推しの正体が幼馴染でした~人気実況者に溺愛されています~

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<4・ギャップに萌えてもいいですか?>

 多分本人は、この場の勢いのような形で言ってしまったのだろう。
 数秒見つめ合った後、彼の顔は茹蛸のように真っ赤に染まったのだ。

「あ、あああああごめん、!本当にごめんねちーちゃん!お、俺、再会したばっかりなのに何言ってるんだろ……!」
「あ、あ、いや、その!迷惑とかじゃそういうわけじゃ!」
「いや迷惑だよ、だって今のちーちゃんの状況何も知らないし!こんなに美人になったちーちゃんを周りの男がほっとくわけない。ちーちゃんに今彼氏とか好きな人がいないって保証もないのに、何悩ませるようなことををををををを!ほ、ほんとごめんちーちゃん、勝手でごめんんんんん!」
「お、落ち着いてえ!?」

 彼はテーブルに突っ伏して沈没してしまった。そんな場合ではないのに千鶴は思ってしまう――これがギャップ萌えなのか、と。
 いやだって、可愛いのだ普通に。
 この爽やかイケメンな見た目と、普段の動画でのトークとはまったく別人。恋愛に関してはウブで、本当はコミュ障で臆病で――そういう“遥”としての側面を知っている人間が一体何人いるだろうか。
 何も変わっていない。
 いや、彼は強くなったしかっこよくなったけれど、根っこの部分が変わってしまったわけではない。臆病だけど優しい、そんな彼のままだと確信した。

――ていうか、今すんげーこと言わなかったか!こんなに美人!?私がか!?人生で一度も男にモテたことないぞ、喧嘩売られたことは少なからずあったけども!!

 というか、ヤンキーどもには喧嘩対象と思われ、一般人にはビビられていたせいでモテる以前の問題だったとたった今実感した。なんだろう、自分の学生時代ちょっと残念すぎやしないだろうか。

「彼氏もいないし好きな人もいないよ!つか、彼氏いたら今日ここに来るのって結構まずいと思わん!?」
「あ」

 はた、と気づいたように顔を上げる遥。

「それも……そっか。そうだね、彼氏がいる状態で俺と一対一で会ったりしたら普通に浮気か、そっか……」
「そうそうそう!それくらいの常識は私にもあるからして!だから、気にしなくていいよ。ふ、普通に好きだって言って貰えるのは私だって嬉しい。君が言った通り、昔は君のこと弟みたいに可愛いと思ってたし、仲良しだったから一緒にいたんだし……今は君が私の推しだったからこそ、毎日動画見て応援してたんだし。嫌なはずないよ!」
「本当に?」

 彼は心配そうにこちらを見上げる。窓から差し込む光で、銀髪がキラキラと光っている。多分、今はほんの薄くしか化粧なんてしていないのだろう。それなのに肌は真っ白で綺麗だし、青い目は相変わらず宝石のようだ。こうして見ていると睫毛も驚くほど長いし鼻筋も通っている。
 いや本当に、こんなモデルみたいな美青年が何でこんなに自分に自信がないのか不思議でしょうがない。幼い頃かのトラウマがどうしても影響しているのだろうが。
 それに、自分の記憶が正しければ実況者・レイヤードがデビューしたのはここ最近のことではない。数年前に実況を始めた時点でこの姿だったのならば、大学時代だって相当モテたはず。己がイケメンだと自覚することはなかったのだろうか。

「本当に、迷惑じゃない?その、今日ちーちゃんと会うにあたり、ものすごく悩んだんだ俺。ほら、結構流行ってるじゃん?アイドルに溺愛される私!イケメン上司に溺愛される私!みたいなオフィスラブとかティーンズラブの漫画や小説って。ああいうので勉強したんだ。大流行してるだろ、ああいうの。なんかそういうのシチュエーション似てると思われるかもしれないって……い、いやああいうのに出てくるほど自分がイケメンだとは思ってないんだけど!」
「え」

