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<15・反転する物語>
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「さっき話してただろ。なんだかおまじないが急に悪いものになってるみたいだって。噂がひっくり返ってるって」
バッグの中から、梟は父の子供の頃の取材ノートを取り出す。燕に見せてやろうと思って入れっぱなしだったのが、どうやら役に立ちそうな勢いだ。少なくとも過去の七不思議に関して、自分は全てを知っているわけではない。このノートがなければ、今回のことも謎が解けなかったかもしれなかった。
確かにざっと読んだが、当然人間の記憶力には限界がある。まだ読み落としがないとも言い切れなかった。原本があるのは、それだけで心強いことだ。
「これ、父さんが子供の頃、七不思議を調べて新聞を書いた時に使ったノートらしいんだ。ちょっと字汚いけど」
「借りてきてたんですか?」
「燕を怖がらせてやろうと思ってだなー」
「悪いお兄ちゃんだなあ」
言いながらも、少しだけ英玲奈も楽しそうである。ノリの良い女の子でお兄さん嬉しいわー、なんてことを言いながらあるページを彼女に見せた。
それは自分達が体験した七不思議、首吊りのマリコさんに関する取材ページである。
「昔、マリコさんという女の子がいた。その子は小学生ながら学校の先生に恋をしてしまっていた。で、先生が結婚するってことになって……自分の報われない恋を嘆いて、あの空き教室で首を吊ってしまい、幽霊になってしまった。その流れは過去の七不思議も、今の七不思議も同じだな。ただし、そのあとマリコさんが、良い精霊になったのか悪霊になったのかが異なっている」
今のおまじないでは、彼女は死んだあと自分と同じ思いをする生徒を出したくないと願い、報われない恋をしている生徒を応援してくれる存在になったとされている。
しかし、過去の七不思議では、こう噂されていたのだ。
『以来、マリコさんは恋人達を妬む悪霊となってしまった。
空き教室に、男女ひと組で行ってはいけない。恋人同士であってもなくても関係なく、マリコさんは嫉妬を募らせて襲ってくるだろう。
マリコさんに目をつけられた人物は、教室を離れても逃げることができない。
どこまでも執念深く追いかけて行き、片方が“消える”ことによって恋が分かられるまで追撃をやめないのだという。
消された人間はあの世に飛ばされ、二度と戻って来ることはない。』
「俺と英玲奈ちゃんは恋人同士じゃないけど、この七不思議通りならそんなの悪霊には関係ないってことなんだろう。男女ひと組で教室に入るってだけで、勝手に恋人認定して恨んでくるっつー面倒くさい存在だ。どんだけリア充爆発させたいんだろーな」
「りあじゅう?」
「……もしかしてこれもう死語だったりすんの?え?」
元々は某ボカロ曲が語源だったんぽいんだけど――とそのまま説明しようとして梟は思いとどまった。そのテの話をしたら長くなるのは自分でもよーく知っている。今はそんな場合ではない。
「と、とにかく!……俺が英玲奈ちゃんを連れていったせいで巻き込んだってのはマジなんだ。それは本当に申し訳ないと思ってるよ」
再度頭を下げると、それはもういいですってば、と英玲奈は苦笑いした。
「大体、その古い噂話が復活してること、梟さん知らなかったんでしょ。なら何も悪くないです。……問題は、男女ひと組であの教室に入る生徒が、今までいなかったはずがない。そもそも、ほぼほぼ今の生徒は知らない、廃れた七不思議だったのに何故か現実になってしまった、ってのが問題なんですよね?」
「そういうこと。このテの怪談は、生徒の口で語られるから意味を持つもんなんだ。おまじないの方が主流になって、古い七不思議の方が俺も父さんに聞かなかったら知らないままだったくらい。実際英玲奈ちゃんも、昔の七不思議はちょっと怖いものだったらしい、ってくらいしか知らなかっただろ。そういう怪異は普通力を失うもんだ。何のきっかけもなしに、復活してくるなんざありえねーんだよな」
「確かに……そうかも」
「だろ?」
では、そのきっかけはなんだったのか、だ。
「一つ、七不思議で気になるものがある。これ、七不思議の名前一覧な。過去バージョンがこれ」
①、階段下の右手。(南校舎一階西端、階段下倉庫)
②、ルリコ先生の保健室。(南校舎一階東端、保健室)
③、首吊りのマリコさん。(南校舎三階西端、教室)
④、アキさんのピアノ。(南校舎三階東端、音楽室)
⑤、不幸を呼ぶ双子の鏡。(南校舎五階西端、女子トイレ)
⑥、ユリさんは暗闇の中。(南校舎五階東端、旧美術室)
⑦、幸運を呼ぶ赤い服のお人形。(?)
