10 / 30
<10・敗者の末路>
しおりを挟む
投票結果、そして勝敗結果が出た途端――マリーとジャックはそれぞれ崩れ落ち、呻き声を上げた。
欠けは、人狼一匹と村人一匹。村人陣営の勝利。
占い師はキャサリン、村人がカンナ、怪盗がミラ。そしてカンナが予想した通り、マリーが人狼でジャックがてるてるであったのである。マリーはジャックがてるてるであるところまで予想はしていなかったのかもしれない。いずれにせよ、二人が作った流れのままジャックを吊っていたら、ジャック以外の全員が敗北となっていたところだった。
人狼であったマリーと、てるてるであったジャックは敗者。開始前の約束通りであるならば彼らはこのまま地獄とやらに落とされることになる。
「勝目のある作戦だと、思ってたのに……!」
あああ、と頭を抱えて嘆くマリー。
「何で、どうして私が負けるの……!ワンナイトだって何回もやって勝ってるのによりにもよって今日……!こんな、こんな世界で生きていくなんて嫌。どんだけ楽園みたいだって言われたって、私の故郷は一つなんだから……!」
「マリー……」
「皆さん酷い、酷いです……私の事情も聞かずに」
思わず気の毒に思って声をかけると、彼女は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げて告げた。童顔で可愛らしい少女の顔は、もはや見る影もないものとなっている。目は血走り、事実を拒否したいがためか歪に歪み、涙も鼻水も涎も完全に垂れ流しだ。
「今日は、久しぶりに息子と会えるはずだったんですよ。やっと刑期を終えて出てこられたのに……十歳になった息子と顔を合わせることのできる最初の日だったのに!意味がわからないですよ、なんでよりにもよってあの化物、私の前に現れるんですか!?私、ちょっと詐欺やっただけじゃないですか、殺されるほどの酷いことなんかやってないでしょお……!?それが、腕引きちぎられて、振り回されて殺されるとか、私が可哀想すぎるじゃないですか。それで元の世界に戻れるチャンスが来たと思ったらこんな、こんなふうに負け、あ、あああああああああああああああああ!」
息子、という言い方。刑期、という表現。まだ年若い少女に見える彼女だが、実際はもっと年齢が高い人物であったのかもしれない。ここにいる全員が、実際の外見や年齢、もしかしたら性別も違う状態でクイーン・ガーデンに転生している。元々の現代日本でどのような生活を送り、どのように人生を終えたのかを知っているのは本人だけだった。
嘆き悲しむマリーを、背中からそっと抱きしめるようにするのはジャックだ。
「ああ、本当に、本当に可哀想だな俺達は。大丈夫だ、マリー。俺は君が前世は人妻であっても犯罪者であっても気にしない。一緒に地獄に堕ちよう。二人で、共に地獄でやり直そう……!」
「はっ」
一見感動的に見えるその台詞に水を挿したのはミラだった。そういえば彼女は最初から、マリーとジャックの二人を実に忌々しそうに見つめている。
いや、これは。二人ではなく――ジャックを、だったのだろうか。
「気持ち悪いのよ、このクソオヤジ。あんた、前世じゃ性犯罪者か何かだったんじゃないの?」
「なっ!?き、君は何を言うんだ。敗者に鞭打つような真似するなんて最低だと思わないのか!?」
「思わないわね。そもそもあんた、ゲーム開始前から酷いわ。気づいてないとでも思ってたの?」
ミラはつかつかとジャックの前に歩み寄ると、マリーを抱きしめていた男の頭を殴って吹っ飛ばした。おお、とキャサリンが感嘆の声を上げる。細身の女性に見えたミラは、存外パワーの持ち主であったらしい。ジャックは見事に、壁際まで吹っ飛ばされることになった。
「近くを私達が通り過ぎると、こっそりお尻触ってたの気づいてたわよ。そこのマリーに対してもそう、スキンシップ激しいのよ。肩を抱くだけじゃなくて、さらっとテーブルの下で太ももとかお尻とか触ってた。きっと前世はさぞかし残念な外見のキモオヤジとかだったんでしょうねえ!?」
「な、な、何を言うんだ!」
売り言葉に買い言葉とはこういうことか。鼻血を垂れ流しながら、ジャックは言う。
「俺は犯罪なんかしていない!どいつもこいつも何で俺をそう誤解するんだ。大切な恋人が危ない目に遭わないよう、いつも見張って守っていただけなのに!彼女もそれを望んでた、俺達は愛し合っていた!彼女だけじゃない、俺は世間の可愛らしい女性を守る義務があるんだ、それを果たしているだけだ!スキンシップで少し体を触っただけで、犯罪者扱いなんてされては困る!」
ダンディなおじさまに見えた男が、赤面し鼻の穴を膨らませながら言う様は実に滑稽だった。こういう人間だったんかい、とカンナは呆れるしかない。
幸い自分は、ジャックとは席が離れていた。隣であったら、と思うと――少々ぞっとさせられるところである。
――もしや、ここにいるメンバー全員ワケありだったりするの?……み、ミラとかキャサリンは、普通の人だよね?そうだよね?
