたものが、ちゃんと考えていたんだ)
だから自分は選ばれず、この男が選ばれた。その事実をまざまざと痛感すると、ルナールの瞳からは静かな涙が零れ嗚咽を始めた。
「ヴィンス……ごめん……お前には……沢山、酷い事をした」
こんな事を言った所で、許されるはずはない。この思いを受け入れて貰えるだなんて、思ってもいない。それでも、悔恨の思いをルナールは口に告げずにはいられなかった。
「いいさ。私もまた――お前に向き合ってこなかったんだから」
「っ……」
覚悟していた拒絶の言葉ではなく赦しの言葉を投げかけられ、ルナールは大きく目を見開いた。愛は受け入れられずとも謝罪の思いは、ヴィンスは受け取ってくれた。立ち上がりながらルナールはヴィンスへと手を伸ばし、その意図に気づいたヴィンスが、自らの血に汚れた手をルナールへと伸ばした。
そこで限界になったのか、大きく膝を崩し跪いたヴィンスを目にして、ルナールの呼吸も思考もピタリと止まった。
「ヴィンス!!」
銀髪の男が駆け寄り身に纏っていたシャツを引き裂き止血の為にヴィンスの腕を縛ると、ルナールもまた我に還って駆け寄った。
「ヴィンス!! しっかりしてくれ!!」
痛みで意識が朦朧としているのか、二人の呼び声にヴィンスは答える気配は無い。金色の瞳から涙を零し、意識を取り戻させようとして何度も揺さぶろうとしている男に対し、ルナールは呼びかけた。
「おい、お前……タチアオイが生えてる場所を知ってるか?」
「タチアオイ……? 知ってるけど、何で……」
「俺が傷ついた時、ヴィンスがその根っことワインで止血止めの薬を作ったんだ!!」
「ワインなら……俺の家にある……」
男の言葉にルナールは指笛を鳴らすと、猟犬達が駆け寄った。ヴィンスを抱き上げ立ち上がるルナールの意図を読み取れずにいる男に対し、ルナールは自分達がこれからするべき事を指示した。
「俺はコイツの後についてお前の家まで行って薬を作る準備をする。お前はタチアオイを採った後に家に戻れ!!」
先程まで本気で殺意を向けていた相手の言葉だ。はいそうですか、と簡単に信じられるワケなんてない。それでも、ヴィンスを助ける為に行うべき最善の策は、この男と協力する事以外ルナールには考えられなかった。
「分かった――すぐに戻るから、家で待ってて」
だが男はすぐに首を縦に振ると、拍子抜けする程簡単に、自分の言葉を受けて素早い動きでタチアオイを取りに走った。己がヴィンスへと向けている愛情に偽りが無いと信じてくれたのか、自分とヴィンスのやり取りを見て、敵意が無い事と気づいたが故の事なのか。男の本意は分からないが、自分達には今はそれよりも成すべき事がある。
ルナールは、ヴィンスを抱きかかえると、指示を待って顔を見上げている猟犬達へと顔を向けた。
「行くぞ、お前達」
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