25 / 28
<25・ヤンデレとストーカー。>
しおりを挟む
どうしても会いたい、会って話がしたい。
千鶴がそう頼み込むと、遥はノーとは言わなかった。ただ、電話の声は明らかに憔悴しきっている。――どうして気づかなかったんだろうと、そう悔やむほどに。
恋とは盲目だ。その結果、気づかなくていいことに気付くこともあれば、逆に本来なら簡単に見えるはずのものを見落としてしまったりもする。遥と一緒にいるのが楽しい、幸せ、ずっと続いて欲しい。そう舞い上がっていた千鶴と、千鶴のために全てを隠しておきたかった遥。悪い意味で、都合が合致してしまったということだったのだろう。
和歌子と話した翌日。遥の部屋に入って話を聴いたところで、ようやくそれがはっきりしたのだった。
「……ごめんね、ちーちゃん」
リビングのテーブルの前。妙にちんまりと肩を縮めて座る遥である。
「ちーちゃんに、余計な心配かけたくなくて。実はここのところ、差出人のない封筒が大量に来るんだよ。あと、外で視線を感じることも多いというか。しかも俺のアップした動画に、自分は彼女だって名乗る人のコメントがつくことが増えて……ブロックするとアカウント変えてまた書き込んでくるからどうすればいいのかわからなくて。そっちは最近“れもん”って名乗ってくるんだけど」
「れもん……」
59:れもん
何よ、わたしが悪いっていうの?みんながレイヤードさんの彼女がいるかどうか気になってたから降臨してあげたってのに
みんなのためにしてあげたのに、まるでわたしが悪いみたいに言われるの納得いかないんですけど
間違いない。
大型掲示板にコテハンをつけて書き込んでいた人物だ。あれはやっぱりストーカーの書き込みだったということらしい。
「不安で、だから変装もしっかりしてるんだけど。でも公開してないはずの俺の住所がバレてるっていうのが気持ち悪くって。ちょいちょい無言電話もあるしさ……」
「無言電話っていうの、家電?携帯?この家はどっちもあったよね?」
「それが、両方なんだよ。非通知か、もしくは公衆電話からかけてきてるみたいで……」
本人は渋ったが、送られてきた手紙とやらの一部を見せてもらうことにした。茶色の、まるで重要書類でも入れるような封筒に、女性の字で“虹村遥様”という宛名と住所が書かれている。本人が言うとおり、送り主の名前はない。
これが一番マシなやつ、だというので中身の手紙も読ませて貰ったのだが。
『はるか君へ。
今日は一日、あなたのことばかり考えていました。
初めて会った日のこと。キラキラしたその笑顔。いつわたしのことに気付いてくれるのか、わたしのことを見てくれるのか、わたしと手を繋いでくれるのか、私とセックスをしてくれるのか。考えて考えて、考えるだけで体の火照りが止まらなくなって一人指で慰めていた時を思い出しました。
ああ、でも今はそんな必要もない。なんて嬉しいのでしょう。
二人だけの部屋で会えるのが嬉しくてたまらない。その日は必ず訪れます。だって神様が教えてくれたんだもの、あなたが運命の人だっていうこと。
そうあなたにはわたししかいないし、わたしにはあなたしかいない。
愛している、なんてことばじゃ全然足らない。いつか必ずふたりで一緒の部屋に住んで誰にも邪魔されない天国につれていってキスをして抱きしめ合ってふかくふかくふかくふかくふかくあいしあってだいてだかれてあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいしてあいしてるいあいしてあいしてるのこれからもずっと
わたしのおなかの奥の奥まであなたのたねをちょうだい
たくさんこどもをうみます、しあわせ、考えるだけでもうどこにだっていけてしまいますもっともっともっともっと
はやくわたしをむかえにきて
あなただけのものになってここでまっているから。わたしもむかえにいくから』
――こ、これ、一番マシ、なんだ……。
げんなりしてしまった。
十分すぎるほどトチ狂っているとしか思えないが、他の手紙はもっとさらに過激だったということか。それこそ、セックスでやってほしいプレイなんかも赤裸々に書かれていたのかもしれない――果てしなく気持ち悪いとしか言いようがないが。
「……あの」
とりあえず、言うべきことがある。千鶴は大きく息を吸い込んで告げた。
「ごめん、遥。なんか様子がおかしいな、くらいにしか思ってなかった。ひょっとした浮気してるのかもとか、全然とんちんかんなことも考えてて。遥が悩んでること、全然気づいてなかった。本当の本当に、ごめん……」