段々と不安になってきた、その時だった。
『皆様、大変長らくお待たせしまシタ。準備ができましたので、刑の執行を行いマス』
スピーカーから、案内人の声が。
『敗北したてるてるの黒のジャック。人狼の桃のマリー。お二人は約束通り、地獄に堕ちて頂きマス。ご安心くだサイ。地獄でも、長生きされる方はおりマス』
「ひっ」
マリーがぎょっとしたように立ち上がり、部屋の隅へ逃げていく。暗幕に覆われた壁のどこかに、ドアか窓がないかと必死で探し始めた。だが、そこで逃がすほどこのゲームマスターは甘い存在ではないだろう。
『それでは、執行しマス』
次の瞬間。テーブルの下に、ぽっかりと丸く黒い空間が広がった。そしてそこから、しゅるしゅると黒い触手のようなものが這い出してくる。
「な、何これ……!?」
ぞっとしてテーブルから離れるカンナ。まるで穴から吐き出されるようにあふれた触手は、見事にカンナ、ミラ、キャサリンの三人を避けて飛び出していった。目指す先は刑の対象である、マリーとジャックである。
「ひいいい!」
「い、いや!嫌あああ!」
何本もの触手が、彼と彼女の腕に、足に、首に、腹にと巻き付いた。服の上からでも体格が分かるほどぎっちりと縛り上げられて、彼らは苦しそうにもがいている。本人達は逃れようと必死にもがいているが、それを許すゲームマスターではなかった。彼らの抵抗も虚しく、二つの体はずるずるとテーブルの下の穴へと引きずり込まれていく。
「た、助けて、死にたくない、怖いいいいっ!嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
断末魔のような声と共に、二人の体は穴の中に引っ張り込まれた。マリーの引き裂くような甲高い悲鳴がどんどん遠ざかっていく。どれほど深い穴であるのだろう。まさか本当に、この下に地獄があるとでもいうのだろうか。
二人が完全に引っ張り込まれ、触手が引っ込むと同時に穴はしゅるしゅると閉じていった。あまりに非現実的な光景に、カンナはただただ茫然とするしかない。
今更になって、はっきりと実感したのだ。
此処は自分が知っている世界とはかけ離れていると。そして、ゲームに敗北していたら自分もこうなっていたのだということを。
――この世界って、なんなの……!?