 ちょっと待って、と固まる千鶴。
 いや、言いたいことはわかるのだ。二十代以上の女性に流行しているその手のジャンル。現実世界でも非世界でも、平凡だったり不運だったりしたヒロインの前に突然都合よくイケメンが現れて己に目を付け、溺愛してくれてハッピーエンドになるのである。必要以上の努力をしたくないとか、とにかく王子様に攫われたいとか、そういう妄想や願望は女性としてなんらおかしなものではない。ああいうものは往々にして女性視点で描かれ、“女性にとって都合の良い妄想とは何なのか”を学ぶのに極めて適していると言える。
 だから、女性の気持ちを知りたいと思った時、教科書にしたくなるというのもわからないではないのだが。

――だ、大丈夫か?どういうの読んだんだオマエ!?

 心配になってしまうのはどうしようもない。
 だってそうだろう、あの手の漫画でよく出てくる“ヤンデレ彼氏”や“俺様彼氏”なんてのは、妄想の世界だからこそ存在が許されるのだ。現実にいたらストーカー扱いされて怖がられるか、マウント取るんじゃねーよと嫌われるか、いずれにせよいくらイケメンでも許されるものではないだろう。はっきり言って、あれを参考にしてしまったら大事故しか起こらない。そう、千鶴も友達にいくつか借りて読んだことがあるから知っている。
 さらに言えば、ああいう作品は往々にして――かなり濃厚なエッチシーンが付きまとう。男性向けエロもなかなか濃厚だと知っているが、女性向けエロも別の意味で耽美で見ていて恥ずかしくなることが少なくない。このウブな青年がもし、そういうものを見てしまったのだとしたら。

「い、言っておくけどえっちな奴は読んでないから!恥ずかしいし!ってそういうことじゃなくて……!」

 千鶴が何を不安に思ったのか気づいたのだろう。彼は首をブンブン横に振って告げたのだった。

「じゃなくて、そーじゃなくて!えっとえっとその……こういうのを聞いたんだ。“推しのことは大大大好きだけど、推しに愛される自分ってのは解釈違いで無理!”って人がいるって。自分の中の夢や幻想が、己が彼女になるって時点で壊されるっていうか。それも、わからないことじゃないなって。……もし俺が好きだって言ったら、そういう理由で遥もレイヤードもちーちゃんに嫌われちゃうんじゃないかって……」
「あ、ああ……なるほど」
「逆に、推しと彼氏になることをひそかに想像している夢女子タイプの人もいるらしいって聞いたけど、そういう人はそれはそれでヤンデレになっちゃいそうだし。いや、ちーちゃんなら俺ヤンデレになっても全然ありだと思うけど、ちーちゃんがどういうタイプの推し方をしてくれてるかなんて知らないし……」
「や、ヤンデレはまずいからやめよう!その認識は改めよう!私はヤンデレではないつもりだけども!!」

 それに、と彼は困ったように目を伏せる。

「今日会ってわかったと思うけど。俺、レイヤードとしての自分は作ってるっていうか、陽キャを取り繕ってるというか。実際の俺はコミュ障だし、ネガティブだし、全然明るくないんだよね。ちーちゃんの前で演技なんかできる気もしないし……そういうのを見たらギャップ酷すぎて、失望されるんじゃないかって。だからちーちゃんと会って話したかったけど、今日会ったらちーちゃんをがっかりさせるんじゃないかとも思っててずっと緊張してて」
「……そっか」

 ひょっとしたら。
 本当の自分と架空の自分――その落差に、ずっと悩んできたのかもしれない。
 レイヤードというイケメンを作り上げたのは紛れもない彼自身であり、その努力の賜物に違いない。でも、根っこの意識まで変えることは難しいものだし、変えない方がいいこともたくさんある。
 みんなに求められる自分と、本当の自分。本当の自分を知られて人に嫌われるのが怖い――人気者になればなるほど、そういうギャップに一番苦しむのは彼自身なのかもしれなかった。