「で、今バージョンがこっちな。ほとんど、七不思議のタイトルと場所は一緒だけど、微妙に違うところもある」
①、階段下の右手。(南校舎一階西端、階段下倉庫)
②、ルリコ先生の保健室。(南校舎一階東端、保健室)
③、首吊りのマリコさん。(南校舎三階西端、教室)
④、アキさんのピアノ。(南校舎三階東端、音楽室)
⑤、幸運を呼ぶ双子の鏡。(南校舎五階西端、女子トイレ)
⑥、ユリさんは暗闇の中。(南校舎五階東端、旧美術室)
⑦、災厄を招く青い服のお人形。(?)
「五番目の双子の鏡はまあ、片方が悪い内容で片方が可愛いおまじないだからタイトルが真逆なのはいいとして。一番露骨なのは七番目なんだよな。何故か、怖い内容ばっかりだった昔の七不思議の中で、お人形に関する内容だけが“幸運を呼ぶ”になってるんだ」
昔の七不思議は、どれもこれも“悪霊に遭遇したら怖い思いをする”とか“呪われる”とか、そういうものばかりだった。ところが。こういう七不思議で一番怖いものとされそうな七番目だけ、お人形を見つけると良いことがある、みたいな内容なのである。まさに“幸運を招く赤い服のお人形”だ。
『昔、家庭科がとても得意な女の子が、一つの青い服のお人形を作って大事にしていた。
ところがその女の子は交通事故で死んでしまい、その時の女の子の血で青いお洋服が真っ赤に染まってしまったのだという。
以来、お人形は女の子を探して、女の子が通っていた学校をさまよい歩いている。
彼女は自分を大切にしてくれた女の子と同じ、学校の生徒をとても愛している。
見つけることができた人間には、幸運を齎してくれることだろう』
その噂話も“反転”している。可愛いおまじないばかりの今の七不思議において、何故かこのお人形の話だけが不吉なものになっているのだ。“災厄を招く青い服のお人形”の名前の通りに。
『昔、家庭科がとても得意な女の子が、一つの赤い服のお人形を作って大事にしていた。
ところがその女の子は交通事故で死んでしまった。お人形は悲しみのあまり青い涙を流すようになり、その涙でお洋服が真っ青に染まってしまったという。
以来、お人形は女の子を探して、女の子が通っていた学校をさまよい歩いている。
彼女は目的を邪魔されることを極端に嫌う。
見つけた人間には、祟りが振りかかるであろう』
「……妙、ですね」
「俺もそう思う。お人形の噂は、逆だった方がしっくり来るだろ?昔の七不思議が“災厄”で、今の七不思議が“幸運”だった方が明らかバランス取れてんだよな。これ、どういう理由があるんだろうか」
そして、その反転を示すように、お人形の服の色が変わっているのだ。幸運を招く時は赤、災厄を招く時は青。色のイメージもなんだかちぐはぐだ、青の方が幸運の言葉に相応しいように思われるのに。
「しかも、このお人形は他の七不思議と違って、人形がどこにあるのか誰も知らないって内容なんだ。南校舎のどこかにあるけど、何処にあるのかは誰も知らないっていうな」
どちらのお人形も“何処にあるかわからない”が、“それを見つけた者に幸運か災いを齎す”という条件は一致している。
そして、お人形の七不思議に関しては、過去と今で共通項があるのだ。禁止されている内容が同じである、ということである。
『お人形が何処にあるのかは誰も知らない。
仮に見つけても、拾ってはいけない。
その場所から動かしてはいけない。
絶対に校舎から出そうとしてはいけない。
禁を破った場合、恐ろしい災厄が降りかかることになる。』
幸運を齎す赤い服のお人形、であっても。基本的に拾ったら、ルール違反として罰を受けることになっている。一体何故なのだろう。まるで、特定の場所にお人形があることに大きな意味があるかのようではないか。
「……七不思議って」
