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1話 何時も
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「アル様、お慕いし「…想うことは許す、だがそれ以上は決して許さない」
思えば、エルヴィラがそうして想いを伝えることも許されず失恋したのはちょうど一年前だったか。
「ねえ、ランヴァルド嬢と第二王子はどうなさったの? ファーストダンスも踊られないなんて」
「ご存知ない? 第二王子が御怒りなんですって」
当初こそ、そんな貴族たちの下世話な噂話の的になるのが気になって仕方が無かったエルヴィラだが、今では何を言われるにも慣れてしまった。
「婚約も、解消されるかもしれないわね」
──────────
春も終わりに近付き夏にさしかかろうかという頃、エルヴィラは登城し、婚約者であるドルガシア王国第二王子アランの私室へ訪れていた。
「! これは、ランヴァルド侯爵令嬢。如何されましたか」
王子の私室を警護する近衛騎士が近付くエルヴィラに気が付き、礼をする。未来の王子妃のエルヴィラもまた、近衛に身を置く騎士にとっては護るべき対象なのだ。
「アル様と少しお話したいことがあって。お伺いをしてくださる?」
「はっ、少々お待ちを」
エルヴィラの細腕が抱えた書類の束をアランの元へ向かった騎士とは別のもう一人の近衛騎士が持とうとするがエルヴィラは首を横に振った。機密文書などではとてもないが、大切な彼女の誕生パーティーに関するものなのだ。
アランが来るまでもう少しかかるだろうかと考え、近衛の近況でも聞こうかとエルヴィラが口を開いた途端にばん、と激しい音と共に扉が開かれた。無論、第二王子アランの部屋の扉である。
「エル、何の用だ」
若干息を切らせ、うっすらと汗ばんでいる状態でそう問う婚約者にエルヴィラが首を傾げながらも腕に抱えた書類を差し出す。
「アル様と誕生パーティーのお話がしたくて。お時間を頂けますか?」
「…僕は忙しい。兄上とでも話してきてくれ」
アランは差し出された紙束を一瞬、受け取りそうになりながらも寸前で思い直したかのようにエルヴィラに突き返す。
「ヴェヴェル様と話しても仕方がありませんわ」
第二王子アランの兄、第一王子であり王太子でもあるヴェヴェルの名前が出たことがエルヴィラは不満だった。ここ一年ほど、何時も何時も事ある事にアランはヴェヴェルにエルヴィラを押し付けようとするのだ。
「兎に角、僕は忙しい」
忙しいの一点張りでエルヴィラを追い返そうとするアランの脇を抜けて、彼の背後の開いたままの扉からエルヴィラが室内を窺うと執務を行うための机の上には山ほどのアルバムが重なり、そのうちの一つが開かれたままになっていた。アルバムを見ていたのは一目瞭然だ。
「もう、アルバムを御覧になるのが忙しいと仰るの? わたくしも混ぜてくださいな」
「っ…せ、整理していただけで見ていた訳じゃない。折角王城まで来たんだから、僕ではなく兄上のところに行った方がいいだろう。気を使わなくて良い、早く行け」
指摘を受けたアランが頬を真っ赤に染め、早口にまくし立てながらそう言うとエルヴィラは不満そうに口を尖らせる。
「気を使うなんて、わたくしはアル様とお話が」
じりじりと後退し、部屋の中へ戻ろうとするアランを引き留めるためにエルヴィラの柔い指先がアランの手首に触れた瞬間、アランは目にも止まらぬ素早さで部屋の中へ滑り込み、鍵を掛けてしまった。
「……戻ります」
気遣う騎士にそう一言だけ告げるとエルヴィラは逃げるようにその場を後にした
思えば、エルヴィラがそうして想いを伝えることも許されず失恋したのはちょうど一年前だったか。
「ねえ、ランヴァルド嬢と第二王子はどうなさったの? ファーストダンスも踊られないなんて」
「ご存知ない? 第二王子が御怒りなんですって」
当初こそ、そんな貴族たちの下世話な噂話の的になるのが気になって仕方が無かったエルヴィラだが、今では何を言われるにも慣れてしまった。
「婚約も、解消されるかもしれないわね」
──────────
春も終わりに近付き夏にさしかかろうかという頃、エルヴィラは登城し、婚約者であるドルガシア王国第二王子アランの私室へ訪れていた。
「! これは、ランヴァルド侯爵令嬢。如何されましたか」
王子の私室を警護する近衛騎士が近付くエルヴィラに気が付き、礼をする。未来の王子妃のエルヴィラもまた、近衛に身を置く騎士にとっては護るべき対象なのだ。
「アル様と少しお話したいことがあって。お伺いをしてくださる?」
「はっ、少々お待ちを」
エルヴィラの細腕が抱えた書類の束をアランの元へ向かった騎士とは別のもう一人の近衛騎士が持とうとするがエルヴィラは首を横に振った。機密文書などではとてもないが、大切な彼女の誕生パーティーに関するものなのだ。
アランが来るまでもう少しかかるだろうかと考え、近衛の近況でも聞こうかとエルヴィラが口を開いた途端にばん、と激しい音と共に扉が開かれた。無論、第二王子アランの部屋の扉である。
「エル、何の用だ」
若干息を切らせ、うっすらと汗ばんでいる状態でそう問う婚約者にエルヴィラが首を傾げながらも腕に抱えた書類を差し出す。
「アル様と誕生パーティーのお話がしたくて。お時間を頂けますか?」
「…僕は忙しい。兄上とでも話してきてくれ」
アランは差し出された紙束を一瞬、受け取りそうになりながらも寸前で思い直したかのようにエルヴィラに突き返す。
「ヴェヴェル様と話しても仕方がありませんわ」
第二王子アランの兄、第一王子であり王太子でもあるヴェヴェルの名前が出たことがエルヴィラは不満だった。ここ一年ほど、何時も何時も事ある事にアランはヴェヴェルにエルヴィラを押し付けようとするのだ。
「兎に角、僕は忙しい」
忙しいの一点張りでエルヴィラを追い返そうとするアランの脇を抜けて、彼の背後の開いたままの扉からエルヴィラが室内を窺うと執務を行うための机の上には山ほどのアルバムが重なり、そのうちの一つが開かれたままになっていた。アルバムを見ていたのは一目瞭然だ。
「もう、アルバムを御覧になるのが忙しいと仰るの? わたくしも混ぜてくださいな」
「っ…せ、整理していただけで見ていた訳じゃない。折角王城まで来たんだから、僕ではなく兄上のところに行った方がいいだろう。気を使わなくて良い、早く行け」
指摘を受けたアランが頬を真っ赤に染め、早口にまくし立てながらそう言うとエルヴィラは不満そうに口を尖らせる。
「気を使うなんて、わたくしはアル様とお話が」
じりじりと後退し、部屋の中へ戻ろうとするアランを引き留めるためにエルヴィラの柔い指先がアランの手首に触れた瞬間、アランは目にも止まらぬ素早さで部屋の中へ滑り込み、鍵を掛けてしまった。
「……戻ります」
気遣う騎士にそう一言だけ告げるとエルヴィラは逃げるようにその場を後にした
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