先ほどは必死だったせいで、いろんなものが麻痺していた。しかしこうして間近で敗者の末路を見てしまっては、じわじわと恐怖が足下から這い上がってくるのを止められそうにない。
自分は、とんでもない世界に来てしまったのではないか。そしてとんでもないものへ参加してしまったのではないか。
元の世界に戻り、絆を取り戻すために、間違った選択をしたわけではないとは思っているけれど。
『執行完了でございマス。予選を通過された皆様、お疲れ様でシタ』
唖然とする自分達をよそに、しゅるしゅると暗幕が開き始めた。一枚の壁の向こうにドアが現れ、がちゃりと鍵が開く音が響く。
『皆様のタブレットは、大切にお持ちになってくだサイ。そこに、皆様がこれから住むことになる住所やこの世界の予備知識、そして本選の日程と場所などをお送りしマス。ちなみに、本選を辞退されたい方は、必ず前日までにお申し出くだサイ。この時点で辞退された方は地獄行きとはならず、賢明なご判断をされたものとしてこの国への永住権をお約束いたしマス』
ぴぴっ、とタブレットが音を鳴らす。カレンは慌てて、テーブルの上に置きっぱなしだったタブレットを持ち上げた。もうすでに地獄への穴はないが、それでも近づくのには少し勇気がいってしまう。あれは到底、科学の産物とは思えなかった。やはりこの世界には、魔法と呼ばれるような不可思議な力が数多く存在しているということなのだろうか。
興味がないと言えば、嘘になる。でも。
――やっぱり、ダメ。いくら怖くても、私は……全然別人の姿で、別の世界で、家族も絆も失って生きていくなんてできない……!
自分には、帰りを待ってくれている人達がいる。助けを求めている人がいる。
ならばどんなに恐ろしくても、前へ進むしかないのだ。
『それでは皆様、また会う時マデ。ご機嫌ヨウ』
ぷつん、という音とともに、スピーカーは沈黙した。ざああ、一部の暗幕が音を立てて開くと、その壁に出口が出現した。スタスタとミラがドアのところまで歩いて行く。彼女がノブを回すと、あっさりとドアは開いた。
「鍵は本当に、開いているみたいね。……行きましょう。踊らされているみたいで、癪ではあるけれど」
「……そうだな」
キャサリンが、茫然としたままのカンナの方を振り返り、ぽん、と肩を叩いた。
「歩けるか?カロリーヌ」
「は、はい……大丈夫……」
「それならいい」
彼女はそっとカンナの頭を撫でると、その美貌に優しい笑みを浮かべて告げた。
「気にするな。……あの二人を負かしたのは、俺達全員だ。お前一人で全てを背負う必要はないからな」
「へ?」
その口から、見た目を裏切る一人称が飛び出してきてカンナは目を見開いた。まさか、と思うカンナの手を。キャサリンは微笑みながら、そっと握り締めたのだった。
欠けは、人狼一匹と村人一匹。村人陣営の勝利。
占い師はキャサリン、村人がカンナ、怪盗がミラ。そしてカンナが予想した通り、マリーが人狼でジャックがてるてるであったのである。マリーはジャックがてるてるであるところまで予想はしていなかったのかもしれない。いずれにせよ、二人が作った流れのままジャックを吊っていたら、ジャック以外の全員が敗北となっていたところだった。
人狼であったマリーと、てるてるであったジャックは敗者。開始前の約束通りであるならば彼らはこのまま地獄とやらに落とされることになる。
「勝目のある作戦だと、思ってたのに……!」
あああ、と頭を抱えて嘆くマリー。
「何で、どうして私が負けるの……!ワンナイトだって何回もやって勝ってるのによりにもよって今日……!こんな、こんな世界で生きていくなんて嫌。どんだけ楽園みたいだって言われたって、私の故郷は一つなんだから……!」
「マリー……」
「皆さん酷い、酷いです……私の事情も聞かずに」