「ちーちゃん……」
真正面から喧嘩を売ってくる輩なら、学生時代にいくらでも経験している。ちょっとツラ貸して貰えますか、からの帰り道の闇討ちなんかもあった。今考えると、二十年くらい前の時代錯誤の不良かよとしか思えないような状況だったわけだが。
でも、こういう――目に見えないところから、こそこそと欲望や悪意を向けられたことは千鶴もない。果たし状なんて可愛いものではないか。自分は相手の顔も名前も知らないのに、ひたすら欲望で穢される。挙句、根も葉もないことをネットで書き込まれて拡散されるのだ。あの掲示板の様子を見るに、本当にレイヤードの“彼女”が降臨したと思い始めている人間もいるらしい。少なくとも、クトゥルフ神話のセッションをやった“リア友”がきっとそうだったのだろうと。
しかも、あのれもんと名乗る女性は、今度は遥の家の写真を撮るなんて言ってきているのだ。下手をしたら――下手をしなくても、家に押しかけてくる可能性が高いのではないか。
どれほど気持ち悪いことだろう。しかも――しかもだ、男性が女性にストーカーされる場合、なかなかその危険性や緊急性を周囲に理解してもらえないことも少なくないのである。自分より非力な女に怯えるなんて情けない、と言ってくる人も少なくない。
これは、妻にDVを受ける夫がなかなか被害を言い出せず、泣き寝入りするのと同じ現象でもあるのだ。例え身体能力に差があったとしても、相手が武器を持ちだしてくれば簡単に力関係は逆転する。いくら男性の方が力があったとて、向こうが刃物や鈍器を持っていたら?抵抗なんてできるはずがないではないか。
さらに厄介なのは、下手に抵抗すると“こちらが悪いことにされかねない”ということ。昔よくあった虐めに、いじめっこの悪女が男を襲って、拒否られると自分で服を破って“乱暴されかけた!”と触れ回るというのがあった。裁判になると、女性の方が“弱い立場の人間”として同情されがちだ。痴漢だと疑われると、なかなか冤罪証明ができないのと同じだろう。遥が未成年だったならまだしも、既に二十七歳の立派な成人である。実際にそのストーカーと遭遇してしまった時、こちらが被害者だと証明する手段はあるだろうか。
勿論、本当に刃物を持って襲われたら土壇場でそんなことまで考えられないかもしれないが。そういう状況がより、彼に対処を悩ませているというのもきっとあったはずである。
「……私が巻き込まれないように、心配かけないように。いろいろ一人で抱え込んで、頑張ってくれてたんでしょ。それなのに私ときたら……遥が女の人と一緒にレストランに入ったのを見ただけで、浮気じゃないかって思っちゃって……」
「それ、昨日のこと?太田川さんのこと?」
「オオタガワサン?」
「えっと、小柄で眼鏡の茶髪の女の人のことだったら、確かに一緒にご飯食べたよ。NEXT実況のイベントスタッフの人で、次のイベントの打ち合わせがしたいって言われて。事務所の部屋があいてないからって言われて仕方なく……」
「あー……」
やっぱり、仕事の関係者だったらしい。本当にバカ自分、とテーブルに突っ伏してしまう千鶴である。早合点しすぎではないか。思った通り、仕事の関係者。それを浮気と言ってしまうのは無理がある。誤解を招きそうなことをするその女性スタッフに、ちょっと恨み言を言いたくないと言えば嘘になるが。
「手紙が来るようになったのはいつ?NEXT実況のイベントに参加したくらいから?」
千鶴が尋ねると、うん、と消え入りそうな声で頷く遥。
「それくらいの時から、手紙が来るようになって……動画にも変なコメントがつくようになったなって。多分、イベントで俺を見て……ってことなんだと思う」
「警察行こうよ、警察。何かあってからじゃ遅いし……実際に何かあった時、事前に警察に説明してたってなれば印象がだいぶ違うから。なんなら私も行くよ?」
「大事にしたくないんだけど……。その、俺、本名隠してるし」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。大体ストーカーには本名バレて……」
ん、とそこまで言ったところで首を傾げる。
遥の本名と住所。当たり前だが、レイヤードとしての活動の上では一切公表していないはず。ストーカーはどうやってそれを知ったのだろう。関連書籍にだってそういうものは出していなかったはずだが。
