推しの正体が幼馴染でした~人気実況者に溺愛されています~

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<11・レッツ、TRPG!>

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 世の中には、外に出かけるのがあんまり好きではないという人も少なくない。
 ただし、出かけるのが好きではない=外に出かけるのが嫌いと決めつけるのは早計だと千鶴は思うのである。外に行くのが嫌いではないけれど、家の中でやりたいことがあるから家にいたい、なんて人間もいる。千鶴が知る限り、遥はそのタイプだった。というのも、小学校の時彼は“元気な時に誘えば、かくれんぼやドッジボールに参加する”タイプの少年だったのだから。

『すぐ息が上がっちゃって、人に迷惑かけるから……申し訳なくて、参加しないことが多いんだよね。ちーちゃんは、迷惑じゃないって言ってくれるから』

 かつて遥は、千鶴にそんな話をしていた。

『それと……僕、一日のスケジュールを決めてて、その通りに動くのが好きで』
『スケジュール?』
『うん。例えば、朝来たら読みたい本を読む。授業の合間を使って少しずつ読み進める。で、放課後までにここまで読み終わりたいって決めてたりするでしょ?でも、休み時間とかに他の予定が入るとその予定通りいかなくなる。……それが楽しい“予定外”でも、スケジュールが狂うのがちょっと困惑して苦手というか……』

 だから旅行や一日のショッピングなども、できれば一週間以上前に把握しておきたいのだという。急に“今から遊びに行こう!”と言われるのがどうにも苦手らしい。嫌というより混乱する、という意味で。
 また、本を読む予定を立てるのは、それだけ本を読むのが好きだからということ。外に行きたくないのではなく、屋内でやりたいことがあるから屋内にいる、というパターンも多いらしい。

『だから……放課後に遊ぶ時は、一週間以上前とか、遅くても前日までに教えてくれると嬉しいかな。そうすれば、混乱しないし、楽しく参加できるから』
『うん、わかった!みんなにもお願いしとくよ!』

 障害というほどではない、一種特性のようなもの。きっと、千鶴が知らなかっただけでそういう考え方を持っている人間は少なくなかったのだろう。だから千鶴も今回遥の家を訪ねるにあたり、一週間以上間をあけることにしたのだ。まあ、これは“彼が家を片付ける時間も必要だろう”という配慮もあってのことだったが。
 恋人とか友達とか関係なく、家に人を招くには覚悟と準備がいるのは当然のこと。そして通常の待ち合わせならともかく、家に行くということであるならば“あまり早い時間に到着する”のも失礼だという認識は千鶴にもあった。ギリギリまで何かを準備しているケースもあるからである。精々、五分前に行くのがベターなところだろう。なんなら、時間ぴったりでもいいくらいだと思っている。たまにこの認識がズレているせいで、かえって相手に迷惑をかけてしまう人もいるようだが。

「いきなり押しかけて本当に良かったの?その、家に招くってなかなかハードル高いような気がしてたんだけどさ」

 散々雑談したあとで、千鶴はようやくそれを口にした。すると遥は“とんでもない!”と首をぶんぶん横に振った。

「むしろ、ちーちゃんが一週間開けてくれて、家に遊びに来るって選択してくれて嬉しかったよ。すごく気楽だったし……ああ、小学校の時にお願いしたこと覚えて手くれたんだなって」
「スケジュールが変わるのが苦手なんだろ?私もそういう人いるんだなーって新鮮だったからよく覚えてたんだよ」
「うん。実は、今でもあんまり変わってなくてね。当日や前日に急な予定が入るのが本当に苦手なんだ。その日にやろうとしていたことが全部できなくなって、そのタスクを翌日以降に繰り越さないといけなくなるから。家での編集作業とかだけじゃなく、家事とかもそうなんだよね。今日は一日掃除しよう、って思ってたのが急にできなくなるとか苦手で」
「それはわかるかも。でもって、急にできなくなって翌日以降に繰り越したらもうモチベがなくなってたりするんだよな」
「それだよそれー」

 あははは、と自然と笑い声が上がる。ああ、変わっていない。彼は一番大切なところが変わっていないのだ。千鶴は心から安心させられる。
 もしあの日、自分がレイヤードの握手会の抽選に応募しなかったら、あるいは漏れていたら。きっとこんな機会は訪れなかっただろう。自分は彼が遥だと気づかないまま一生過ごしていたかもしれない。
 やはり運命とは、何が起きるかわからないものである。

「それで、なんだけど……アレは準備してきたって本当?」

 遥が心配そうに身を乗り出してくる。

「その、結構重たかったんじゃない?昔から言われてるんだよね……普通の本の重量じゃないって」
「誰にもの言ってんだねキミは!喧嘩の魔女とも言われたこの向井千鶴様をナメんなよ~!」

 ふふーん、と鼻を鳴らしつつ千鶴はトートバッグの中を漁る。そしてどどーんとテーブルの上に重たい本を載せた――クトゥルフ神話TRPGのルールブックを。



ベストアンサー
●マクレガーさん
『わかります。芸能人にしろスポーツ選手にしろ、本気で推しになるとガチ恋みたいな感情を抱いてしまうことありますよね。
 あなたは現実と妄想の違いがちゃんとわかっているようなので問題ないと思います。

