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<23・聖夜。>
『拝啓、お父様、お母様、カミル様。
先日は、クリスマスプレゼントを送っていただきありがとうございました。少し早いですが無事こちらに到着しております。私と、オスカーの二人分の懐中時計。あのような意匠の凝ったもの、相当お高いものだったでしょうに……本当にありがとうございます。
二人で、ずっと身に着けていようと思います。オスカーも気に入ってくれました。こちらからも贈り物を準備しておりますので、楽しみに待っていてくださいね。
ああ、それと。カミルにひとつだけ。彼女ができて浮かれるのはわかりますけれど、最初のデートの場所は慎重に選ぶように。貴方はすぐに調子に乗って羽目を外してしまうのですから。ましてやまだ十五歳の貴方が、あまり派手なところに行ってはいけませんよ。姉は、貴方がぐいぐいリードしすぎて相手の方をドン引きさせないか心配なのです。
とはいえ、自由にデートができるうちに、いろいろと遊びに行っておくのは良いことだとは思っています。もうじきこの国は……それどころではなくなってしまうのかもしれませんから。
前回の手紙で、書いた通りなのです。
私は知ってしまいました。ドラゴンによる究極魔法を完成させ、それを使ったら最後。私の愛する人は、高い確率で命を落としてしまう、とうことを。
前に、本で読んだことがあります。
誰もが、愛されるために生まれてきたのだと。本当の己を受け入れてくれる運命の相手が、この世界のどこかにいるはずなのだと。
成長し、時が来れば、神様が自然とその相手に引き合わせてくれる。だからそれまでの人生がどれほど不遇であったとしても悲しむ必要はない。その幸せな瞬間を信じて待てば、きっと報われる時が来るはずなのだと。
ですので、私はそう信じて、清らかな心を持ち続けようと努力してきました。
そうすればきっといつか、白馬の王子様が迎えに来てくれる。愛してくれる。だから自分の弱さに、負けてはいけない。くじけてはいけないのだと。
例え、学校に行くたびに教室の机に落書きをされていたとしても。
道を歩くたび、心無い町の住人達にひそひそと噂話をされるのだとしても。
そして、時に石を投げられることがあったとしても――誰かを恨んで、憎んではいけない。醜い心に染まればきっと、運命の相手に見放されてしまうのだからと。
それは、間違っていなかったことでしょう。だって実際私は、運命の人に出会うことができたのですから。
私は政略結婚を受けて、本当に良かったと思っています。もう私の世界に、オスカーがいないなんてことは想像もつかないこと。彼と生きることができて初めて、私の世界は眩く輝きだしたのですから。
そう、それなのに。
どうしてこんな運命であるのか、自分でもわからないのです。ごめんなさい、考えれば考えるほどパニックで、できれば手紙の中ではお父様たちに迷惑かけたくないと思うのに、どうしても弱音を吐き出してしまって。ああ、私はもうドラゴニスト家の一員で、皆様に迷惑をかけるのはよくないと知っているのに。
さっきも言った通りなんです。
私にとってもう、オスカーがいない世界なんて考えることもできないのです。たとえ子供ができなくても、体を繋げることができなくても、私はあの人がいればもうそれだけで満たされています。幸せなのです。
それなのにどうして、やっと巡り合えた運命の人を、世界は私から奪おうというのでしょう?
ドラゴンの究極魔法を完成させなければこの国は戦火に包まれる。ひ弱な私達は国民もろとも心中せねばならなくなる。
それなのに、ドラゴンの魔法が完成すれば、あの人一人が死ぬ。どちらにしてもあの方の死は避けられない。袋小路。どうあがいても、絶望以外の何物でもない。
この世界に神様はいないのでしょうか。だってあの方は何一つ悪いことなどしていない。ただこの国を愛し、私を愛し、世界を救うために尽くそうとしてきただけではありませんか。それなのに、どうして?
