旅鉄からの手紙

naturalh1

文字の大きさ
20 / 87
山陰本線

京都で寄り道~初めての泊まりで一人旅~

しおりを挟む

山陰本線は、京都からほぼ北西の方向に進みながら丹波、丹後地方を抜けて、兵庫県北部の但馬地方から鳥取県、島根県、さらに山口県の終点の下関までほぼ日本海に沿って行く。

私は高校3年生になる前の春休みに生まれて初めて泊まりの一人旅をした。その時山陰本線沿線の代表的なスポットの一つである鳥取砂丘を訪れる前日にほぼ1日かけて京都市内を旅した。修学旅行でも行ったことのない、銀閣寺、金閣寺、龍安寺そして嵐山の渡月橋と回った。

清水寺のあたりで京都駅からの市バスを降りて、銀閣寺まで哲学の道を一人気ままに歩いたことから始まり、派手もしくは無駄な色がほとんど使われていない心が落ち着くようないぶし銀の銀閣寺、さらに触るのに恐れ多い程華麗な金に圧倒された金閣寺や、も一目見られて良かったが、あの時特に印象に残ったのが龍安寺の石庭であった。

初めて泊まりの一人旅に出る半年前の高校2年生の時、国語の自習の時に配られた課題のプリントには龍安寺の石庭について書かれていたエッセイが載っていた。

「石庭の突き詰められた無数の砂利が海で頭を出す岩が島で岩に生えている苔が島に生えている草木」

という意味の文がとても印象に残った。全国各地の名所でよく見られる資料館や博物館などで、その土地の立体の鳥瞰図をよく見る私もこの目で石庭を見てみたいと思った。生まれて初めて泊まりで行った一人旅で京都を巡った時には銀閣寺、金閣寺と並んで龍安寺は外せないと思った程である。龍安寺は金閣寺からわりと近く思えた。

実際に行って見てみると大海原にあたる無数の白に近い綺麗な砂利の沿岸にあたる岩の周りは岩の形に沿った曲線で沖にあたる広い部分は直線状に整然と描かれた砂紋に心を打たれた。しかも面白い事に島の草木のような岩の苔も海のような砂利に近い低い部分にしか生えておらず、岩の真ん中の高く突き出た部分は、標高の高い山々に植物が殆ど生えていないのを真似しているように苔が殆ど見当たらない。悪く言えばぼんやりと格好良く言えば無心に近い状態で眺めていてもしばらくは飽きなかった。私もすっかり龍安寺の石庭に惹きつけられていた。

龍安寺を出発してから向かったのは渡月橋などで有名な嵐山であった。龍安寺から嵐山まで直通している路線バスが見当たらなかったので途中から市バスを降りて嵐山方面に歩いて行くことにした。私と同じ方向に歩いているカップルらしき男女2人連れに出会った。その2人連れはイチャイチャしたりベトベトしたりしていなかったので思い切って話しかけたら私と同様に嵐山方面に向かう途中であった。そのうちの一人の女性の方が可愛くて綺麗だったので受験の前に京都を一人旅している話などをした。

「哲学の道、銀閣寺、金閣寺、龍安寺と1日かけて回っている。」

と話したら彼女に

「随分ハードスケジュールだね。」

と言われたのを今でも覚えている。もしカップルだとしたらもう一人の男の人に申し訳ないと思う気持ちよりも彼女と話ができたことによる楽しい気持ちの方が当時は遥かに上回っていた。彼女と楽しく話ができたお陰で嵐山までの時間が随分短く感じた。
嵐山で彼女達が乗った市バスを見送る時に、彼女がバスの最後尾から窓越しに私に思い切り手を振ってくれたことが、とても嬉しくて今でもはっきりと目に焼き付いている。

嵐山に着いた時はもう夕方で参拝客の姿が疎になった様な天龍寺の門の近くで夢中になって遊んでいる子供達の姿が目に留まった。
桂川を流れる渡月橋を渡っていた時にはもうそろそろ日が暮れようとしていた。

「やはり京都は一日だけでは足りない。」

と思えたけど、「龍安寺の石庭」を含めて、当時私がどうしても行きたかったスポットを全部巡れたので本当に良かった。おまけに龍安寺から嵐山に行く途中で可愛くて綺麗で感じのよい女性の方とも旅の途中で話ができたしとても楽しかった。

そもそも何で高校3年生になる前の春休みに旅をしたのかと言うと、生まれて初めて泊まりで一人旅に行く許可を親から貰う前に父には

「もっと大きくなってから行きなさい」

と言われ、さらに母からは

「旅行になんか行かないで家で家族皆と楽しく過ごそうよ」

と言われた。しかしそんな両親の心配以上に、俺は当時の夏休みに九州に行きたかったのに友達の言いなりになって男2人だけで四国一周をしてしまうなど、周りの目を気にし過ぎて

「自己主張ができない」

「自分の意思で行動ができない」

に当てはまってしまう程、不本意な高校生活を送っていたのがとても悔しかった。その不本意さからくるイライラから家ではしばしば親に当たったりもしてしまった。受験生でかつ球技祭や文化祭での劇などで最高の思い出を作るチャンスがありそうな高校3年生になる前に、とにかく気ままな一人旅から得られる開放感により、一度不本意な気持ちから解放されたかったのだ。

古くから人々が多くの山の木々を切り倒してたことにより住み辛くなった奈良の都などに代わって、以後1000年以上も日本の都として在り続けた京都には、年間で訪れる観光客や旅人が約5000万も訪れるという。

心が落ち着き癒されるような日本独自の文化が、日本国内外問わず多くの方々を魅きつけていると思える、龍安寺の石庭や銀閣寺を思い浮かべるだけでも、その数字は決して驚くべきものではないと思う。

その5000万という数字も、我々日本人は自分達の誇りや文化に大いなる自信を持って良い事を示しているのではないか。

彼女とのデートコースにもした、平安時代には貴族の別荘地として栄えるなど、千年以上も京都の避暑地としても存在感を存分に示した嵐山や竹藪でも有名な嵯峨野など、私にとっての京都への旅があの時で終わっていないことも、そのことを示している。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。 過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。 初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。 ◇ 🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾 🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾 🔶🐶挿絵画像入りです。 🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇‍♀️

島猫たちのエピソード2025

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
「Cat nursery Larimar 」は、ひとりでは生きられない仔猫を預かり、保護者&お世話ボランティア達が協力して育てて里親の元へ送り出す「仔猫の保育所」です。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...