 レイヤードさんはゲームなら基本なんでも好きらしいですよ。実況では上げてないですが、例えばカードゲームのようなものも大好きです。それこそトランプから、決闘王みたいなやつまで。以前どっかで、決闘王で最近悪魔族デッキ構築してるとか言ってた気がしますw
 あと、卓ゲとかTRPGも好きだった気がする。
 人狼ゲームとクトゥルフもやってるそうなので、そういう話題を投げると喜んでもらえるかもしれません!
 女の子の好みについては、ちょっと記憶にないんですよね、ごめんなさい……』



 そう。
 今回、千鶴が“おうちデート”をするにあたり、遥に持ち掛けた遊び。それは超人気であり超有名、かのラヴクラフトが作り上げたシェアワールドを元にした卓上ゲームである。
 オンラインで遊ぶこともできるが、対面でプレイすることももちろん可能。なんといっても、KPとPL、一対一でソロシナリオを遊ぶこともできるというのが魅力なのだ。

「ちーちゃん、俺がクトゥルフ好きだって知ってたんだ。ていうか、ちーちゃんも好きだったなんて」
「ふふふふふ、オールマイティオタクなんですよこっちは!オンラインでもオフラインでも遊んだし、なんなら特殊ルール作って遊んだこともありますことよ!キャットゥルフもやったことあるし!」
「なかなか通だね!」
「もっと言えば今日は決闘王のデッキも持ってきているのでデュエルする気マンマンだ!」
「最高!」

 子供みたいに声を上げる遥。彼も本棚からファイルを取り出し、何枚か紙を取り出してくる。PLをやるにあたり必要なキャラクター――その情報を書き記すシートだ。
 クトゥルフ神話TRPGは、プレイヤーとなる人物が自分の分身となるキャラクターを作り、KP(ゲームマスターのこと)となる人物がそのキャラクターに物語を与えることで遊ぶゲーム。その物語は基本的にはホラーであり、人間には理解できないような恐ろしい神様やモンスター、悪霊が登場することになるのだ。プレイヤーは、そんな恐ろしい相手に遭遇しながらもどうにか息抜き、物語をエンディングまで完走するのが目的なのである。
 なお、クトゥルフではこの登場する神様やモンスターがなんともえげつないことで有名。作中で人がばんばん死ぬのも当たり前、なんなら猟奇殺人だって発生する。プレイヤーキャラクター=PCはそういうものに遭遇するたび怪我をしたりトラウマを作ったりするため、場合によってはシナリオの中で死亡してエンディングまでたどり着けないこともあるのだ。そうなってしまったらゲームオーバーである。
 また、行動に対する“成功判定”は、キャラクターが持っている技能値と振られるダイスの目で決まる。このダイスの目が荒ぶると、KPが頭を抱えることになるのはあまりにも有名である。実はPLの敵はKPではなくダイスの女神様だ、なんてこともよく言われたり言われなかったり。

「遥に遊んで貰いたくて、シナリオ作ってきたんだからねー!えっと、キャラはできてる?念のためチェックさせてほしいんだけど」

 千鶴が尋ねれば、もちろん、と彼はキャラシートを見せてくる。

「推奨技能は目星、図書館、聞き耳。で、技能は一回だけ振り直し可能、でいいんだよね?」
「うんうん。で、技能値は90超えてもOKで回避は何度でも可能ってのが私ルールね……って回避95!?極振りしたね!?ていうかDEX18だ!?」
「戦闘技能取らないからとにかく逃げることに特化しようと思って!いやだって、僕何度か実況仲間とかとプレイしたけど、死ぬことが多すぎるもんだから!ダイスの女神様に全然愛されてないから!」
「具体的には?」
「ミ=ゴさんに脳缶にされちゃったりとか、ストーカーに刺殺されたりとか、イタクァさんを見てSAN値が消し飛んだりとか……」
「いろいろ察した」

 大丈夫かこれ、と始まる前から少しだけ冷や汗をかく千鶴。難易度の低いシナリオを作ってきたつもりだが、ちゃんとゴールまでたどり着けるだろうか。やや想定していたより裁定を甘くした方がいいかもしれない、と心の中で呟く。
 KPだってできればPCに生き残って欲しいし、最後まで楽しんで欲しいのである。ここは、ダイスの女神様にお祈りするしかあるまい。

「ま、まあいいや。……荷物は特に問題なさそうだし、じゃあ始めさせていただきますー!えっとね。遥……ではなくPCの虹岡陽介にじおかようすけさん。職業は探偵……探偵事務所を営む貴方のところに、ある女性が仕事の依頼をしてくるところから始まります。彼女は最近、ストーカー被害に悩まされていました……」

 人が人を知る方法にもいろいろある。家の中だって、知りたいことはたくさん知れるというものだ。
 まるで子供のころに戻ったような気持ちになりながら、千鶴は遥とともに卓上ゲームを楽しんだ。
 そう、大人になっても。子供のころと同じように、笑い合うことだってできるのだからと。

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