そんな理不尽な世界ならいっそ、一人残らず滅んで焼き尽くされてしまえばいいなんて。そんなことさえ思ってしまう私はきっと愚かで、醜い人間なのでしょう。
そんな私がいるから罰を受けるのでしょうか。それならばどうして、死ぬのが私ではなくあの人なのでしょうか。
ああ、お父様、お母様、カミル様。エミルは、いつまでたっても悪い子なのです。
このように世界を呪いながら今なお、愚かな望身を捨てられずにはいられない。
もしこの願いが届くなら、どうか。
あの人の次の誕生日に、二人で笑い合える奇跡を……どうか、私達に。』
***
研究室に飾られたツリーは大きい。身長190cmを超えるエミルでさえ見上げるほどの大きさだ。
てっぺんに飾られた星はキラキラと虹色に輝き、他にもクリスタルや宝玉、サンタを模した人形などが華やかに飾り付けられている。
本来、自分達では手の届かない上の方まで飾りが漫勉なく飾られているのは何故か?それは、オスカーが呼び出した妖精たちが力を貸してくれているからだ。
『ほらほらロザリー、急いで!パーティが始まっちゃうんだぞ!』
そう言いながらふわふわと飛んでいく、金髪の妖精アリシア。
『ま、待ってよアリシア―!飛ぶの早い!このクリスタル重いんだからあ!』
わたわたと叫びながら一生懸命青い球を抱えているのは、緑色の髪をした妖精ロザリー。
『ふんぬらばー!ようし、もっともっと運ぶよ、僕がんばるよお!』
元気いっぱいに飛び回り、キラキラのリースをラメで飾っているのは、水色髪の僕っ娘妖精スカーレット。
『ふわああああ、大変ですう、お星さまの飾りが明らかに足りませんんんん!』
大混乱で足元で走り回っているのは、桃色髪の妖精モモカ。そして。
『お前たちもう少し落ち着いたらどうなんだ。ちゃんと仕事は割り振ったはずだぞ。それとモモカ、星の飾りはあっちの箱にもたくさん入っていた。もう少し落ち着いて探せ』
そんな妖精たちに落ち着いて指示を出しているのは、銀髪に青い瞳が美しい迅雷の魔術師ことカイネスだ。その隣では同じくローブを来た黒髪の魔術師ミシェルがくすくすと笑っている。なんとも、賑やかな光景ではあるまいか。
彼等彼女らの存在は、自分たちの大きな成果でもあった。今までここにいる妖精たちや魔術師たちを、一人ずつ呼び出したことは何度もあったのである。しかしこの人数を同時に呼び出し、それぞれに自由意志を与えたことは今までにないこと。そして、これらの数を呼び出してなお、オスカーはけろっとした顔で絵を描き続けている。――それはこの数か月で、彼の力量が各段に上がったことを示していた。
「えっと、こっちの方が少し低いから、もう少し紐を延ばして……」
もうすぐクリスマス。きたるその日に向けて、エミルは研究室の中にも飾り付けを行っているのだった。現在は、壁に飾るストリングライトを吊るしている最中である。雪の結晶を象った小さなライトを、壁の長押に等間隔で吊るしていくのだ。意外とこれが難しい。左右の壁に、十本ずつ。印があるわけでもないので綺麗に並べていかないと数が余ったり足らなくなってしまったりもするし、何より美しくない。
加えて、紐の長さも微調整する必要があった。エミルの拘りで、長いの、短いの、と交互に吊るしていくことにしたから尚更に。
「あれ、足らない!?なんで!?」
『エミル様、左から二番目の隙間が広すぎるように思われます。それから、五番目も少々』
「あ、ありがとう、カイネス」
部屋の中央から全てを見回してくれているカイネスの目は非常に助かる。少し前までは、彼は指示された時に雷魔法を放つことしかできない精霊だった。それが今では、妖精たちとともにツリーの飾りつけをし、自由意志でエミルにまでアドバイスをしてくれるくらいになっている。
彼等一人一人に出来ることが増えたというのは、それだけオスカーの実力が上がったということ。それはつまり、究極魔法の完成が近づいているということでもある。
悲しい気持ち、苦しい気持ちもないわけではない。それでも、自分達が果たさなければならない役目であるのは間違いなく、喜ぶべきことであるのも確かなのだった。そして。
――奇跡を最後まで信じる。そして……その日までの日々を、懸命に愛する。私に今できるのは、それだけだから。
「エミル!」
筆を置いて、オスカーが顔を上げた。彼は完成した絵を持って駆けてくると、部屋の真ん中――カイネスたちが立っている目の前に広げられた魔法陣の中央に、油絵を置く。
「とりあえず、原型はできました。あとは外側のみ、しかも縮小サイズでこの部屋に顕現できるかどうかです。これが成功すれば……恐らく本番の召喚も問題なく成功できるでしょう」
「……そうですか」