思わず気の毒に思って声をかけると、彼女は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げて告げた。童顔で可愛らしい少女の顔は、もはや見る影もないものとなっている。目は血走り、事実を拒否したいがためか歪に歪み、涙も鼻水も涎も完全に垂れ流しだ。
「今日は、久しぶりに息子と会えるはずだったんですよ。やっと刑期を終えて出てこられたのに……十歳になった息子と顔を合わせることのできる最初の日だったのに!意味がわからないですよ、なんでよりにもよってあの化物、私の前に現れるんですか!?私、ちょっと詐欺やっただけじゃないですか、殺されるほどの酷いことなんかやってないでしょお……!?それが、腕引きちぎられて、振り回されて殺されるとか、私が可哀想すぎるじゃないですか。それで元の世界に戻れるチャンスが来たと思ったらこんな、こんなふうに負け、あ、あああああああああああああああああ!」
息子、という言い方。刑期、という表現。まだ年若い少女に見える彼女だが、実際はもっと年齢が高い人物であったのかもしれない。ここにいる全員が、実際の外見や年齢、もしかしたら性別も違う状態でクイーン・ガーデンに転生している。元々の現代日本でどのような生活を送り、どのように人生を終えたのかを知っているのは本人だけだった。
嘆き悲しむマリーを、背中からそっと抱きしめるようにするのはジャックだ。
「ああ、本当に、本当に可哀想だな俺達は。大丈夫だ、マリー。俺は君が前世は人妻であっても犯罪者であっても気にしない。一緒に地獄に堕ちよう。二人で、共に地獄でやり直そう……!」
「はっ」
一見感動的に見えるその台詞に水を挿したのはミラだった。そういえば彼女は最初から、マリーとジャックの二人を実に忌々しそうに見つめている。
いや、これは。二人ではなく――ジャックを、だったのだろうか。
「気持ち悪いのよ、このクソオヤジ。あんた、前世じゃ性犯罪者か何かだったんじゃないの?」
「なっ!?き、君は何を言うんだ。敗者に鞭打つような真似するなんて最低だと思わないのか!?」
「思わないわね。そもそもあんた、ゲーム開始前から酷いわ。気づいてないとでも思ってたの?」
ミラはつかつかとジャックの前に歩み寄ると、マリーを抱きしめていた男の頭を殴って吹っ飛ばした。おお、とキャサリンが感嘆の声を上げる。細身の女性に見えたミラは、存外パワーの持ち主であったらしい。ジャックは見事に、壁際まで吹っ飛ばされることになった。
「近くを私達が通り過ぎると、こっそりお尻触ってたの気づいてたわよ。そこのマリーに対してもそう、スキンシップ激しいのよ。肩を抱くだけじゃなくて、さらっとテーブルの下で太ももとかお尻とか触ってた。きっと前世はさぞかし残念な外見のキモオヤジとかだったんでしょうねえ!?」
「な、な、何を言うんだ!」
売り言葉に買い言葉とはこういうことか。鼻血を垂れ流しながら、ジャックは言う。
「俺は犯罪なんかしていない!どいつもこいつも何で俺をそう誤解するんだ。大切な恋人が危ない目に遭わないよう、いつも見張って守っていただけなのに!彼女もそれを望んでた、俺達は愛し合っていた!彼女だけじゃない、俺は世間の可愛らしい女性を守る義務があるんだ、それを果たしているだけだ!スキンシップで少し体を触っただけで、犯罪者扱いなんてされては困る!」
ダンディなおじさまに見えた男が、赤面し鼻の穴を膨らませながら言う様は実に滑稽だった。こういう人間だったんかい、とカンナは呆れるしかない。
幸い自分は、ジャックとは席が離れていた。隣であったら、と思うと――少々ぞっとさせられるところである。
――もしや、ここにいるメンバー全員ワケありだったりするの?……み、ミラとかキャサリンは、普通の人だよね?そうだよね?