――……というか、家の電話番号も……携帯電話の番号もバレてるんだよね?どっかから情報漏れてるんじゃ。
活動上でそれを明かすことなどないはずの遥。
だが、それらを明かすしかない場所があったとすればどうだ。例えば、仕事の上で交わす書類には、連絡先として本名や電話番号を記載してもおかしくはないはず。
そう、例えば――。
「!」
その時。ぴんぽーん、という玄関のインターフォンが鳴った。びくり、と遥が肩をすくめる。その様子でピンときた。もしや、既に犯人らしき人物が家まで来たことがあるのだろうか。
「さ、最近……インターフォンが鳴らされることも増えて。しかも、一階じゃなくて……いきなり部屋の前で鳴らすんだ。慌てて出ると、誰もいなかったりして、気持ち悪くて……」
そういえば、遥は言っていた。オートロックマンションは安全なようでいて、実は部屋の前までなら来る方法があると。
他の住人がマンションに入るのと一緒に堂々と自動ドアを潜ってしまえば、疑われることなく通路までは来られてしまうと。犯人がそれを理解していたのだとしたら。
「……ちょっと待って」
千鶴は意を決して、立ち上がる。ちーちゃん、と遥が焦ったような声を上げた。
「大丈夫」
彼を振り返り、頷く。
「いきなり開けたりしない。……確認するだけ。大丈夫だよ」
彼の肩を叩いて、千鶴は微笑んだ。
「大丈夫、私がついてる」
インターフォンが、催促するようにもう一度鳴った。
千鶴がそう頼み込むと、遥はノーとは言わなかった。ただ、電話の声は明らかに憔悴しきっている。――どうして気づかなかったんだろうと、そう悔やむほどに。
恋とは盲目だ。その結果、気づかなくていいことに気付くこともあれば、逆に本来なら簡単に見えるはずのものを見落としてしまったりもする。遥と一緒にいるのが楽しい、幸せ、ずっと続いて欲しい。そう舞い上がっていた千鶴と、千鶴のために全てを隠しておきたかった遥。悪い意味で、都合が合致してしまったということだったのだろう。
和歌子と話した翌日。遥の部屋に入って話を聴いたところで、ようやくそれがはっきりしたのだった。
「……ごめんね、ちーちゃん」
リビングのテーブルの前。妙にちんまりと肩を縮めて座る遥である。
「ちーちゃんに、余計な心配かけたくなくて。実はここのところ、差出人のない封筒が大量に来るんだよ。あと、外で視線を感じることも多いというか。しかも俺のアップした動画に、自分は彼女だって名乗る人のコメントがつくことが増えて……ブロックするとアカウント変えてまた書き込んでくるからどうすればいいのかわからなくて。そっちは最近“れもん”って名乗ってくるんだけど」
「れもん……」
59:れもん
何よ、わたしが悪いっていうの?みんながレイヤードさんの彼女がいるかどうか気になってたから降臨してあげたってのに
みんなのためにしてあげたのに、まるでわたしが悪いみたいに言われるの納得いかないんですけど
間違いない。
大型掲示板にコテハンをつけて書き込んでいた人物だ。あれはやっぱりストーカーの書き込みだったということらしい。
「不安で、だから変装もしっかりしてるんだけど。でも公開してないはずの俺の住所がバレてるっていうのが気持ち悪くって。ちょいちょい無言電話もあるしさ……」
「無言電話っていうの、家電?携帯?この家はどっちもあったよね?」
「それが、両方なんだよ。非通知か、もしくは公衆電話からかけてきてるみたいで……」
本人は渋ったが、送られてきた手紙とやらの一部を見せてもらうことにした。茶色の、まるで重要書類でも入れるような封筒に、女性の字で“虹村遥様”という宛名と住所が書かれている。本人が言うとおり、送り主の名前はない。
これが一番マシなやつ、だというので中身の手紙も読ませて貰ったのだが。
『はるか君へ。
今日は一日、あなたのことばかり考えていました。
初めて会った日のこと。キラキラしたその笑顔。いつわたしのことに気付いてくれるのか、わたしのことを見てくれるのか、わたしと手を繋いでくれるのか、私とセックスをしてくれるのか。考えて考えて、考えるだけで体の火照りが止まらなくなって一人指で慰めていた時を思い出しました。
ああ、でも今はそんな必要もない。なんて嬉しいのでしょう。
二人だけの部屋で会えるのが嬉しくてたまらない。その日は必ず訪れます。だって神様が教えてくれたんだもの、あなたが運命の人だっていうこと。
そうあなたにはわたししかいないし、わたしにはあなたしかいない。
