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<24・カレーライスとオハナシと。>
「念のため確認したいのでございますけども」
カレーで有名な某レストランに入ったところで(丁度お昼時だったのだ)、和歌子がずずず、と身を乗り出してきた。
ちなみに今日は平日なのだが、彼女は有給を取ってお休みしたというわけらしい。昨夜飲み過ぎて、午前中全然身動きが取れなかったという。ダメな社会人だという自覚はあったらしく“心の底から反省しております”という言葉を最初に貰っていた。
しかし二日酔いの人間がカレーの店に入って食べられるものなのだろうか。千鶴は疑問に思ったが、とりあえず今はつっこまないでおくことにする。
「この【集まれ】実況者レイヤードさんについて語るスレ part104【レイ担の森!】……に降臨している自称カノジョ、あんたじゃないわよね?千鶴」
「ないないないない」
千鶴は首をぶんぶんと横に振った。ちなみに正式に遥と付き合うことになったあたりで、和歌子には恋人の正体もきっちりと話している。
「彼女がいるってことは遥も隠してんだもん。私がぶっちゃけるはずないじゃん。というか、オタク歴長い人間にとってこのテの大型掲示板って鬼門だよ?書き込んで炎上したら目も当てられないというか……“降臨”が一番叩かれる原因を作るなんてこと、とっくの昔にわかってるってば」
「まあ、そうよね。こいつが余計なこと言わなかったら掲示板燃えてないわけだし。レイヤードのリア友=彼女かも?なぼんやりとした疑惑があるだけで終わってたんでしょうね」
「ですよですよ。マジであり得ないから!」
どうやら、和歌子が自分に話したかったことはそれらしい。彼女からすると、千鶴に対して酔った勢いで“遥が浮気してするかも”みたいに煽ってしまった負い目もあったのだろう。本人も酔ってねじが外れていた結果だろうから、もう千鶴も怒ってはいないのだが。
「で、この掲示板を見た上でなんだけど」
ぐい、と水を煽って和歌子は告げる。
「浮気してるとは思わないけど、トラブルに巻き込まれてる可能性はあるんじゃない?遥クン」
「……そう、なのかな」
「そうよ。だって、最近になって妙に変装を徹底するようになったんでしょ?で、あんたの話の通りだとさ、ポストとか人目とかやたら気にしてたって話じゃない。あんたの喧嘩がマジ強いって話を聴いてなお、駅まで送るって言ったのも引っかかる。遥クンがストーカーに追いかけまわされてるってなら納得のいく話なわけよ」
「……そう、なのかも」
筋は通る話ではある。
そもそも、“家まで送らなかった”のがかえって怪しいのだ。自分が一緒に行くことで、ストーカーに千鶴の家が特定されるのを恐れたのではないか、と。駅まで行くだけならばその心配はないと考えたというのなら、わからない話ではない。
「あたしも色々調べてみたんだけどさ。元々遥クン……レイヤードって、随分と厄介なファンが発生しがちみたいじゃない?自分がレイヤードの彼女だーみたいに言い出す女ファンは前から少なくなかったというか」
しれっと店員を呼ぶ和歌子。二日酔いだと言っていたくせに、ご飯はきっちり食べるつもりらしい。もう大丈夫なのだろうか。
とりあえず千鶴もお腹はすいている。和歌子がチキンカレーを頼むのと同時に、自分もチーズポークカレーを注文した。カレーにチーズは抜群に合うと最近知った次第である。
「でも今回掲示板に書き込んでる女は、かなりの執着心つーか?掲示板の他の住人に叩かれても荒らし扱いされてもまったくめげる気配がないのが怖いわけ。で、この調子なものだから掲示板の流れも爆速になってて……part108の掲示板ではこんなことまで言ってるわけ」
彼女はスマホを操作すると、ブックマークしていた最新の掲示板の様子を見せてくれた。
その内容を目で辿り、千鶴は渋い顔をするしかない。
56:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
さっさとあぼーんでもなんでもされてよ
まともな会話ができやしない
57:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
>>56
まったくだわ
58:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
住人がどんどんいなくなってるのを感じる……
レイヤードがプレイしてるゲームの話とか、いかに面白い動画アップしてくれてるかとか、そういう話がしてたかったのに
59:れもん
何よ、わたしが悪いっていうの?みんながレイヤードさんの彼女がいるかどうか気になってたから降臨してあげたってのに
みんなのためにしてあげたのに、まるでわたしが悪いみたいに言われるの納得いかないんですけど
60:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
誰も降臨してくれなんて頼んでないじゃん……
61:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
こんなやべー女がカノジョなんじゃレイヤードも落ちぶれたもんだな
気の毒ではあるけど
62:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
みんなマジで信じてるわけじゃないよね?こいつが本物のカノジョなわけないじゃん
本当にレイヤードのこと想ってるなら、こんなところに降臨して迷惑かけるはずないし
63:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
まじタヒね
64:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
カノジョ妄想したい痛いオンナに付き合ってる暇なし
はやく平和に戻ってくれよこのスレもさあ
65:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
自分は気になるけどなwwww
本当にカノジョだっつーなら証明してくれよwwwww
66:れもん
しょうがないなあ
今度、レイヤードさんの家の写真撮ってくるから、それアップしたら信じてくれるよね?
67:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
え、自宅晒すつもりなの?やば……
やば。
本当に、そんな声しか出てこない。この女は何を考えているのか。やっと遥はオーッとロックマンションに引っ越して、平穏な生活を手に入れたと言っていたのに。
家の様子なんて晒したら、アンチも厄介ファンも集まってきてしまう。外観だけで、特定しようと思えばいくらでも特定できる時代だろうに。
「……しかもいつの間にかコテハンつけて喚いてるじゃん、こいつ。……うげえ」
千鶴がうえ、と舌を出して言えば。和歌子も“イカレてるわよね”と同意してきた。
「とにかく、あたしの結論としては。千鶴は早急に、真剣なオハナシを遥クンとするべきだってことよ。ストーカーに狙われてるなら解決しないといけないし、浮気疑惑だって真実を知りたいでしょ?」
「それは、そうだけど……」
和歌子にはLINEで伝えてある――ついさっき、遥が女性と二人でレストランに入っていったということを。浮気だったらどうしよう、それを確かめるのが怖いと思っているということを。
確かに、ストーカーのことも気になるし、いつまでも浮気疑惑を放置するわけにもいくまい。杞憂なら杞憂でそれでいいのだから。でも。
「尋ねるのが怖い?……あんたらしくないわよ、千鶴!」
ばんっ!と和歌子は派手に千鶴の背中を叩いてきた。存外強い力に思わずテーブルにつっぷそそうになってしまう。
ちなみに今日、二人はカウンター席に座っている。このカレー店では少人数だと、カウンター席に案内されることも少なくないのだった。
「マジで恋をしたら臆病になるのは当たり前。気持ちはわかる!でも、本当に好きなら相手を信じるとか、弱いところを受け止める勇気も必要なわけよ。無論、きちんとぶつかって分かり合えなかったらその時はその時。そうだとしても……なあなあで関係を続けて、見えないところで苦しみを貯めるより百倍マシだとあたしは思うわけ!そうやって失敗したカップルを、あたしは自分含め何組も見てきたんだから!」
「……和歌子がそう言うと説得力がすごいね」
「おう、まさにその通りでしょ……って何言わせんだコラ。一緒にレストランに行った女は親戚とかかもしれないい仕事関係者かもしれない、マジの浮気相手かもしれないし実は女でもないのかもしれない!シュレディンガーの猫箱に猫閉じ込めたまま、いつまでも都合の良い方悪い方にばっか解釈して自分と相手を傷つけ続けるのが最も愚かなことよ。とりあえず、ぶち当たってきなさいな。男が度胸なら女も度胸!」
「……はは、そうだね。それもそう、かも」
よし、と千鶴は拳を握る。丁度そのタイミングで運ばれてきたチーズカレーを前に、気合を入れることにするのだった。
「よし、まずは……食う!食って元気つける!」
「その意気!」
なお。
やっぱりやや二日酔いを引きずっていた和歌子はチキンカレーを半分しか食べることができず、残りを千鶴が貰うことになるのはここだけの話である。
カレーで有名な某レストランに入ったところで(丁度お昼時だったのだ)、和歌子がずずず、と身を乗り出してきた。
ちなみに今日は平日なのだが、彼女は有給を取ってお休みしたというわけらしい。昨夜飲み過ぎて、午前中全然身動きが取れなかったという。ダメな社会人だという自覚はあったらしく“心の底から反省しております”という言葉を最初に貰っていた。
しかし二日酔いの人間がカレーの店に入って食べられるものなのだろうか。千鶴は疑問に思ったが、とりあえず今はつっこまないでおくことにする。
「この【集まれ】実況者レイヤードさんについて語るスレ part104【レイ担の森!】……に降臨している自称カノジョ、あんたじゃないわよね?千鶴」
「ないないないない」
千鶴は首をぶんぶんと横に振った。ちなみに正式に遥と付き合うことになったあたりで、和歌子には恋人の正体もきっちりと話している。
「彼女がいるってことは遥も隠してんだもん。私がぶっちゃけるはずないじゃん。というか、オタク歴長い人間にとってこのテの大型掲示板って鬼門だよ?書き込んで炎上したら目も当てられないというか……“降臨”が一番叩かれる原因を作るなんてこと、とっくの昔にわかってるってば」
「まあ、そうよね。こいつが余計なこと言わなかったら掲示板燃えてないわけだし。レイヤードのリア友=彼女かも?なぼんやりとした疑惑があるだけで終わってたんでしょうね」
「ですよですよ。マジであり得ないから!」
