レネと天使とマシンガン

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
18 / 34

<18・弱者の祈り。>

しおりを挟む
 つん、とまるで小鳥が啄むようなキスをルーイの頬に落とす。驚いて彼の力が抜けたところを見計らって、レネはそのままルーイをベッドに押し倒していた。

「そういう気分ですか?」
「そういう気分なわけ」

 レネはにやり、と彼の鼻先で笑ってみせる。

「あんたは疲れてるし参ってるんだろ。今日は俺がリードしてあげるよ。あんたが下になりたいってならそれでもいいけど?」
「上がいいですねえ、私は。ああ、貴方が乗っかってくれるならそれは歓迎しますが。というか、貴方抱かれる方が上手いんでしょ?あんまりトップの経験なさそうですし」
「はは、どうだろうなあ?」

 ルーイはされるがままになっている。上着は既に脱いでひっかけてあるので、遮るものはワイシャツだけだった。もちろん乱暴に引きちぎったりなんてしない。ボタンを一つずつ外していきながら、そのつど首元や胸元にバードキスを落としていく。

「教えて頂いてもいいですか」

 その最中、頭上からルーイの声が振ってきた。

「貴方にはどうせバレてるんでしょうけど。……三年前、貴方を抱いたことを本当は……少し後悔しました。貴方の言葉に激怒したのは事実ですけど、子供相手に大人げなかったのは事実ですし……何より、いくら貴方が男妾で慣れてるからといって、上下関係を教え込みたいからといって、やり方は選ぶべきでしたよ」
「あんたの目的なんかわかってるよ。いざとなったら、俺が男妾としてどれくらいスキルがあるかも知りたかったんだろ。必要とあれば、俺を貴族のオッサンたちのところに送り込んで諜報活動させることも考えてたんだろうし?」
「よくわかってらっしゃる。その通り、そういう意味もあって貴方を抱きました。必要なことだとあの時は割り切ったつもりでいたんです。……でも、だからってやっていいことではなかった。貴方は抵抗しませんでしたが、それは同意があったこととイコールではありませんから」
「……真面目すぎるだろ」

 抵抗しなかった、イコール同意ではない。それは間違いないことだ。実際、恐怖で抵抗できないまま最後までされてしまう者は少なくないことだろう。女性が被害者でも、男性が被害者でもあり得ることに違いない。でも。
 レネの場合は、抵抗する方法もあったのにあえて受け入れたのだから、そのパターンには当てはまらない。強姦されたという認識もない。むしろこれもテストの一環だろうと受け入れたのは事実だ。
 同時に。相手をオトしてやれれば優位に立てるだろうと考えていたのも。

「俺は傷つかなかったつってんじゃん。それに、あんたを俺の虜にして逆に支配できたら儲けものだと思ってたんだから、そこはオアイコだと思うけど?」

 結果論として、キモチヨクされて前後不覚に陥ったのがレネの方だったというだけのこと。
 それから彼の体が忘れられなくて困ったのも、本当に結果的には、の話でしかない。痛い思いも怖い思いもしなかった。レネもそれでいいと思った。だから、これ以上ルーイが気に病む必要なんかない。
 気にしてくれるのならば、むしろ。

「そこで責任感じるくらいなら、また抱いてくれりゃよかったのにさ。セフレでも良かったんだぜ、俺は」
「そういう悲しいことを言うのはやめてくれませんか」
「なんで?悲しいことなんて……」
「私は、性的な暴力は、人の心を殺すだけの力を持っていると知っています。貴方だってそうでしょう。初めての時は痛かったはずです。苦しかったはずです。怖かったはずです。……長い時間をかけてそれを麻痺させてきた。気持ちよいことだと思い込んで自分を誤魔化してきた、それだけのことではないですか?淫乱、なんて詰りましたけど……そうにでもならなきゃ、心が耐え切れなかったからそうした。それだけのことでしょう?……わかっていたのに、私は酷いことをした。最低です。いくら、踏み込まれたくないことであったとしても……」

 その物言いで、なんとなくレネは察してしまった。ルーイは伯爵であるはず。だが、だからといって過去に辛い出来事がなかったと断言することはできない。
 この言い方はむしろ。自分自身にも、凄惨な出来事が降りかかったことがあるからではなかろうか。

「皇子は」

 恋なんかじゃない。愛なんかじゃない。何度も何度も、繰り返し繰り返し言い聞かせながら、レネは。

「アイザック皇子は。あんたを地獄から救い上げてくれたのか。本当は……だから俺のことも救おうと思ったのか?」

 ちゅう、と音を立ててレネの耳にキスをした。ん、と小さく声が上がる。どうやらここが敏感らしい。なんとも可愛らしい弱点ではないか。

「……皇子は、私にとって光そのものなんです」

 レネの髪に手を伸ばして、ルーイは告げる。

「とても神聖な、神様のようなもの。神様は、誰か一人のものではない……むしろ誰のものにもならない存在でしょう?あの方は、次期皇帝になるお方。皇帝は、臣民すべてをその愛で、あまねく照らす太陽でなければいけません。そのたった一人になりたいなんて願ってはいけないのです。それは、考えることさえ許されない感情なのですよ」
「だから、好きなのか?と尋ねられるのが嫌だったのか」
「そういうことです。そして皇帝になった者にはある重大な責務が与えられる。それは、后を迎え入れて子供をたくさん作ること。無論、殿下は先代で……子供達の殺し合いなんてものは終わりにするつもりでいます。ですが、人の命はいつ絶えるかわからないものでしょう?何より、多くの有能な兄弟姉妹で支え合うことができれば、この国は豊かとなり、良い政治ができます。……あの方の伴侶は、“子供が産める女性”でなければいけないのです。けして、私ではない」

