かつて一夜を共にした皇子様と再会してしまいまして

紺原つむぎ

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思い通じ愛し未来へ

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 キスが気持ちいいものだと知ったのは、五年前の――彼と初めてしたときのことだ。
  
 長い舌に絡められて、口内を探られて……呼吸の仕方もわからなくなるほど夢中で、必死にしがみついて応えようとしたのを覚えている。
  
 今夜のフェイロンは、あのときよりずっと優しいキスをアデルにくれた。
  
 唇が離れアデルが目を開けると間近に彼の顔があって、こつんと額を合わせられる。
 穏やかなのに胸が張り裂けそうなくらいどきどきする。この人が好きだと、アデルは改めて感じるのだった。
  
「あの……フェイロン?」

「なんでしょう」

「もし万が一、賭けに負けたら……私が誰かと結婚していたら、あなたどうするつもりだったの?」
  
「さぁ」と、フェイロンは意地悪にはぐらかす。
 アデルは肩を竦めて天井を見上げた。やっぱり、フェイロンはフェイロンのまま変わっていないのかもしれない。
 けれど意外にも、彼はこの話題を熱心に続けた。
  
「18のあなたを、ずっと覚えているつもりでしたよ」

「思い出の私と生きようって?」

「あなたもそうだったのではないですか?」
  
 ずばり図星を突かれてしまったアデルは、顔を真っ赤にして口をつぐんだ。
  
「……そ、そうよ……! 誰と結婚しても、秘めるつもりで」
  
「そう。期待する一方で、覚悟もしていました。雨に濡れたあなたを見つけた瞬間に、なにもかも吹き飛んでしまいましたけどね」
  
 つい数時間前のできごとだ。
 アデルが彼への恋心を忘れようと決意しなければ、今日の邂逅はなかったかもしれない。そう思うと、運命とは不思議なものだと感じる。
  
「びっくりしたんだから、本当に……あなたがあの事故現場にいたのは偶然だったのよね?」

「んん? あなたはまさか、僕があの少年を雇ってあなたの馬車の前に突き飛ばした……とでもお考えですか?」

「えっ。まさかぁ~……えっ? 嘘。そんなこと、しないわよね……? えっ? まさかあなた、私が婚約者に会いに行くのを妨害したとか、そんなこと……えっ?」
  
 動揺するアデルを眺め、フェイロンはにこりと笑うばかりだ。

 今日に至るまでの説明を彼の口からたくさん話してくれたけれど、彼のもっと深いところを知るには、まだまだ時間がかかるのだろう。望むところだと、アデルは思った。
  
「……それから……きっと私、以前のほうがずっと綺麗だったと思うけど……再会して、幻滅しなかった?」
  
「うーん。それについては間違いなく言えることがあるんですが」

 彼は穏やかな声で続けた。
  
「実物のほうが、記憶のなかのあなたよりずっといいですよ。あたたかくて、やわらかくて……僕を愛してくれるあなたが、一番」
  
 アデルはじっとフェイロンを見上げた。
  
「それについては自信があるわ。心は、変わってないと思うから」
  
「ふふ……いじらしい人だ」
  
 フェイロンは再びアデルを抱き寄せると、首筋に顔を埋めて頬ずりをした。
  
「いじらしいのは、あなたもじゃない……。きっと、私じゃなくたってイイ人はたくさんいただろうに」
  
「嫉妬ですか?」

「だっ……だって! あなたみたいな人、絶対いろんな女の人に迫られると思って!」

「僕みたいな?」

「き、きれいで、ちょっと危ない感じの……」

「そんなふうに思っていたんですねェ」
  
 笑った吐息が耳に吹きかかる。そのまま彼は耳朶を食み、長い舌でアデルの耳穴を犯した。
  
