小悪魔男子に恋してる!

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<8・悩みが尽きない少女>

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 何でも一つお願いを聞いて、なんてことを言っておきながら。それから一週間ばかり様子を見ていたものの、刹那があかるに何かを頼んでくる様子はなかった。そもそも、話す機会もそんなになかったからと言うのが正しい。彼は転校してきて初日に皆とサッカーし、どうやらそこでかなり高い評価を得たこともあって、毎日のように他の男子達と遊んだりお喋りに興じていたからである。まがりなりにも一応は女子であるあかるが、割って入る隙など殆どなかったのだ。
 まあ、本人がどうというより、他の男子どもが問題なのである。あかるのことを面白半分に恐れている連中が大半だからだ。下手に近づいたら絶対大騒ぎされるに決まっているのである。もっと言えば、“緑あかるは青海刹那が好きである”という不名誉な噂が広まってしまっている以上、刹那本人にも下手に接触すると周囲が何を言ってくるか分からないというのもないわけではなかった。
 まあようするに。
 あれから何も、進展らしいものはないのである。いや、本当に自分が刹那のことを好きかどうかもわかっていないので、それを進展と呼ぶべきであるのかも定かではないのだが。

「もったいないですー」

 教室にて。自分の机に肘をついて、ぷう、頬を膨らませる麻乃。

「何故にそこで何もしないです?何も動かないです?やる気あるんですかあかるちゃん?」
「やる気ってナニやる気って」
「決まってる!恋愛をするやる気です!噂になったんだからもうその勢いで告白でもなんでもしてしまえばよかったとゆーのに!麻乃サンには全く理解できないのです!」
「無茶言うな!」

 いや、何故それで麻乃がプンスコするのかまったくわからない。こいつも絶対面白がってるだろ、とあかるはぐったりする。

「ふーん?麻乃ちゃんの言葉に対するお返事は“無茶言うな”なんだ?」

 ニヤニヤニヤ。隣からそんな音がしてきそうな笑顔を向けてくるユイ。

「つまり、告白したいことそのものは否定しない、と」
「……もー好きにして」

 ああ言えばこう言う。否定しようがツッコミしようが、いいように自己変換されるのでは下手に発言するだけ疲れるだけだ。まあ本人達も半分くらいは善意なのかもしれないが。なんせ、恋に恋するお年頃である。あかるが大好きな漫画“運命のオーレリア”だって、そもそもこの二人からお勧めされてハマったのだ。少年漫画も少女漫画も読む彼女たちだったが、特に少女漫画の場合は“いかに萌える恋愛要素があるか”に重点を置いて読むのだと麻乃は言っていたしユイも同意していた。要するに、二人も本当はそんな可愛い恋愛とやらがしてみたいのだろう。
 まあ、現実のクラスの男子どもが、やれゴミ箱の蓋をくぐって“スカートだー!”とやってたり、上るなと言われる木の上に登ったり、こっそり女子の顔面偏差値ランキングと作っていることがバレて雷が落ちたりしているような有様である。はっきり言って、低学年かよ!と思うレベルに精神年齢が低い。そりゃ、空想の世界にでも逃げ込まなければやってられないだろう。現実で理想的な恋愛なんぞができる見込みが悲しいほどにないのだから。

「てかさ、青海君ってクラスに馴染んじゃうの早いよねえ」

 うむ、と探偵か何かのように顎に手を当てて言うユイ。

「こう言っちゃなんだけど、青海君って髪も長いし、言われなかったらボーイッシュな女の子にしか見えないんだよね。声も高いからそっちでバレることもないし。……そういう子って、なんか女の子みたいって苛められることも少なくないって聞いてたんだけど、そんな気配もまったくないし。いいことだよね~。本人ももう、クラスの全員の顔と名前一致してるらしいし」
「そりゃ偉いなとは思うけど。……まあ、精神年齢がバカどもと同レベルだったから気が合ったんじゃないの?この間、他の奴と消火器担いで廊下走ってるの目撃したんだけど。しかも先生に鬼の形相で追いかけられてた」
「え、何その面白い光景!?その後どうなったのかめっちゃ気になるんだけど!?」

 澄ました性格ではないのは、確かに好かれる要因なのかもしれない。消火器事件の後でどうしたのかは全く知らないが、我がクラスの幼稚園児レベルのガキどもからすれば、ノリよく悪戯に参加してくれる奴は一緒にいて楽しいのだろう。女子からすると、“馬鹿じゃないの?”の一言に尽きるわけだが。
 なお消火器事件のその後がどうなったのかはわからないが、該当の消火器は結局未使用のまま元の位置に戻っていたようだ。本人達が戻したのか、先生に取り上げられたのかは謎である。刹那はそこそこ足が速いが他の男子連中はそうではないので、少なくとも誰かしらは捕まった可能性が高いのではなかろうか。

「まあ、私は少し……クラスの男子達の評価は上がりましたね」

 意外な発言をしたのは、すっくりと顔を上げた麻乃である。

「可愛い見た目でも、それだけで青海君をクラスの男子たちがのけ者にしたり差別しなかったりしたってことでしょ?ちゃんと中身で、“友達としてやっていけるかどうか”判断したってことだから……そういうことが出来る奴らだったんだな、って思うと少し感心します。馬鹿ばっかりだと思ってたけど、案外見込みがある連中なのかも?」

 麻乃とユイには、あの電車の中での痴漢捕縛事件について話してしまっている。その後刹那に“その件については黙っていてほしかった”と言われてしまったので、最終的には麻乃とユイにもその件のことを口止めしているのだった――何故刹那が“バレたくないと思っているのか”という理由に関しても簡単に触れた上で。
 友人が多い二人だが、あかるの言葉に納得してくれたようで、自分達以外に例の話はしないと約束してくれた。刹那がどういう方向の人間であるのか今のあかるには判断がつきにくいのだが、それこそ考えようによっては“LGBTQの系列に含まれる”と判断する者もいないわけではないだろう。テレビでよく取り上げられるようになったものの、未だに難しい問題である。特に子供には“どうして差別してはいけないのか”ということを理解し納得させるのは本当に難しいと言わざるをえない。ましてや、生理的な嫌悪が伴ってしまった場合、それをどう乗り切ればいいのかは本人達にさえわからないことなのだろうから尚更である。
 だから彼女達が、と特にそういう差別意識や嫌悪を持たない人間であったのはあかるにとっても非常に幸運だったのだ。もっと言えば、クラスの男子達がそうであったということも。

「……人を見た目で判断するなって言うけど、それって実際凄く難しいことだもんね」

 今日の二十五分休みは、外で遊びに行くのは断念したらしい。空が曇っていて、今にも雨が降り出しそうだからだろう。刹那の机の周りに男子達が集まって、何やらこそこそと喋っているのが見える。また悪巧みでも考えているのか、それとも。

「結局、美男美女ってそれだけでお得だもんなあ。第一印象はそれだけで良くなるんだろーし」
「同意です」
「同意しちゃう」

 うんうんと頷く麻乃とユイ。お前らも十分可愛い顔面だけどなコラ、とあかるは心の中でぼやく。

「だからこそ、美人でもなんでもないとさー、なんか別のことでポイント稼がないといけないのかなあって思うんだよね……恋愛とか関係なく、人間関係全部おいてさ。自分にはこういう魅力があります!ってのをアピールしなくちゃいけないのかなって。でも、私はそういうの……運動神経とか喧嘩の強さくらいしかないし。喧嘩はむしろ、強すぎてビビられるから意味ないし、そういう女って男には嫌われそーだし……」

 段々と自分で言っていて空しくなる。何が悲しくて、クラスの自己紹介シートの“長所の欄”に“喧嘩が強いこと”なんて書かなくてはいけないのか。本当に、あかるは他に自信があることなんか何もないのだ。先日誰かさんに思いきり張りあって思い知ったのである。自分は刹那のように勉強もできないし、友達もさほど多いわけではない。運動神経、それも短距離走のタイムでちょっと勝っただけで喜んでしまったけれど、その歓喜もその後の刹那との会話ですっかりしぼんでしまった。自分が、どこまでも器の小さな人間だったのだと思い知らされたがゆえに。

「あかるちゃんが何で自分の見た目にそんな自信がないのかわからないー」

 呆れたようにユイが口を開いた。

「もっと自信持っちゃって!でもってそのまま告白しちゃって!そんでもって私達におもしろ……素敵な話題を提供しちゃって!」
「話が元に戻っちまったい……!そしてしれっと“面白い話題”って言おうとしただろ?面白がる気マンマンだろ!」
「いえいえそんなことは超絶にあったりしちゃうけど!」
「あるんかーい!」

 駄目だこいつ、なんとかしないと。ユイのこめかみを両こぶしでぐりぐりぐりーっとしてやると、そういえばさあ、と麻乃が言った。

「この間私達が教えたおまじない、まだやってないの?両想いになれるっていうやつ。せかっくなら試してみればいいのに。そりゃ、学園七不思議に入ってるっぽい?おまじないだけど……オバケが出るってわけでもないんだし」

 ああ、またいらんことを思い出しおってからに。あかるは非常にしょっぱい気分になった。
 確かに、おまじないに関するメモを貰ったはいいが、結局そのまま手帳に挟んでそれっきりである。実行していないのは要するに、自分の刹那に対する気持ちが確定していないから試すわけにいかなかったのと――はっきり言ってそういう怪談に片足突っ込んでそうなおまじないを試す勇気がなかったからというものである。
 いや、だって。確かにオバケが直接出てきてどうこうなるというものではないという話だが、そもそもが“幽霊?”の力を借りるという内容のおまじないだ。何も起きないなんて保障がどこにあるというのか。

「……聴くだけ聴いたけど、私はやらないからね?」

 あかるがジト目で言うと、えー!?と麻乃とユイが声を上げた。ユイの方はまさに頭をロックされている状態なのに、何故そんな元気なのだろう。

「やっておけばいいのに!だって、もうちょっとしたら修学旅行あるんですよ?つまり、関係を深める大チャンスが巡ってくるかもなのに!旅行前に両想いになっておけばさー、こっそり二人きりの京都デートが満喫できるかもしれないのにー」
「班行動!それめっちゃ叱られる奴だから!」
「えー私だったら絶対やるのにー」
「やるなアホ!」

 おかしい、自分はツッコミ大臣になったつもりはないのに、なんでさっきから叫んでばっかりなのだろう。頭痛い、と思ってふと振り返った先、慌てて視線を逸らした少女に気づいて目を見開いた。
 茶木夢叶。どうやら、自分達の話を聴いていたらしいが。

――どうしたんだろ?

 何か言いたいことがある、ように見えた。ひょっとして、おまじないに興味があったのだろうか。あかるは少し考えて、再び自分の机に視線を落とした。そこに仕舞った手帳と、挟んだメモに想いを馳せながら。
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