最強魔王の子供達~仇の勇者を倒すため、チート兄妹が無双致します~

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<30・Escape>

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『マリオンのこと、本当に申し訳ないと思っている。……頼む、こちらからきちんと説明させて貰えないだろうか』

 ゴートンからの通信は、ほぼ一方的なものだった。

『少し一人で考える時間が欲しかったので、少し小細工をさせてもらった。臆病ですまない。先に王都の屋敷に行って待っている。俺の話を聞いてくれるつもりがあるなら……屋敷の正面からインターフォンを鳴らしてくれ。よろしく頼む』

 その内容を聞いて、ノエルが頭を抱えたことは言うまでもない。なんせ、ゴートンはそれを一息で言うとあっさりと通信を切ってしまったのだから。サリーとゾウマが何かを言及する暇さえ与えなかった。しかも、サリーとゾウマはついさっき、手間暇かけて王都からメリーランドタウンまで戻ってきたばかりである。屋敷に行くというのなら何で先に言っておかないんだよ!という話だ。
 しかも。

「あんのクソデブ……!」

 イライラとサリーは足を踏み鳴らした。

「ってことは、あのホテルの部屋にいるのは影武者なわけ!?下手な小細工してんじゃないわよ!!」

 サリーの声が聞こえたわけでもなかろうに、真正面のホテルで動きがあった。窓の向こう、ゴートンだと思っていた男が立ち上がる。そして、わざとらしくカツラを外すと、そのまま部屋から出て行ったのである。

「ああもう、サイアク、騙された!」
「あの影武者を追いかけるか?」
「どうせ雇われた人間でしょ、あいつに男の仲間がいるとは思えないわ!恋人になっただなんだ言った男は女に見える外見らしいし、まずあいつじゃないでしょ」

 雇われただけの人間を締め上げても、どうせまともな話など出てこない。そう考えるだけまだサリーは冷静なのだろう。実際、追いかけたところで無駄に時間をロスする可能性が高いに違いない。
 ただ、とノエルは思う。

「……本当に、ゴートンさんは僕達と話をするつもり、なんでしょうか。だったらあの部屋で僕達が来るのを待っていればいいのに……何で影武者まで立てて屋敷に戻ったんでしょう?」

 自分としては、どうしてもそこが疑問である。本当に話し合いがしたいなら、先にサリーたちに連絡を入れてもよかったはず。いずれにせよ、彼の事前連絡があれば行き違いにならずに済んだのだ。
 だが実際は、ゴートンはノエルが見張っていることも見越して、影武者まで雇って王都に戻る選択をした。ゾウマが言う通り、カーテンを開けていたのも顔を見せていたのもきっとわざとだったのだろう。わざわざ意図的に行き違いを演出したのだ。何か理由があるとしか思えないのだが。

「決まってるわ」

 ふん、とサリーは鼻を鳴らす。

「どうせ、そのまま待ち構えたら問答無用で殺されると思ったんでしょ。実際私も、あいつがあのままホテルに乗り込んでいったら即座にぶっ殺すつもりだったしね」
「まあ、話し合いにならないと向こうが思っていたなら、逃げる理由はあるな」
「さ、サリーさん……。でも、向こうは一応、落ち着いて話し合いをしようと言っていますよ?ひとまず話を聞いてから粛清するかどうかを決めてもいいのではありませんか?」

 サリーが怒るのも無理からぬことではある。それでも向こうの言い分を聞いてから判断したいし、殺す以外の罪の償い方もあるのではないか。ノエルがやんわりとそう提案すると、冗談じゃないわ!とサリーは声を張り上げた。

「こっちを煙に巻く態度!ナメくさってるとしか思えない。そんな奴にどうして誠意を見せてやる必要があるの?それに、裏切りを自覚しているならむしろ向こうから死んで詫びてもいいくらいよ。それを、のうのうと言い訳を聞いて欲しいなんて抜かしていて!命で償う気もないんだから、殺されて文句言えないでしょうが!!」
「そ、そんな……」

 いくらなんでも無茶がすぎる。ノエルは既に、感情に任せてサリー達に連絡を入れてしまったことを後悔していた。やっぱり自分がもう少し落ち着いて話を聞いておくべきだったのではないか。確かに、どんな言い訳をされたところで彼がマリオンにスキルを使い、奴隷として使った事実は変えられないのかもしれないが。

「実際、奴がやったことは重罪だ。マリオンは元に戻らねえしな」

 そしてゾウマも、サリーの意見に反対するつもりはないようで。

「奴が何で屋敷に戻ったのかわからねえが……正面から入るようにと言っているのも気にかかる。罠かもしれねえ。だったら裏口からこっそり侵入して、奇襲をかけてひっとらえるのがいいだろう。抵抗するなら即座に殺せばいい。サリーもそれでどうだ」
「異論ないわ。話を聞いてやる義理もないしね。無抵抗で捕まるようなら、死ぬ前にちょっとだけ言い訳を聞いてやってもいいけど」
「ゾウマさん……サリーさん……」
「何よ、ノエル。あんたまさか文句があるわけ?」

 ギロリとサリーに睨みつけられ、ノエルはびくりと体を震わせる。そして、ゆっくりと首を横に振ったのだった。

「……いえ」

 ああ、なんてザマだろう。悔しさに拳を握りしめる。一番腹立たしいのはゴートンが裏切ったことでもなければ、サリーとゾウマが自分の意見を聞く気がないことでもない。間違っていると思っても、はっきりものを言うこともできない臆病な自分自身だ。
 変わろうと思っていた。変われると信じて生きていた、前世の自分を思い出す。でも。

――結局僕は……弱虫のまんま、でしかないのか?