「や、やだ、フェイロン、それ……あっ、や……っ」
  
 いやらしい水音が強烈な刺激となって頭の中から犯されているようだった。嫌がるほどますます執拗になる舌での愛撫に、アデルは嬌声をあげ背をしならせた。
  
「も、だめ……やだぁっ」
  
 息を乱すアデルを抱きかかえ、フェイロンは寝台にアデルをそっと横たえた。
  
「くく……危ない感じというのは、こういうことであっていますか?」

「……もうっ、……そういう、こと……」
  
 覆いかぶさって来るフェイロンの腕にそっと手を添えて、アデルは必死に息を整えた。
  
「……ねえ、フェイロン。もう、このまま……していいのよ」

「このまま、とは? 前戯もなしにつっこめ、と?」

「今すぐ、ほしいの」
  
 今すぐ、彼の気持ちをたしかめたい。アデルはじっと彼の目を見たまま言った。
  
「ふむ……まぁ、そういったご期待に添うのもいいでしょう」
  
 フェイロンは言うなり、アデルの肩から夜着を強引に引き下げた。
  
「あっ」
  
 窮屈に押し込められていた乳房が外へとはじけ出る。フェイロンはそれを乱暴につかむと、やわやわと揉み始めた。
  
「あなたが焦る気持ちもわかりますがしかし、僕にも楽しむ時間をください。やっと心から安心して抱ける、あなたの身体だ……隅々までたしかめたい」
  
「んっ……でも、さっき宿でも、したし……」

「そうですね。堪能しました」

「あっ、ん……わたし……胸を触られるの、好き」
  
 アデルは寝台の上で身をくねらせた。どんな恥ずかしい大胆なことも、彼を誘うためならできてしまう。
 フェイロンの喉がこくりと唾を嚥下して動く。
  
「いやらしい身体になりましたね。僕の手にも、おさまりきらない」

「フェイロンは……胸の大きい女が、好き、なの?」

「いいや? そんなことはないですね」

「でも……ずっと、そこばっかり……んっ」

「ほかの女はどうでもいいですが、あなたの胸を乱暴にするのは気分がいいです。ほら、だんだん息が上がって、肌が赤く染まって……ふふ、綺麗だ」
  
 夜着を剥いであらわになった肌を、フェイロンの長い舌がなぞる。
 彼自身が噛んで赤くなった胸の歯型や肩を丹念にくすぐっては、気を良くしたように笑っている。

「……昼間、思いましたが。この国のドレスは重くて厚い……あなたは一度、我が国に来るといい」

「眞に……?」

「ええ。后が夫を迎える褥でのみ身に着ける真紅のドレスが、あなたのこの白い肌に……月光色の髪によく似合うだろうな、と」

「おきさき様……? それって、どんなドレス、なの?」

「身体にぴったりと沿う細身のロングドレス。ただし、下裳……スカートは腰あたりまで深いスリットが入って動きやすい……眞の女人は脚で男を誘うのです」
  
 フェイロンは寝台にのりあげ、自身のきらびやかな衣装を順に緩めていった。

「そして下着は身に着けない」

「なっ……す、すけべな国ね!」

「はは、そうかもしれないが、お嬢様はそういうのがお好きでしょう」
  
 フェイロンはアデルの耳元に口を寄せて笑った。
  
「さっきから下着を濡らして……想像して、いやらしい気持ちになっているんだ」
  
 彼の指がアデルの下着をなぞる。アデルは唇を噛んで声をこらえた。
  
「想像、じゃなくって……いま、舐められて気持ち良かったから……おなかの奥、きゅうってしちゃっただけ……」

「──相変わらず、男を煽るのがお上手だ」

 薄い襦袢一枚になったフェイロンは、アデルの脚を開いて下着を引き抜いた。
 早く抱かれたい。愛して欲しい。
 アデルはフェイロンの背に腕を回して抱き寄せ、深く息を吐いた。

(こんなにも満たされた気持ちで、彼といられるなんて……)