どうやら、和歌子が自分に話したかったことはそれらしい。彼女からすると、千鶴に対して酔った勢いで“遥が浮気してするかも”みたいに煽ってしまった負い目もあったのだろう。本人も酔ってねじが外れていた結果だろうから、もう千鶴も怒ってはいないのだが。
「で、この掲示板を見た上でなんだけど」
ぐい、と水を煽って和歌子は告げる。
「浮気してるとは思わないけど、トラブルに巻き込まれてる可能性はあるんじゃない?遥クン」
「……そう、なのかな」
「そうよ。だって、最近になって妙に変装を徹底するようになったんでしょ?で、あんたの話の通りだとさ、ポストとか人目とかやたら気にしてたって話じゃない。あんたの喧嘩がマジ強いって話を聴いてなお、駅まで送るって言ったのも引っかかる。遥クンがストーカーに追いかけまわされてるってなら納得のいく話なわけよ」
「……そう、なのかも」
筋は通る話ではある。
そもそも、“家まで送らなかった”のがかえって怪しいのだ。自分が一緒に行くことで、ストーカーに千鶴の家が特定されるのを恐れたのではないか、と。駅まで行くだけならばその心配はないと考えたというのなら、わからない話ではない。
「あたしも色々調べてみたんだけどさ。元々遥クン……レイヤードって、随分と厄介なファンが発生しがちみたいじゃない?自分がレイヤードの彼女だーみたいに言い出す女ファンは前から少なくなかったというか」
しれっと店員を呼ぶ和歌子。二日酔いだと言っていたくせに、ご飯はきっちり食べるつもりらしい。もう大丈夫なのだろうか。
とりあえず千鶴もお腹はすいている。和歌子がチキンカレーを頼むのと同時に、自分もチーズポークカレーを注文した。カレーにチーズは抜群に合うと最近知った次第である。
「でも今回掲示板に書き込んでる女は、かなりの執着心つーか?掲示板の他の住人に叩かれても荒らし扱いされてもまったくめげる気配がないのが怖いわけ。で、この調子なものだから掲示板の流れも爆速になってて……part108の掲示板ではこんなことまで言ってるわけ」
彼女はスマホを操作すると、ブックマークしていた最新の掲示板の様子を見せてくれた。
その内容を目で辿り、千鶴は渋い顔をするしかない。
56:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
さっさとあぼーんでもなんでもされてよ
まともな会話ができやしない
57:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
>>56
まったくだわ
58:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
住人がどんどんいなくなってるのを感じる……
レイヤードがプレイしてるゲームの話とか、いかに面白い動画アップしてくれてるかとか、そういう話がしてたかったのに
59:れもん
何よ、わたしが悪いっていうの?みんながレイヤードさんの彼女がいるかどうか気になってたから降臨してあげたってのに
みんなのためにしてあげたのに、まるでわたしが悪いみたいに言われるの納得いかないんですけど
60:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
誰も降臨してくれなんて頼んでないじゃん……
61:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
こんなやべー女がカノジョなんじゃレイヤードも落ちぶれたもんだな
気の毒ではあるけど
62:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
みんなマジで信じてるわけじゃないよね?こいつが本物のカノジョなわけないじゃん
本当にレイヤードのこと想ってるなら、こんなところに降臨して迷惑かけるはずないし
63:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
まじタヒね
64:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
カノジョ妄想したい痛いオンナに付き合ってる暇なし
はやく平和に戻ってくれよこのスレもさあ
65:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
自分は気になるけどなwwww
本当にカノジョだっつーなら証明してくれよwwwww
66:れもん
しょうがないなあ
今度、レイヤードさんの家の写真撮ってくるから、それアップしたら信じてくれるよね?