『お尋ねします、ノエルさん。貴方は過去の自分達に疑問を持った。間違っているかもしれないと疑った。……その上で今、自分は何をすべきだとお考えですか?』



 ルカの言葉が脳裏に蘇り、そして消えて行った。
 自分はどうするべきなのだろう。一体こんな自分に、何ができるというのだろう?



 ***



 己の命を守るため、殺す覚悟でサリーとゾウマ、ノエルと戦う。そう決めたはいいが、それでもまだ迷いはあった。理由は単に彼らが一応仲間だったから、というだけではない。

「勇者同士で殺しあって、本当に大丈夫なのか?」

 王都の屋敷にジニーを招き入れて、ゴートンは尋ねた。

「俺達は魔王を倒し、世界を救うために女神サマに呼ばれた存在だ。その俺達が殺しあうってことはつまり、女神サマへの反逆とみなされないか?いくら俺らがチートスキルを持ってるっつってもよ……女神サマに本気で粛清されたら太刀打ちできる気がしねえよ」

 勇者同士でトラブった件を、サリーはプライドにかけてギリギリまで隠し通そうとするだろう。だから、少なくとも今の時点で王様に犯罪者として追われる心配はないと思われる。ゴートンが完全に行方をくらましてしまったらサリーも国家権力を借りることを考えただろうが、少なくとも現時点では居場所がわかっているから尚更に(むしろ向こうの選択肢を狭めるために、あえて屋敷で待つから来いと連絡を入れたのである)。

「……ゴートンさんの話を聞いて、私なりにずっと考えていたんですが」

 そんなゴートンに、ジニーは言う。

「そもそも、女神様は……本当に皆さんの味方、なんでしょうか?」
「どういうことだ?」
「そもそも皆さんは、同意もなくこの世界に連れてこられた、のですよね。皆さんはたまたま彼女が召喚のタイミングで死んだ自分達が、異世界に転生させられたと思っているのかもしれませんが……こうは考えられませんか?女神様は、自分が欲しい人材を調達するため、“令和時代の日本”という世界を生きていた皆さんを殺害して連れて来た、と」
「!」

 まさか、とゴートンは目を見開く。
 自分は普通の事故ではなく、部屋で倒れて来た本棚と大量の本の下敷きになって圧死したのだ。そんな都合よく殺すなんて、そんなことができるものなのだろうか?
 いや、でも。女神は一刻も早く勇者という存在を欲しがっていたはず。だったら、そのタイミングでたまたま人が死ぬのを待つより、自分に都合の良い人材を殺して手に入れてしまった方が簡単なのは確かなのではないか――?

「……俺らが、女神様に殺されて、連れてこられた?そ、そんなまさか……」

 思わず引きつり笑いを浮かべると、それだけではありません、とジニーは続ける。

「魔王アークが、ヴァリアントを作り出して世界征服をしようとしている。最初にそれを言い出して皆さんに吹き込んだのは、女神様なのですよね?何か証拠があったわけでもなんでもない。女神様にとってアークが邪魔だったから消したかった、もしくは勇者と魔王を戦わせたい理由があった、だから敵対するように仕向けた可能性はありませんか?」
「そ、それは……」
「実際魔王が死んでもヴァリアントは消えなかった。魔王の残党なんてものが生きているかもわからないのに、その残党を倒せば脅威は消えるはずなんてことになっている。……其の上でもう一つ、確定的事実がある。長年人類が正体を掴めていないヴァリアントの出現を、何故か女神様だけが察知できる。そして、ヴァリアントに特効がある剣を皆さんに渡しており、弱点を見えるようにするという能力も授けている。……何故女神様だけにそのようなことができるのかと、考えたことはありませんか?」
「そ、そんなことは……いや、でも」

 違和感を感じなかったわけじゃない。しかし、信じたくなくて眼を背けてきた可能性であるのは事実だ。
 女神が、すべての黒幕。
 ヴァリアントを自ら生み出し、勇者たちに討伐させ、その罪をすべて魔王一派に押し付けていたのだとしたら。

「最初から、女神サマは味方なんかじゃねえってのか……!?」

 だとしたら。
 敵に回すだなんだと考えるのは、最初からズレているということになる。自分達が本当に倒すべき敵は女神、そういうことになってしまう。
 そして、自分たちの願いを叶えるという女神の言葉も、ウソっぱちかもしれないということに――。

「いずれにせよ、まずは迫りくる勇者たちをなんとかしなければなりません」

 ジニーは彼が持ってきたという“秘密の道具”――タブレットらしきものをゴートンに見せながら言った。

「ゴートンさんが言う通り、勇者たちが正面から入ってくるようなら、話し合いの意思ありとみなして屋敷に迎え入れることにしましょう。でも、裏から入ってきたらその時は……」
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