 もう、なにも怖らがらなくていい。彼は居なくならないし、自分も彼を忘れる必要も無いのだ。

  
 フェイロンは焦らすようにゆっくりとアデルの中に侵入してくる。
  
「ひ……あ、……あっ」
  
 充分にぬかるんだそこは、どれだけ深く押し入られようが、痛むどころか甘く疼く一方だ。アデルは大きく脚を開いて彼の身体を受け止めた。
  
「ね、フェイロン……っ、わたしのなか……フェイロンで、いっぱい、ね……」
  
 アデルは満たされた自分の下腹をそっと指で撫でた。
 フェイロンはぐっと眉を寄せたかと思えば、アデルの膝裏を持ち上げるようにして開脚させ、さらに奥を目指すように挿入を深くした。
  
「あんっ、おくっ」
  
 彼の熱が出入りする様子を、目の前に見せつけられる。アデルの蜜で汚れた雄。太くて長い。アデルの身体はそれを簡単に飲み込んでいる。
  
「やだっ……見せないで……っ」
「けれど、いいのでしょう? こんなにとろけさせて」
「ぅんっ……きもちいいっ……っ」
  
 どんな恥ずかしい格好も、彼をよろこばせるためならなにも苦ではない。
  
「うぅ~……っ、ゆっくりなの、やだあ……イく、からぁ……!」
「気持ちよくてぐずぐずするのは、5年前と同じですね」
  
 フェイロンは額の汗をアデルの胸に滴らせながら、うっそりと笑った。
  
「泣きわめくあなたをぐちゃぐちゃにしたのを……覚えています……はは、また同じだ」
  
 たしかに同じ。
 あの時だって今だって、どうしようもないくらい彼が好き。


  
  

  
「……私、さっきね。あの宿で……あなたを誘うときにね、決めていたの」
  
 情事の後にこうして寝台の上で語り合うのは初めてだ。
 肌と肌をひっつけ合ってまどろみながら、アデルは夢うつつに話した。
  
「今度は私から先にいなくなってやるって……少しでもいいから、あなたを傷つけたかったのよ。ひどい女でしょう」
  
 フェイロンは小さく噴き出した。
  
「ただただ、可愛いだけですよ」
「そう、かしら。自分では執念深くて、びっくりする。……でもやっぱり今も、同じことを思うわ。置いていかないでね、フェイロン」
  
 アデルは彼の手を胸に引き寄せ、きつく握りしめた。
  
「連れて行って。あなたの場所に。私、五年前とは違うから」
  
 領主の仕事を通じて、世間を知ること。それが今日この日のためのものだったと、今なら思える。
  
「あなたに比べたら、できることも、知っていることも少ないけど……それでもきっと、あなたを好きでいることなら……誰よりもうまくできると、思う、から……」
  
 フェイロンはふと真顔になって、アデルの頭を抱えて胸に押しつけた。
  
「僕と共に来れば、あなたは多くを捨てることになります。そればかりは申し訳ないが……」

「それは違う。私は自分の意志でここに置いていくだけ。それは、いつでも取りに戻れるの。それよりも私は、私が一番欲しいもののために、旅に出るだけ」

「……頼もしい限りですねェ」
  
「好き、フェイロン」
  
 フレイルの結婚式で行う誓いのキスのように、アデルはそっとフェイロンに口づけを贈った。彼もきっとそれと分かって受け入れてくれている。
  
 しだいに深くなる口づけと、熱を持つまなざし。
 どれだけ抱かれても足りない。五年分を埋めたくて、アデルは再びフェイロンを抱き寄せ唇を押しつけた。
  

  
  
 それから数年がたって。
 フレイルから遠く離れた東の大国から、一つの小国が独立して興った。
  
 かの国の帝は広く外交をおこない、賢く国を治めた。
 帝のそばには月光色の髪をした美しい后の存在があり、二人の間にはたくさんの子がうまれ、国は安定して長く続いた。
 彼らこそまさしく比翼連理の夫婦であったと、かの国では末永く語り継がれたという。

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