8 / 12
07
しおりを挟む
食堂に復帰したシミオンは初日こそ散々だったが、次の日に同じ失敗はせず以前のように働いていた。活気に満ちた食堂の中を忙しく動き回り、注文を聞き皿を運び会計をしてテーブルを片付ける。
空いたテーブルへ客を案内しているシミオンの姿を、アシュレイはカウンター越しに見守っていた。シミオンの作った商品を買いに来る客は確かにいるが、四六時中列を成すような人気はない。かといって店番がいないと、たまに来る客を待たせてしまう。
「ふふっ」
給仕として働くシミオンは忙しそうだが、自然な笑顔を浮かべている。馴染みの客から復帰を喜ばれると笑みが深まるシミオンは、給仕を楽しんでいるように見えた。
両親を突然失い、肉親に全てを奪われたシミオンは赤の他人に救われた。その時まで顔も名前も知らなかった錬金術師に。
年端もいかない少年に訪れた悲劇は彼の心に深く巣食い、他者との繋がりを求めている。シミオンが自覚していない部分まで、彼の記憶をもとに生み出されたホムンクルスは理解している。
「それが全てを知るってことなのかな……」
ぼんやりとした呟きに返ってくる言葉はないが、強烈な視線を向けられてアシュレイは顔に出さず息をついた。視線の主が誰かは見なくてもわかる。
悪意、憎悪、嫌悪、侮蔑、羨望、嫉妬。人の持つ悪感情の全てを煮詰めたような、殺気立つ視線の主はアシュレイの父と呼ぶべき男。食堂の隅のテーブル席で静かに食事をしている騎士、テオドアからのものだった。
「……」
ちらりとテオドアへ視線を向けると、その目とかち合う。アシュレイとよく似た切れ長の目は、怒りから険しく吊り上がっているせいで全く異なる印象を受ける。
男らしい太い眉は盛大に顰められ、怒りに燃える顔は静かに、アシュレイを睨み付けてくる。見るんじゃなかったと目を伏せても、テオドアの視線は外れない。
シミオンの無意識な思考がわかってしまうように、テオドアが何故自分へそんな目を向けるのかをアシュレイは理解出来ている。擁護するつもりはないが、テオドアからしたら当然の行為なのだ。
「アシュレイ」
俯いていたアシュレイの前に、いつの間にかシミオンが立っていた。恵まれた体躯で生まれたアシュレイよりは小さな背中は、知らずにテオドアの視線からアシュレイを守るように立ち塞がっている。
息子同然のホムンクルスへ向けて笑顔を浮かべる彼は、出来立てのキッシュを二つ両手に持っている。
「お客さん、落ち着いてきたから今から休憩。賄い食べよう」
「ええ」
頷いたアシュレイは客が来てもいいように、離席中の立て札と呼び鈴をカウンターへ置く。
「今日はサーモンと野菜のキッシュだよ。美味しいよ~」
空いている席へ歩いていくシミオンの背に、アシュレイもついていく。もうテオドアの視線はアシュレイに向けられていなかった。
盗み見たテオドアは、シミオンを見ていた。アシュレイに向けられた激情とは一転、ただ哀しく切なげな目は憐憫を誘う。
「あーいい匂い。お腹空いたなぁ」
向けられているシミオンはそんなものに気付きもせず、テーブルへキッシュを置くと振り返ってアシュレイを見る。はやくおいで、食べようと目で語ってくるシミオンに急かされて席へ着いた。
「焼き立てだから熱いよ」
「はい」
キッシュが少し冷めるのを待つ間、シミオンはアシュレイに店番の様子を尋ねてきた。何か問題はないか気にしてくれているのだろう。アシュレイが大丈夫だと返すと、胸を撫で下ろしている。
「前からのお客さんはいい人達ばかりだけど、最近新しいお客さんが増えたみたいだから心配だったんだ。アシュレイ、すごくモテてるみたいだよ。かっこいいもんね」
アシュレイの顔立ちは原材料となった父に似て、とても整っている。街を歩けば人の目を奪い、アシュレイの行き先を追った勢いのまま店で買い物をしていく客が多かった。
「大丈夫です。そういった方々は何もしてきませんよ」
買い物の際に何かと商品について尋ね、会話を引き延ばそうとする女性は多いが、アシュレイはマニュアル通りの返答しかしない。親しい存在を作ってもシミオンは怒る所か喜ぶだろうが、アシュレイ自身が欲しいとは思えなかった。
大切な父と、父を支えてくれるメリッサ一家がいればそれでいい。
「……俺もそんなふうに考えているから、変な噂が立つのかな」
