旅鉄からの手紙

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木次線

神話の里を走るローカル線

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朝早く出雲大社を参拝した後に、三段式スイッチバックで有名な木次線に初めて乗ったが、3月ではまだ時期的に早かったとように思えた。三段式スイッチバックとは「一二の三(いちにのさん)」と2回列車の向きを変えながら「Z」の文字を描くように、急な山をジグザグ状に登って行く方式である。今日では長いトンネルを掘ってしまえば中国山地を直ぐに通り抜けられるのに、開通した1916年当時の土木技術ではそのレベルまで到達していなかったのだろう。それだけ歴史のある路線とも言える。そのスイッチバックのある出雲坂根駅に着く頃には車内に他の乗客は殆ど居なかった。スイッチバックで一転二転と向きを変え、さらに出雲坂根駅の周りに大きめな半円を描くように、列車は中国山地を登って行った。山間部の車窓を見ても早春でまだ枯れ木もよく見られ、それらの根元にはまだ雪が残っていた。

「私が一番好きな季節で緑豊かな夏に来ればもっと良かった」

と何回思ったことやら。
終点の備後落合駅に着いても

「これが本当に終着駅か?」

と思ってしまうくらい周りには旅館や商店すらないし人影もほとんど見当たらなかった。駅にも売店もなく乗り鉄の従兄がかつて備後落合駅で食べた立ち食いうどんが美味かったと、自慢していたのが嘘みたいだった。そのまま再び木次線を宍道湖方面に引き返したが乗客は途中まで私一人であった。早春で木次線の旅にとってシーズンオフであった影響もあったかも知れないが、戦後の経済成長などに伴う若者の都市圏への流出などに伴い、中国山地で進んだ過疎化や輸送の主役が鉄道から高速バスやマイカーなど自動車にとっくに移っていた現状を物語っているように思えた。

備後落合駅ではローカル線廃止に危機感を抱いた、駅近くにお住まいのかつての蒸気機関士の方が、自主的に乗り換えの案内や駅の歴史などのガイドやトイレ掃除などを行なっているという。

あれから何回も夏場を中心に近くを通る度に、木次線に乗ろうと時刻表をチェックしたが、出雲横田から備後落合までのスイッチバックも含めた区間の本数が1日3本程と少ないのと、伯備線や芸備線との接続が上手く行かないのもあり再び乗る機会になかなか恵まれなかった。

全国で廃止になるローカル線があちこちで見られる中、木次線が生き残っているのはやはり今時珍しいスイッチバックの存在は大きい。加えて人の心を癒せるような奥出雲の里山や、中国山地の車窓を見ながら旅を楽しめるからではないか。木次線の活性化を図り1998年4月からトロッコ列車「奥出雲おろち号」が、毎年4月~11月迄の週末やゴールデンウィークや夏休みや紅葉の時期など集客が見込める日に運行されている。

ローカル線が生き残る厳しい環境の中で年間2万人近くの乗客が集まり、20年以上のロングセラーになっているくらいだから、本当に大したものだと思うし本当に一度は乗ってみたい。

緑豊かなもしくは紅葉が美しい季節に、亀嵩駅などで名物の出雲そばを味わい、スイッチバックの出雲坂根駅に湧く延命水で喉を潤しつつ、三段式スイッチバックで中国山地を越える汽車旅を満喫したい。しかもトロッコならではの車窓からの涼しい風を感じられれば最高であろう。

そもそも「おろち」とは木次線沿線の奥出雲が舞台となっている伝説「ヤマタノオロチ(八岐大蛇)」の「おろち」から来ている。文字通り8つの頭に別れた大蛇が娘を次々と食べて行った。次は自分がやられるとのちに奇稲田姫(くしいなだひめ)となる娘に助けを求められた須戔鳴尊(すさのおのみこと)がヤマタノオロチを退治してやがて奇稲田姫と結ばれる話。その須戔鳴尊(すさのおのみこと)の子孫が出雲大社に祀られている大国主命であるという。木次線でヤマタノオロチの舞台を辿るなどの伝説のロケ地を巡る旅をする度に先述した「因幡の白兎」と同様に私達の祖先が残した生きる勇気や教訓や知恵などを授かりその分賢くなれるかも知れない。
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