絵に描かれているのは、青い鱗が美しい――一体のドラゴン。このドラゴンを、外見だけでも顕現することができないようでは――究極魔法の完成など夢のまた夢だ。
オスカーは息を一つ吐いて、呪文を唱え始める。
「ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ……」
抜けるような青空を、幻視した。
それほどまで透き通るような、爽やかで、穏やかな魔力が部屋の中に満ちていく。
おおお、と妖精たちが歓声を上げた。竜だ。青い鱗、青い瞳、青い髭と鬣。さながら海と空を雄大に浮泳ぐに相応しいドラゴンが、長い体をくねらせて姿を現していく。
動くたび、まるで宝石のように鱗が散った。まるで雪みたい!とアリシアが喜びに踊る。
「ああ……!」
ドラゴンの嘶きを聞いて、エミルは思わず声を上げた。まだ少し早いけれど、ツリーに雪のように降り積もっていく鱗は、まさに祝福のようで。
「オスカー、おめでとう……!素敵なクリスマスです」
「ええ、本当に。メリークリスマス、エミル」
完成した、偉大なる魔法。エミルとオスカーはその場でキスをかわしあった。そして、クリスマスの夜まで、同じ布団で抱き合いながら眠ったのである。
終焉は、ゆっくりと、それでも確実に近づいていた。
新年が明けて、すぐのことだったのだ――フェアリスト共和国がついに、北の大国・ガンブレイズ帝国に無条件降伏したのは。
先日は、クリスマスプレゼントを送っていただきありがとうございました。少し早いですが無事こちらに到着しております。私と、オスカーの二人分の懐中時計。あのような意匠の凝ったもの、相当お高いものだったでしょうに……本当にありがとうございます。
二人で、ずっと身に着けていようと思います。オスカーも気に入ってくれました。こちらからも贈り物を準備しておりますので、楽しみに待っていてくださいね。
ああ、それと。カミルにひとつだけ。彼女ができて浮かれるのはわかりますけれど、最初のデートの場所は慎重に選ぶように。貴方はすぐに調子に乗って羽目を外してしまうのですから。ましてやまだ十五歳の貴方が、あまり派手なところに行ってはいけませんよ。姉は、貴方がぐいぐいリードしすぎて相手の方をドン引きさせないか心配なのです。
とはいえ、自由にデートができるうちに、いろいろと遊びに行っておくのは良いことだとは思っています。もうじきこの国は……それどころではなくなってしまうのかもしれませんから。
前回の手紙で、書いた通りなのです。
私は知ってしまいました。ドラゴンによる究極魔法を完成させ、それを使ったら最後。私の愛する人は、高い確率で命を落としてしまう、とうことを。
前に、本で読んだことがあります。
誰もが、愛されるために生まれてきたのだと。本当の己を受け入れてくれる運命の相手が、この世界のどこかにいるはずなのだと。
成長し、時が来れば、神様が自然とその相手に引き合わせてくれる。だからそれまでの人生がどれほど不遇であったとしても悲しむ必要はない。その幸せな瞬間を信じて待てば、きっと報われる時が来るはずなのだと。
ですので、私はそう信じて、清らかな心を持ち続けようと努力してきました。
そうすればきっといつか、白馬の王子様が迎えに来てくれる。愛してくれる。だから自分の弱さに、負けてはいけない。くじけてはいけないのだと。
例え、学校に行くたびに教室の机に落書きをされていたとしても。
道を歩くたび、心無い町の住人達にひそひそと噂話をされるのだとしても。
そして、時に石を投げられることがあったとしても――誰かを恨んで、憎んではいけない。醜い心に染まればきっと、運命の相手に見放されてしまうのだからと。
それは、間違っていなかったことでしょう。だって実際私は、運命の人に出会うことができたのですから。
私は政略結婚を受けて、本当に良かったと思っています。もう私の世界に、オスカーがいないなんてことは想像もつかないこと。彼と生きることができて初めて、私の世界は眩く輝きだしたのですから。
そう、それなのに。
どうしてこんな運命であるのか、自分でもわからないのです。ごめんなさい、考えれば考えるほどパニックで、できれば手紙の中ではお父様たちに迷惑かけたくないと思うのに、どうしても弱音を吐き出してしまって。ああ、私はもうドラゴニスト家の一員で、皆様に迷惑をかけるのはよくないと知っているのに。
さっきも言った通りなんです。
私にとってもう、オスカーがいない世界なんて考えることもできないのです。たとえ子供ができなくても、体を繋げることができなくても、私はあの人がいればもうそれだけで満たされています。幸せなのです。
それなのにどうして、やっと巡り合えた運命の人を、世界は私から奪おうというのでしょう?