愛している、なんてことばじゃ全然足らない。いつか必ずふたりで一緒の部屋に住んで誰にも邪魔されない天国につれていってキスをして抱きしめ合ってふかくふかくふかくふかくふかくあいしあってだいてだかれてあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいしてあいしてるいあいしてあいしてるのこれからもずっと
わたしのおなかの奥の奥まであなたのたねをちょうだい
たくさんこどもをうみます、しあわせ、考えるだけでもうどこにだっていけてしまいますもっともっともっともっと
はやくわたしをむかえにきて
あなただけのものになってここでまっているから。わたしもむかえにいくから』
――こ、これ、一番マシ、なんだ……。
げんなりしてしまった。
十分すぎるほどトチ狂っているとしか思えないが、他の手紙はもっとさらに過激だったということか。それこそ、セックスでやってほしいプレイなんかも赤裸々に書かれていたのかもしれない――果てしなく気持ち悪いとしか言いようがないが。
「……あの」
とりあえず、言うべきことがある。千鶴は大きく息を吸い込んで告げた。
「ごめん、遥。なんか様子がおかしいな、くらいにしか思ってなかった。ひょっとした浮気してるのかもとか、全然とんちんかんなことも考えてて。遥が悩んでること、全然気づいてなかった。本当の本当に、ごめん……」
「ちーちゃん……」
真正面から喧嘩を売ってくる輩なら、学生時代にいくらでも経験している。ちょっとツラ貸して貰えますか、からの帰り道の闇討ちなんかもあった。今考えると、二十年くらい前の時代錯誤の不良かよとしか思えないような状況だったわけだが。
でも、こういう――目に見えないところから、こそこそと欲望や悪意を向けられたことは千鶴もない。果たし状なんて可愛いものではないか。自分は相手の顔も名前も知らないのに、ひたすら欲望で穢される。挙句、根も葉もないことをネットで書き込まれて拡散されるのだ。あの掲示板の様子を見るに、本当にレイヤードの“彼女”が降臨したと思い始めている人間もいるらしい。少なくとも、クトゥルフ神話のセッションをやった“リア友”がきっとそうだったのだろうと。
しかも、あのれもんと名乗る女性は、今度は遥の家の写真を撮るなんて言ってきているのだ。下手をしたら――下手をしなくても、家に押しかけてくる可能性が高いのではないか。
どれほど気持ち悪いことだろう。しかも――しかもだ、男性が女性にストーカーされる場合、なかなかその危険性や緊急性を周囲に理解してもらえないことも少なくないのである。自分より非力な女に怯えるなんて情けない、と言ってくる人も少なくない。
これは、妻にDVを受ける夫がなかなか被害を言い出せず、泣き寝入りするのと同じ現象でもあるのだ。例え身体能力に差があったとしても、相手が武器を持ちだしてくれば簡単に力関係は逆転する。いくら男性の方が力があったとて、向こうが刃物や鈍器を持っていたら?抵抗なんてできるはずがないではないか。
さらに厄介なのは、下手に抵抗すると“こちらが悪いことにされかねない”ということ。昔よくあった虐めに、いじめっこの悪女が男を襲って、拒否られると自分で服を破って“乱暴されかけた!”と触れ回るというのがあった。裁判になると、女性の方が“弱い立場の人間”として同情されがちだ。痴漢だと疑われると、なかなか冤罪証明ができないのと同じだろう。遥が未成年だったならまだしも、既に二十七歳の立派な成人である。実際にそのストーカーと遭遇してしまった時、こちらが被害者だと証明する手段はあるだろうか。
勿論、本当に刃物を持って襲われたら土壇場でそんなことまで考えられないかもしれないが。そういう状況がより、彼に対処を悩ませているというのもきっとあったはずである。
「……私が巻き込まれないように、心配かけないように。いろいろ一人で抱え込んで、頑張ってくれてたんでしょ。それなのに私ときたら……遥が女の人と一緒にレストランに入ったのを見ただけで、浮気じゃないかって思っちゃって……」
「それ、昨日のこと?太田川さんのこと?」
「オオタガワサン?」
「えっと、小柄で眼鏡の茶髪の女の人のことだったら、確かに一緒にご飯食べたよ。NEXT実況のイベントスタッフの人で、次のイベントの打ち合わせがしたいって言われて。事務所の部屋があいてないからって言われて仕方なく……」
「あー……」