67:楽しくネットサーフィンらいふ@以下名無しがお送りします
え、自宅晒すつもりなの?やば……
やば。
本当に、そんな声しか出てこない。この女は何を考えているのか。やっと遥はオーッとロックマンションに引っ越して、平穏な生活を手に入れたと言っていたのに。
家の様子なんて晒したら、アンチも厄介ファンも集まってきてしまう。外観だけで、特定しようと思えばいくらでも特定できる時代だろうに。
「……しかもいつの間にかコテハンつけて喚いてるじゃん、こいつ。……うげえ」
千鶴がうえ、と舌を出して言えば。和歌子も“イカレてるわよね”と同意してきた。
「とにかく、あたしの結論としては。千鶴は早急に、真剣なオハナシを遥クンとするべきだってことよ。ストーカーに狙われてるなら解決しないといけないし、浮気疑惑だって真実を知りたいでしょ?」
「それは、そうだけど……」
和歌子にはLINEで伝えてある――ついさっき、遥が女性と二人でレストランに入っていったということを。浮気だったらどうしよう、それを確かめるのが怖いと思っているということを。
確かに、ストーカーのことも気になるし、いつまでも浮気疑惑を放置するわけにもいくまい。杞憂なら杞憂でそれでいいのだから。でも。
「尋ねるのが怖い?……あんたらしくないわよ、千鶴!」
ばんっ!と和歌子は派手に千鶴の背中を叩いてきた。存外強い力に思わずテーブルにつっぷそそうになってしまう。
ちなみに今日、二人はカウンター席に座っている。このカレー店では少人数だと、カウンター席に案内されることも少なくないのだった。
「マジで恋をしたら臆病になるのは当たり前。気持ちはわかる!でも、本当に好きなら相手を信じるとか、弱いところを受け止める勇気も必要なわけよ。無論、きちんとぶつかって分かり合えなかったらその時はその時。そうだとしても……なあなあで関係を続けて、見えないところで苦しみを貯めるより百倍マシだとあたしは思うわけ!そうやって失敗したカップルを、あたしは自分含め何組も見てきたんだから!」
「……和歌子がそう言うと説得力がすごいね」
「おう、まさにその通りでしょ……って何言わせんだコラ。一緒にレストランに行った女は親戚とかかもしれないい仕事関係者かもしれない、マジの浮気相手かもしれないし実は女でもないのかもしれない!シュレディンガーの猫箱に猫閉じ込めたまま、いつまでも都合の良い方悪い方にばっか解釈して自分と相手を傷つけ続けるのが最も愚かなことよ。とりあえず、ぶち当たってきなさいな。男が度胸なら女も度胸!」
「……はは、そうだね。それもそう、かも」
よし、と千鶴は拳を握る。丁度そのタイミングで運ばれてきたチーズカレーを前に、気合を入れることにするのだった。
「よし、まずは……食う!食って元気つける!」
「その意気!」
なお。
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