 最後の声は、消え入りそうなものだった。きっと長いこと、彼は自分の感情を押し殺していきてきたのだろう。
 恩人のことを尊敬する気持ち。友愛。それと恋愛感情の差をつけるのは、そもそも難しいことであるのかもしれない。そういえば誰かが、友情とはセックスのない恋愛だ、なんてことを言っていたらしい。だが、セックスフレンドなんて言葉も世の中にはあるくらいだし、レネも愛情のない相手と散々セックスをして稼いできた身だ。セックスができれば恋愛だ、なんてことも言いきれない。そして、世の中にはセックスなどしなくても成立する恋愛もきっと存在するのだろう。
 ならば結婚すれば恋愛なのか?
 長らく夫婦のように同居していれば恋愛になるのか?
 子供ができれば夫婦は愛し合っているということになるのか?
 それとも結婚して数十年無難に過ごせればそれが恋愛なのかどうなのか?
 残念ながらそのあたりのことは、いくら突き詰めても答えなど出ないのだろう。だからこそ、ルーイも悩み続けてきたのではないのか。この様子だと、はっきり恋愛感情を抱いていると言い切れるわけではなさそうだが――だからこそ、その気持ちが恋愛であったらどうしようという恐れもあったのではなかろうか。

――ああ、俺も、人のことは言えないのか。

 この人には利用するつもりで近づいただけ。いつか利用して、この腐った国に一矢報いれてやれればそれでいいと。あるいはちょっといい思いをして生きていければそれでいいと。
 でも。
 恋ではないはず、愛ではないはずと言い聞かせてこの人を見ている時点で、本当はとっくに足を踏み外しているのかもしれない。ああ、駄目だ、考えれば考えるほどドツボに嵌ってしまう。
 確かなことは一つ。彼が皇子のことを大切に思っていると、その様子を見せるたび、胸の奥にもやもやとしたものが溜まるということだけ。

「あのさ」

 シャツを脱ぎ捨て、下着ごとズボンを下ろす。まだ半裸状態のルーイの前で、レネはあっさり生まれたままの姿を晒した。

「迷い続けるの、苦しいんだろ。だったらさ。……俺にしちゃえば?」
「え」
「俺にしちゃえばいいだろ。恋愛感情向ける相手。他にスキな相手ができれば、あんたはきっと楽になれる。そうだろ?ああ、本当はストレートだから無理ですってのはもうナシだからな?三年前の様子で、あんたが男抱いたことがあるってのは暴露してんだからよ」

 さながら壁ドンでもするように、彼の頭の横に手を突いて囁く。今までの客なら、これであっさり落ちたはずだ。自分で言うのもなんだが、自分の体は相当魅力的なはずである。子供のような体格、男らしい堅さもあまりないし、肉もそれなりに柔らかい。それでいて、女装が通用するくらいの顔立ちである自負はある。だからこそ、長らく男娼として通用してきたのだから。
 まあ最近は本当にそっちの仕事はご無沙汰だけれど。――明らかにルーイが、レネにそういう仕事をさせないように遠ざけていたからだけれど(標的とベッドインすると見せかけてその前に薬で眠らせてしまうとか、ここのところはそういうやり方ばかりを取っていたためだ)。

「……ありがとうございます。慰めてくださってるんでしょうね、貴方は」

 それなりに、ストレートに伝えたつもりだった。しかしルーイは、寂しそうに笑うばかりで。

「でも、駄目ですよ。私など、貴方に相応しくありません。貴方を不幸にするだけです」
「それ、元男娼の俺に言う?」
「その元男娼の貴方より、私はずっと汚らわしい存在だということです。……そう思いながら、こうして貴方に縋ってしまっている時点で、自分でも終わってると思いますけど。本当に弱い人間です、私は」
「弱くて何がいけない。弱い人間は生きてちゃいけないのか?そんなこと、ないだろ」

 言いながら、レネは自分の後ろに手を伸ばした。どこか、心の奥底を吹き抜ける冷たい風を感じる。自分の言い方も素直でなかったことは否定しない。でもここまで届かないとは思ってもみなかった。
 自分は、いいというのに。
 ルーイが好きだと言ってくれたらそれでいいと――そう言ったつもりだったのに。

「誰だって、弱いよ。弱いから、足掻くんだよ……強くなりたいって。あんたも守りたいもんがあるなら、足掻けよ。そんでもって」

 ふ、っと息を吐いた。指で己の秘所をほぐしながら、レネは泣きたい気持ちでルーイの腰に跨った。

「そんでもって。今は……俺のことだけ、考えてりゃいいんだよ」

 我ながら空しい台詞だと、そう思いながらも。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

処理中です...