旅鉄からの手紙

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因美線

タブレット票~列車の安全運行の原点~

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まるで座禅の受けたような後味が残った鳥取砂丘を出発して、さらに鳥取駅から中国山地を越えて津山、岡山方面へ向かう因美線に乗った。路線名は今の鳥取県にあたる「因幡(いなば)」と岡山県北部の「美作(みまさか)」中国山地を挟んだ両側の旧国名の頭文字を取っている。当時は普通列車の他に鳥取と岡山との間を結び因美線全線も通る急行「砂丘」も運行されていた。中国山地を登る汽車のディーゼルエンジンの音はやはり力強かった。岡山との県境にある物見トンネルを過ぎる最初の駅の美作河井は山奥のローカル線情緒の溢れる駅であった。その静寂な駅で現代では珍しい光景を見た。

その光景とは、美作河井を通過する急行「砂丘」による駅を走行し通過しながらのタブレット票の投げ渡しと受け取りの様子であった。上に大きめな輪のついた円状のタブレット票の入ったケースを駅に設置されている輪投げを思わせるような棒にめがけて投げ渡す。さらにホームの前方にある垂直な棒の上に付いた、列車に向かって斜めに延びる棒の先端にある、別のタブレット票の入ったケースを、列車に乗っている乗務員が、走っている列車に乗りながら受け取る。

タブレット票とは通行手形のようなものであり、一定の区間毎に決められた票がある。ある区間ではその区間専用の票を持っている列車しか走れないという、鉄道同士が衝突しないための安全な運行のためのルールがある。

例えば因美線の場合鳥取、郡家、智頭、那岐、美作河井、美作加茂、東津山と区切るとする。岡山から鳥取まで向かう急行「砂丘」が美作河井を通過する時は、美作河井から那岐まで専用の票を持って走らなければならない。しかも単線区間で走行方向が180度違う反対方向に向かう列車と正面衝突しないように、美作河井駅と那岐駅との間でそれぞれの駅に設置されている、タブレット閉塞機を用いて専用の票が一列車の通る度に一つだけしか出ないようにやり取りをしなければならない。

タブレット閉塞機を使ったその作業は覚えるのが大変そうであるが、線路の横にあちこちに設置されている信号機や、新幹線などに導入されている、列車の速度を一つ前を走る列車との距離により自動制御するATCがよく使われるようになるまでは、主に因美線のような単線の路線でタブレット票を用いた方法で列車の安全な運行に努めていた。

タブレット票を用いた方法は列車にも駅にも人を配置せねばならず、しかも機械の操作や票のやり取りにも手間と少々の時間がかかるが、その分単線区間を中心に安全に列車を運行する方法としてはほぼ確実であったという。

信号機やATCにより、駅や列車でのタブレット票による作業にかかる時間や手間や人件費が省かれるなど便利になった反面、運転士の信号機の見落としのミスによる痛ましい事故や、機器の故障などによる運休が起きるなどのリスクがつきまとう。

因美線でも1997年にはタブレット票を用いた列車の運行が全線で終了となった。因美線の智頭と山陽本線の上郡との間を通る智頭急行の開業や、それに伴った鳥取から因美線や智頭急行や山陽本線の上郡を経由して、姫路、神戸、大阪さらに京都方面へ向かう特急「スーパーはくと」の運行開始の影響からだ。

近年では自動車や船舶など全て自動運転に頼る乗り物の研究を取り上げた、ニュースやドキュメンタリー番組も目にするが

「故障するリスクを抱える機械にばかり頼って本当に大丈夫か?」

と思えてならない。世界有数の大国にのし上がったアメリカの諜報機関(CIA)ですら、GPSやGoogleマップにも使われている人工衛星の技術に頼り過ぎて、自分達の目だけが頼りであった時代よりも情報の質が落ちているという話も聞いたことある。

技術の進歩も大いに結構ではあるが、あまり機械などの技術に頼り過ぎるのもどうかと思う。

因美線のタブレット票廃止も技術の進歩も含めた時代の流れで本当に仕方ないが、安全な鉄道の運行も含めて我々人間はあまり機械に頼り過ぎずに、自分達の安全は飽くまでも自分達で手がけて自分の目で確かめる原点は、永久に未来に受け継がれて欲しい。美作河井駅で列車を通過させながらのタブレット票の受け取りを見た記憶が蘇るだけでもそう思える。

美作河井から、列車の山下りならではの、エンジンを唸らせない軽やかなレールと車輪との音を聴きながら、中国山地を津山盆地へ下りながら快走して行った。津山から岡山までは今は無きディーゼル急行「砂丘」に乗りリクライニングシートに座れた旅も快適であった。
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