段々と不安になってきた、その時だった。
『皆様、大変長らくお待たせしまシタ。準備ができましたので、刑の執行を行いマス』
スピーカーから、案内人の声が。
『敗北したてるてるの黒のジャック。人狼の桃のマリー。お二人は約束通り、地獄に堕ちて頂きマス。ご安心くだサイ。地獄でも、長生きされる方はおりマス』
「ひっ」
マリーがぎょっとしたように立ち上がり、部屋の隅へ逃げていく。暗幕に覆われた壁のどこかに、ドアか窓がないかと必死で探し始めた。だが、そこで逃がすほどこのゲームマスターは甘い存在ではないだろう。
『それでは、執行しマス』
次の瞬間。テーブルの下に、ぽっかりと丸く黒い空間が広がった。そしてそこから、しゅるしゅると黒い触手のようなものが這い出してくる。
「な、何これ……!?」
ぞっとしてテーブルから離れるカンナ。まるで穴から吐き出されるようにあふれた触手は、見事にカンナ、ミラ、キャサリンの三人を避けて飛び出していった。目指す先は刑の対象である、マリーとジャックである。
「ひいいい!」
「い、いや!嫌あああ!」
何本もの触手が、彼と彼女の腕に、足に、首に、腹にと巻き付いた。服の上からでも体格が分かるほどぎっちりと縛り上げられて、彼らは苦しそうにもがいている。本人達は逃れようと必死にもがいているが、それを許すゲームマスターではなかった。彼らの抵抗も虚しく、二つの体はずるずるとテーブルの下の穴へと引きずり込まれていく。
「た、助けて、死にたくない、怖いいいいっ!嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
断末魔のような声と共に、二人の体は穴の中に引っ張り込まれた。マリーの引き裂くような甲高い悲鳴がどんどん遠ざかっていく。どれほど深い穴であるのだろう。まさか本当に、この下に地獄があるとでもいうのだろうか。
二人が完全に引っ張り込まれ、触手が引っ込むと同時に穴はしゅるしゅると閉じていった。あまりに非現実的な光景に、カンナはただただ茫然とするしかない。
今更になって、はっきりと実感したのだ。
此処は自分が知っている世界とはかけ離れていると。そして、ゲームに敗北していたら自分もこうなっていたのだということを。
――この世界って、なんなの……!?
先ほどは必死だったせいで、いろんなものが麻痺していた。しかしこうして間近で敗者の末路を見てしまっては、じわじわと恐怖が足下から這い上がってくるのを止められそうにない。
自分は、とんでもない世界に来てしまったのではないか。そしてとんでもないものへ参加してしまったのではないか。
元の世界に戻り、絆を取り戻すために、間違った選択をしたわけではないとは思っているけれど。
『執行完了でございマス。予選を通過された皆様、お疲れ様でシタ』
唖然とする自分達をよそに、しゅるしゅると暗幕が開き始めた。一枚の壁の向こうにドアが現れ、がちゃりと鍵が開く音が響く。
『皆様のタブレットは、大切にお持ちになってくだサイ。そこに、皆様がこれから住むことになる住所やこの世界の予備知識、そして本選の日程と場所などをお送りしマス。ちなみに、本選を辞退されたい方は、必ず前日までにお申し出くだサイ。この時点で辞退された方は地獄行きとはならず、賢明なご判断をされたものとしてこの国への永住権をお約束いたしマス』
ぴぴっ、とタブレットが音を鳴らす。カレンは慌てて、テーブルの上に置きっぱなしだったタブレットを持ち上げた。もうすでに地獄への穴はないが、それでも近づくのには少し勇気がいってしまう。あれは到底、科学の産物とは思えなかった。やはりこの世界には、魔法と呼ばれるような不可思議な力が数多く存在しているということなのだろうか。
興味がないと言えば、嘘になる。でも。
――やっぱり、ダメ。いくら怖くても、私は……全然別人の姿で、別の世界で、家族も絆も失って生きていくなんてできない……!
自分には、帰りを待ってくれている人達がいる。助けを求めている人がいる。
ならばどんなに恐ろしくても、前へ進むしかないのだ。
『それでは皆様、また会う時マデ。ご機嫌ヨウ』
ぷつん、という音とともに、スピーカーは沈黙した。ざああ、一部の暗幕が音を立てて開くと、その壁に出口が出現した。スタスタとミラがドアのところまで歩いて行く。彼女がノブを回すと、あっさりとドアは開いた。
「鍵は本当に、開いているみたいね。……行きましょう。踊らされているみたいで、癪ではあるけれど」
「……そうだな」
キャサリンが、茫然としたままのカンナの方を振り返り、ぽん、と肩を叩いた。
「歩けるか?カロリーヌ」
「は、はい……大丈夫……」
「それならいい」
彼女はそっとカンナの頭を撫でると、その美貌に優しい笑みを浮かべて告げた。
「気にするな。……あの二人を負かしたのは、俺達全員だ。お前一人で全てを背負う必要はないからな」
「へ?」
その口から、見た目を裏切る一人称が飛び出してきてカンナは目を見開いた。まさか、と思うカンナの手を。キャサリンは微笑みながら、そっと握り締めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる