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しおりを挟む聖女アリサは黒目がちな愛らしい目をぱちぱちと瞬かせた。
「……え……殿下? ミレーヌ様……?」
彼女の黒髪がしっとりと濡れているのは湯浴みのあとだからだろう。着ているのはこの学園の制服。ほかに私服がないのだと言っていた気がするが、深緑のブレザーと真紅のリボン、それから白のワンピーススカートは学園の誰よりも彼女に似合っているように思う。
私はランスロットの首に腕を回しつつ、彼女ににっこり笑い返してやった。
「こんばんは、アリサ。お呼びたてしたのにお待たせしてしまって、ごめんなさい。扉を開けられなかったものですから」
私は「ね?」と胸の谷間に顔を埋めるランスロットに微笑みかけた。
「っ見るな、聖女」
「えっ、えっ? ほんとに……? ランスロット王子……うそ……?」
私は高笑いしたい気持ちだった。やってやった! その満足感と同時に、ひどい痛みが胸を刺す。私はいま、誰より大切な人と、一人の友人を、自ら切り捨ててしまったのだ。
(でも、運命が悪いのよ……私にひどい未来を用意して、見せつけてきた運命が……)
かぶりを振って思考を変える。やってしまったことは戻せない。徹底的に悪役になって、彼らの心に残ると決めたのだ。
私は指先ひとつで魔法を使い、ランスロットを縛っていた縄の、手首以外の部分を消した。
するとほとんど半裸の私の身体が、ますます彼に密着することになる。
彼も気づいたらしい。縄がなくなったことで、勃起していた彼の熱が明らかになって、私の陰部を下着越しに押し上げてしまっていることを。
「あん……もう、ランス様ったら」
わざとらしく甘い声をあげれば、彼はびくりと身体を強ばらせた。
「違っ、きみが急に縄を解くから……!」
「ランス様がそうしろって言ったのに?」
「っ、この状態は本意ではないっ……!」
下は、萎えるどころか、大きさを増している。ふふ、と私は吐息を漏らした。
「彼女に見られて興奮したの……? とんだ変態ね」
耳に息を吹き込めば、ランスロットはびくびくと身体を跳ねさせる。
眉をひそめ目元を赤く染める彼なんて、初めて見た。すごく扇情的で、うつくしくて、いやらしい顔をしている。こんな彼を知るのは私だけで良かったのに、とも思うけれど。
けれど彼らを傷つけるためだ。愛する人が他人に汚される絶望は、どんなに深く心を苦しめるだろう。想像はつく。私に待っているのはそういう未来だ。
彼らはきっと抵抗する。けれど聖女アリサはいまだに魔力の制御が上手くないし、万が一暴れられても私なら抑えられる……。
「あの、わわわ私っ、見ていて良いんですか?」
不意に、場にそぐわない元気な声が部屋に響いた。
私は「え?」と聖女を振り返った。
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