「確かにそりゃ、戸惑ったよ。そもそも、レイヤードが遥だなんて、ちっとも気づいてなかったんだもん。推しが実は幼馴染でした!なんてそれこそ漫画みたいじゃん?」

 ゆえに千鶴は、正直に己の気持ちを語るのだ。

「幼い頃の君と、今の君。最初は全然繋がらなかったけど……でも今日会って確信した。君はやっぱり君だ。私が大好きだった可愛い遥のまんまだ。でもそれは、弱虫だって意味じゃない。人の気持ちと考えて悩んだり苦しんだり、そういうことができる優しい人のまんまだったってこと。私が好きだった君のそういうところはちっとも変ってない。すごく安心したよ」
「ちーちゃん……」
「それにね、私がすぐに気づかないほど君はかっこよくなったし、本当に努力したんだなって思う。私のために変わろうとしてくれた、その気持ちだけですっごく嬉しい。本当の君の部分がカッコ悪いなんてことも全然思わない。それと……私のことが好きだって言ってくれるのも、全然嫌だとかそんなことない。本当だよ」

 ただこれだけは、言っておくべきだろう。
 何故なら、千鶴と彼が離れてから二十年近い月日が過ぎているのだ。今の千鶴がどういう人間か、彼はまったく知らないはず。小学校の時の幻想のままで千鶴を好きだと思っているのなら、そこはきちんと伝えておかなければいけない。
 何一つ変わらないことなんてない。幼い頃のままではお互いいられない。
 こっちにも、彼に話していないことはたくさんあるし、恥ずかしいものや残念なところもたくさん抱えているのだ。それを知らずに付き合うような真似などしたら、傷ついてしまうのは彼の方だろう。

「でも、私は小学校の時のまんまの私じゃない。君が知らない私もたくさんあるし……そういうのを知って、むしろ私が君に失望されないか心配だし」
「そ、そんなこと……!」
「ないって言ってくれるんだろうけど、これは私の問題なの。私も、君も、今のお互いのことなんか全然知らないじゃん?だからさ……付き合うとか付き合わないとかまず、お互いのことよーく知ってからにするってのはどう?友達から始めましょう、なんてそれこそ漫画の台詞みたいだけどさ」

 推しに愛されるなんて夢のシチュエーション、手放すのはもったいないのではと思う気持ちもある。
 けれど彼は、かつて千鶴が誰より守りたいと思ってきた大切な弟分でもある。そんな彼を、おかしな幻想や現実で傷つけるような真似なんてしたくはない。真剣な恋心ならば尚更だ。一足飛びにせず一歩一歩、丁寧に積み重ねていくべきと思うのは幼い考えだろうか。

「……それもそうだよね。うん、それもそうか……」

 彼は自分なりに、千鶴の言葉をかみ砕いてくれたようだった。よし、と拳を握って宣言したのである。

「うん、わかった!じゃあ、今日からいっぱいデートしたり、お喋りしたりしよう!そうしよう!俺、ちーちゃんに好きになって貰えるように頑張るし、もっともっとちーちゃんの今のことも知りたいし!」
「あはは、ファンに嫉妬されそうだなあ」

 マジな話、これ大丈夫か。思わず周囲を見回してしまう千鶴である。幸い、レストランの中で聞き耳を立てているっぽい人の姿は見当たらないが。

――いやほんと、これ私の方も気を付けないと。この子、いろんなことに無自覚っぽいし……。

 なお、そんな警戒心は、注文したほうれんそうパスタが来たことであっという間に吹っ飛んでしまうのだが。
 まったく、この店の料理が美味しいのがいけない。その後、彼がおすすめしてくれたペペロンチーノとカルボナーラも頼み、デザートまでたっぷり平らげてしまったのはここだけの話である。

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