やっぱり、仕事の関係者だったらしい。本当にバカ自分、とテーブルに突っ伏してしまう千鶴である。早合点しすぎではないか。思った通り、仕事の関係者。それを浮気と言ってしまうのは無理がある。誤解を招きそうなことをするその女性スタッフに、ちょっと恨み言を言いたくないと言えば嘘になるが。
「手紙が来るようになったのはいつ?NEXT実況のイベントに参加したくらいから?」
千鶴が尋ねると、うん、と消え入りそうな声で頷く遥。
「それくらいの時から、手紙が来るようになって……動画にも変なコメントがつくようになったなって。多分、イベントで俺を見て……ってことなんだと思う」
「警察行こうよ、警察。何かあってからじゃ遅いし……実際に何かあった時、事前に警察に説明してたってなれば印象がだいぶ違うから。なんなら私も行くよ?」
「大事にしたくないんだけど……。その、俺、本名隠してるし」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。大体ストーカーには本名バレて……」
ん、とそこまで言ったところで首を傾げる。
遥の本名と住所。当たり前だが、レイヤードとしての活動の上では一切公表していないはず。ストーカーはどうやってそれを知ったのだろう。関連書籍にだってそういうものは出していなかったはずだが。
――……というか、家の電話番号も……携帯電話の番号もバレてるんだよね?どっかから情報漏れてるんじゃ。
活動上でそれを明かすことなどないはずの遥。
だが、それらを明かすしかない場所があったとすればどうだ。例えば、仕事の上で交わす書類には、連絡先として本名や電話番号を記載してもおかしくはないはず。
そう、例えば――。
「!」
その時。ぴんぽーん、という玄関のインターフォンが鳴った。びくり、と遥が肩をすくめる。その様子でピンときた。もしや、既に犯人らしき人物が家まで来たことがあるのだろうか。
「さ、最近……インターフォンが鳴らされることも増えて。しかも、一階じゃなくて……いきなり部屋の前で鳴らすんだ。慌てて出ると、誰もいなかったりして、気持ち悪くて……」
そういえば、遥は言っていた。オートロックマンションは安全なようでいて、実は部屋の前までなら来る方法があると。
他の住人がマンションに入るのと一緒に堂々と自動ドアを潜ってしまえば、疑われることなく通路までは来られてしまうと。犯人がそれを理解していたのだとしたら。
「……ちょっと待って」
千鶴は意を決して、立ち上がる。ちーちゃん、と遥が焦ったような声を上げた。
「大丈夫」
彼を振り返り、頷く。
「いきなり開けたりしない。……確認するだけ。大丈夫だよ」
彼の肩を叩いて、千鶴は微笑んだ。
「大丈夫、私がついてる」
インターフォンが、催促するようにもう一度鳴った。
0
あなたにおすすめの小説
婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~
ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」
中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。
そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。
両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。
手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。
「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」
可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。
16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。
13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。
「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」
癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる