旅鉄からの手紙

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磐越西線

猪苗代で出迎えてくれる磐梯山

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磐越西線の始(終)点は、かつて炭鉱で栄えた町から温泉を利用した「スパリゾートハワイアンズ」の町へと生まれ変わり、映画「フラガール」の舞台ともなったいわき市から来る磐越東線と、前章のように久慈川の清流などの車窓も楽しめる水郡線の始(終)点でもある郡山駅である。郡山から猪苗代、会津若松、喜多方、新潟    方面へ磐越西線で向かうために、古くから会津地方の郷土玩具で子どもの魔避けとして用いられて、体色は魔避けの意味を込めた赤で、会津地方のシンボルとも言える「赤べこ」の絵が描かれた列車に乗る。

東北新幹線「なすの」号の那須塩原からの運転区間延長に伴い首都圏を思わせるくらい成長したように見える郡山の街並みを抜けて、800年前に開湯されたと言われいる温泉の最寄りの磐梯熱海駅を出発すると列車は山の中へ入り、奥羽山脈を越えて行く。山の木々特に春から夏の緑の車窓を眺めながら、峠を登る力強いモーターをBGMを聴くと、本格的な旅の始まりのような開放感を味わえて、テンションが列車の標高と共に上がって行く。登りの途中にある中山宿駅は1997年まではスイッチバック式の駅で、今でもそのホームの跡が現在のホームの近くに残っている。駅周辺の集落も戦後国道が整備されるまでは宿場町として賑わったという。スイッチバック無しで急坂を登れる鉄道の開発や、自動車が走り易い国道が整備されるまでの、人々が峠を越えて来た苦労の歴史を少しでも感じる事ができる。

中山トンネルを経て峠を登り切り沼上トンネルを抜けると、列車は猪苗代地方へと入って行く。始めは山間の田園風景であるがそこを抜けると猪苗代湖の近くを通り、磐梯山がまるで我々を迎えてくれるように見えてくる。

磐越西線の車窓からも見える、猪苗代や会津盆地から見た磐梯山はとても開放的かつ穏やかに聳えているように見えるが、列車から降りるなどして裏磐梯に抜けると穏やかな景色が一変して岩や土の壁が切り立った斧の刃のような形をした荒々しさも加わる。

その磐梯山には2回登ったが2回ともとても印象深い登山になった。まず一回目は当時5歳の息子がかみさんと私と一緒に頑張ってついてきて、登山から下山まで全て自分の足で歩いて登ってくれた。この先も息子と一緒に過ごす楽しみの中に「山登り」も加わり、私にとっても思い出深い百名山30個目の登頂となった。前の日に泊まったのは裏磐梯にある休暇村磐梯高原キャンプ場であった。10月の紅葉シーズンはキャンプには寒かったけど、休暇村のホテルの温泉に入れたし、夜は息子と一緒に仕込んだおでんがとても温かく美味しかった。そのキャンプ場を朝8時過ぎに車で出発して、紅葉も綺麗な磐梯山ゴールドラインの峠(八方台)の登山口へ向かった。紅葉はやはり美しく背丈の高い木々の下を歩いている時は、まるでゴールドのトンネルをくぐっているようだった。そこから往復で5歳の足で登りは2時間50分で下りは2時間15分かかった。曇りで山頂付近の山小屋では霧雨に遭ったけれど、山頂から会津若松と喜多方方面では雲海が広がり、猪苗代湖と湖岸の平地に広がる水田や集落も雲の間から僅かながら顔をのぞかせていた。登る前はとにかく登れるだけでも贅沢と思っていたが、登った直後はやはり次回登る時は今回霧で見渡せなかった、真近で見る山体崩壊の爪痕と、山頂から特に裏磐梯の緑の森と大小数々の湖沼が、晴れて見られる時だと思った。2回目は1回目のリベンジにと、山頂からの眺めと山体崩壊の爪痕を見るために、天気予報が良く一人で気ままに行ける日を狙って行った。1回目から約10ヶ月後のお盆を過ぎた頃で、ギーギーとなくエゾゼミによる、高地ならではの蝉時雨を聴きながら緑のトンネルを抜けて行く。一人では登りは1時間半で登頂し下りは1時間くらいで下山した。山頂からは猪苗代湖や、周りの山々や、会津若松や喜多方の盆地、更に遠くに見える飯豊山や、安達太良山の眺めは見事であった。その中でも猪苗代湖は列車からは殆ど見る事が出来ない欲求不満が解消される程美しく広がってた。私は猪苗代湖側で列車や車の中から磐梯山を見るケースがよくあるので、小さく見える磐越自動車道を中心に、麓を走る多くの車や磐越西線を走る何両かの列車に手を振りたくなった。磐越西線を猪苗代湖畔の水田地帯を郡山方面に、または猪苗代から会津盆地に蛇行しながら下っている線路を、それぞれゆっくり走る列車を視線で追いかける事が出来た。時速100kmくらいでも、山頂からはこんなにゆっくり走っているように見えるのかと改めてびっくりした。
こうして猪苗代湖を中心とした表方向を30~40分程眺めた後、今度は反対側の裏磐梯を中心に眺めた。山頂からは刃物のように切り立った崖は、麓部分や、すぐ隣に聳える櫛ケ峯(くしがみね)付近の崖は、横から見えたが、その他の部分は崖の裏にあたる緑の斜面しか見えなかった。晴れていた緑の森と桧原湖など大小数々の湖沼などの裏磐梯の眺めを15分程眺めた後、崩壊した崖をもっと間近で見たいと思い下山を始めた。絶景の広がる山頂に次ぐ目的地である、崖の間近というかほぼ真上に着いた。茶系の土の部分が急降下して広がっていた。磐梯山山頂のすぐ近くとは違い、草木が生えていない茶系の部分が多く占め、爆発と崩壊により多くの草木などの生き物も犠牲になったのもよくわかる。さらに視線を麓の方に移すと、かつての川が崩壊による大量の土砂に堰き止められた事により作られた、複雑な湖岸の地形や分布をした大小数々の湖沼や、荒廃した土地一帯に復興のために植えられた多くの木々などが広がっていた。これが正しく今日の裏磐梯である。緑にも覆われて綺麗な容姿をしていた山で、その麓で一本に収束していくように流れていた川と、あちこちの山間部でよく見られるような景色が、本当に大爆発と大崩落そして復興によりこのように一変したのか?磐梯山のような大きな山(かつての小磐梯山)の山頂部分を吹き飛ばして崩壊させる大爆発は、正に人間の力を遥かに超えているし「想像を絶する」としか言いようがない。猪苗代湖畔や会津盆地などから見て優雅に聳える、磐梯山の裏側には大規模な爆発の爪痕がとても痛々しく残っていた。麓から見る磐梯山の表裏も良いがやはり山頂付近からの眺めはもっと良いし山体崩壊の爪痕は迫力も感じる。磐梯山はまるでサスペンスに出てくる美人の犯人のように、表裏の差が激しいとも思える。これだけ裏表の差がはっきりしている名山は他にあるのだろうか?

磐梯山と猪苗代湖の間の表磐梯車窓からは、磐梯山などをバックに水田がよく目につくが、9月頃になると白い蕎麦の花も目に付く。このあたりの500m少々の標高と、昼と夜との寒暖の差が大きい気候と、磐梯山からの流れる豊富な雪融け水などの好条件が重なり、蕎麦の栽培も盛んで猪苗代町の作付面積は、福島県内一で全国的にも有名である。古くは平安時代から江戸時代には猪苗代を含む会津地方では

「そばを打てないとお嫁に行けない」

と言われていたほどであり、現代でも健康食として年々需要が増しているという。

ここ猪苗代はあの有名な細菌学者野口英世の故郷でもある。

猪苗代地方を過ぎると磐越西線の線路は蛇行を繰り返し麓の田畑や集落、森林の中を通る。蛇行により磐梯山の見える方向も変わる。線路を蛇行させてまで、列車を山越えさせた先人のご苦労が、先述した中山宿付近と同様に窺える。冬場の車窓も会津盆地から郡山方面に向かうこの辺りから積もっている雪の量が増えて行く。郡山、猪苗代方面からの列車は蛇行もしながらゆっくりと会津盆地へと下って行く。
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