何かに気づいたように、英玲奈が口を開いた。
「この学校ではそういう話は聞きませんけど、よその学校とか噂とかなら……こう言いますよね。七つ全部知ると、災いが起きる……みたいな。でも、この学校の七不思議を全部知っている子は少なくないと思います。でも、特に悪いことが起きたなんて話は聞いたことないです。でもって、梟さんのお父さんも七不思議を調べてて、七つ全部知ったからここに書いてるわけで。でも、内容を知っても何も起きなかったんですよね」
「そうだな」
「でも、七不思議のスイッチとして、考える方向はあってるのかも。……場所がわからないお人形はひょっとしたら……六つの七不思議に何かをすることでその場所を知ることができるようになるとか、出現するとか……。単純すぎるかな、それじゃ」
「いや、俺も同じこと思ってたんだ」
梟はじっと目の前のドアを見る。一階西階段の階段下、倉庫のドアを見つめながら。
「ただし、スイッチになるのは、七不思議をただ知ることじゃない。誰かが体験する、ことなんじゃないかってな」
この場所にも、七不思議がある。西階段の階段下の倉庫には、“階段下の右手”がいることになっているのだ。これも旧七不思議では怪談、新七不思議では可愛いおまじないとされているものである。その元となった話では、他の七不思議同様普通に過去の事件や事故が絡んでいるわけだが。
「お人形の存在と、その場所が……この現象の謎を解く鍵である可能性は充分ある。ひょっとしたら、英玲奈ちゃんが言っていた行方不明になった六年生の女の子は、なんらかのきっかけでお人形を見つけちゃったのかもしれない。そして、お人形を拾うなりなんなりして、禁を破ろうとしてしまったんだとしたら……」
まだ、推測に推測を重ねている段階だ。しかし、何か手立てがあるとしたらこれくらいしか思いつかない。
だったら試すだけだ。自分は何がなんでも燕と英玲奈を助け、此処から脱出しなければいけないのだから。彼らを巻き込んでしまった人間として、この現象を解決する責任が自分にはあるのである。
「……また怖い幽霊を見ないといけないのかな」
英玲奈が少し不安そうな声を出すので、梟はしっかりと彼女の手を握った。
これは燕のかわりなのだと、そう思いながら。
「やってみるしかねえよ。……なんなら、ここで待ってるか?」
「……ううん。私も、行きます。一人で残されるのも、怖いし」
「だな、俺も怖い」
わざとらしく明るく言うと、少しだけ彼女に笑顔が戻った。梟は頷いてみせながら、告げたのである。
「だから、何がなんでも英玲奈ちゃんは俺が守る。燕が戻ってくるまで、代わりにさ」
バッグの中から、梟は父の子供の頃の取材ノートを取り出す。燕に見せてやろうと思って入れっぱなしだったのが、どうやら役に立ちそうな勢いだ。少なくとも過去の七不思議に関して、自分は全てを知っているわけではない。このノートがなければ、今回のことも謎が解けなかったかもしれなかった。
確かにざっと読んだが、当然人間の記憶力には限界がある。まだ読み落としがないとも言い切れなかった。原本があるのは、それだけで心強いことだ。
「これ、父さんが子供の頃、七不思議を調べて新聞を書いた時に使ったノートらしいんだ。ちょっと字汚いけど」
「借りてきてたんですか?」
「燕を怖がらせてやろうと思ってだなー」
「悪いお兄ちゃんだなあ」
言いながらも、少しだけ英玲奈も楽しそうである。ノリの良い女の子でお兄さん嬉しいわー、なんてことを言いながらあるページを彼女に見せた。
それは自分達が体験した七不思議、首吊りのマリコさんに関する取材ページである。
「昔、マリコさんという女の子がいた。その子は小学生ながら学校の先生に恋をしてしまっていた。で、先生が結婚するってことになって……自分の報われない恋を嘆いて、あの空き教室で首を吊ってしまい、幽霊になってしまった。その流れは過去の七不思議も、今の七不思議も同じだな。ただし、そのあとマリコさんが、良い精霊になったのか悪霊になったのかが異なっている」
今のおまじないでは、彼女は死んだあと自分と同じ思いをする生徒を出したくないと願い、報われない恋をしている生徒を応援してくれる存在になったとされている。
しかし、過去の七不思議では、こう噂されていたのだ。
『以来、マリコさんは恋人達を妬む悪霊となってしまった。
空き教室に、男女ひと組で行ってはいけない。恋人同士であってもなくても関係なく、マリコさんは嫉妬を募らせて襲ってくるだろう。
マリコさんに目をつけられた人物は、教室を離れても逃げることができない。
どこまでも執念深く追いかけて行き、片方が“消える”ことによって恋が分かられるまで追撃をやめないのだという。
消された人間はあの世に飛ばされ、二度と戻って来ることはない。』
「俺と英玲奈ちゃんは恋人同士じゃないけど、この七不思議通りならそんなの悪霊には関係ないってことなんだろう。男女ひと組で教室に入るってだけで、勝手に恋人認定して恨んでくるっつー面倒くさい存在だ。どんだけリア充爆発させたいんだろーな」
「りあじゅう?」
「……もしかしてこれもう死語だったりすんの?え?」
元々は某ボカロ曲が語源だったんぽいんだけど――とそのまま説明しようとして梟は思いとどまった。そのテの話をしたら長くなるのは自分でもよーく知っている。今はそんな場合ではない。
「と、とにかく!……俺が英玲奈ちゃんを連れていったせいで巻き込んだってのはマジなんだ。それは本当に申し訳ないと思ってるよ」
再度頭を下げると、それはもういいですってば、と英玲奈は苦笑いした。
「大体、その古い噂話が復活してること、梟さん知らなかったんでしょ。なら何も悪くないです。……問題は、男女ひと組であの教室に入る生徒が、今までいなかったはずがない。そもそも、ほぼほぼ今の生徒は知らない、廃れた七不思議だったのに何故か現実になってしまった、ってのが問題なんですよね?」
「そういうこと。このテの怪談は、生徒の口で語られるから意味を持つもんなんだ。おまじないの方が主流になって、古い七不思議の方が俺も父さんに聞かなかったら知らないままだったくらい。実際英玲奈ちゃんも、昔の七不思議はちょっと怖いものだったらしい、ってくらいしか知らなかっただろ。そういう怪異は普通力を失うもんだ。何のきっかけもなしに、復活してくるなんざありえねーんだよな」
「確かに……そうかも」
「だろ?」
では、そのきっかけはなんだったのか、だ。
「一つ、七不思議で気になるものがある。これ、七不思議の名前一覧な。過去バージョンがこれ」
①、階段下の右手。(南校舎一階西端、階段下倉庫)
②、ルリコ先生の保健室。(南校舎一階東端、保健室)
③、首吊りのマリコさん。(南校舎三階西端、教室)
④、アキさんのピアノ。(南校舎三階東端、音楽室)
⑤、不幸を呼ぶ双子の鏡。(南校舎五階西端、女子トイレ)
⑥、ユリさんは暗闇の中。(南校舎五階東端、旧美術室)
⑦、幸運を呼ぶ赤い服のお人形。(?)
「で、今バージョンがこっちな。ほとんど、七不思議のタイトルと場所は一緒だけど、微妙に違うところもある」
①、階段下の右手。(南校舎一階西端、階段下倉庫)
②、ルリコ先生の保健室。(南校舎一階東端、保健室)
③、首吊りのマリコさん。(南校舎三階西端、教室)
④、アキさんのピアノ。(南校舎三階東端、音楽室)
⑤、幸運を呼ぶ双子の鏡。(南校舎五階西端、女子トイレ)
⑥、ユリさんは暗闇の中。(南校舎五階東端、旧美術室)
⑦、災厄を招く青い服のお人形。(?)
「五番目の双子の鏡はまあ、片方が悪い内容で片方が可愛いおまじないだからタイトルが真逆なのはいいとして。一番露骨なのは七番目なんだよな。何故か、怖い内容ばっかりだった昔の七不思議の中で、お人形に関する内容だけが“幸運を呼ぶ”になってるんだ」
昔の七不思議は、どれもこれも“悪霊に遭遇したら怖い思いをする”とか“呪われる”とか、そういうものばかりだった。ところが。こういう七不思議で一番怖いものとされそうな七番目だけ、お人形を見つけると良いことがある、みたいな内容なのである。まさに“幸運を招く赤い服のお人形”だ。
『昔、家庭科がとても得意な女の子が、一つの青い服のお人形を作って大事にしていた。
ところがその女の子は交通事故で死んでしまい、その時の女の子の血で青いお洋服が真っ赤に染まってしまったのだという。
以来、お人形は女の子を探して、女の子が通っていた学校をさまよい歩いている。
彼女は自分を大切にしてくれた女の子と同じ、学校の生徒をとても愛している。
見つけることができた人間には、幸運を齎してくれることだろう』
その噂話も“反転”している。可愛いおまじないばかりの今の七不思議において、何故かこのお人形の話だけが不吉なものになっているのだ。“災厄を招く青い服のお人形”の名前の通りに。
『昔、家庭科がとても得意な女の子が、一つの赤い服のお人形を作って大事にしていた。
ところがその女の子は交通事故で死んでしまった。お人形は悲しみのあまり青い涙を流すようになり、その涙でお洋服が真っ青に染まってしまったという。
以来、お人形は女の子を探して、女の子が通っていた学校をさまよい歩いている。
彼女は目的を邪魔されることを極端に嫌う。
見つけた人間には、祟りが振りかかるであろう』
「……妙、ですね」
「俺もそう思う。お人形の噂は、逆だった方がしっくり来るだろ?昔の七不思議が“災厄”で、今の七不思議が“幸運”だった方が明らかバランス取れてんだよな。これ、どういう理由があるんだろうか」
そして、その反転を示すように、お人形の服の色が変わっているのだ。幸運を招く時は赤、災厄を招く時は青。色のイメージもなんだかちぐはぐだ、青の方が幸運の言葉に相応しいように思われるのに。
「しかも、このお人形は他の七不思議と違って、人形がどこにあるのか誰も知らないって内容なんだ。南校舎のどこかにあるけど、何処にあるのかは誰も知らないっていうな」
どちらのお人形も“何処にあるかわからない”が、“それを見つけた者に幸運か災いを齎す”という条件は一致している。
そして、お人形の七不思議に関しては、過去と今で共通項があるのだ。禁止されている内容が同じである、ということである。
『お人形が何処にあるのかは誰も知らない。
仮に見つけても、拾ってはいけない。
その場所から動かしてはいけない。
絶対に校舎から出そうとしてはいけない。
禁を破った場合、恐ろしい災厄が降りかかることになる。』
幸運を齎す赤い服のお人形、であっても。基本的に拾ったら、ルール違反として罰を受けることになっている。一体何故なのだろう。まるで、特定の場所にお人形があることに大きな意味があるかのようではないか。
「……七不思議って」
何かに気づいたように、英玲奈が口を開いた。
「この学校ではそういう話は聞きませんけど、よその学校とか噂とかなら……こう言いますよね。七つ全部知ると、災いが起きる……みたいな。でも、この学校の七不思議を全部知っている子は少なくないと思います。でも、特に悪いことが起きたなんて話は聞いたことないです。でもって、梟さんのお父さんも七不思議を調べてて、七つ全部知ったからここに書いてるわけで。でも、内容を知っても何も起きなかったんですよね」
「そうだな」
「でも、七不思議のスイッチとして、考える方向はあってるのかも。……場所がわからないお人形はひょっとしたら……六つの七不思議に何かをすることでその場所を知ることができるようになるとか、出現するとか……。単純すぎるかな、それじゃ」
「いや、俺も同じこと思ってたんだ」
梟はじっと目の前のドアを見る。一階西階段の階段下、倉庫のドアを見つめながら。
「ただし、スイッチになるのは、七不思議をただ知ることじゃない。誰かが体験する、ことなんじゃないかってな」
この場所にも、七不思議がある。西階段の階段下の倉庫には、“階段下の右手”がいることになっているのだ。これも旧七不思議では怪談、新七不思議では可愛いおまじないとされているものである。その元となった話では、他の七不思議同様普通に過去の事件や事故が絡んでいるわけだが。
「お人形の存在と、その場所が……この現象の謎を解く鍵である可能性は充分ある。ひょっとしたら、英玲奈ちゃんが言っていた行方不明になった六年生の女の子は、なんらかのきっかけでお人形を見つけちゃったのかもしれない。そして、お人形を拾うなりなんなりして、禁を破ろうとしてしまったんだとしたら……」
まだ、推測に推測を重ねている段階だ。しかし、何か手立てがあるとしたらこれくらいしか思いつかない。
だったら試すだけだ。自分は何がなんでも燕と英玲奈を助け、此処から脱出しなければいけないのだから。彼らを巻き込んでしまった人間として、この現象を解決する責任が自分にはあるのである。
「……また怖い幽霊を見ないといけないのかな」
英玲奈が少し不安そうな声を出すので、梟はしっかりと彼女の手を握った。
これは燕のかわりなのだと、そう思いながら。
「やってみるしかねえよ。……なんなら、ここで待ってるか?」
「……ううん。私も、行きます。一人で残されるのも、怖いし」
「だな、俺も怖い」
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