ドラゴンの究極魔法を完成させなければこの国は戦火に包まれる。ひ弱な私達は国民もろとも心中せねばならなくなる。
それなのに、ドラゴンの魔法が完成すれば、あの人一人が死ぬ。どちらにしてもあの方の死は避けられない。袋小路。どうあがいても、絶望以外の何物でもない。
この世界に神様はいないのでしょうか。だってあの方は何一つ悪いことなどしていない。ただこの国を愛し、私を愛し、世界を救うために尽くそうとしてきただけではありませんか。それなのに、どうして?
そんな理不尽な世界ならいっそ、一人残らず滅んで焼き尽くされてしまえばいいなんて。そんなことさえ思ってしまう私はきっと愚かで、醜い人間なのでしょう。
そんな私がいるから罰を受けるのでしょうか。それならばどうして、死ぬのが私ではなくあの人なのでしょうか。
ああ、お父様、お母様、カミル様。エミルは、いつまでたっても悪い子なのです。
このように世界を呪いながら今なお、愚かな望身を捨てられずにはいられない。
もしこの願いが届くなら、どうか。
あの人の次の誕生日に、二人で笑い合える奇跡を……どうか、私達に。』
***
研究室に飾られたツリーは大きい。身長190cmを超えるエミルでさえ見上げるほどの大きさだ。
てっぺんに飾られた星はキラキラと虹色に輝き、他にもクリスタルや宝玉、サンタを模した人形などが華やかに飾り付けられている。
本来、自分達では手の届かない上の方まで飾りが漫勉なく飾られているのは何故か?それは、オスカーが呼び出した妖精たちが力を貸してくれているからだ。
『ほらほらロザリー、急いで!パーティが始まっちゃうんだぞ!』
そう言いながらふわふわと飛んでいく、金髪の妖精アリシア。
『ま、待ってよアリシア―!飛ぶの早い!このクリスタル重いんだからあ!』
わたわたと叫びながら一生懸命青い球を抱えているのは、緑色の髪をした妖精ロザリー。
『ふんぬらばー!ようし、もっともっと運ぶよ、僕がんばるよお!』
元気いっぱいに飛び回り、キラキラのリースをラメで飾っているのは、水色髪の僕っ娘妖精スカーレット。
『ふわああああ、大変ですう、お星さまの飾りが明らかに足りませんんんん!』
大混乱で足元で走り回っているのは、桃色髪の妖精モモカ。そして。
『お前たちもう少し落ち着いたらどうなんだ。ちゃんと仕事は割り振ったはずだぞ。それとモモカ、星の飾りはあっちの箱にもたくさん入っていた。もう少し落ち着いて探せ』
そんな妖精たちに落ち着いて指示を出しているのは、銀髪に青い瞳が美しい迅雷の魔術師ことカイネスだ。その隣では同じくローブを来た黒髪の魔術師ミシェルがくすくすと笑っている。なんとも、賑やかな光景ではあるまいか。
彼等彼女らの存在は、自分たちの大きな成果でもあった。今までここにいる妖精たちや魔術師たちを、一人ずつ呼び出したことは何度もあったのである。しかしこの人数を同時に呼び出し、それぞれに自由意志を与えたことは今までにないこと。そして、これらの数を呼び出してなお、オスカーはけろっとした顔で絵を描き続けている。――それはこの数か月で、彼の力量が各段に上がったことを示していた。
「えっと、こっちの方が少し低いから、もう少し紐を延ばして……」
もうすぐクリスマス。きたるその日に向けて、エミルは研究室の中にも飾り付けを行っているのだった。現在は、壁に飾るストリングライトを吊るしている最中である。雪の結晶を象った小さなライトを、壁の長押に等間隔で吊るしていくのだ。意外とこれが難しい。左右の壁に、十本ずつ。印があるわけでもないので綺麗に並べていかないと数が余ったり足らなくなってしまったりもするし、何より美しくない。
加えて、紐の長さも微調整する必要があった。エミルの拘りで、長いの、短いの、と交互に吊るしていくことにしたから尚更に。
「あれ、足らない!?なんで!?」
『エミル様、左から二番目の隙間が広すぎるように思われます。それから、五番目も少々』
「あ、ありがとう、カイネス」
部屋の中央から全てを見回してくれているカイネスの目は非常に助かる。少し前までは、彼は指示された時に雷魔法を放つことしかできない精霊だった。それが今では、妖精たちとともにツリーの飾りつけをし、自由意志でエミルにまでアドバイスをしてくれるくらいになっている。
彼等一人一人に出来ることが増えたというのは、それだけオスカーの実力が上がったということ。それはつまり、究極魔法の完成が近づいているということでもある。
悲しい気持ち、苦しい気持ちもないわけではない。それでも、自分達が果たさなければならない役目であるのは間違いなく、喜ぶべきことであるのも確かなのだった。そして。
――奇跡を最後まで信じる。そして……その日までの日々を、懸命に愛する。私に今できるのは、それだけだから。
「エミル!」
筆を置いて、オスカーが顔を上げた。彼は完成した絵を持って駆けてくると、部屋の真ん中――カイネスたちが立っている目の前に広げられた魔法陣の中央に、油絵を置く。
「とりあえず、原型はできました。あとは外側のみ、しかも縮小サイズでこの部屋に顕現できるかどうかです。これが成功すれば……恐らく本番の召喚も問題なく成功できるでしょう」
「……そうですか」
絵に描かれているのは、青い鱗が美しい――一体のドラゴン。このドラゴンを、外見だけでも顕現することができないようでは――究極魔法の完成など夢のまた夢だ。
オスカーは息を一つ吐いて、呪文を唱え始める。
「ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ。ルリハラソロ、スカイライ、エメラルダ、カスタロート。シロ、エル、スイ、アラ、フラウ……」
抜けるような青空を、幻視した。
それほどまで透き通るような、爽やかで、穏やかな魔力が部屋の中に満ちていく。
おおお、と妖精たちが歓声を上げた。竜だ。青い鱗、青い瞳、青い髭と鬣。さながら海と空を雄大に浮泳ぐに相応しいドラゴンが、長い体をくねらせて姿を現していく。
動くたび、まるで宝石のように鱗が散った。まるで雪みたい!とアリシアが喜びに踊る。
「ああ……!」
ドラゴンの嘶きを聞いて、エミルは思わず声を上げた。まだ少し早いけれど、ツリーに雪のように降り積もっていく鱗は、まさに祝福のようで。
「オスカー、おめでとう……!素敵なクリスマスです」
「ええ、本当に。メリークリスマス、エミル」
完成した、偉大なる魔法。エミルとオスカーはその場でキスをかわしあった。そして、クリスマスの夜まで、同じ布団で抱き合いながら眠ったのである。
終焉は、ゆっくりと、それでも確実に近づいていた。
新年が明けて、すぐのことだったのだ――フェアリスト共和国がついに、北の大国・ガンブレイズ帝国に無条件降伏したのは。
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●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
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順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
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