「噂?」
「いや、気にしないで下さい。ああシミオン、キッシュが食べ頃ですよ」
ごまかすように言った通り、キッシュは食べやすい程度に熱を保ち、大きくスライスされて存在感を与えるサーモンは勿論、新鮮な卵と野菜をギッシリと乗せたサクサクのパイ生地も美味しかった。いつの間にか皿の上には何もなくなり、シミオンの休憩時間が終わるまで再び話をする。
食堂では常に笑顔を心掛けるシミオンは勿論、生まれたばかりでまだまだ感情が希薄に思えるアシュレイも、楽しげな笑顔を浮かべ合っている。
睦まじかった。互いを許し合い、慈しみ合うような姿はそう表現するしかない。奇妙な父子の関係性を知っていればすんなりと納得出来るが、殆どの人は彼らの事情を知らない他人である。
ある日突然街に現れるようになった美男子を、同年代の青年が可愛がり――を超えて溺愛している。シミオンはアシュレイをよく気遣いつつ美しい息子を着せ替え人形にしたいのか、洋品店に出向いてはアシュレイの衣服を買って帰るようになった。そんな姿を人々は見ていないようでよく見ているし、話題にならないようで陰でこそこそ話の種にされている。
大きな街の小さな界隈で、シミオン達は同性の恋人なのだろうと噂になっていた。血の繋がりはないだろう関係性の男が二人、同じ家で暮らして外でもベタベタと笑って引っ付き合い、片方が頻繁に高価な貢ぎ物をしていたら、ただの友人だと言われても信じられないだろう。否定して回っても逆効果になるだけだ。
メリッサ達も噂は知っているし、知人から本当なのかと尋ねられたこともあったらしい。否定したが信じていないだろうとぼやかれたのはアシュレイだった。
鈍いシミオンはそんな噂の存在を知らない。知った所で否定はしても、アシュレイへの態度を変えることはないだろう。彼にとってアシュレイは大切な息子なのだから。
「僕は今日も酒場が閉まるまでだから、アシュレイは夕方くらいに帰りなね」
「はい」
食べ終わった皿を重ね持ち、シミオンは席を立って仕事に戻る。アシュレイもカウンターへ戻り、離席の立て札と呼び鈴をしまった。
テオドアもいつの間にか食堂から出ていっていた。
日が暮れ始めると、アシュレイはシミオンの言葉に従って帰り支度を始めた。売上金の計算をして、合っているのを確認すると分厚いコートを着込み、シミオンとメリッサに声を掛けて食堂を出る。
外は冷たい風が吹き荒れ、空もいつの間にか暗くなり、街灯の光を頼りに帰路へつく。夕飯は家にある物で作ろうと、保存されている食糧を思い起こしながら歩いていたアシュレイの前に人影が立ちはだかった。
「……失礼。きみに話があるのだが」
「うわ、来た……」
騎士制服に身を包んだ、アシュレイと似た顔立ちの男。表情のないテオドアが、吹きすさぶ風より冷たい声で話し掛けてくる。思わず声をもらしてしまったアシュレイは、この男を理解しているから拒否したかったが、出来ないこともわかっている。
「何か?」
何を言われるのか粗方わかっているが、用件を聞く。はやく尋問を終わらせて帰りたかった。
「きみは錬金術師のシミオンと共に暮らしているようだが、何処から来た?」
「……ヘロイーズさんの紹介で、北方の山奥にある名前もないような村から来ました」
アシュレイがホムンクルスであるということを、シミオンもアシュレイも大っぴらにするつもりはなかった。
人工生命体の錬成は錬金術の中でも高度な偉業ではあるが、その証明は難しい。与太話だと思われている存在を生み出したと無名の錬金術師が喧伝した所で、信じる方が少ないだろう。
信じられても、ホムンクルスという稀少な存在に悪意を持って近付く者がいるかもしれない。アシュレイが無事に暮らせるように、ホムンクルスということは伏せられていた。
「師匠に紹介されて田舎から出てきたってことにしよう。そうしたら僕の家に住んでてもおかしくないよ」
シミオンの提案により、アシュレイの立場はヘロイーズ経由の居候ということになった。メリッサ達にも事情を話し、何か聞かれたらそう答えるようお願いしている。
「この街に何をしに来た」
「田舎から出てみたくて……ヘロイーズさんに言ったら、シミオンへ紹介してもらえました。なので特に決まった目的はありません。強いて言うならシミオンの役に立つことでしょうか」
国を守る騎士として、移住者に出身地と滞在理由を尋ねるのは当然のことだろう。なのでアシュレイもあらかじめ決めていた設定を話す。
「それだけでしょうか」
「……いいや。お前、シミオンとどういった関係だ」
問い返すアシュレイに、テオドアは不快を隠さず踏み込んだ。
「家主と居候です」
「そんなものがあれだけ親しいものか」
「年が近いから仲がいいんです。というか……」
うんざりしていた。理解出来る激情も、その心のままにアシュレイへ突っ掛かってくる男にも。知らないとはいえ息子に対し憎悪を向けてくる父親にも。
「シミオンと俺の仲が、貴方に何の関係があると言うのです」
「……」
「貴方とシミオンはどんな関係だと言うんだ。何もないくせに、出張って来るのはやめてほしいな」
「お前……」
思わず言葉にしてから後悔した。激怒したテオドアに殺されてもおかしくはない。逆鱗に触れるとわかっていても、それでも言いたかった。
テオドアは先程から変わらずに憎悪を込めてアシュレイを睨むが、その手が腰に下げた剣を握ることはなかった。図星を突かれたからといって恋敵だと認定している人間を私情で殺すのを止める程度の理性はあるらしい。
「……とにかく。何でもないくせに、シミオンの交遊関係に口を出さないで下さい」
言い捨てて、アシュレイは逃げた。あの場に留まっていたらいつ心変わりして殺されてもおかしくはない。
アシュレイだから知っている。テオドアという男はシミオンが思い描くような、理想の騎士なんかではない。
暗く淀んだ劣情を煮詰めて濁らせた、厄介な男でしかないのだ。
空いたテーブルへ客を案内しているシミオンの姿を、アシュレイはカウンター越しに見守っていた。シミオンの作った商品を買いに来る客は確かにいるが、四六時中列を成すような人気はない。かといって店番がいないと、たまに来る客を待たせてしまう。
「ふふっ」
給仕として働くシミオンは忙しそうだが、自然な笑顔を浮かべている。馴染みの客から復帰を喜ばれると笑みが深まるシミオンは、給仕を楽しんでいるように見えた。
両親を突然失い、肉親に全てを奪われたシミオンは赤の他人に救われた。その時まで顔も名前も知らなかった錬金術師に。
年端もいかない少年に訪れた悲劇は彼の心に深く巣食い、他者との繋がりを求めている。シミオンが自覚していない部分まで、彼の記憶をもとに生み出されたホムンクルスは理解している。
「それが全てを知るってことなのかな……」
ぼんやりとした呟きに返ってくる言葉はないが、強烈な視線を向けられてアシュレイは顔に出さず息をついた。視線の主が誰かは見なくてもわかる。
悪意、憎悪、嫌悪、侮蔑、羨望、嫉妬。人の持つ悪感情の全てを煮詰めたような、殺気立つ視線の主はアシュレイの父と呼ぶべき男。食堂の隅のテーブル席で静かに食事をしている騎士、テオドアからのものだった。
「……」
ちらりとテオドアへ視線を向けると、その目とかち合う。アシュレイとよく似た切れ長の目は、怒りから険しく吊り上がっているせいで全く異なる印象を受ける。
男らしい太い眉は盛大に顰められ、怒りに燃える顔は静かに、アシュレイを睨み付けてくる。見るんじゃなかったと目を伏せても、テオドアの視線は外れない。
シミオンの無意識な思考がわかってしまうように、テオドアが何故自分へそんな目を向けるのかをアシュレイは理解出来ている。擁護するつもりはないが、テオドアからしたら当然の行為なのだ。
「アシュレイ」
俯いていたアシュレイの前に、いつの間にかシミオンが立っていた。恵まれた体躯で生まれたアシュレイよりは小さな背中は、知らずにテオドアの視線からアシュレイを守るように立ち塞がっている。
息子同然のホムンクルスへ向けて笑顔を浮かべる彼は、出来立てのキッシュを二つ両手に持っている。
「お客さん、落ち着いてきたから今から休憩。賄い食べよう」
「ええ」
頷いたアシュレイは客が来てもいいように、離席中の立て札と呼び鈴をカウンターへ置く。
「今日はサーモンと野菜のキッシュだよ。美味しいよ~」
空いている席へ歩いていくシミオンの背に、アシュレイもついていく。もうテオドアの視線はアシュレイに向けられていなかった。
盗み見たテオドアは、シミオンを見ていた。アシュレイに向けられた激情とは一転、ただ哀しく切なげな目は憐憫を誘う。
「あーいい匂い。お腹空いたなぁ」
向けられているシミオンはそんなものに気付きもせず、テーブルへキッシュを置くと振り返ってアシュレイを見る。はやくおいで、食べようと目で語ってくるシミオンに急かされて席へ着いた。
「焼き立てだから熱いよ」
「はい」
キッシュが少し冷めるのを待つ間、シミオンはアシュレイに店番の様子を尋ねてきた。何か問題はないか気にしてくれているのだろう。アシュレイが大丈夫だと返すと、胸を撫で下ろしている。
「前からのお客さんはいい人達ばかりだけど、最近新しいお客さんが増えたみたいだから心配だったんだ。アシュレイ、すごくモテてるみたいだよ。かっこいいもんね」
アシュレイの顔立ちは原材料となった父に似て、とても整っている。街を歩けば人の目を奪い、アシュレイの行き先を追った勢いのまま店で買い物をしていく客が多かった。
「大丈夫です。そういった方々は何もしてきませんよ」
買い物の際に何かと商品について尋ね、会話を引き延ばそうとする女性は多いが、アシュレイはマニュアル通りの返答しかしない。親しい存在を作ってもシミオンは怒る所か喜ぶだろうが、アシュレイ自身が欲しいとは思えなかった。
大切な父と、父を支えてくれるメリッサ一家がいればそれでいい。
「……俺もそんなふうに考えているから、変な噂が立つのかな」
「噂?」
「いや、気にしないで下さい。ああシミオン、キッシュが食べ頃ですよ」
ごまかすように言った通り、キッシュは食べやすい程度に熱を保ち、大きくスライスされて存在感を与えるサーモンは勿論、新鮮な卵と野菜をギッシリと乗せたサクサクのパイ生地も美味しかった。いつの間にか皿の上には何もなくなり、シミオンの休憩時間が終わるまで再び話をする。
食堂では常に笑顔を心掛けるシミオンは勿論、生まれたばかりでまだまだ感情が希薄に思えるアシュレイも、楽しげな笑顔を浮かべ合っている。
睦まじかった。互いを許し合い、慈しみ合うような姿はそう表現するしかない。奇妙な父子の関係性を知っていればすんなりと納得出来るが、殆どの人は彼らの事情を知らない他人である。
ある日突然街に現れるようになった美男子を、同年代の青年が可愛がり――を超えて溺愛している。シミオンはアシュレイをよく気遣いつつ美しい息子を着せ替え人形にしたいのか、洋品店に出向いてはアシュレイの衣服を買って帰るようになった。そんな姿を人々は見ていないようでよく見ているし、話題にならないようで陰でこそこそ話の種にされている。
大きな街の小さな界隈で、シミオン達は同性の恋人なのだろうと噂になっていた。血の繋がりはないだろう関係性の男が二人、同じ家で暮らして外でもベタベタと笑って引っ付き合い、片方が頻繁に高価な貢ぎ物をしていたら、ただの友人だと言われても信じられないだろう。否定して回っても逆効果になるだけだ。
メリッサ達も噂は知っているし、知人から本当なのかと尋ねられたこともあったらしい。否定したが信じていないだろうとぼやかれたのはアシュレイだった。
鈍いシミオンはそんな噂の存在を知らない。知った所で否定はしても、アシュレイへの態度を変えることはないだろう。彼にとってアシュレイは大切な息子なのだから。
「僕は今日も酒場が閉まるまでだから、アシュレイは夕方くらいに帰りなね」
「はい」
食べ終わった皿を重ね持ち、シミオンは席を立って仕事に戻る。アシュレイもカウンターへ戻り、離席の立て札と呼び鈴をしまった。
テオドアもいつの間にか食堂から出ていっていた。
日が暮れ始めると、アシュレイはシミオンの言葉に従って帰り支度を始めた。売上金の計算をして、合っているのを確認すると分厚いコートを着込み、シミオンとメリッサに声を掛けて食堂を出る。
外は冷たい風が吹き荒れ、空もいつの間にか暗くなり、街灯の光を頼りに帰路へつく。夕飯は家にある物で作ろうと、保存されている食糧を思い起こしながら歩いていたアシュレイの前に人影が立ちはだかった。
「……失礼。きみに話があるのだが」
「うわ、来た……」
騎士制服に身を包んだ、アシュレイと似た顔立ちの男。表情のないテオドアが、吹きすさぶ風より冷たい声で話し掛けてくる。思わず声をもらしてしまったアシュレイは、この男を理解しているから拒否したかったが、出来ないこともわかっている。
「何か?」
何を言われるのか粗方わかっているが、用件を聞く。はやく尋問を終わらせて帰りたかった。
「きみは錬金術師のシミオンと共に暮らしているようだが、何処から来た?」
「……ヘロイーズさんの紹介で、北方の山奥にある名前もないような村から来ました」
アシュレイがホムンクルスであるということを、シミオンもアシュレイも大っぴらにするつもりはなかった。
人工生命体の錬成は錬金術の中でも高度な偉業ではあるが、その証明は難しい。与太話だと思われている存在を生み出したと無名の錬金術師が喧伝した所で、信じる方が少ないだろう。
信じられても、ホムンクルスという稀少な存在に悪意を持って近付く者がいるかもしれない。アシュレイが無事に暮らせるように、ホムンクルスということは伏せられていた。
「師匠に紹介されて田舎から出てきたってことにしよう。そうしたら僕の家に住んでてもおかしくないよ」
シミオンの提案により、アシュレイの立場はヘロイーズ経由の居候ということになった。メリッサ達にも事情を話し、何か聞かれたらそう答えるようお願いしている。
「この街に何をしに来た」
「田舎から出てみたくて……ヘロイーズさんに言ったら、シミオンへ紹介してもらえました。なので特に決まった目的はありません。強いて言うならシミオンの役に立つことでしょうか」
国を守る騎士として、移住者に出身地と滞在理由を尋ねるのは当然のことだろう。なのでアシュレイもあらかじめ決めていた設定を話す。
「それだけでしょうか」
「……いいや。お前、シミオンとどういった関係だ」
問い返すアシュレイに、テオドアは不快を隠さず踏み込んだ。
「家主と居候です」
「そんなものがあれだけ親しいものか」
「年が近いから仲がいいんです。というか……」
うんざりしていた。理解出来る激情も、その心のままにアシュレイへ突っ掛かってくる男にも。知らないとはいえ息子に対し憎悪を向けてくる父親にも。
「シミオンと俺の仲が、貴方に何の関係があると言うのです」
「……」
「貴方とシミオンはどんな関係だと言うんだ。何もないくせに、出張って来るのはやめてほしいな」
「お前……」
思わず言葉にしてから後悔した。激怒したテオドアに殺されてもおかしくはない。逆鱗に触れるとわかっていても、それでも言いたかった。
テオドアは先程から変わらずに憎悪を込めてアシュレイを睨むが、その手が腰に下げた剣を握ることはなかった。図星を突かれたからといって恋敵だと認定している人間を私情で殺すのを止める程度の理性はあるらしい。
「……とにかく。何でもないくせに、シミオンの交遊関係に口を出さないで下さい」
言い捨てて、アシュレイは逃げた。あの場に留まっていたらいつ心変わりして殺されてもおかしくはない。
アシュレイだから知っている。テオドアという男はシミオンが思い描くような、理想の騎士なんかではない。
暗く淀んだ劣情を煮詰めて濁らせた、厄介な男でしかないのだ。
30
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!
野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ
平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、
どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。
数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。
きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、
生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。
「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」
それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて――
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる